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三十一話
 カイトたちと合流し、軽く作戦会議の時間を設けるために薫に結界を張ってもらう。

「……んで、これからどうする? こいつの首見せても止まらない可能性あるぞ。むしろ結構高い」

 俺が左手で鷲掴みにしているウルの首を見る。何というか、我が生涯に悔いなし、と言っているような満足感がそこはかとなく漂っている。

 ……ぶっちゃけ、すげえウザい。今にも握り潰したくなる。勝手に人のない事ない事報告して死にやがって……。

「そうだな……それの効果がなかった場合の作戦を立てるべきだな。どうする? 軍師様」

 俺の事を過剰評価しがちな幼馴染がそんな事を聞いてくる。適当な事言って煙に巻きたい気持ちが腹の奥底から沸いてきた。

 だが、実行したら俺まで死んでしまうので真面目に考えよう。

 まず、カイトたちの消耗具合をチェック。

「カイト、イケるか?」

「静となら、どこまでも!」

 よし、こいつは変態補正かかってるから何ともない。多少こき使っても大丈夫そうだ。

「キースとリーゼは?」

「私はちょっと苦しいです。あ、キースは回復させれば死ぬまで動きますよ」

「ちょ、リーゼさま!?」

 ……薫一行のヒエラルキーが分かるような会話だな。まあ、王族と兵士の身分の違いというやつか。

「ふむ、キースとカイトは前衛任せられるな」

「はい!」

「……カイトほどの技量はないが、全力を尽くそう」

 あれ? 呼び捨てにしてる? 戦場で一緒に修羅場くぐっていれば当然だろうな。俺もそれで知り合いになった人って結構いるし。

 ……このままカイトと相思相愛になってくれないかなあ……。そうなったら祝福しよう。俺の厄介事が減った事を。

「薫は……大丈夫だろ」

 勇気ある者と書いて勇者だから切り込みくらいやってくれるはずだ。あの豪剣とかいうやつはすごい威力だし。

「ひどいな。私には聞かないのか?」

「聞くまでもないと思っただけだ」

 だってこいつ、息切れてないし。あれだけ走った俺はもう息も絶え絶えなのに。

「じゃあ確認するぞ。薫を最前線。カイト、キースがそれの援護しつつ前に出る。俺とリーゼが後衛で援護に回る。いいな?」

 全員が力強くうなずく。それを見て、薫に結界を解くように指示を出す。

 結界が解かれた瞬間、俺がウルの首を高く持ち上げて叫ぶ。



「お前らの大将は死んだ! テメェらに勝ち目はねえ! 大人しく退きやがれ!」



 俺の声はリーゼが使ってくれた風魔法で遠くにも運ばれた。

 一瞬、全てが停止する。魔物も、俺たちも、みんな。

 これはやったか? と期待を隠せない。

 魔物たちはそれぞれで顔を見合わせ、何やら意思疎通を行っている模様。そして彼らは行動が決まったのか、うなずき合い――



 俺たちに向かって殺到してきた。



「ウソだろ!?」

 なぜに? キレたにしてはタイミングがおかしいだろ!?

『おそらく、こやつらの目的は主と薫ではないかの? それに魔物たちは特定の指示を出せば後はずっと従うぞ? きっと、主たちを殺せと命じられたのじゃろうな』

 我らが知恵袋メイさんの推測。要するにこいつらは俺が目当てって事だ。

「……じゃあ、俺の行動は?」

『アウリスを取り囲んでおった魔物たちに居場所を教えた事になるのう』

 ……………………ウソだと言ってほしい。

『残念じゃが、現実は目の前にある』

 薫とキース、カイトが必死になって戦線を維持している場所を見る。

 ……うん、四方八方から魔物が押し寄せてきてるね。

「現実って、残酷だなあ……」

 空を仰ぎ見る。ああ、今日も良い天気だ。

「何やってるんですか静さん! 真面目に戦ってください!」

「戦ってるって。自分の中にある自殺願望と」

 生きようとする意志が結構劣勢だからヤバいかもしれない。完璧に自殺願望が勝った時は身投げでもするか。

「自分と戦うのは後回しにして今は目の前の脅威を潰してください! ……早くしろよ。薫さまが困ってんだよ、ん?」

「分かりましたリーゼさま!」

 明らかに逆らっちゃいけない雰囲気がリーゼから撒き散らされていた。

 そうだった。最近忘れていたが、こいつもヤンデレの仲間だった。リーゼが薫のためにならないと判断した場合、俺はためらわずに殺される。

 自分の命が外からも中からも狙われている状況に胃と頭がひどく痛む。頭痛までするって事は俺のストレスが相当なものになっていると予測できる。

「はぁ……」

 心では渋々、現実には超忙しく指を動かして鋼糸を操る。だって隣が怖いんだもん。手ェ抜いたってバレたら即刻殺されるね。

「リーゼ、機動力強化をカイトに。筋力強化をキースに頼む」

「はい!」

 一応、指揮官としては認められているらしく、指示には素直に従ってくれる。さすがに公私混同はしないみたいだ。

 強化された二人がそれぞれの戦い方で敵を翻弄し始める。俺は薫の援護に回る。

「豪剣!」

 全てを吹き飛ばすような破壊力の一撃が連発されている。無双状態もいいとこだ。

 しかもそんなにバカバカ大技放っているのに、顔には一切の疲れが見られないというチートぶり。お前今から魔王倒してこいよ。

 とりあえず、薫の援護は必要ない事が分かった。それにしても……、

「キッツイなあオイ! このままじゃ三分持たねえぞ!」

 薫がいくら無双したところで、全方位の攻撃をさばけるわけじゃない。今はまだかろうじて戦線を維持できているが、このままじゃジリ貧は間違いない。

 後衛にいるはずの俺やリーゼだって後ろから来る敵の対応に追われている。リーゼも俺も近接戦の心得があるからまだ生きているが、この調子ではお陀仏するのも時間の問題だ。

「ではどうする? この囲みを突破するのは至難の業だぞ」

 薫が一瞬だけこちらに顔を向けていかに現状が最悪かを語るが、その顔には不敵な笑みが貼り付いている。俺が打開策を思いつく事を疑わない顔だ。

 ……チクショウが。そんな無邪気な期待をされたら応えないわけにはいかないだろう。

「カイト、ちょっと俺の時間稼いでくれ! 考える時間が欲しい!」

「分かりました!」

 カイトに護衛は頼んだものの、あいつは純粋な剣士であるので全方位から襲いかかる敵に対応するのは難しい。

「《土よ 我が身を守れ》」

 というわけで結界を張らせてもらう。土色の魔力が俺の周りをベール状に覆い、外からの攻撃を防いでくれる。常に一定以上の魔力を注がないと消えてしまう欠点のある代物だが、少しの時間稼ぎくらいなら充分だ。

 音も遮断して静かになった空間で思考に入る。やれやれ、こんな役回りが最近板についてきたな……地球ではそこまで頭使わなかったってのに。

「……ふむ」

 妥当な線としては一点に戦力を集中させて突破するのがある。薫をトップにしてあの豪剣とかいうやつで敵を薙ぎ払ってできて道を進む。周りのフォローは薫以外の人間がやる。

「これはベターではあるけど、ベストじゃないんだよなあ……」

 どう考えても正攻法だ。俺の考えるような作戦じゃない。ちょっと頭ひねれば誰だって思いつくような内容だ。

「……お、これはイケるかも」

 また思いついた。ちょっと薫に無茶させるが、まああいつなら成功させるだろう。勇者らしく最後の最後は決めていく奴だし。たとえ失敗してもそれなりの結果は残すはず。

「全員、俺が合図したら目をつむれ」

 誰からの返事も返ってこない。みんなそれぞれの役割を果たそうと必死だからだ。しかし、きちんとうなずいてくれた……ような気がする。

「目ェつぶれ! 《光よ 弾けよ》」

 俺が最も好んで使う道具、閃光弾を魔法で作り出す。

 どんな生物であれ、目には少なからず頼るものだ。犬のように嗅覚が優れている魔物もいるだろうが、それでも強力な閃光は一瞬のひるみができてしまう。

「《土よ 突き上げろ》」

 次に全員の足場を上昇させる。これで大雑把な仕込みは終わりだ。

「薫! アウリスへの道作れ!」

 ざっと見積もって二百メートルほど。魔物の壁がなければ三十秒で走り抜けられる距離だ。

「結構距離があるじゃないか。難しいぞ?」

 だが、魔物の壁を削りながら突破するには遠過ぎる距離でもある。

「――お前が失敗するなんて思ってねえよ」

 俺とは違い、お前は本物の勇者だから。さながら物語の主人公のように決めてくれるだろう。そこに痺れも憧れもしないが。勇者よりも平民の方が好きだ。平穏無事という意味で。

「ははっ、そんなに信頼されたのでは、応えるしかないじゃないか」

 薫の手に持ったチート剣がかつてない輝きに包まれる。まさしく光の剣。

『むぅ……これは確かに英雄譚に乗りそうな姿じゃのう……』

 メイの言葉に全力で同意する。他の魔物たちより高い場所に立ち、その手には光り輝く剣。そしてお供のように後ろについている俺たち。

 ……この場で俺が薫の首を鋼糸で落としたら英雄譚の絵とかどうなるんだろう。

「豪剣――」

 薫が魔力と気の混合刃を振り下ろし――



「――連斬!」



 さらに振り上げ、もう一度叩きつけた。

「今だ!」

「待ってました! 《風よ 打ち出せ》」

 風の魔法で薫を含めた全員を吹き飛ばす。当然、方角はアウリスの向きで。

「薫、余裕はあるか?」

 風圧から顔をかばいながら薫と会話する。ちなみに読唇術でのやり取り。

「ある、と言いたいところだが……正直に告白すれば豪剣はあと三発が限界だな」

 それだけ放てりゃ十二分だ。アウリスの城壁までの距離も百メートル切っている。

「……ん、あれは……」

 キラキラと俺の目に光が入り込む。何事かと疑問に思い、城壁の上を見上げるとそこには――



 ――己の剣を鏡代わりにしたフィアがいた。



「……ははっ」

 思わず口が笑みの形を描いてしまう。フィアの後ろには弓矢を構えた兵士と杖を構えた魔法使い、下には遊撃部隊の冒険者たちがいた。

「……カシャルで知っていたが、静もずいぶんと良い仲間を持ったじゃないか」

 薫の称賛を肩をすくめて流す。俺の仲間になる奴って一癖も二癖もあるどころか癖しかない奴らばっかりだ。

 ……まあ、フィアは戦闘中以外は普通に良い子なんだけど。逆にカイトは日常生活以外は頼れる仲間だ。

 あれ? こうして見ると俺が完璧に安らげる時ってないんじゃない? 戦っている時はフィアの行動に胃を痛め、それ以外の時はカイトの熱視線に頭痛を覚える日々じゃん。

「……そろそろ着地する。言うまでもないが着地したらそのままアウリスまで走れ」

 さっきまでの思考は破棄しよう。絶望に心が塗り潰されそうだし。

「分かった。行くぞ! ――豪剣!」

 薫が着地点の敵を吹っ飛ばす。間髪入れずに全員着地し、ゴール目がけて走り出す。ゴールはもちろん、アウリスの門だ。

 フィアの姿を視界に収め、無心に走り続ける。フィアは手を大きく振り、何やら指示を出している模様。

 次の瞬間、矢が発射された。俺たちのすぐ後ろに矢が突き刺さり、魔物たちの足を鈍くする。

「ナイスだフィア!」

 フィアのありがたい援護のおかげで何とか生き延びられそうだ。

「さて……やるか」

 ここからが本番だ。魔物どもの狙いは俺。だからうかつにアウリスに入ってしまうと、魔物がそこに入るべく攻め込む可能性がある。よって俺はアウリスには入れない。

 だが、アウリスの城壁を背中にすれば八方を囲まれるのを防ぐ事ができる。おまけに上からの援護も受けられる。

「薫、俺の事情は分かっているな?」

「もちろんだ。お前が嫌だと言っても付き合うからな」

 よし、戦力確保。次に……、

「カイト、後ひと踏ん張り頼めるか?」

「大丈夫です!」

 盾確保。こいつ無駄に頑丈だから便利だ。

「私は上に行きます。その方が援護し易いので」

 リーゼは自分の役割をよく理解している。そのため、門をくぐって上に向かって行った。

「もう……無理です……」

 キースはグロッキー状態。ちょっと酷使し過ぎたか。

「キース、お前は中で休んでいろ。私たちなら大丈夫だ」

「申し訳ありません……」

 薫の言葉に素直に従うキース。俺が言っていたら必ず何か反論したはずだ。

「最後の仕上げだ……せん滅し尽くしてやろう!」

「どこでこうなったんだか……」

 薫が無双したおかげで数は減っているが、これだけの数相手にせん滅戦って普通に無理だろ。

 でも、撃退もできそうにない。こいつら愚直なまでに俺を狙ってきている。

 殺るか殺られるか。ここまで来たらそれしかない。

「――よし。行こう」

 魔物対人間の戦いがようやく始まった。向こうの勝利条件は俺の抹殺。こちらの勝利条件は敵の全滅という不利な事この上ない戦いが。
薫のターンです。ほぼ薫無双状態。
最近、静が自殺願望を持ち始めています。そろそろ幸運を与えないとヤバいかもしれません(苦笑)


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