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五話

 あの日――薫とバトルしたり、言葉を学んだり、魔法について学んだりした日から三日が過ぎた。


 今の俺はようやく旅の支度が全て終わり、ホクホク顔で自室にいる。


「さてと……、大雑把な物は集まったな。寝袋に食糧、水に薬、着替え! よし! 全部ある!」


 遠足の前日のように荷物チェックをする俺。ウキウキしているのは隠しようがない事実だ。


 だって堂々と薫から離れられるんだよ! 今までは何だかんだで一緒に居ざるを得なかったけど、今度はそれがない! 安息の日々が今度こそ……!


 ちなみになぜ一緒に居ないといけないかと言うと、あいつがいないと、俺が狙われるのである。不良ぐらいならまだしも、拳銃持ったおっさんが迫ってきた時は死ぬかと思った。


 理由は分からないのだがなぜか不良の奴らや、ヤのつく自由業の方は自分達を叩きのめした薫よりも、後始末をしただけの存在である俺をつけ狙う。しかもご丁寧に名前まで覚えられる。


 ……本当、世の中ってどうしてこんなに理不尽なんだろう。


『なんじゃうっとうしい。落ち込むならよそでやれ』


「メイ、自分の頭の中でも落ち込めなかったらどこで落ち込めと?」


 滅茶苦茶おっしゃりますねあんたも。


『それより、見張りの方は大丈夫なのか?』


「ああ、その事。大丈夫。切り抜ける方法は考えてある」


 この三日間、俺は明らかに旅に出ると主張しているようなものだった。


 当然、俺達を手放したくない城側は俺を縛り付けようとする。そのため、俺と薫に見張りが付いた。


 俺は見張りが付く事を予期していたし、薫は気配で気付いた。


 そして俺が旅支度をするのを邪魔するようになってくる。だがそこは勇者権限でごまかした。


 ……白状すると、薫に頼んで持ってきてもらった。ここの連中、あいつの頼みは快く引き受けるくせに、俺の頼みは全然聞きゃしねえ……!


 いっそ差別なんじゃないかと思うような空間に滞在してそろそろ五日目だ。


 王様やリーゼのために戦うのも悪くはないが、優先順位としては結構低くなる。そういう表舞台で脚光を浴びる役は薫の方が適任だ。


 薫の手助けをするのはやぶさかじゃない。あんなのでも、俺の幼馴染である事に変わりはないし、俺も何だかんだで一番信頼している奴だ。


 だけど、ここは別れるべきだ。これ以上あいつの隣に居続けたらマジで命がヤバい。今日まで何もなかったこと自体、奇跡だと思う。


『それで、これからどうするのじゃ?』


「明日の明け方に出発する。追手を撒く手段は考えてあるが、なるべく早くこの国からは脱出する」


 そこからは気ままな根なし草か。このあたりにある情勢もよく分かってないし。


「後はその場その場で何とかしていこう。大丈夫、何とかなるさ」


 何とかなるさ、は俺のモットーだ。この考えがあったからヤのつく自由業の方々に囲まれた時も無事でいられた。


『……断言してもよいが、お主は厄介事に巻き込まれるぞ。うむ、知り合って数日しか経ってないが、保証しよう』


「冗談じゃねえ。そんな保証いらんわ」


 最近、メイの一言がやたらと心に刺さります。ああ、ピュアで癒される貴方はどこへ……。


「明日に備えて早めに休みたいんだけど、ちょっと気になる事があるんだ」


『ん? 妾に答えられる範囲なら答えるぞ』


「いや、かなり今さらだけどさ。この世界にも俺みたいに旅に出ようとする奴っているんだろ?」


 実はこの世界について俺はよく知らない。社会情勢などは真っ先に知っておくべき事だが、王宮内じゃほとんど知る事が出来なかった。


 ……薫は知っているかもしれないが、俺は怖くて聞けなかった。だって、ここの奴らみんな俺を親の仇か何かを見るような目で見るんだぞ!? 生きてる心地がしないわ!


『主の懸念ももっともじゃな。安心せい。どこの国でもそういう旅人のための仕組みはある』


「どんな?」


『ギルド、というやつじゃ。国の内外を問わず、起こった問題に対処するのじゃ。もちろん、外はある程度の近隣までじゃが』


「それって、国に任せにくいような小さな問題をそいつらに任せちゃおうって魂胆?」


『あるいは、まともにやったら国力が低下しかねないほどの大きな問題を任される事もある』


「……要するに、体のいい雑用係と使い捨ての駒か」


『そういうものでもないぞ。彼らは冒険者じゃ。その国の難事に関わる義務などない。そういうのもあるから受ける人はいる、という事じゃな。己の名誉を求めたり、富を求めたりとな。冒険者も、強い人から弱い奴まで千差万別じゃ』


 メイはそう締めくくった。俺はメイの説明にしきりにうなずき、納得した顔をした。


「なるほどね……。サンキュ、おかげで色々と分かった」


『気にするでない。主の望みは叶えるのが当然じゃからな』


「それにしても、お前意外と世俗に詳しいよな? なんでだ?」


 魔法についても独自の解釈くれたし、ギルドに関してもかなり詳しかった。ずっと開かずの間に居たのでは知り得ない知識だ。


『妾とて、最初からあの中にいたわけではない。外の世界で別の主とともに旅をした事もある。その時に得た知識を話しているだけじゃ』


「へぇ。じゃあ少し変わっている部分とかあるのかな?」


 メイがあの部屋に居たのって、最低でも百年単位だと思うし。


『いや、そうそうあの仕組みが変わるとも思えん。多少は変わっておるかもしれないが、根幹は変わらないじゃろう』


 なるほど、と俺はうなずく。


「さて、それじゃ明日に備えて寝るか。お休みな」


『うむ。明日に備えてよく休むのじゃぞ』






 旅立ちの朝が来た。


 すでに俺は目を覚まし、旅支度も万全だ。


 現実での服を着ていると怪しまれるので、城から出たら適当な服を購入するつもりだ。


 それと見た目で侮られないため、鎧の分解したパーツを要所要所に付けておく。胸当てのようなものを想像してくれればいい。


「……よし、行こう」


 袋を背負い、メイが宿る手袋を装着する。


「んじゃまずは……脱出するか」


 窓を開け、下を見る。三階に部屋があるのは伊達じゃなく、目がくらみそうな高さだ。


「よっ……と」


 手袋からタコ糸を生成し、五本の指を動かして適当な場所に巻きつける。


「あ、一応薫に挨拶していかないと」


 さすがに無断でいなくなるのは悪い。これからあいつに勇者として苦労してもらうわけだし、一言くらい挨拶しておくべきだろう。


 お互いの部屋を何度か行き来していたから、場所は分かる。


『見事なものじゃ。妾をここまで使いこなせるとは思わなんだ』


 両手を使わず、片手で糸を操って宙を浮いている俺をメイが感心したようにうなる。


「大したことじゃないって。このくらい、弦操曲やる事に比べれば簡単だ」


 弦操曲とは、自称旅の大道芸人が使っていた魅せ技だ。色々な形があり、それに見とれた俺が習得に躍起になったのは懐かしい話だ。


 窓縁から窓縁へ飛ぶように移動し、薫の部屋の窓まで移動する。


「ちっ、やっぱり鍵がかかってやがる」


『むしろ当然だと思うがのう』


 それはそうだが、厄介な事に変わりはない。


 腰に差した短剣を抜き、柄尻の部分で隅の部分を割る。このくらいなら大きな音も立たないだろう。


 そこから手を伸ばし、窓の鍵を開ける。


 中に入ると、俺とは雲泥の差としか言いようがない部屋だった。


 細かい描写は避ける。あまりの格差に泣きたくなるから。


 ……ただ、俺の部屋のベッドは簡素な固いやつで、こいつのベッドは天蓋付きでふかふかだと言っておく。


「……んぅ」


 俺が窓を割って侵入したにも関わらず、薫はすやすやと寝ている。着ている夜着が寝乱れて、そこはかとない色気が漂う。


 もちろんそんな事にムラムラなどしない。毎朝こいつを起こすのは俺の役目だったから、この程度の光景見慣れている。


 ……なんで俺がそんな役をやっていたんだろう。普通逆ではないだろうか。


 無性にこいつの額に肉と書いてやりたくなってきた。手元にマジックペンがない事を悔やむ。


 手紙でも残しておこうか、それとも直接口で言おうか悩んだが、口で言う事にした。


「というわけで起きろ」


「どういうわけだ?」


 薫がすぐさま起きる。こいつ、寝起きがいいくせに俺が起こさないととことん寝ているという厄介な性質をしている。迷惑極まりない。


「じゃあ要件は手短に――旅に出るから後よろしく」


「短過ぎだ! もう少し前後の説明をしろ!」


 言って理解してもらえるかどうか不明だ。お前の周りにいる人たちが怖いから逃げます、と言って信じてもらえるだろうか。


「分かった。いいか? お前はこの世界で魔王を倒すんだろ。俺はその間に元の世界へ帰る方法を探す。そのためには二手に分かれた方が効率がいいんだ」


 本当の理由は言ったところで信じてくれそうにないため、適当に建前を作る事にした。


「む、それは確かに……」


「第一、俺は魔王を倒すなんてこの世界の奴らがやるべき事をまったく関係のない他人に丸投げしているのが気に食わない。俺に被害が行くまで、俺は魔王には一切関知しない」


『きっと主は巻き込まれると思うがのう……』


 メイが頭の中でひどい事を言ってくる。泣きたくなってきた。


「……分かった。そこまで理由があるなら、私も止めはしない」


 適当な理由だったら止めたのかこいつは。冗談じゃない。こいつと一緒に居るとロクな事がないんだ。


「しかし――」


 こいつと離れ離れになれる喜びに俺が心の中で雄たけびを上げているところを薫の言葉が押しとどめる。


「私の手伝いはしてくれるんだろう?」


 満面の笑みでそんな事を言われた。俺の事を信じて疑わない目だ。


「……ま、風の噂に聞いたらな。ちょろっと手助けぐらいはしてやるよ」


「そうか。信じてるぞ。相棒」


 こいつは俺が絶対に手助けすると思っている。つまり、俺が厄介事に巻き込まれると確信しているのだ。


「そんな信頼、嬉しくもなんともないね。疫病神」


 だから、俺はその言葉に憎まれ口を叩く事で返答した。


「ではな。また会おう」


「ああ、頑張れよ」


 無責任な声援を送り、俺は窓から飛び出した。


 両手でタコ糸を操り、どんどん地面に近づいていく。


『ほほほ、薫とやらも悪いやつじゃないみたいじゃのう』


「あいつが悪人だって言った覚えはないな。ただ常軌を逸したトラブルメーカーなだけでそれ以外は良い奴だよ」


 そうじゃなきゃ誰が十七年間も友人続けるだろうか。


 ……まあ、あいつに死なれるのも悪いし、片手間程度には魔王の情報も集めといてやるかな。


 地面が目の前に近づく中、俺はそんな事をぼんやりと考えた。

静はツンデレです。

今回はギルドの説明兼、旅立ちの言葉でした。

次回から本格的な旅に移ります。

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