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ある朝、タンスの向こうに
作:文樹妃



11.真実


 今度はゆっくりと馬車に揺られて王宮へと戻った後、空は再びエシュタンドの部屋にいた。
「……何だと? もう一度言ってくれ」
 眉を寄せて、理解できないという顔をしたエシュタンドが問う。
「だから、落ちてきたって言ったの」
「落ちてきたって、どこからだ」
「だから、空から」
 さっきから何度か同じやりとりを繰り返している。
 空の話は相当予想外だったらしい。
「さっきも言ったとおり、あたしの部屋のタンス、えーと、衣装棚がどうやらこの世界へつながっていたみたいで、そこから落ちてきたってわけ」
 エシュタンドに理解できるよう、言い換えながら、もう一度ゆっくりと説明する。
「あたしはこのエスタリア大陸っていう場所じゃなく、他の世界からやってきたの。この王国とも全然違う国から」
 言い終えた空をじっと見ていたエシュタンドが、ようやく口を開いた。
「この、エスタリア大陸以外の世界、だと?」
「そう」
 ようやくわかってくれたのかと頷く空を、長い間見つめていたかと思うと、急に思い立ったかのように、エシュタンドは立ち上がった。
「それが本当なら……もしかして……」
「エシュタンド?」
 空の問いかけは耳に入らないように部屋の隅へと歩き出す。
 そしておもむろに天井から垂れ下がっていた飾り紐を引く。
 すると壁のタペストリーのようなものが上がり、中から本棚が現れた。
 
 思いがけない場所にあった本棚に感嘆する空を置いて、エシュタンドは中から一番古そうな本を取り出すと、ぱらぱらとめくり、あるページのところを食い入るように読んでいる。
 そして一通り読んだのか、一息ついて、ようやく空のほうに向きなおった。
「そうだったのか……」
 独り言のようにつぶやいて、空を見つめるエシュタンド。
 あまりの真剣さに、ただ見つめ返す空。
 その時、扉の向こうで侍女の声がした。
「殿下、夕食のお時間でございます。陛下がぜひ御前にと」
「……ああ、わかった」
 答えたエシュタンドの瞳は、なぜか嬉しそうに輝いている。
「エシュタンド? あの……」
 不安げに近づく空に、エシュタンドは自信たっぷりに笑った。
「王からの呼び出しだ。今朝のことを問いつめる気なんだろう。お前も来い」
「今朝のことって……」

 ――もちろん、あの求愛の儀とかいう話だよね? ああ、もう、次から次へと考えることがいっぱいなんだから!
 混乱しかけた空の手を引く、エシュタンド。
「案ずるな。お前は私に任せていればいい」
 ――って、ちょっと待ってよ! あたしはまだ了承したわけでも、なんでもなくて……。
 全て事情を説明したのも、この人なら助けてくれるかもって思えたからなのに。
 言いたいことは言えないまま、強引な手に引かれ、空はひたすらついていくはめになった。

 途中、衣裳部屋へと寄り、またも豪華な衣装に着替えさせられた空が廊下へ出ると、いつの間にか着替えたエシュタンドが待っていた。
 白の服地には、いつもより豪華な金の糸の刺繍がされていて、マントも裾を引きずるくらい長く、襟元もきっちり詰められ、正装という雰囲気だった。
 空の衣装は清楚な印象の裾の広がったドレス。
 色はまたも藍色。
 エシュタンドの好みなのだろうか、と少し気恥ずかしいながらも微妙に光沢を放つ綺麗な布に一瞬見惚れる。
 刺繍が細かく施され、等間隔に光る宝石が埋め込まれていた。

 詳しい知識はないものの、すごく立派なドレスなのはわかる。
 これからまた王に会うのだという変な緊張と、どうなるのだろうという不安に空は息を吐いた。
 すると隣のエシュタンドが空の手を握り、そのまま自分の口元へ持っていく。
「大丈夫、堂々としていろ」
 そして微笑むと、空の掌に口付ける。
 まるで映画のような行動なのに、すごく似合っているのだから困る。
 あまりの自信と魅力的な微笑みに、されるがままになっていることは悔しいものの、
 とりあえず唯一の協力者であるエシュタンドに手を引かれ、空は一歩ずつ歩みを進めた。

 ――とにかく、王様と話をして、エシュタンドに協力してもらって、
 この世界から帰ること。
 それだけを考えなきゃ。

 どんどん流されているような、恐ろしい勢いに巻き込まれているような、嫌な予感。
 それを振り払うように、頭を振って、立ち止まる。
 目の前には今朝より更に立派な、金の飾りがきらびやかな、広間への扉があった。














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