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四十三話
 ポッポの背中にまたがりながら、空を飛ぶ。

 さすが鳥。馬とかを使うより断然速い。この調子ならセラ山脈まであっという間なんじゃないのか?

「し、静さん……高いです!」

 どうもフィアは高いところがダメらしい。俺にギュッとしがみついて来る。

「……あれ? お前、アウリスで物見塔に普通に立ってなかったか?」

「それとはケタが違うじゃないですか! これは誰だって怖いですよ!」

 フィアが涙目で反論してきたため、俺も下を見る。

 草原のさわやかな緑、森林の深い緑、緑一色の光景にピリオドを打つようにポツポツと存在する村や町。ここから見るとどれもひどく小さく見える。

「……結構高いなあ」

 確かにこの高さなら、高所恐怖症でなくても怖くなりそうだ。

「ですよね? 私が怖がるのは当たり前の反応ですよね?」

「……まあ、そうだなあ」

 戦闘狂姫さんがそんな行動を取るとは思わなかったよ。本当、普通にしている時は可愛いんだけどな……。

「それより静、セラ山脈のどこで薫さんと落ち合う予定なんですか?」

 そんな俺たちの会話にカイトが割って入る。いつもの変態らしからぬ正論が吐かれたので、真面目に考える。

「……しまった。考えてなかった」

 前にも言ったが、セラ山脈は大陸を縦断してしまうほどの大きな山脈だ。侵入経路なんて山のようにあるし、どのようなルートを取るかで進む道も変わってくる。

「……あれじゃね?」

 悩んでいたら、山肌に何やら妙な部分があった。

 なんというか、クレーターができているのだ。それもポツポツと。

「下が怖くて見れません……」

「がっ!? フィア、折れる折れる折れる!」

 女の子らしさを堪能する余裕などない。うっかり腹筋の力を抜いたら背骨ごとへし折られそうな力でフィアに抱き締められる。

「か、カイトはどう思う!?」

 フィアの手をタップして緩める事に四苦八苦しながら、カイトにも同じ事を聞く。

「魔物との戦いであんな穴はできませんね……僕の知っている兵器ではあんな威力は出せません」

 この世界の兵器以上の破壊力を出しているあいつって何なんだろう。いくらチート剣を持っているからと言って、反則じゃね? いや、チート剣の存在自体が反則だけど。

「やはり、これは薫さんじゃないでしょうか? あの穴の形は薫さんの放った……豪剣でしたっけ? あれにそっくりですし」

 細かいところまでよく見ているな。俺だってクレーターの形までは覚えてないぞ。

「それに穴の周りに飛び散るように魔物の死体もあるわね……人間がやったのと見て間違いないわ」

 クレアが俺たちの中で最も優秀な視力を使って耳寄りな情報をくれる。

「まあ、俺もあんなもん作れるのは薫ぐらいしかいないと思うけどさ……」

 やることなす事何もかも破天荒なあいつらしい。

「よし、とりあえずあの辺に降りてみよう。……フィア、これ以上は本当にヤバいからやめて」

 背骨がミシミシ言い始めているから。フィアの細い腕のどこにこんな力が潜んでいるのだろう。できれば俺にも分けてほしいくらいだ。





 地面に降り立ち、ポッポをその場に待機させる。どこかへ行ったら地の果てまでも追いかけて焼き鳥にすると言ってあるから逃げられる心配はない。

「……どこかに縛り付けておこうか?」

「さすがにそれはひど過ぎます! せめて餌は置いておくべきです!」

 縛る事は否定しないんだな、フィア。

「心配すんなって。こいつはすごい鳥だからな。きっと縛られていても餌ぐらい取れるさ!」

 とはいえ、この巨体に餌を与えるのは至難の業。よってフィアを丸め込んで、後は自力で何とかしてもらうようにする。

「すごい……? そうなんですか?」

「そうだ。こんなにバカデカイ鳥なんだぞ? すごくないわけないだろう!」

「そう……ですよね! こんなに大きいんですからすごいんですよね!」

 あまりにも簡単に騙されたため、拍子抜けと同時にフィアの未来が激しく不安になる。こいつに政治なんてできるのだろうか。

 ちなみにすごいすごい連呼しているが、どこがどうすごいのかは一言も言ってない。

 ポッポは丸め込まれたフィアを見て「ダメ! 騙されちゃダメ!」と必死に訴えかけているように見えるが、フィアは当然気付かない。

「あなた、ポッポの言う事分かるの……?」

「まさか」

 クレアが半信半疑の目で俺を見ていた。やだなあ。俺に動物の言う事なんて分かるわけないじゃないか。

「ポッポ、頑張ってくださいね!」

 尊敬すらにじませた眼差しでポッポを見るフィア。逆にポッポは「置いてかないで! 飲まず食わずは死んじゃうから!」と目で言っている。致命的な意思の食い違いだな。

「さて……薫たちを探すか」

「ポッポの言う事分かってて無視してるわね……」

 クレアの妙な確信に満ちた瞳を背中に受けながら、俺たちは歩きだした。





「ポッポの上から……見た時は……そんなにきつそうには見えなかったのに……」

 ぜはーぜはー言いながら足を動かす。

 クレーターがいっぱいある場所を歩き始めて三時間弱。未だにポッポの姿が見えるあたり、進行ペースの遅さが分かる。

「これ、小規模な山くらいの大きさがありますもんね……」

 フィアもげんなりした様子で同意する。

 可能な限りクレーターの中には入らないよう迂回しているのだが、いかんせん数が多い。時にはクレーターの中に入ってしまった方が楽に進める場合もある。

 そのため基本は迂回、たまに中に入って越えるという進み方をしていたのだが……体力の消耗が予想以上に激しい。

「まだイケるか……?」

 地面に座り込み、周りを見る。前衛でよく動くカイトとフィアはまだ余裕がありそうだが、後衛であるクレアはもう息も絶え絶えだった。

「ちょ、ちょっと休ませて頂戴……。いえ、私は置いて行って……、このままじゃ役立たずだから……」

 前衛と後衛で体力に違いが表れるのは当然だと思うんだ。だからそんな卑屈になられても困るんだけど。

「カイト、フィア、少し休憩するぞ」

 二人とも俺とクレア並みとまでは言わないが疲労していたので、俺の提案は素直に受け入れられた。

 各々が体を休める姿勢を取り、俺が水などを取り出して周りに配る。

「この調子じゃ、薫を発見するなんて夢のまた夢だな」

「そうですね……薫さんの姿も見つかりませんし……。あの人たち、どうやってここを進んだんでしょうね?」

「キースに荷物持たせて悠々と進んでたんじゃねえの……、あいつには同情するよ」

 嘆くべきは身分の差か。

「薫……? 誰なの?」

「ああ、クレアは会ってないのか。俺の知り合いでな、」

「静さんの恋人です。それもかなり仲の良い」

「人が話してる最中に割り込むな! 後、俺とあいつは腐れ縁だ!」

「そうですフィアさん! 静とは僕が赤い糸で結ばれて、」

「お前は少し黙れ。そして大陸中の運命の赤い糸を信じる人たちに謝って来い」

 男同士を結ばせた赤い糸とか嫌過ぎる。ロマンの欠片も存在しない。

「それで、結局誰なのかしら……?」

「あ、悪い。そうだな……俺の幼馴染で、今は勇者なんてやってる奴だよ」

「さっきは知り合いって言わなかった?」

 クレアが鋭い突っ込みを入れてくる。個人的には知り合い程度の付き合いでいたかったので、そう言ったのだが……フィアが台無しにしてくれた。

「気のせいだ。まあ、勇者やってるって事を覚えてくれれば良いよ。どうせこれから会うんだし」

「それもそうね。……ありがとう、もう大丈夫よ」

 クレアが体力を回復したと申告してくる。顔色を見て俺も問題ないと判断し、こういう知識は豊富なカイトの同意も得られた。

「じゃあ、出発しよう」

 全員の荷物をまとめ、それぞれに渡す。だいぶ痛みも減った足に活を入れ、立ち上がる。

「……ん? あれなんだ?」

 立ち上がって高くなった視界に何か妙な物が入る。片方がポッポの姿であるのは間違いない。

「……女の人が二人と男の人が一人ね。男の人が荷物を持っているみたいで動きが遅いけど」

 クレアが俺の見たものを説明してくれる。俺の視力じゃそこまで把握し切れなかったので純粋にありがたい。

 ………………だが、そいつらはどう考えてもポッポを襲おうとしている奴らにしか見えない。

「…………」

 俺含め、薫と面識のある三人の顔が引きつる。もしかしなくても、あいつらポッポを倒そうとしてる?

『……死骸は焼き鳥にしてほしいの』

「――っ! お前ら、急ぐぞ!」

 メイのポツリと言った一言で停止していた思考が再起動を果たす。

 あたふたと立ち上がり、フィアたちが俺にしがみつく。

「《風よ 我らを運べ》」

 飛行魔法を使い、空を飛んでポッポのもとへ急ぐ。

 ちなみにこれは移動用ではない。魔力の消耗が意外に大きく、俺一人しか使えないので効率が悪いのだ。それに魔力がなくなると戦闘にも支障が出るので、普段は使わない事にしている。

「……あの人たち、ポッポを襲おうとしてる!?」

「気付くの遅いわ! あの状況なら誰でもそう思うだろ!?」

 クレアのワンテンポ遅れた反応に全員で突っ込みを入れる。しかし、

「遅い……。そうよ、私は亀以下ののろまなのよ……」

 ちょっと言葉が悪かったのかこいつのネガティブスイッチをオンにしてしまった。だが、今は構っている暇などない。幸いと言うべきか、クレアの両手は俺の体にしがみつくので使っているから自殺される心配はな――

「フィアそいつの口に指入れろ! 噛み切ろうとしてる!」

 クレアの落ち込みようを甘く見ていた。口の中をモゴモゴさせていた動きからギリギリで気付けた。危なかった。後一秒遅かったら仲間を一人なくしていただろう。

「むぐ、むぐー!」

 フィアの指がクレアの口の中に突っ込まれて下あごが動かなくなる。とりあえず自殺の心配はなくなった。

「落ち着け! とにかく狙撃頼めるか!?」

 死なせろと叫んでいるように聞こえるうめき声を無視しながら指示を出す。

 すると別人のように落ち着いた瞳を見せたクレアが弓を取り出した。その様子を見たフィアが口から指を出す。

「うぅ……痛かったです」

 噛み跡のくっきり残る指に息を吹きかけているフィア。すまんね。でもお前しか頼めなかったんだよ。

「……どこに撃てばいいかしら?」

「その前に誰が一番前を走ってる!?」

「幅広の剣を構えている女の人が突出してるわ。それに速い」

 間違いなく薫。その剣も形からしてあのチート剣だろう。

「そいつの足元、狙えるか?」

「……正直、難しいわ。私たちも動いている以上、本人を狙った方が早いわね」

「じゃあ本体狙いで。それなら当てられるか?」

「余裕ね。どんなに素早く動いても当てられるわ」

「静さん!? 薫さんを殺す気ですか!?」

 俺のあんまりな指示にフィアが批難の声を上げる。

「安心しろ。こう言っちゃなんだが、あいつは死なない。防ぐなり避けるなりして生き残る。絶対だ」

 薫が遠くからの狙撃で死亡、なんてショボイ死に方をするわけがない。死ぬにしても魔王との死闘の末、とかが妥当な線だ。

「それじゃ……撃つわよ」

「おお、遠慮しないでやっちまえ」

 クレアの弓に番えられた淡い光で構成された矢が放たれる。鋭く風を切り裂く音とともにそれは薫へと迫る。

 やはり勇者と言うべきか、薫は気付いた上でそれを弾き落とした。そしてこちらを見てひどく驚いた顔をする。

 そんな薫に俺は手を振ろうとして――



「あははははっ! 死ねっ、死ねぇーーーーっ!!」



 狂ったような笑い声に遮られた。そして俺の頭上を通り過ぎる光の矢の群れ。

「クレア!? チッ、フィア、止めろ!」

 俺の背中の上でトリガーハッピー入ってしまったクレアを止めるべく、フィアに指示を出す。

「はい! ……引きはがせない!? カイトさん、手伝ってください!」

「任せてください! ……バカな! 僕たち二人がかりでも離れない!?」

 フィアがカイトにも救援を頼み、それでもクレアの手を弓から離せない。彼女もカイトとは別方向の変態補正を持っているようだ。

「気絶させろ! カイト、首を狙え!」

「分かりました!」

 カイトがクレアの首を強く打ち、強制的に意識を刈り取る。くたりとして俺の背中に寄りかかったクレアの体重がかかる。胸の柔らかな感触を堪能したかったが。



「さて、これはどういう事か説明してもらおうか。静?」



 俺に目の笑ってない笑顔を向ける薫をどうにかして説得させるので頭がいっぱいだった。胸の感触など記憶に残らなかった。

 ……あれ? ひょっとしなくてもこの状況って結構ヤバい?
主要メンバー勢ぞろいです。

しかし、静はこの後の薫を上手くなだめなければあっという間に死亡フラグと言う罠。


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