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プロローグ
 唐突だが、俺の愚痴を聞いてもらいたい。

「……ん? どうかしたのか?」

「いや、何でもねえよ」

 愚痴の対象は言うまでもなく、俺の隣を歩くコンチクショウだ。

 こいつの名前は冬月薫(ふゆつきかおる)

 何の因果か、俺の幼馴染などをやっている完璧超人だ。

 どのくらい完璧かと言われると、学業では全国トップ。運動では帰宅部にも関わらず、運動系の部活からひっぱりだこ。さらに家事までそつなくこなす。
 普通、ここまで来ると周囲から敬遠されるものだが、こいつの場合は誰にでも分け隔てなく接するという性格があり、周りから慕われている。
 容姿は言うに及ばず、あまりの整いぶりに思わず殴ってしまいたくなるほどだ。
 身長がやや低く、162センチほどしかないが、それが保護欲を誘うらしく、余計にモテる始末。

 ――とまあ、大雑把な説明ではあるが、おおよそは理解していただけたと思う。

 確かにこれだけなら――いや、ここまででも十分殺意を持つにふさわしいと思うが――百万歩ぐらい譲って多めに見ただろう。

 俺は普通にこいつと友達付き合いをしていて、こんな風に愚痴を言うことはなかったはずだ。



 ――こいつのトラブルメーカーぶりがなければな!



 上では言い忘れたが、こいつは正義感が強い。おまけに熱血。

 そのため、様々な厄介事に首を突っ込み、また厄介事に引き寄せられるのである。

 しかも、ほぼ全てに俺を巻き込んで。

 こいつは事件そのものの解決はするが、その後始末をほとんどしないのだ。

 以前、色々なことがあってヤのつく自由業の方々に喧嘩を売った時も、倒してはいオシマイ。
 という対応の仕方をされ、巻き込まれた俺は逆恨みで報復されないように俺の持つ人脈をフル活用する羽目になった。正直、闇討ちされないか気が気じゃなかった。

 いい加減にしろといつも言っているのだが、その場限りの効果しか発揮しない。

 ……本当、なんで俺はこいつの友達続けているんだろう。

 今まで言わなかったが、俺は秋月静(あきづきしずる)

 175センチと一般男性にしてはやや身長が高く、薫のせいで何度も修羅場くぐっている以外は、至って普通の高校二年生です。

 あと、俺の名前を女みたいだと思った奴、校舎裏に来い。

 やや長くなってしまったが、俺とこいつの関係は理解できたと思う。

 厄介事を薫が持ち込み、俺が巻き込まれる。そんな解釈で正しい。

「……なあ静、これは何だと思う?」

 そんな薫が、今日も俺に厄介事を持ち込んできた。それも飛びっきりの。

 薫の目の前に扉があるのだ。それも七色に光輝く物が。

 清々しいと思えるくらい嫌な予感しかしない。これに触れたら使い魔として召喚されたりしてしまうのだろうか。

「知らん。さっさと行くぞ」

 俺の鍛え抜かれた第六感がビンビン言ってんだよ。それはヤバいって。

「でも、これって気にならないか?」

「ならん」

 その好奇心がどんなに厄介事を持ち込んできたか思い返してみろ。

「ふーん……」

 俺の返答に気のない返事をした薫が、性懲りもなく扉に指を伸ばす。

 そんな薫の様子に見ていられなくなり、俺も近づいて薫に何かあった場合、即座に逃げられるようにする。

 ……つくづくお人よしだな俺も。こいつがどうなっても、こいつの自己責任だというのに。

 海よりも深いため息をついていると、薫が扉に引っ張られ始めた。

 いや、扉が薫を吸い込もうとしている、の方が正確か?

「んなっ!?」

「ああもうだから言ったのに!」

 薫の腰を掴み、引きずられる方向とは斜め後ろの方向に走り始める。

 全力で走り、横方向も入れているのに、全然離れない。
 
 というか横には移動できない。見えない何かに阻まれているみたいだ。

「…………」

 俺の回した腕には薫が引っ張られまいとジタバタもがいている。

「し、静も走れ!」

 必死そうな薫を見て、ついさっき思いついた事を実行すべきかどうか悩む。



 ――こいつ見捨てちまわね?



 悪魔の誘いだった。ぶっちゃけると、かなり揺れる。

 だが、曲がりなりにも十七年間一緒につるんだ仲のこいつを見捨てるのはさすがの俺も良心が痛む。



 見捨てるという悪魔と、良心という天使は戦い、決着をつけた。



「あ!?」



 二秒で悪魔が勝った。



「は、薄情者!」

「ハ、生き残れればいいのだよ生き残れればな!」

 批難の声を上げる薫に自論を叩きつけ、高笑いしてやる。

 俺一人なら横移動できて、あっさりと離れられたし。

「この……お前も道連れだ!」

「やめろこっち来んな」

 火事場の馬鹿力を発揮して俺の腕を掴もうと薫の腕が伸びるが、俺はそれをすげなく払う。

 友情? 命には代えられんだろ。

 だが、これが俺の失敗だった。

 後ろから強い風に引きずられている薫の腕はブレが大きく、俺の払った腕が当たらなかったのだ。

「チャンス!」

「ヤバッ!?」

 こういう好機は逃さない薫が俺の腕を掴み取る。

「ここまで来たら一蓮托生! 行くぞ!」

「いやいやいやいや!? 俺は嫌だ! いーやーだーっ!」

 何とか腕を離そうと躍起になるが、全然外れない。この馬鹿力め!

 ぶち切ってやろうか? とか物騒な考えが浮かんだ瞬間、俺の体も浮遊感を覚える。

 薫は、俺の腕を掴んだことを確認してから、自分から扉に飛び込んだのだ。

「俺一人巻き込むために自分から飛び込むか普通!?」

 悲鳴じみた声を上げながら、俺まで七色に輝く扉をくぐる羽目になってしまった。

 視界が虹色に埋め尽くされ、訳が分からない。自分の意識があるのか、俺の腕を握るアンチクショウの意識があるのか、全身に血が通っているのか、それすら分からなくなりそうな空間だ。

 そんな二度と味わいたくない一瞬の感覚の後、放り出される。

「おっと」

「ぶぎゃ!」

 薫は難なく体勢を整えたが、薫に引っ張られる形で体勢など崩れ切っていた俺は無様に顔から着地。

「あの……あなた方が勇者様ですか?」

 顔の痛みに悶えていても聞こえる鈴の転がるような美声。

「こいつです」

 うずくまって顔を上げないまま、俺は指だけで薫を指差した。

 もう巻き込まれてしまったのは受け入れよう。なら次にすべきことは、どうやって俺に降りかかる厄介事の比率を下げるか、にある。

「え? で、でも……」

 声しかわからない方は困惑しているようだ。

 顔の痛みを堪えて俺もようやく立ち上がる。目の前にいる予想通りの美女――いや、美少女に数瞬だけ見とれ、即座に表情を引き締める。

「あいつの方が腕っぷしもありますし、頭も良い。おまけにあの容姿。そうです、あいつが勇者に違いありません」

「ですけど、私が使った召喚術では一人の召喚しかできないはずで――」



「それと、私が呼んだのは男性ですよ?」



「どこかで手違いがあったのでは? 自分で言うのも何ですが、こいつは俺なんかより有能ですよ」

 ――そう、誰が見ても百人中百人が完璧超人だと誉めたたえる冬月薫は女だったのだ。
初投稿になりますアンサズです。
至らない個所があったら、容赦なく指摘してください。
感想の他にも、厳しい批評でも荒らし以外は何でもオッケーです。
なにぶん遅筆なもので、更新が遅くなるかもしれませんが、週一回は心がけたいので目をかけてやってください。


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