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二話
 目が覚めると、そこは近所の公園だった。

 ……まさか夢オチ?

「いやいやいやいや、あり得ないだろ」

 薫の持ってきた厄介事がそんな生易しい終わり方を許すはずがない。

 ……我ながら嫌な納得の仕方だなあ。

「おいっ!」

「さて、ここを異次元の異世界と仮定しよう。じゃあ、問題はどうやって戻るかだ」

 自分の考えを声に出して、まとめていく。目の前で聞こえた妙に甲高い声は意図的に無視する。なんか嫌な予感がしたので。

「おいと言っている!」

「次元の穴を開ける? ……できたら俺は人間じゃないな」

 そんなことができる奴は薫だけで間に合っている。

「こっちを向け!」

 向けと言われて向く奴はそんなに多くないと思う。

「うーん……まあいいか、夢でも今はこの光景を目に焼き付けておこう」

 もしかしたら故郷の最後の光景になるかもしれないし。

 ……つくづく厄介な事に巻き込んでくれたなあいつも。ここまでヤバいと思ったのは初めてだ。

「とりあえず、戻ったらあいつを一発殴ろう」

 女性に優しく? あいつは例外だよ。

「おいいっ!」

「うおっ!?」

 耳元で叫ばれ、頭の中にキーンと音がした。痛みはないが、耳の感覚がなくなるのは痛み以上に怖いものだというのを学んだ。

「妾を無視するなぁ……」

 振り向くと声の予想通り、小さな女の子がたたずんでいた。ずっと放置していたのが悪かったのか、涙目だ。

「あー、悪かったよ。ちょっと調子に乗りすぎた」

 さすがに小さな女の子に泣かれると弱い。子供を泣かせて喜ぶような鬼畜趣味は持ち合わせていない。

「う、うぅぅ……」

 目にたまった涙をぐしぐしと拭う女の子。可愛らしい行動にささくれ立っていた俺の心が癒されるのを感じる。

 しかもよく見ると、この子も結構可愛い。この世界に来てから、会う女性はみんな美人美少女ばかりだ。

 ……きっと薫の方に引かれてるんだろうな。あの人間誘蛾灯が!

 百回殺しても殺し足りない幼馴染を脳から消去し、今は目の前の少女に癒される事にする。

 髪は白で腰のあたりまで伸ばされている。今は涙に濡れている顔も、何だか不敵な笑みが似合いそうな気の強い色を見え隠れさせている。
 全身を覆う服は黒のフリフリやビラビラがいっぱい付いたゴシックロリータ。

 近所で四十路を越えたおばさんがやっているのを見た時はドン引きどころか吐き気すら催したが、目の前の少女が着ているのは純粋に似合っていると言える。

 ……何だか、不敵な笑みが似合いそうな部分で俺の癒しが半減された気がする。

 抽象的だが、こいつは俺にまとわりついて何か厄介事を持ってくるはずだ。

 確信に近い物言いなのは、長年の鍛え上げられた危機感知センサーの賜物だ。感知だけして、避ける方法は一切教えてくれないポンコツも良いところの代物だが。

「ぐすっ、ひっく……」

「ほら、泣きやんだか? さっきのは謝るから、いい加減本題に入ってくれ……」

 なかなか泣きやまない少女にげんなりもしていたが、何より泣いている少女に癒しを感じる自分は結構危ないんじゃないかとも思って自己嫌悪もしていた。

「う、うむ。すまない。手間を取らせた」

「いや、それはこっちもだからお互い様だけど……」

 女の子を泣かせた時点で全面的にこっちが悪いだろう。ほんとすいませんでした。

「それで、君は一体?」

「うむ、よくぞ聞いてくれた」

「なに!? あの手袋に宿った精霊だって!」

「妾はお主が触れた手袋のせいれ―――――ってお主が全部言ってしまったわ!」

 適当に言ったのに大当たりだったか。

 出番を取ってしまったから、また涙目になり始めたし。

「え!? お前はそんなすごい存在なのか! うわー、驚いたー」

 己の演技の下手っぷりに泣きたくなるが、我慢する。この手の子供はだいたい持ち上げられることに弱いはずだ。

「あからさまなウソをつくなぁ! 半端な同情は余計に傷つくわ!」

 無駄に気位が高い!? しかも増長しない! なんて厄介な性格だ!

「……ふん、まあよい。主に悪気があったわけではないようだしな」

「許してもらえると幸いです」

「で、説明を始めてもよいかの?」

 それはもう。こちらから望んだことだし。してくれないなら土下座しているところだ。

「では、自己紹介……はしてあるの。妾はお主の想像通り、あの手袋に宿った精霊だ」

「はぁ。あ、俺は」

「お主とあの女のやり取りはこちらからも見えていた。カオル、と言ったか?」

「静だ。秋月静」

 見えていたのは確かだが、俺の名前全然覚えてねえ。影が薄いか。薄いんですかチクショウ。

「では静、お主は力を望むか?」

「別に――――ほしいです。ハイ」

 反射的に要らないと答えそうになってしまった。ヤバかった。

「一瞬だけお主の本音が見え隠れしたような気もしたが……まあよい。妾は寛大だからな。許そう」

 道具に許される人間って……どうなんだろう。戻ったら薫に聞いてみるか。

「んで、薫から聞いたところ、お前も能力があるらしいな。何があるんだ?」

「糸作りじゃな」

「糸作り?」

 聞いただけじゃちょっとイメージがわかない。どんな能力なんだろう。

「文字通りじゃ。糸を作れる。鉄の糸だろうと、絹の糸だろうとな」

「へー、他には?」



「以上じゃ」



「…………………………………………………………ウソ、だよね?」

 ウソだと言ってください。いや、マジに。

「お主に隠し事をしてどうする。これから唯一無二の相棒となるのに」

「お前を使用するの確定なの!? なんでそんな微妙な能力使わないといけないのさ!」

 薫並みとは言わないが、もうちょっと便利な力をくれても良いんじゃないでしょうか、神様。

「微妙ではないだろう。お主にとってはこの上なくぴったりな能力だと思うがのう」

「――待て、お前どこで知った?」

 俺が持ってるちょっとした特技。お前に話した覚えはない。

「この世界にお主が来た時からじゃ。糸繰りいとくりとは、ずいぶんと特異な技術のようじゃのう」

「冗談はやめろ。これはただの大道芸だ」

 自称旅の大道芸人に一年ほど教わった、ただの手品レベルの技術だ。

 あの人はもっと鮮やかに糸を操っていた。それに比べれば、俺なんて足元にも及ばない。

 ただ、その技術に何度か命を救われているのは否定できない事実だが。

「謙遜するでない。お主の技術ならこの世界でも十二分に通用するぞ? ん、妾、お買い得じゃろう?」

 妙なしなを作って俺に迫ってくる少女。大人の女性がやれば色っぽいのだろうが、この子がやっても子供が背伸びしてやっている感じがしてむしろ微笑ましい。

「……まあ、俺が使う使わないは置いといて。この世界から出る方法は?」

「妾が許可する事じゃ。ちなみに妾を使う事を了承しないとここからは出さんぞ」

 そんなところだと思ってましたよチクショウ。これじゃ選択肢なんてあってないようなものじゃないか。

 ……なんかこの世界に来てからそんな選択肢ばかり選ばされている気がする。

「……分かった、使うよ。使えばいいんだろう使えば」

 何だって住めば都、使えばそれなりに慣れるだろうし、物は考えようだ。

「では、これからよろしくな」

 少女は俺の返事に花が咲いたような満面の笑みを見せた。ヤバい、癒される。

「ああ。……えっと、名前は? なんて呼べばいいんだ?」

 もうこいつしかいない。俺に癒しをくれる奴は後にも先にもこいつだけだ。

「ん? ないぞ」

「は、ない?」

 ……いや、これはこの少女風のギャグだろう。ナイ、という名前なんだきっと。

「――ナイちゃんだね。いい名前だ」

「勝手に作るな! 本当に名前がな――存在しないのじゃ!」

 ない、って言いそうになって慌てて言い直す仕草が俺のハートをどんどん癒してくれます。あなたはそのままの癒し系でいてください。

「つまり、俺に付けてほしいと暗に言ってるのか?」

「う……その、そういうわけではないのじゃが……できれば、付けてもらえると……嬉しい、の」

 赤らめた頬。そわそわと落ち着きなく動く体。そっぽを向いた顔。

 そして「嬉しい……の」という部分では上目遣い。

 あなたは萌えの塊ですか? それとも、神様が俺に遣わせてくださった癒しの神ですか?

 この仕草を見ただけであと十年は戦えそうだ。

 ……俺は決してロリコンじゃない。ただ、癒されるものは純粋な子供が多いってだけだ。

「分かった。名前を付けよう」

「ほ、本当かっ!?」

「もちろん。そうだなあ……」

 やはりこの子に気に入ってもらいたい。ふむ……。

 ネコっぽいからタマ――をさらに一ひねりして服装からクロというのはどうだろう?

 いやいやいやいや、ペットの名前じゃないんだから、そんな軽々しく決めちゃいかんだろ。もっとしっかりがっつり考えろ俺。



「――――メイ」



 色々と考えて、ごちゃごちゃになっていた頭にフッと浮かんだ名前だった。

「うん? それが妾の名前か?」

「――――ああ。お前は今日からメイだ」

 頭の中にポッと出た名前だが、この少女には一番しっくりくる名前だった。

「メイ……メイか! よし、妾の名前はメイだ!」

 無邪気に笑って飛び跳ねる姿がもう可愛すぎます。もう俺の心の傷は一つ残らず癒えたよ。





「んで、これからどうするんだ? 元いた場所に帰るのか?」

「そうなるのう。……妾はあの世界ではこの姿になれんのじゃ。それが少し残念だがのう」

 しょぼーんと落ち込むメイ。その姿に癒しを感じるのもしつこいと思うので、先を促がす。

「ちなみに、どんな姿になるんだ?」

 純粋な好奇心からの言葉だった。メイはどんなに姿が変わっても俺の癒しであり続けてくれるはずだ。

「うむ。少しだけ見せてやろう」

 そう言うが否や、メイの体が一瞬だけ強く発光する。

「いつっ!」

 眼球にいきなり強い光源が焼き付いたため、思わず目を閉じる。まぶたの裏でも、チカチカするのがわかる。

「もう目を開けてよいぞ」

 チカチカする視界をゆっくりと取り戻す。そこにはメイがいた。



 背中から羽を生やし、三等身にデフォルメされた姿で。



「最高だーーーーーー!!」

 思わずそう叫んでしまった俺は悪くないはず。

 ……この十分足らずのやり取りで俺の性癖が分からなくなってきた事には目をつむる。

「そ、そうかのう」

 妖精さんスタイルのまま恥じらう姿もグッド。

「まあ、はっちゃけるのもこれくらいにしよう。メイ、この世界から出してくれ」

「お主、切り替えが早いのう……」

 修羅場をくぐりぬけるための必須スキルだよ。

「では、少し揺れるから目をつむっておくがよい」

「ん、了解」

「それと、現実での時間はほとんど経っておらんからな。気をつけろ」

「分かってるって」

 何かと心配性なメイに苦笑を見せる。やれやれ、見た目はこんななのに、オカンみたいだね。

「では、現実で会おうな」

「ああ。これからよろしくな、メイ」

 メイの笑った気配を最後に、俺はこの奇妙な世界からオサラバした。
PVがあっという間に1000を超えていた事にぶったまげました。
このような駄作を見ていただき、誠にありがとうございます。
これからもこの主人公らしからぬ主人公と精進していくつもりですので、どうか目を離さないでください。


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