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一話
 俺はあの後、隣の奴がいかに勇者になるべくして生まれたのかを力説したのだが、当然のように聞き流されてしまった。彼女はスルースキルが高いらしい。

 おまけに俺達を召喚した美少女はやんごとなき身分の人だったようで、すぐさま王にお目通りを強制的にやらされる羽目に。

 理不尽通り越して呆れるしかない展開の速さだと自分でも思う。

 ……というかこのままだと巻き込まれた俺が男だという理由だけで勇者にされそうな事実に涙を堪え切れない。

「……ん? 私の顔に何かついてるか?」

「ああ、疫病神が盛大にな」

 巻き込んだ元凶のくせにしれっとそんな事を聞いてくるバカに皮肉で返す。

「ま、まあ私もあんなことになるとは思ってなかった。一種の貴重な体験ができたと思えばいいんじゃないか?」

 さすがのこいつも悪い事をしたと思うのか、冷や汗をかいている。

「……………………それが辞世の句か?」

 無論、その程度で許すほど俺は甘くも優しくもない。

「すいませんでした」

 よし許す。

「どっちにしろ、知り合いがお前しかいないんだ。頼らせてもらうぞ薫」

 王宮なんて、ドロドロした政治劇の舞台ぐらいしか思いつかない。

 ……最近ハマっている大奥で繰り広げられるドロドロの女性時代劇に影響され過ぎだろうか?

「ああ。私もお前を頼らせてもらうぞ。静」

 俺のような一般人にお前が頼る時点で相当ヤバいがな。それと、俺はお前に厄介事を押し付けることを諦めたわけじゃない。

「ここが王の間です」

「ああ、ありがとう」

 薫がにこっと笑いながら俺達を呼び出した美少女に感謝を述べる。

「い、いえ……」

 美少女は照れたように目を伏せてしまう。頬もほんのり赤い。

 また禁断の道に人を堕としやがった……。

 こいつの無節操さにため息をつかざるを得ない。そして少女の未来を心配したい。割と切実に。

「行くぞ。ほぼ百パーセントお前が目当てなんだから」

「わかっている。そう慌てるな」

 殴りてえ……、誰のせいでこんな状況に……。






「ふぅむ……リーゼ、どちらが勇者なのだ?」

 玉座らしき豪奢な椅子に座る豊かなあごひげを蓄えた人がリーゼ、と俺達を呼び出した美少女に問いかける。

「はい、彼らの話を聞くと――」

 リーゼが薫を紹介する。

「彼女がそうなのではないかという説が濃厚です」

 リーゼの言葉に俺がうんうんとうなずく。いいぞ、もっと言え!

「では、そっちはなぜいるのだ?」

 明らかに人を人として見ていない物言いにカチンときた。

 だが、ここで怒っても何のメリットも見えない。静かに頭下げている方が得策か。

 それに悪気があるように見えないし。他意はないのだろう。

「それなんですがお父様……勇者が二人召喚されたのではないですか?」

 リーゼのお父様!? 似てなっ! 

 あと勇者が二人って何!? 俺を厄介事に巻き込まないで! もうこっちはいっぱいいっぱいだから!

「我々の脅威たる魔王は強大です。奴に対抗するための手札は多いに越したことはありません。これも神の配剤かと」

 人のことを何だと思っているんだとキレたくなったが、勇者に課せられる役割を思い出して己を押さえつける。

 勇者というのは体のいい広告塔だ。何の見返りもなく、国からの命令で単身で魔王でも何でもいい、とにかく厄介な問題に立ち向かわされる。

 もともと一人の人間にはできそうにないような無茶を頼んでいるため、死んだとしても連中は痛まない。万一成功したとしても、お褒めの言葉のみ。

 ……こうして考えてみると、ゲームの勇者ってよくやっていけるな。俺だったら魔王に寝返るぞ。

「今までの話を聞いていればわかると思いますが、今我々の国は魔王の脅威にさらされています。どうか、助けていただけないでしょうか?」

 リーゼの口から懇願の言葉が出る。だが、それは懇願の形を取った脅迫に他ならない。後ろの兵士連中から剣呑な気配が発せられ始めたから。

 断れば死。うなずくしかない二択。

 そして隣のお人よしは誰かが困っているのをよしとしない大バカだ。

「その役目、引き受けさせてもらう」

 俺に相談もせずに薫が受諾の意を示してしまう。

「おお! それは重畳! リーゼ、さっそく彼らを開かずの間へ案内して差し上げろ!」

 彼らって俺も含まれてる!? いや、薫のあの返答から予測はしてたけど!

 っつーか開かずの間って何!? いきなり封印された魔王倒せとかのラスボス!?

 これで一安心だとばかりに相好を崩す王様。その顔は年を取っているにも関わらず、人懐っこい笑みだった。
 ……はぁ、あんな笑顔を見せられたら見捨てる際に良心が痛むじゃないか。……俺のバカめ。





「…………死ね」

「そ、そう言うな。それにお前だって引き受けるつもりだったんだろう?」

「……確かにな。それは否定しない」

「だろう? なら――」

「だが、俺なら報酬の用意が絶対条件だ。タダ働きでそんな命がけの仕事、やりたくもない」

 お前がいる時点で諦めてもいたが。また慈善事業で修羅場をくぐるのか……鬱だ。

「し、しかしだな。人が困っているのだから助けるのが人情というものでは?」

「問答無用で人を異世界なんかに呼び出して、テメェらの手でケリつけなきゃいけない問題を丸投げされてんだ。連中が困っているのは事実だろうが、こっちだって十二分に困ってるっての」

 こういうのはあまり好きじゃない。魔王も、世界が滅びるとかも、全部自分達の世界の話だ。

 それをまったく関係のない他人に全て押し付けてしまおうって魂胆が気に食わん。

 ……呼び出されてしまった以上、何を言っても意味はないけどな!

「……その、本当に申し訳ありません。こちらの都合で、勝手に呼び出してしまい……」

 城の中を案内すべく前を歩いていたリーゼが済まなそうに謝ってくる。

「彼の話は適当に聞き流した方がいい。それになんだかんだ言っても結局最後には助けてくれる。こいつはそんな奴だ」

「勝手に人をお人好し設定にすんじゃねえ」

 こっちは自分の身の安全を確保するために動いてんだ。断じて人助けのためなどではない。

「はいはい、そういうことにしておくよ」

 ……古来より、口で男が女に勝つのは無理だと相場が決まっている。だから、俺、負けたのワルクナイ。

 ……ごめん、ちょっと泣きそう。

「ところで、開かずの間っていうのは何なんだ?」

「私達の手では開かないのです」

「いや、それは聞けばわかるけど」

 リーゼのピントがずれた答えに間髪入れず突っ込む。

「どんな部屋なのか、口伝とかないのか?」

「は、はいっ! あの……中には、勇者のための武具があると言われています……はぅ……」

 俺の質問には普通に答えたくせに、薫の質問には顔を真っ赤にさせ、しどろもどろになりながら答えるリーゼ。

 ……うらやましくなんかない。目から流れているのはただの汗だ。

「ん? どうした静。涙なんか流して」

「何を言っている。これは心の汗だよ。それと地獄に堕ちろこの野郎」

「な、なぜだ!?」

 やかましいボケ。お前なんかいつか刺されてしまえ。

「ここです」

 俺と薫が罵り合っていると、リーゼが立ち止り、一つの部屋を指差す。

「おどろおどろしい部屋だな……」

 オーラが見える。オーラが。こう……魔王の波動っぽいやつが。

「そうか? ほら、行くぞ」

 こいつには原初の恐怖とかないのだろうか。この部屋、なんか生存本能に訴えかけてきているんだけど。入ったら死ぬ的な。

 すたすたと中に入った薫を追って、俺も中に入る。本音を言えば入りたくなどなかったが、リーゼが「入らないんですか?」と無邪気な瞳で見つめていて良心が耐え切れなかったのだ。

「中は普通だな……武器とか、防具とかしかない……」

 いやいやいや、この道具たちが放つオーラ、明らかにおかしいだろ!? というか今光った!?

「はぁ……何をビクビクしている。こんなもの、所詮は道具だろう?」

 絶対に意志持ってるってこれ! お前の意見にご立腹なのか、そこの剣がビカビカ光ってますよ!?

「……お、この剣なんて使いやすそうだ」

 俺が剣に対して土下座して謝っているのを見ているにも関わらず、妙な剣を手に取る薫。

 こいつバカか!? いや、前から分かってたけど!

「…………はぁっ」

「おい、大丈夫か!?」

 剣に手を触れた瞬間、薫の体が不自然に止まり、急に脂汗をかき始めた。

 ここで何があったのか聞いておけば俺の時は心構えができそうだ。

 セコイ? 有効活用すると言ってほしい。

「あ、ああ……大丈夫だ。静、心配してくれてありがとう」

「そんなことより何があった?」

「私の心配はそんなことか?」

 薫のジト目が心に痛い。思わず失言を吐いてしまった。反省反省。

「はぁ……、まあいい。この剣に触れた瞬間、剣の意識、とでも言えばいいのかな? とにかく、そんなのが私に話しかけてきたんだ。幸い、私は主に認められたようだ」

 やっぱ何かあったか……。あの雰囲気からして何かあるとは思ったけどな。

「んで、主に認められると何かあるのか?」

 徐々に魂が食われるとか、意思が消えていくとかだったら逃げる。

「その武器に宿った能力を使えるようになるそうだ。私の場合は斬った相手の全てを奪えるものらしい」

「全てって……」

「そいつの修得した技、そいつの魔力などだな」

 それどんなチート?

「ん? 魔力?」

 召喚術がある時点で予測していたが、そっちもあるのか?

「ああ、こいつが言うには誰にでも魔力があるらしい。私達でも魔法が使えるな」

 それは純粋に嬉しい。ファンタジーな世界に来た以上、魔法に憧れを持つのはある。

 だけどこいつの武器を見ると、まず妬ましいと思う俺は人間として変なのだろうか。

 ……誰か常識人の友達がほしい。

「じゃあ、次は静だな」

「わーすごい、薫の武器があれば俺なんていなくても平気だな! じゃ、俺は帰る方法を探すから――」

 シュタっと腕を上げて逃げようとしたが、薫に首根っこを掴まれて阻止された。

「待て。私が選んだんだ。君も選ばないと不公平だろう……?」

 あ、声が低い。怒ってるな。

「そうは言うがな。選ばれなかった場合のリスクとか考えるとやっぱ持つ気になれないっての」

 剣に食われる――とか普通にありそうだし。異世界に来て三時間足らずで死亡とか嫌だよ。

「では私が選ぶ! ……よしこれだ!」

 即断即決!? しかも人の生死に関わりそうな物を!?

「テメッ、また俺を厄介事に巻き込むつもりじゃ――」

 薫が適当に取ったハーフフィンガータイプの手袋に触れた瞬間、俺の意識は消し飛んだ。
変な小人が頭の中に降りてきてますアンサズです。
作者は竜頭蛇尾です。
自覚しているので気をつけますが、グダグダになってきたら言ってください。
全力を尽くして直します。


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