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四十六話

「……よし、ポッポは自分の巣に戻れ」


 さすがにここからもこいつを連れて行くのは難しい。帰りの足は自分たちで何とかしよう。


「みんなもそれで良いな?」


 全員俺の提案にうなずく。異論はないようだ。


「ほら、行け」


 そう思い、ポッポの背中を叩いているのだが……一向に動かない。それにこいつの目が妙に力強く輝いている気がする。


「なになに……、『旦那、ここまで連れて来ておいてそりゃないんじゃないですかい』……? いや、お前にもお前の生活とかあるだろ」


「何で静はポッポの言う事がそこまで正確に分かるのか果てしなく疑問なのだが……」


「ダメですよ薫さん。きっと静さんだから、で終わりです」


「動物と心を通わせる静……ああっ!」


 薫、フィア、うるさい。人を珍獣みたいに言うな。あとカイト、お前は後でフルボッコ。自分の妄想で身を悶えさせる男は非常に気持ち悪かった。


「ん? 『勇者一行をここまで連れて来ちまったんだ。俺も同罪でさ。ですから、とことんついて行きますぜ』……か? はぁ……動く気はないんだな」


 何でこんな男気あふれる鳥が俺たちと一緒に来たのだろう。いや、俺が無理やり連れて来たんだけど。


「……お前、動物の調教師でもやっていけるんじゃないか……?」


 それは無理だろう。動物の言いたい事は何となく分かるのだが、言う事を聞かせるには力ずくしか思いつかん。


「……分かった。だが、現実問題としてお前を連れて行くのは危険が大き過ぎる。帰りにはこの場所に寄る。その時になったら迎えに来てくれ」


 実際、こんなデカイ鳥を連れて歩いていたら俺たちの居場所を教えているようなものだ。


 了解しました、というアイコンタクトが返ってきてポッポは空高く飛び去った。あとはこの場所に俺たちしか分からないような目印を付けておけばいい。


「んじゃあ……これでよし」


 目立つ場所にあった木の幹に傷を付け、目印とした。


「薫、先頭頼む」


「なぜだ。こういうのは男が先に行くものだろう」


 無茶を言う。こういう時は多少殴っても平気そうな奴が行くべきだ。


「勇者が先を進むに決まってんだろ。んで、その道を俺らが進む。完璧だ」


「どこが完璧だ。罠でもあったらどうする」


「こんな森に罠なんてないだろうよ。あったら……お前なら大丈夫だろ」


 主人公補正とかで。罠なんてチャチなもので死ぬのは名もなきモブキャラだけだ。


「はぁ……仕方ないな。だが、私の後ろにはお前が付け。分かったな」


「まあ、それくらいなら……リーゼさん、私の隣どうです?」


「……妥協しましょう」


 奥歯がカチカチ鳴っている。寒さじゃない。恐怖だ。


 ……しまった。俺の隣にリーゼを置いたらいつ刺されるか分かったもんじゃないぞ。あまりの恐怖でその辺の事が一切浮かばなかった。


 顔には引きつった笑いを浮かべ、俺たちは出発した。






「……静さん」


「……何でしょう」


 重い。空気が果てしなく重い。


 最初の方こそフィアやカイト、キースたちが話しかけてきたものの、今になっては誰も話しかけてこない。それでも遠巻きに俺たちを観察しているのが分かる。観察してないで助けて欲しいと思うのは我がままだろうか。


「薫さまとは、いつからお知り合いで?」


 あれ? 予想していたのは問答無用に襲いかかられるか、毒舌による罵倒だと思っていたのだが……意外にも理性的で驚いた。


 ……いや、ヤンデレって怖いんだよ。思考が斜め45度ぶっ飛んでいるから。


「そうだなあ……」


 質問には答えないといけないと思うので、真面目に思い返してみる。薫と知り合ったのは……。


「赤ん坊の時からじゃないの? 俺も薫も家が隣だったし、両親が仲良かったから」


 物心ついた頃から一緒にいた記憶がある。同時にその頃から何かと厄介事に巻き込まれていた気もする。


「そうですか……。――静さん」


「な、何だよ」


 思いのほかリーゼの声が真剣だったのでちょっとたじろいでしまう。


「あなたが薫さまの事をよく知っている事は認めます。ずっと隣にいた事も」


「は、はぁ……」


 何でお前に認められなければならんのや、とか思ったけど口には出さない。茶々を入れて良い場面じゃないだろうから。


「でも、負けませんから! 薫さまの隣にいるのはこの私です!」


「……さいですか」


 別に意識して一緒にいるわけじゃないんだけどなあ……。気が付いたら一緒にいるってだけで。


『それを心が繋がっている、と言うんじゃよ。羨ましい関係じゃのう。そのような関係を築ける相手に出会える事など、千年に一人と言っても過言ではないの』


 そんなにすごい事だろうか。イマイチ実感が沸かない。


「……みんな、止まって」


「クレア?」


 そんな時、クレアがみんなにストップをかける。全員が立ち止り、薫は剣に手をかける。


「どうした?」


「静かに。……何かいる」


 目で捉えているわけじゃないのか? それにちょっと驚いたが、すぐに気を取り直して耳を澄ます。


 …………これは、


「何か……羽虫の音だ」


 距離は結構遠い。しかし、こちらに向かってきているのが分かる。つまり……、


「かなりデカイ虫だぞ……注意しろ」


 ハエとかが巨大になっていたら……考えるのも恐ろしい。


「どうも俺たちをキッチリ狙っているみたいだしな……進行に淀みがない。戦いは避けられないな」


 全員で一塊になり、それぞれの武器を構える。


「クレア、見えないのか?」


「……ごめんなさい。木々が多過ぎて視界が遮られてしまうわ」


 それでも一番先に気付いたのがクレアなのだからすごいとしか言えない。エルフは五感が鋭いのだろうか。


 羽虫の不愉快極まりない低音波な音が大きくなっているのが分かる。これは……もうすぐ来るな。


「……うぇっ」


 予想通りというべきか、非常に気持ち悪い見た目だった。


 詳しい描写はマジマジ見る必要があるから避けたいのだが……強いて言うなら巨大化したハエだ。巨大な複眼気持ち悪いです。


「うぅっ……寒気がする」


「あれは……直視したくないわね」


 全員にボロクソに言われる巨大ハエ。ちょっと哀れに思うが、俺もみんなに同意なので何も言わない。


「静……僕はあれを斬りたくありません」


「奇遇だな。剣を持っているみんなが同じ思いだと思うぞ」


 フィアたちがうなずく。特にフィアと薫は必死そうだ。そんなに嫌だろうか。曲がりなりにも女だからなあ。こういうのはダメなのかもしれない。


「クレア、あれを撃てるか?」


「余裕ね。原形がなくなるまで撃てるわよ」


「それはやめてほしい」


 メシが食えなくなりそうだから。


 などと会話していると、羽音を響かせたハエがこちらに向かってくる。


「来た! 来たあああぁぁぁぁ!!」


 フィアが涙目で錯乱し始める。こういう時こそ戦闘狂モード入るべきだろ。


「こっの、世話が焼ける!」


 首根っこ引っ掴んでこちらに抱き寄せる。さっきまでフィアがいた場所をハエが通り、その巨体を間近で見る羽目になった。うぞうぞと生えていた繊毛が非常に怖気を誘う。


「魔法が使える奴は魔法! 剣しか使えない奴はあいつの気を引け! クレアは矢で撃ち落とす! いいな!」


 全員がハエを取り囲むように円形を作り、一斉に行動を始める。


 フィアとクレア、リーゼと薫の女性組は魔法での遠距離攻撃。キースとカイトは嫌悪感を隠さないでハエの注意を引いていた。


 やはりどんなに大きくても、所詮はハエ。生理的嫌悪感を催す程度で大した脅威ではなかった。


 五分後にはブスブスと生き物の焦げた凄まじく嫌な臭いを撒き散らしたハエの死骸がそこにあった。


「うえっ……しばらくご飯が食べられそうにないです……」


 さっきまで高笑いしながら炎を連発していたくせに。フィアって実は多重人格なんじゃないか? 戦闘狂モードの時は記憶がなくなるとか。


「んじゃ、先進むか」


「……静、お前はこれを見て何とも思わないのか?」


「ん? 解体して食うか?」


 火も通っているから寄生虫とかの心配もない。味とか見た目に目をつむれば食えないわけではなさそう。


「……お前にそういう事を求めた私がバカだった。死人へはキッチリ敬意を払うくせに、何でこうなんだか……」


「それよか行くぞ」


 薫の愚痴を無視して先へ進み始める。ハエの死骸から煙が出てるから、それを目印に何かがやって来そうで怖いんだよ。






 結局、何が出てきても物怖じしない、という理由で俺が先頭になってしまった。防御力紙の俺に一番前とか、人選ミスだと声を大にして叫びたい。


「……それはそうと、ふと思った事がある」


 しかも割と重要な。


「え? 何がですか?」


 俺の隣を歩くフィアが聞き返してくる。さすがに後衛の俺一人が前を歩くのは危険過ぎたので付けてもらったのだ。


「魔王の根城って、どこにあるんだ?」


 ポッポで空を見た時には見えなかったし。そんな目立つようなものではないのかもしれない。


「……そういえば、どこでしょう?」


 今の今まで考えなかった、しかし致命傷な疑問。フィアも冷や汗を流しながら首をかしげる。


「みんなは知ってるか?」


 振り返って全員に聞いてみる。だが、全員の返事はフィアと同じだった。


 総評としては、




「誰かが考えているものだと思ってた」




 に尽きる。つまり完璧な他力本願。これには俺も頭痛を覚えた。


 とはいえ、俺も同罪なので強くは言えない。


「……それじゃ、これからは魔王の居場所を突き止めるために動くんだな」


「それしかないだろう。まったく……魔王は魔王らしく大きな城に住んでいればいいものを……」


 薫がブツクサと愚痴を言っているが、俺もこれには賛成する。


「しかし……実際どうするんだ? この大陸に人間など住んでいるのか?」


「それなんだよな問題は……」


 ぶっちゃけ、情報の当てがない。どこにいるとも知れない人里を探すなど、魔王の根城を探すのと同じくらい難しい事だ。


「最悪、襲われるのを覚悟してポッポでもう一回空を飛ぶって方法もある」


 現実的ではないがな、と付け足す。最初の襲撃だってこちらがギリギリで勝てただけ。次の襲撃は前とは比べ物にならないほどの戦力で襲いかかってくるだろう。そんな事になったら人海戦術の波に飲み込まれてお終いだ。


「……いったん戻る事も視野に入れる必要がある、か……」


「それは無理だ。向こう側にこっちの詳細な情報なんてあるわけないし、今戻ったら間違いなく守りを固められて入れなくなる」


 それこそ詰みだ、とキースの意見を却下する。


 とはいえ、この状況は非常にマズイ事も確か。進退極まる、というやつだな。にっちもさっちもいかなくなってきた。


「……静、どうするんです?」


 カイトの質問で全員の視線が俺に集中する。どうして俺に視線が来るのか小一時間は問い詰めたい。普通は薫だろ。


「……もう一度空を飛ぶべきだと思う。全員でバラけて情報収集って考えもあったけど、こっちはあまり旨味がない」


 簡単に言えばローリスクローリターン。徒歩で行くから時間はかかるし、おまけに望んだ情報も得られない可能性がある。しかし、魔物などに遭う確率は空を飛ぶよりも低い。


 だが、時間がない状況でそれはできない。そしてここまで来た以上、何も賭けずに先に進める事の方が少ないはずだ。


 賭けならばこっちが有利だ。なぜなら、


「……どうした?」


 こいつがいる。天下一品の運を持った勇者がいる。


 ……天下一の不運を持った俺もいるんだけど。自分で言っててすごく悲しい。


「もう何も聞かない。――空へ行こう」


 どうせ反対しても無理やり連れて行くだけだし。ここまで来たら一蓮托生だ。


「……じゃあ、これから来た道を戻るのね」


「……そうだよ」


 クレアの一言に果てしなく情けなくなりながら、今まで歩いてきた道を戻る事にした。

試験まであと僅かだというのに投稿してしまう自分が病気としか思えないです。


それと、さすがに七人を同時に動かすのは不可能だという事を学びました。どうやっても空気が出てしまう……。


まだまだ未熟ですが、完結まであと少しです。お付き合いください。

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