18.疑惑
光沢のある白い布地に、宝石が埋め込まれ、金糸の刺繍が施されたマントに身を包んだ王が、空たちを見下ろしていた。
先ほどの騒動で呼び出された二人は、こうして王の前で膝をついている状態で、王族が集められた広間はざわめいている。
「二人が無事であったことは何よりだが」
王が唐突に口を開き、途端に静まり返る空気。
まだ慣れない王との体面に、空は気持ちを落ち着けるように、ドレスの端を握る。
「あの部屋で何をしておったのか、皆にわかるよう説明してみよ」
その言葉に顔を上げたエシュタンドは、毅然とした態度で王を見上げた。
「はい。暁の娘について詳しく調べるために、古き伝承の原書を見に行きました。
そこで青い正体不明の炎に襲われ、私の力で押さえ込みましたが、その騒動に紛れ、原書を紛失いたしました」
そこでざわめいた一同にも動じず、淡々とした声でエシュタンドは続ける。
「現在、消えた原書の行方については、全力で探させております」
誰よりも先に言葉を発したのは、王妃だった。
「古き伝承の原書といえば、我が国の貴重な宝ですよ? それをよりにもよって王子が紛失しただなんて、前代未聞ですわ!」
興奮した様子で、王に訴えかけるように視線を向ける。
その動きで、首に幾重にもかけられたネックレスが揺れ、光を反射する。
そして冷たい水色の瞳でエシュタンドをねめつける。
「王子としての自覚がおありなのかしら」
あまりの言いように思わず口を開きかける空の腕を引いて、エシュタンドは首を振った。
そして低く、耳元で囁く。
「挑発に乗るな」
黙っていろ、と目で伝えられ、仕方なく空は口を閉じるが、王妃を睨む目は抑えられなかった。
「まあ、ご婚約者の方には、何という目つきかしら。王妃に対して、品位が問われますよ」
蔑むような目で発した王妃の言葉に、それまで氷のように固い無表情だったエシュタンドが、口を開く。
「母上、全ての責は私にあります。ソラには一切非のないこと。どんな処分も私が甘んじてお受けいたします」
深く頭を下げたエシュタンドに、一瞬歪んだ笑いを浮かべた王妃が何か言おうとするより前に、王族の末席から声が上がる。
「恐れながら母上、兄上と姫君は正体不明の炎に襲われたのですよ。原書の紛失も、兄上の故意によるものではなく、どのような術によるものかもしれません。
詳細がはっきりしない以上、兄上をお責めになるのは筋違いかと」
優しい声に似合わない鋭い言葉は、王妃の口をつぐませた。
まさかエカルドからそのような発言があがるとは思わなかったのは空だけではなかったらしい。
驚いたまま、王妃はあきらめたように視線をそらした。
「エカルドの言うとおりだ。今はとにかく原書の行方を探り、正体不明の炎の調査を急ぐことだな」
王の発言に、エカルドはほっとしたような微笑を空に送った。
――よかった、あたしたちの味方になってくれる人がいて。
どうなることかと思った話の流れが好転したことに、空は胸をなでおろす。
「エシュタンド、青い炎は何者かの術によるものか」
質問に、エシュタンドが頷く。
その目には、いつもの表情が浮かんでいた。
「魔のモノの介入は感じられませんでした。人間による術であることは確実です」
その言葉に眉を寄せる王に、エシュタンドは続ける。
「父上もご存知の通り、狙う相手のみを確実にしとめる術は、高位の術者にしか操れません。背後には、それほどの術者を雇える人物がいる可能性があります。
あの炎は、ソラを狙っていたようでした。 そして、もし原書の紛失が何らかの術によるものであれば、同時に原書をも狙う者であるということになり、早急に調査が必要です。
他国にソラの存在が知られているとは考えにくいが、念のため、密者を忍ばせる必要があるかもしれません。我が国内に原書を狙う者がいるとすれば、それは、売国行為であるのか、あるいは」
流れるように話し続けたエシュタンドが、それまで王に向けていた目線を外して、言葉をのせる。
「ソラを邪魔に思う者、ソラを暁の娘にしたくない、誰かの仕業かもしれません」
藍色の挑戦的な目が一瞬だけ、息を呑む王妃のほうへと向けられて、すぐに王へと戻された。
「どちらにしても、憎むべき相手であることは確かだ。必ず、見つけ出してみせます」
言い切ったエシュタンドの瞳は、美しいほど、自信に満ち溢れていた。
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