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十七話
 四度目のお城にやってきた。

 どうしてこの城に来るのは修羅場が関連しているのか神様に五時間くらい問い詰めたい。

 今日は王様たちも闘技場で見に行くため、城の警備自体は手薄となっている。

 だが、正面の釣り橋が閉じられており、中に入る事はできないようになっていた。

「まあ、俺には関係ない事だ……な!」

 一回も正面から入った事のない俺には意味がない。

 例によって裏口に回り込み、兵士の意識を落とそうと絹糸を巻き付け、軽く引っ張る。



 兵士の首がゴトリ、と落ちた。



「…………ウソォ!?」

 絹糸で人間の首って落ちるの!? しかもそんな強く引っ張ってないよ!?

 あまりに予想外過ぎる事態に慌てふためく俺。

 だが、首を落とされた兵士は何事もなかったように立ち上がり、首を拾い上げて元に戻していた。

「……魔物か」

 そこでようやく頭が回り始め、こいつらの正体に気付く。

 首が落ちた事で擬態が解けたのか、全身についていた肉がはがれ落ち、骨が姿を見せる。

「スケルトン、とでも言えばいいのか?」

 ゲームではよく出てくる雑魚だな。

 声が出せないのか、カカカカカッ、と骨を鳴らしてこちらに向かってきた。キモイ。

「よっと」

 絹糸を体中の関節に巻き付け、軽く引っ張る。

 それだけで骨はあっさりバラバラになった。

「……いや、脆過ぎだろ」

 確かにこうなる事を予想してたけど、こうまで簡単にいくと拍子抜けだ。

 ただ、バラバラになっただけで機能停止はしていないらしく、それぞれの骨がカタカタと動いていた。ちょっとホラーだ。

「けどおかしいな……この前までは確かに人間だったのに」

 そんな短時間で変われるとは思えない。何かあるな。

「うーん……あ、今は大半の兵士が闘技場に行ってるな。そっちの方に人間が行ったのか?」

 そう考えると一見筋が通っているように見えるが、これもおかしい。

「正体現した時に敵になりかねない奴を闘技場に送るか……?」

 そいつらも一網打尽にできる何かがある? それなら話は通る。

 ……強力な爆弾、とかか? 例えるならダイナマイト?

「あり得ない、かな。そんなものが使えるなら、人間はとっくに負けているはずだ」

 まあ、何にせよあいつらがいる以上、大抵の事は払いのけてしまうだろう。

 それにこいつらがここに居るって事はある事実も示唆している。



 ――今のここにはあいつらが知られたくないと思う何かがある、ということだ。



 手薄になった警備を突かれたら困るから、わざわざ魔物を残したのだろう。

「難易度が上がったな……こりゃ」

 人間相手なら、いくらでもごまかす方法はあったって言うのに。

 さすがに魔物相手じゃ人間に通じた方法が通じない可能性がある。生態系が全く分からないと言うのは厄介過ぎる。

「でも……」

 脳裏にチラつくのは父親が死んでいる可能性が高いと知った時のフィアの泣き顔。

 もう一度見る事になるかもしれない。事実、その可能性はかなり高い。

 それでも、今は一条の光が見えている。フィアを嬉し泣きさせる希望が見えている。

「――なら、迷う必要なんてない」

 俺はスルスルと壁を糸で上り、窓を一枚ピッキングで開けて中に入った。





「……全然見つからねえ」

『主じゃから、ある意味当然じゃのう』

 メイの言葉に癒しがない。泣きそう。

 城の中はもうほとんど覚えている。それにも関わらず、全然それっぽいのが見当たらない。

 城の中を闊歩するのが二足歩行している鎧を纏ったトカゲ顔の魔物だった時は普通にビビった。実際に見たらすごく気持ち悪かった。

 これからどうしたものか悩む。あまり長居もしていられないし、何より見つかったら厄介だ。

『隠し部屋とかがあるのではないか?』

「俺もそれ考えてた」

 だけど、そういうのって見つからないから隠し部屋足り得るわけであって。簡単に見つかるような部屋は隠し部屋ではないのだよ。

 何の手掛かりもなしに隠し部屋を探す場合は人海戦術を取るのが基本だ。

「難しいなあ……」

 フィアに何か聞いてくるべきだったと後悔するも、遅過ぎる。

『では、地下牢などはないのかの?』

「そこ行って、何も見つからなかったらどうしよう……」

 フィアになんて説明すべきだろうか。

 ……今ふと思ったが、こういうのって黒幕を倒したら自動で解除される結界とかに閉じ込められているパターンじゃないか?

「……あれ? そう考えると俺の意味なくない?」

 え? 何? 意味のない事で修羅場くぐらされてるの俺?

「いやいやいやいや、きっと大丈夫。俺のやっている事には意味がある……」

 そう思わないとやってられなかった。





「……いやいやいやいや、そりゃ意味があると思ってきたけど、これはないだろ……」

 地下牢までやってきた。途中で見かけた背中に竜の翼みたいなのがあるトカゲには腰を抜かしそうになった。おそらく廊下を歩いていたトカゲ人間の上位版だろう。

 そして現在、俺は壁に身を隠し、通路の先をうかがっていた。

「……何だと思う、あれ」

『大方、一方通行の異空間への入り口じゃの』

 俺の見ている先には、例えるならブラックホールのようなものが渦巻く空間があった。

 さらにそれを守護するように立っている鎧と剣を持った屈強そうな――皮膚の青い方。

 明らかに魔族だった。しかも俺が相対した奴より明らかに強そう。なんて言うか、オーラがある。

「あれ、どうやったら中身を取り出せると思う?」

 頼りになる俺の知恵袋に意見を聞く。

『そうじゃのう……あの手の術は術者を倒すか、外から支えてもらって中身を取り出すかの二つの方法でどうにかなるはずじゃ』

 ふむふむ、前者の場合は薫たちに頑張ってもらうしかないな。

 ……いや待てよ? 術者が倒れれば消えるのだとしたら、ここに見張りを置く意味がないのでは?

 じゃあ、あそこに居る見張りは……。

『おそらくあやつが術者じゃ。異空間を開く術は魔族であっても負担が強い。おそらく、あの場から動かずに見張りをしているのではなく、あの場所から動けないから仕方なく見張りをしておるのじゃ』

 メイの言葉が俺の推測を確信に変える。

 つまり、あいつを倒せば少なくとも中に居るであろう人は助けられるのか。

 生死までは分からないが、希望が出てきた。

『じゃが……今の主にあやつの相手は荷が重いぞ? 確かあの手の術が使える魔族はかなり上位に位置するはずじゃ』

 メイの言葉に絶望したい。正直な話、ここで逃げて薫たちを呼んでから戦いたい。

 だけど、あの中から助けを求めている人がいて、俺に何とかできる可能性がある。

 もし、俺がここで逃げたら、そのわずかな時間で中の人が死んでしまう可能性だってある。

 そして――俺には勝算がある。

「――行くぞ。メイ、勝つ方法はある」

『やれやれじゃ……、まあ、そこが主らしいのじゃがの。……よかろう、秋月静の相棒メイ。どこまでも主についていくぞ』

 メイの力強く、頼りになるお言葉をいただいてから俺は前に出た。

『ほう……ようやく私の前に出てきたか』

 ――っ!? 気付かれてた!?

 のっけから予想外な展開に俺の思考がストップしてしまう。

 魔族の剣士はゆっくりと体を動かし、剣をスラリと抜く。

 こうして対峙してみたが、こいつの体は大きい。身長も目算ではあるが、四メートル近くある。

 その体に見合う剣は当然長くなる。こちらも目算になるが、二メートル前後はあるだろう。

 あんな大きな剣がぶつかったら、俺の体なんてあっという間にバラバラだ。

 取るべき手段に多少の修正は必要だが、大筋に変化はない。

 俺は静かに鋼糸を作り出し、両手を蠢かす。

『……ふむ、名を名乗れ』

「人に名前を聞く時はまず自分からって習わなかったか?」

 剣士の言葉に俺は挑発混じりの言葉を返す。

 だが、俺の言葉にも怒った様子は見せず、むしろ納得したようにうなずいていた。

『そうだな。私は魔界騎士団筆頭レイスだ』

 ………………………………え? 何その重要そうなポジション。

 というか魔界に騎士団なんてあるの!? そんな秩序ある集団だなんて初めて知ったんだけど!?

 何でそんな偉そうな人がここに居るの!? そういう奴は薫と戦えよ! 俺に来んな!

『さあ、私も名乗ったんだ。お前も名乗れ』

 あまりに理不尽なめぐり合わせを嘆いていると、剣士――レイスがこちらに名を聞いてくる。

 今さらだが、こいつは結構格式とかを重んじるタイプに見える。その証拠に敵である俺に名前を聞いている。

「俺は――」

 どう名乗ろうか。二秒だけ悩み、すぐに答えは出た。



「秋月静。ただの一般人だ覚えとけ!」



 弦操士見習いを言おうかとも思ったが、そういう格好いい啖呵は薫の方が似合っている。

 両手の糸を操りながら、俺はレイスに向かって疾駆した。

『来い!』

「行くぜ!」

 そう言ってレイスの剣の攻撃範囲ギリギリまで近づく。

「《光よ 輝け》」

 そして目の前で閃光をぶっ放す。当然俺は目をつぶっている。

『ぬぅぁ!? ひ、卑怯な!』

「戦いに卑怯もクソもないわ! 《風よ 轟け》」

 さらに雷撃を至近距離でぶちかます。ただし狙いはレイスの耳元。

『ぐぁぁっ!? み、耳が!』

 耳から血が流れ、鼓膜が破れた事を確認する。

 やはり人型をしているだけあって、体の構造は人間に酷似しているようだ。

 それなら五感を潰せばこっちの勝ちだ!

『汚い。さすが主汚い』

 メイが俺をすごい目で見てくる。どのくらいすごいかと言うと、あまりの冷たさに思わず身震いしてしまうくらいに。

「これで!」

 鋼糸を今までにない速度で動かし、相手の体をグルグル巻きにする。

『ぬぅっ!?』

「しまいだぁ! 《風よ 轟きて荒れ狂え》」

 詠唱を長めにし、威力の底上げをする。そしていっぺんに出せる魔力を全部出す。

『ぐあああああぁぁぁっ!?』

 レイスが叫び声を上げて電流を受ける。人間ならとっくに黒焦げになる電気。なのにこれと言って火傷が見られないのはこいつが魔族だからか。

 しかも、電流が消えてもこいつの体は動いていた。

『う、うぅ……』

「しぶといな……」

 だが、致命傷である事に違いはなく、すぐに死ぬだろう事が見て取れた。

『くっ……秋月静か……』

「そうだが何か?」

 早く死ねよ。イタチの最後っ屁とかが怖いからこうして自然に死ぬのを待っているヘタレな俺。

『見事だ……私の性格まで読み取った上でのあの戦術……私はお前の手のひらで踊っていたに過ぎないのか……』

 過大評価し過ぎだから。そこまで考えてないから。とりあえず人型だから五感潰せば何とかなるんじゃね? とかしか思ってなかったから。

『お前は……魔王様にとって脅威となる……』

「なるつもりないんだけどなあ……」

 俺ことなかれ主義だし。それに魔王討伐なんて勇者のお約束だろ。薫に任せときゃいいんだよ。

『魔王様……この不忠な部下最後の報告、お受け取りください……!』

 レイスの手が虚空を掴むように伸びる。

「……オイ、今すごく不穏な事言わなかったか?」

 ヤバい、果てしなく嫌な予感がする。というか、もう自分ではどうにもできない気がする。

 だが、レイスは精根使い果たしたようにバタリと手を地面に下ろし、静かになってしまった。

「死んだのか!?」

 俺の質問に答えてもらってない以上、死なれたら困るので焦った。

 だが、レイスは耳が聞こえないにも関わらずこちらを向き、ニヤリと笑って見せた。

『ククク……お前の情報を魔王様に送った……。これでお前の事は……全魔族に知れ渡る……』

 …………………………………………………………………………………………マジで?

『主……ここまで不幸だとは……今までで理解したと思っておったが、正直、まだ侮っておった』

 いや、俺もここまで不幸になったのは初めてなんだけど。

『そして……私以上の使い手が……お前を殺しに来る……』

「やめて! それ以上言わないでくださいお願いしますからぁ!」

 もうオチは読めているが、それでも認めちゃいけない事実ってのはあると思うんだ。

『苦しみ……あがいて……死んでいくのを地獄で見守ろう……ふはははは……』

 最期は弱々しい笑い声とともに、レイスは今度こそ事切れた。

「冗談じゃねえよ……」

 そして俺も事切れかかっていた。俺の身に降りかかったあまりにも大きな絶望に。

 目の前のブラックホールが消えかかって、中から人が出てきていたが、すでに俺にはどうでもいい事だった。

 全魔族に狙われるって……。

「そういうのはあいつの役目だろうがーーーーっ!!」

 膝をつき、四つん這いになって地面に拳を叩きつけ、叫んだ。

 こうして、俺は薫より先に魔王に名前を知られる事となってしまった。

 ………………平穏って、今の俺と対極の言葉だよな。
珍しくシリアス入ったと思ったらやはり静は静でした。
こうして彼は魔王に顔を覚えられる。


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