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十二話
小説 結論から言おう。宿には戻れた。誰にも会わないで。

「奇跡だ……!」

 自室のベッドを見た瞬間、そう言ってしまった俺を誰が責められよう。いや、誰も責められない。

『ささやかな奇跡じゃのう……』

 メイの言葉で、俺が普段どれだけ間が悪いのか自覚してしまい、枕を涙で濡らした。

『ところで、どうやって城に入るつもりじゃ? 正面からは入らんのじゃろう?』

「ん? ああ、一応考えてあるけど、正直、気が進まない」

『なぜじゃ?』

「危険なんだよ。明らかに敵がいるって場所に潜入するんだからな。罠ぐらいないとおかしい」

 敵が慢心していればそれもないんだが、それはちょっと楽観し過ぎだろう。

 危険があると分かっている場所に行く以上、可能な限りの準備は当然だ。

「とりあえず明日は観察だな。城の周りをぐるぐる回ってどこか入れそうな場所がないか調べてみよう」

『それは構わないのじゃが……その場合、何かあった時に主が真っ先に怪しまれるぞ』

「怪しまれたって一度逃げ切ってしまえば見つけられないって。顔は見られないように気を付けるしな」

 俺がこの国の住人だったら話は別だが、俺は旅人だ。最悪国外脱出してしまう手もある。

「もう寝よう。……明日は早めに出るぞ」

 薫たちと鉢合わせはしたくない。可能性を限りなく減らして動こう。





「……ん?」

 いつ隣からバレるかと思うと気が気じゃなくてなかなか寝付けず、ようやくうとうとしてきた時だった。

 ドアの開く音と妙な足音が聞こえてきたのだ。具体的に言うなら裸足のぺたぺたしたやつ。

「……いったい誰だ?」

 枕元に用意してある短剣に手をかけながら、こちらに向かってくる人影を確かめる。

「薫さまぁ~」

「――ひっ!?」

 決して恐怖のために上げた声ではない。きっと。



 そこにいたのはリーゼだったのだ!



「んにゅぅ~」

 可愛い声を上げながら、俺のベッドに潜り込んでくる。ちなみに俺はすでに窓際まで退避済み。

「なななななな……」

 何でだよっ! と叫びたかったが、それでこいつが起きてしまい薫たちと顔合わせるのはごめんである。

「どうしたものか……」

 リーゼを元の部屋に戻す? 却下だ。何でわざわざ恩も何もないこいつのために世話を焼かねばならんのや。

 廊下に放り出す。個人的にはお勧めだが、実行するには危険極まりない。特に運んでいる最中にリーゼが目覚めたら冗談抜きに殺されそうだ。

 逃げる。現実的な策だが、ここには泊まれなくなる。

 ぐぐぐ……やはりリスクを考えると逃げるのがいちば――

「……ん? リーゼがまた消えたのか? はぁ、しょうがない奴だ」



 廊下の方から悪魔の声がした。



「キース、朝早くに済まないがそっちにリーゼは来てないか?」

 ドア越しでもよく聞こえる声。そしてここのドアがノックされる。

「すみません。こちらに金髪の長い髪をした女の子が来てませんか?」

 来てるどころか現在俺のベッドで寝てます。

 ダラダラと脂汗が流れ落ちる。もう一刻の猶予もない!

「ええい、ままよ!」

 窓を開け、俺は飛んだ。





「失礼します……む? リーゼ以外誰もいない?」

「……みゃ? あ、おはようございます~」

「おはようございますではないぞ。また君は寝ぼけて他人の部屋に入って行ったんだからな」

「え!? そ、そうなんですか! あわわわ! ごめんなさい! ごめんなさい!」

「しかし妙だな……誰もいない。昨日宿を取った時には確かにここは空いてなかったのに」

「あれ? じゃあ、どうしてでしょう?」

「分からない。考えられるのは一つ。私たちに会いたくないと言ったところだろう」

「え? 薫さまは勇者様ですよ? 会いたくない人がいるんですか?」

「私だって人の子だ。誰かに恨まれたりもするさ。それより、私相手でここまで露骨に逃げ出す奴など……静か?」





「はぁ……逃げた。逃げちまった」

「そう落ち込むでない。主の行動はあれが一番正しかったはずじゃ。朝食が食べられなかったのは残念じゃが、今なら城の周囲にも人気がないのではないか?」

 確かにまだ朝もやのかかる早朝だ。どの店もまだ開いてないし、人の気配なんてないに等しい。だからメイも大っぴらに姿を現していられるのだが。

「……そうだな。とにかく、城の周囲を見て回るか」

 過去の事は忘れて今を考えよう。うん、いつまでも後ろ向きじゃダメだよね。

 城の周辺には兵士がちらほら立っていた。見張りの兵だが、大した練度はなかった。遠くから頸動脈縛れば簡単に倒せる。

 試しに絹糸を巻き付けてみたが、全然気付かない。いや、気付かせないようにしてるんだけどさ……薫なら余裕で気付くぞ?

「まあ、いざとなったら突破は容易という事を覚えておくか……」

 けど、それは最後の手段だ。もっと穏便に済ませる方法を見つけないと。

「うーん……水路から侵入するのもちょっと現実的じゃないしなあ……」

 というか先が城とは別の場所につながっているかもしれない。フェイントとかで。

「普通、大規模な建物はどこかに非常口を作るはずなんだけど……」

 城の場合は外から責められた場合の逃げ道があるはずだ。

 だけど、それが簡単に見つかれば苦労はないわけで……。

「……全然見つからん」

 城の周りをグルグルと回って三周ぐらいして、ようやく諦める事にした。人通りも増えてきたし、そろそろ変な目で見られてしまいそうだ。

『……のう主』

「何だメイ」

『ここの王は闘技大会を見に来るのじゃろう? その場合はどうやって行くのじゃ?』

「は? そりゃお前……豪華な馬車で行くか、直通の通路か何か……あ!」

 何たる失態。俺バカじゃん。

『ほほ、気付いたようじゃの。妾に感謝しろよ?』

「サンキューメイ! 愛してるよ!」

『あ、あいっ!? い、いや、そ、それは……妾も……』

 メイの言葉を最後まで聞かず、俺は闘技場へ向かって駆け出した。

 ……しばらくメイの機嫌が悪くなって、癒しが消えてしまったのは人生最大の失敗だろう。





 闘技場に着き、まずは薫たちを警戒する。

 確か薫は登録していたはずだ。そして応援のために腰巾着二人組も来ているだろう。

 そいつらと会わないためにも、俺はひっそりと観客に紛れる事にした。

 ついでに薫の成長ぶりを見てやろうという魂胆もある。

「はぁっ!」

 薫の剣が大柄な男性の持つ大剣を吹き飛ばす。相変わらずの馬鹿力だこと。

「裂蹴――」

 気合の入った掛け声とともに、薫の足がぼんやりとした光に覆われる。

「天撃!」

 光に覆われた足が相手を空高く蹴り上げる。相手は三メートル近く上に吹き飛ぶ。

 ……死んだんじゃね?

 そして何だあの力!? 馬鹿力じゃ説明できないぞ!?

『あれは……気、というやつじゃな』

「そんなもんあるの!?」

 いきなり大声を上げてしまったため、周りの人から奇異の目で見られる。

 それを愛想笑いでごまかし、そそくさと場所を移動してもう一度メイに聞く。

「んで、気って何?」

『んむ、魔力と違い、生命力を使った力じゃ。主に使用者の肉体強化に使われるの』

「へぇ、じゃあ俺も使えるのか?」

『それはできないはずじゃ。魔法を使える者は気を扱えないはずじゃからの』

「……じゃあなんであいつは気を使えるのさ」

 おかしいだろ。

『それは妾にも分からん。じゃが、あれが気である事は間違いない。魔法による身体強化とは全然印象が違ったからの』

 これが主人公補正と言うやつか! チクショウ! なんであいつだけ!

「……俺には本当にできないの?」

『分からんな。さっきできないと言ったのは、この世界の常識じゃ。異世界人である主は例外であるかもしれん』

「……まあ、結論としては保留しよう。どうせ気の使い方なんて知らないし」

 とにかく、それを使いこなしちゃった薫はさすが勇者だと思っておこう。

『あの剣の能力かもしれんがな。確か斬りつけた相手の能力を全て奪い取る物じゃろう。気を使える相手から奪ったのなら、話のつじつまは合うぞ』

 確かにメイの言うとおりだ。

 事実、薫は足にしか気を纏っていなかった。身体強化と言うなら全身に纏うのが当然のはずだ。

 ……相手が弱過ぎてそうする必要がなかった、という可能性も否定できない。

 もしくは、薫自身が気の扱いに慣れておらず、一部にしか集められないとか?

 それこそあり得ないな。だいたい、そういう訓練はまず全身を覆えるようにする。一部に集めるなんてそこからの派生だ。

 結論としては、薫と俺の力量差がまた開いた、という事にしておこう。

 悔しさ? あるわけないじゃん。力なんて得れば得るほどより大きな騒動が待ち構えてるんだよ。そんなんなら持たない方がマシだっての。

『主、それより城への潜入法はどうするのじゃ?』

「……今から向かおうとしてたんだよ」

 薫のすごい技を見せられて忘れていたわけじゃない、と言わせてもらおう。あれについての考察を終えたらちゃんと向かう予定だった。





 城へ入る道はすぐに見つかった。探せば簡単に見つかるものだ。

 そしてここを通るであろう王への警護のためか常に見張りが詰めており、その練度は城の周辺などとは比べ物にならない。

 遠くからの魔法による狙撃で一人ずつ倒そうにも、ちょっと頭をひねらないとすぐさまバレそうだった。

「……こいつは突破できるかな?」

 策はある。だけど、あいつらと白兵戦する力は俺にはない。万が一あいつらに俺の存在を気付かれ、懐まで入られたら終わりだ。

 それでもフィアのために、真実を知らなければならない。本当の敵を見極めるために。

「やりますか……!」

 両手に糸を持ち、張り巡らせる。

 張り巡らせる場所は、彼らの真上に。一枚の天井のようになるよう指を動かす。誰にも気付かれないように、後指一本動かせば一気に完成するよう仕込む。

「《風よ 轟け》」

 鋼糸に電気を張り巡らせ、完成の指を動かす。

「な、何だ!? 電気が壁のように!」



 ――弦操曲我流アレンジ、雷網(らいもう)



 この技は本来、クモの巣のように糸を組んで上に投げる事で相手を絡め取る技なのだが、今回は魔法を絡めてアレンジしてみた。

 組み方も多少変更して、雷を伝える範囲を広げるために壁のようにした。 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!』

 金属の鎧を通して電気が伝わり、兵士たちが倒れる。

「安心しな。大して強い電気じゃない。しばらく麻痺する程度で終わりだよ」

 この前のベアウルフのように出力全開でやれば、人間程度なら黒焦げになる。もちろん、進んで人を殺したい性格はしていないのでそんな事はしない。

 気を失っているのがほとんどだが、中には失っていない奴もいるかもしれない。それを考え、顔を見られないために布で隠す。

「さて、行くか」

 俺は城へ繋がっているであろう道を奥に向かって歩き始めた。
十一話を投降後に、やたらとテンションがハイになって筆が進みました。アンサズです。

追伸
閑話に薫サイドの旅の様子を考えているのですが、まだ悩んでます。何かあればご感想をお願いします。


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