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九話
「そんなことが……こちらの落ち度です。申し訳ありません」

 村に戻ってギルドに駆け込む。受付の人に説明をしたら深々と頭を下げられた。

「いえ、人として当然のことをしたまでですから」

 フィアが顔の前で手を振って謙遜する。俺としてもこちらにミスがあったとは思えないので、特に何も言わない。

『主の厄介事に好かれる体質が呼び寄せたようなものじゃからのう』

 メイ、人の心をサクッとえぐる一言はやめてもらえません?

「こちらは薬草採取の報酬と、Cランクの魔物を討伐した事による謝礼金です。お受け取りください」

「あ、じゃあ遠慮なく――」

「いえ、私達はお金がほしくて倒したわけではありません。そのお気持ちだけで充分です」

 何言ってんのフィア!? ただでさえ所持金少ないんだから、もらえるところでもらわないと!

「そうですか。そう言っていただけると幸いです」

 そこのアンタも! そそくさとお金戻そうとしないで! 俺は要ります、とか言いにくくなっちゃうから!

 結局、俺が得られたのは薬草採りの報酬だけだった。ああ……あの報酬は結構ありそうだったのに……。

「……まあいいか。明日になったらここを発つぞ。カシャルへ向かおう」

「やっと私のために動いてくれるのですね!」

 こいつは俺のために動いてくれたのだろうか甚だ疑問だ。

『主、カシャルへ行けばいい事あるぞ』

 根拠のない慰めでも今は嬉しいよメイ。





「やっと……やっと帰ってきました!」

 カシャルの門が見えてきた時のフィアのセリフ。きちんと家に帰るまでが遠足だって知らないのだろうか。

「はいはい。んで、どうやって入るんだ?」

「あ、今の時期なら誰でも入れますよ」

「へぇ、そりゃまたどうして?」

 大国と呼ばれているのだから、そうポンポンと人を入れる事はないはずだ。

「私の国では年に一回、大きな闘技大会があるんです。世界中の強者を集めて、魔王に対抗しよう、というわけです」

「ふーん……」

 分からんでもない。そう言った大会に勝てば、一気に有名になれる。

「だから諸国の王様が見に来ているんです。それに大勢の見物人も来ますから、見張りも一人一人の顔をきちんと覚えたりはしませんよ」

 おまけに国王の後ろ盾も得られるってことか。なかなかよくできたシステムだ。

「んじゃ、人の団体さんが来たところを見計らって中に入りますか」

「はい!」

 フィアは中に入るのを今か今かと待ち構えている。やはり故郷に帰るというのは嬉しいものなのだろう。

 ……俺も故郷に帰りたくなってきた……かもしれない。

 うーん……薫の両親には一言言っておきたいよなあ……、よくしてくれたし。

 俺の両親? なんか知らないけど、世界中旅してるよ。二人とも作家で、見聞を広めるためだとか言って息子を放り出して行きやがった。

 しかもあの二人、妙に間が良いから何が起こっても無事でいるだろう。 そして俺がいないことなど露知らずに旅を楽しんでいるはずだ。

 …………死ねばいいのに。

「やさぐれとるのう……」

 肩に乗っていたメイが俺の頬をぺちぺち叩く。

「はぁ……いいよもう。きっと神様は俺の事が嫌いなんだよ」

「少なくとも騒動の神様には好かれとると思うが……」

 俺はその神様が大っ嫌いです。

「……あ、大勢の人が歩いているのが見えますよ。行きましょう!」

 フィアが駆け出してしまう。俺もそれに続き、人の列にさりげなく入り込む。

「あんたたちも旅人かい?」

 俺の前にいた男性が気さくに話しかけてくる。

「ええ、まあそんなところです」

 この国の第三王女連れてます、なんて言っても信用されないだろうから曖昧にごまかしておく。

「そうか。この国に来るのは初めて?」

「そうですね。ずっと南の方にいましたから」

 よくもまあ口が回ると自分でも思う。

「この国の闘技大会はすごい迫力だよ。一見の価値はあるぜ」

「だからこんなに人が多いんですね……俺は旅の補給に寄ろうとしていた程度ですから」

「おおっ、じゃあしばらく滞在する事をお勧めするぜ。闘技大会は一週間かけて行われるからな」

 一週間か……そんなに泊まれる路銀はあっただろうか。最悪、野宿か。

 ……結構冷えるんだよなあ。さすがに北国だからな。

 その後も男性は話しかけてきた。俺も適当に自分の情報ははぐらかしつつ、男性からこの国の特徴などは聞いていた。

 後でフィアからも聞く予定だったが、こういう外からの人の視線で見る国の評価というのも気になるところだ。

 男性からの話を要約すると、この国は鉱物資源が豊富なようだ。そして精錬する技術も他の国より高く、武器の国として有名らしい。

 フィアの狂戦士っぷりはここがルーツなのだろうか。

 ただ、最近はきな臭い事が多く、国王が乱心したという噂も市井に流れているとか。

「へぇ……参考になりました。ありがとうございます」

 色々と話してくれた男性にぺこりと頭を下げる。

「気にすんな。これも旅の醍醐味ってやつだ」

 笑いながらそんな事を言ってくれた。なるほど、知らない事を自分で調べるのも旅だが、こうやって知っている誰かから親切に教えてもらうのも旅の楽しみかもしれない。

 そんな事を考えている間に俺達の番がやってくる。

 今のフィアは服装も出会った時とはまるで違う一般人の服だ。なぜなら、あの時の服は盗賊退治の際、血みどろになって使い物にならなくなってしまっている。

 ……服って意外と高いんだな。おかげで余計な出費をしてしまった。

 さらにフードを目深にかぶせ、両手を胸の前で組むようにしている。いわゆる修道女スタイル。

「……待て」

 なんで俺たちの時だけ呼び止めるの!? 嫌がらせ!? 嫌がらせだろ!

「そこの女、フードを取れ」

「……はい」

 素直にフードを外すフィア。俺は何でもなさそうな顔をしながら、必死に頭を回転させていた。

「……通っていいぞ」

 あれ? 何もなかった? なぜ?

「下っ端が私の顔なんて覚えてるはずありませんよ。覚えていそうなのは近衛兵あたりですね」

 ……なんか組織の見ちゃいけない部分を見た気になるのはなぜだろう。ちょっと生々し過ぎて引いた。

 問題なく中に入った。そこは人の波でごった返しており、ちょっと目を離せばあっという間に迷子になりそうだった。

「フィア、ちょっとどこかで軽食でも食べながら今後の事を話そう」

「そうですね。あ、私美味しい場所知ってますよ」

「じゃあ頼む」

 さすがに地元だけあって、フィアの足取りには迷いがない。人垣をひょいひょいと歩きながら目的の場所へ進んでいく。

「ここです! 料理がすごく美味しいんですよ!」

「よし、別のとこ行こうか」

「な、何でですか!?」

「所持金全部使い果たすわ! 一週間分の滞在費もあるんだぞ!」

 確かに良さそうな店だよ。お前は今日から城に泊まるから宿賃考えなくていいだろうし、最後の贅沢にはちょうどいいかもしれない。……俺の分を考えなければ。

「え? 一緒にお城に泊まらないんですか?」

「王が乱心してるって噂があるのに、城に泊まれるわけないだろ。娘のお前なら話は別だけど、俺じゃヤバい」

 何がヤバいって娘をどこの馬の骨ともしれない男が連れて帰るんだぞ。問答無用で打ち首とかありそうで怖い。

「そうですか……さすがに安いお店は知りません……ごめんなさい」

 シュンとして謝ってくるフィア。いくら地元でも、王族が安い店を知っていたら引くぞ。

「まあ、探せばいいさ。それより、道すがらでいいからいい加減事情を話してくれないか? 俺はまだ細かい事情を知らないんだが」

「え? 前は面倒そうだから聞きたくないって……」

「さすがにここまで来たらな。やれる範囲で手伝ってやるよ」

『主の場合、ここまで来たら何もしなくても巻き込まれそうじゃから、少しでも情報を入手して心構えをしてしまおうという魂胆が見え隠れするがの』

 ……悪いかよチクショウ。

「すみません。私もよく知らないのです。なにぶん、ここ一年は国へ帰ったことなどありませんでしたから……。ですから、私の知っている事も又聞きの聞きかじり程度です」

「そうかい……じゃあ、なおさらお前は帰らないとな」

 そして中で情報を入手して俺にくれ。内容次第では逃げるから。

「はい。あ、あそこなんてどうでしょう?」

 フィアが指差した先には、じゅうじゅうと美味しそうな音を立てて焼ける肉があった。何の肉かは知らない。

 どうやら焼いた肉と野菜を生地で巻いてタレを塗って食べるもののようだ。値段もお手頃で、これなら食べてもいい。

「今度のはいいな。よし、歩きながら食べるか」

「はい!」

 金を払って二つ買う。これはアゲニと言う食べ物らしい。見た目からして美味しそうだ。

「……美味しい!」

「うん、確かにこれは美味いな」

 野菜の瑞々しい歯応えと、肉の肉汁が生地に包まれて優しい味になっている。これは好きな味だ。

「んで、これからどうする?」

「そうですね……私はまずはお城に帰ります」

「そうだな。それがいい」

 問題はここからだ。

「俺は適当な宿に泊ってる。もし抜け出せたら、知らせてほしい」

「はい。もし抜け出せそうになかったら?」

「窓ぐらいあるだろ。そこで反射するようなものを出してほしい。それを目印に俺が向かう」

 金属の欠片や、鏡で十分できることだ。フィアもうなずいてくれた。

「今はっきりと決められる事はこれくらいか……後はフィアの情報待ちだな」

「そうみたいですね……あ、闘技大会には出ないんですか?」

「出るわけねえだろ。そんな危ないもん」

 痛いの嫌いだし。

「静さんならいい線いけると思うんですけど……特に対人戦なら」

「いけるいけないじゃなくて、そもそも興味がない」

 それに闘技大会の方は嫌な予感がする。ここに来てから的中率はウナギ上りでかなり信用できる。

 ……こんなもの、信じたくないけど。

「まっ、最初に決めとく事はこんぐらいでいいだろ。そろそろお前は城に帰る時間だぜ」

「あ、もうそんな時間ですか……」

 太陽も沈み始め、あたりも暗くなってきた。

「また……会えますよね?」

 フィアの目には不安と寂寥感が詰まっていた。

 何を思ってそんな顔をするのか俺には推し測る事しかできないけど、俺のような奴は貴重なんだろう。敬意を払う必要もない、ただの気安い友達は。

 俺からすれば厄介事を運んできて、その上狂戦士という胃にまったく優しくない少女だが……これっきり会えないというのは少し寂しいものがある。

 だから俺は――



「会えるさ。お前が望めばな」



 応えたくなった。その気持ちに。

「あ……そ、そうですね! 私が望めば、会えますよね!」

 お前が厄介事を持ってくれば俺とは会えるだろう。そう思ったが、言わない事にした。実行されそうで嫌だった。

「じゃあ、またな」

 ひらひらと手を振って、城の方へ駆けていくフィアを見送る。

「はい! また!」

 フィアも元気よく手を振り返してくる。

 フィアが見えなくなるまで手を振ってから、踵を返す。

「……さて、俺は俺にできる事を始めるか」

 激しい二面性を持っているけど、優しくて寂しがり屋の友達の頼み、叶えてやりますかね。

 そんな事を思って、俺は今日の宿を軽い足取りで探し始めた。
テンションが嫌に高いです。アンサズです。
静は巻き込まれ型の典型ですが、ごくごくたまに自分から首を突っ込む事もあります。
やる気を見せた静は高い能力を持ちます。
次回はあの人と邂逅します。


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