純華の誓い 〜グリーン サイド ストーリー〜(15/28)PDFで表示縦書き表示RDF


純華の誓い 〜グリーン サイド ストーリー〜
作:翠月 那奈



第15章 一人で出来る事



「ん……」

 ベッドの中から重たい身体を無理やり起こす。
 頭がぼんやりとする。寝過ぎたのかもしれない。
 昨日は自分の部屋に戻ってくるとすぐ、ベッドの中に飛び込んだのだ。全てを忘れるようにして、ひたすら眠っていた。
 泣きながら眠ってしまったから、瞼が腫れている。くっきりとした二重が、今は一重になってしまっているのだろう。

 閉め切られたカーテンを開けるため、そっと手を伸ばす。心地良い音と共に現れた景色は、

「雨だよ……」

 黒く重たい雨雲が垂れ籠め、大粒の涙を流していた。まるで昨日の私のようだ。
 でも、やると決めた事があるのだ。雨なんかに負けている場合ではない。

 大きな鏡の付いているドレッサーの、引き出しの中に眠っている物を摘み上げる。
 カノンの結婚指輪だ。恥ずかしくて、あの日からずっとしまっておいたのだ。
 その他にもう一つ、あるとすれば、此処だと思うのだけれど。と、それ程大きくはない引き出しを手当たり次第に開けていく。

「あった!」

 絡まってしまわないように取り上げ、それを目の前に翳してみる。
 細くて少し短めの、シルバーのチェーンだ。
 本当なら、リングを直接指にはめてしまえば良いのかもしれない。しかし、まだそこまでする勇気は無かった。

 これは、私の覚悟の印だ。絶対に生き抜く。そして、もうこれ以上ラウドを傷付けない。
 私は彼の気持ちを知ったつもりでいただけだった。実際は全然分かっていなかったのだ。
 今までどれ程傷付けてしまっていたのだろう。それにも全く気付かなくて。
 もう、こんな事は絶対にしたくないから。これ以上、彼が傷付く姿は見たくないから。


 チェーンにリングを通すと、自分の髪を右側に垂らした。首に腕を回す。
 小さな音を立てて留まった止め金から、そっと指を離した。
 私の姿が鏡に映る。鎖骨の数センチ下では小さなリングが揺れている。こんなに曇った薄暗い部屋の中でも、僅かな光を反射させて鈍く輝いている。
 そのリングを右手でギュッと握り締めた。

「カノン、行くよ」

 鏡の向こう側に居る私はキッと目を吊り上げてこちらを睨み返す。瞼が赤くなっているから、少し間抜けだけれど。
 それでも気持ちを変えるなら、まずは形から変えなくては。

“うん! それでこそ私の生まれ変わりっ!”

 きっと、皆は私に気を遣ってくれている。この部屋には誰も来ない筈だ。ダイヤを抜け出すのなら、今しか無い。
 皆に言ってしまえば、絶対に反対されてしまう。それに、抜け出した事を気付かれる前に此処へ戻ってくるつもりだ。だから、こっそりと行く事に決めたのだ。

 私は許さない。
 神様だって、して良い事といけない事くらいはある筈だ。今回は絶対にしてはいけない事だ。
 何故、ラウドをこれ以上傷付ける必要があったのだろう。
 今まで散々傷付けてきた私が言える事ではないのかもしれない。でも、それでは私の気が収まらない。彼を傷付けるモノは許せない。それが人であろうと、神であろうと。
 呪いは解けないと、彼に止どめを刺した理由を直接聞くまでは、私は水の神様を許さない。




 此処は私が来る事を拒んでいるのだろうか。
 ダイヤとは別の空間にある筈のこの場所も暗雲が立ち込めていた。雨は降っていないけれど、頬を撫でる風は冷たい。私が着ている薄いワンピースでは、長袖であったとしても肌寒く感じる。
 以前は空の色を映し、水の塔は青く輝いていた。しかし、今日の塔は暗い灰色の雲を映し、鈍く輝いている。
 塔だけではない。周りに生えている木も、湖も全てそうだ。

 天候だけで、此処まで印象が変わって見えるなんて。まるで違う場所に来てしまったかのようだ。
 綺麗とは程遠い。凄く冷たい。そして暗く、重たい。
 それでも引き返す訳にはいかないのだ。決心が揺るがないように、思い切り塔を睨み付けた。

 両手で拳を作って握り締める。一歩一歩、確実に歩みを進めていく。

“私も付いてるからね!”

「うん。ありがとっ」

 これは私の想いだけではない。カノンも同意してくれたのだ。

 二人分の想いを乗せ、小さな足は塔の中へと突き進んでいく。




「神様、聞いてる?」

 塔の入口で魔法陣を見詰める。いつもと同じように、ただ線が引いてあるだけだ。地の塔の時のように光を放ってはいない。

「昨日、何であんな事したの?」

 返事は返ってこない。でも、これは予想していた事だ。
 ゆっくりと魔法陣に近付く。

「理由を聞かせて」

 私の声だけが塔の中に響き渡る。
 魔法陣の一歩手前で足を止めた。

「神様だって、して良い事と悪い事があるでしょ?!」

 魔法陣が光を放ってくれる事を願って、それを睨み付けた。しかし、一向に変化はしない。
 此処まで無視をしなくても良いのに。こちらまでイライラしてくる。
 全く反応が返ってこないせいで腹が立ってきた。

 一か八かで、勢い良く魔法陣に飛び込んでみる。
 運が良ければ神様に会えるかもしれない。そう思ったのだけれど。
 魔法陣は何も変化しない。やはり何処にも行く事が出来なかった。

「何なのっ?! ひょっとして、からかってる?!」

 頭に血が上り、自分で何を言っているのか分からない。感情に任せて思い切り叫んでいた。
 それでも神様からの反応は無い。

「何なのっ?! やだっ! 教えてくれるまで帰らないんだからっ!」

 覚悟を決めてその場に座り込んだ。もう、時間なんて関係無い。納得出来るか出来ないかが問題だ。

「守られるだけじゃ……嫌なんだから……」

 言葉と共に、頬を温かい物が伝っていった。今まであんなに泣いたのに、まだ涙が出るなんて。
 ふと、ラウドやリザードの悲しそうな顔が思い浮かんでしまい、流れ落ちるそれを止める事が出来なくなってしまった。




 薄暗い塔の中でたった一人、無言で座り込む。
 どのくらいの間、こうしていたのだろう。こんなに時間は経っているのに、神様からの反応は全く無い。
 そんなに言いたくない事なのだろうか。
 神様がその気なら、私だって引く気は無い。何時間でも此処で待っている。
 腕を組みながら、頬を脹らませてみる。そんな私に、カノンが申し訳なさそうに口を開いた。

“実結。もう戻った方が良いんじゃない?”

「何で?」

 神様への腹立たしさから、カノンに対しても角が立つ物言いになってしまう。

“大分、時間経ってるし、そろそろ抜け出した事バレちゃうよ?”

「知らないっ!」

 此処に来るまではカノンだって賛成してくれていたのに、今更こんな事を言うなんて。
 このまま諦めて帰るなんて絶対に嫌だ。私一人で出来る事なんて、これくらいしか思い付かなかったのだから。
 きちんと教えてもらうまでは、ずっと待っている。

 しかし、カノンの不安は当たってしまう。ヒールが床にぶつかる鋭い足音が聞こえてきたのだ。

「ミユっ!」

 突然呼ばれた名前に心臓が飛び跳ねた。声に覚えはあるけれど、何故、この人が此処に来るのだろう。
 目を吊り上げて振り返る。
 入口で仁王立ちするその人はウェーブのかかった髪を持ち、ロングスカートを身に着けていた。
 間違えようが無い。どう考えてもフレアだ。


 きっと私の事は良く思っていないのに、一体、何をしに来たのだろう。
 フレアは歩く度に足音をやけに響かせ、こちらに近付いてくる。それから目を離さずに、口もキュッと結んで睨み続けた。それでもフレアは歩みを止めない。私の目の前まで来ると、膝を付いて右手を振り上げた。
 これから起きるであろう事を予想して思い切り目を瞑る。
 そして。

 乾いた音と共に、頬に衝撃が走る。
 ひりひりと痛む左頬を咄嗟に手で覆い、またフレアを睨み付ける。
 頬を叩くなんて、私の事を相当嫌っているという証拠だ。
 しかし、フレアの口から出てきた言葉は、予想していたものとは全く違っていた。

「一人で居なくなるなんて! あたしたちがどれだけ心配したと思ってるの?!」

 握られた拳は震え、顔も歪んでいる。そんな様子に呆然としてしまい、何も言えなくなってしまった。
 フレアはそれを気にも留めず、表情を和らげる。

「お願いだから、一人で無茶しないで」

 言葉と共に、フレアの身体が私を優しく包み込んだ。

 まさか、こんな事をするなんて。フレアだって、私がフレアを嫌っているという事は知っている筈だ。それなのに、私を探しに来てくれたのだろうか。

 でも──


 よく考えてみればおかしな話だ。ラウドもアレクも、私がフレアの事を嫌っているのは知っている。それなのに、此処にフレアを一人だけで来させるなんて。
 ダイヤで何かあったのではないか。そんな嫌な予感が頭を過ぎる。

「……ラウドは?」

 恐る恐る尋ねてみると、フレアは私からゆっくりと身体を離した。悲しそうに私を見る。

「まだ落ち込んでるみたいなのよ……。今、アレクが一緒に付いてるわ。それに、ミユが居なくなった事も、ラウドには秘密にしてあるのよ」

 あれから一日経っているのにも関わらず、未だに落ち込んでいるなんて。相当酷い事を言われないと、こうはならない筈だ。
 神様に対する怒りがみるみると甦ってきた。

「もう……戻りましょう?」

 心配そうに、フレアは私の顔を覗き込む。それを無視して魔法陣を睨み付けた。
 目的を果たせていないのに、このまま帰るのは悔し過ぎる。

「ちょっと待って」

 自分の声の低さに驚いた。こんなに怒ったのは久し振りだ。
 勢い良く立ち上がると、感情に任せて声を張り上げた。

「今の話、聞いてた?! 今日は帰ってあげる! でも、私、神様の事、まだ許してないからっ!」

 顔が熱い。
 目を吊り上げたままフレアの方を見る。するとフレアは目を丸くし、私を見返した。
 でも、そんな事は気にしない。

「私、帰る」

 折角迎えに来てくれたのに、こんなのは自分勝手だ。それは分かるけれど、怒りで我を忘れた私には、これがフレアへの精一杯の配慮だった。




 会議室の扉の前に戻ってくると、すぐにフレアも私を追い掛けてきた。困った顔で私を見詰める。
 このままでは心の靄が晴れてくれない。それは神様に対するものではなく、フレアに対する感情だ。

「来てっ! 私、話がある!」

 フレアの手を取ると、返事も聞かないまま会議室へと連れ込んだ。フレアも戸惑ってはいたけれど、嫌がってはいないようだった。
 扉を閉め、座りもせずに乱暴に口を開く。

「あそこに来たのは、行ける人がフレアの他に誰も居なかったから? それとも、私が心配だったから?」

 どうしても確かめたかったのだ。
 水の塔でのフレアの行動は、前世で私を殺そうとした人が取る行動だとは思えなかったから。
 フレアを避け続けている理由が分からなくなっていた。

「勿論、心配だったからよ!」

 とても真剣な目をしている。今の答えは嘘ではないようだ。
 それでも否定的な考えが浮かんでしまう。
 それなら、もう一つ。

「でも、私、フレアの事避けてるの知ってたよね? それなら、どうしてあそこに来れたの? 何て言われるか分かんないのに」

 別にフレアを試したいのではない。本心を知りたかったのだ。
 嫌われていると分かっている人の所に行くなんて、私には絶対に出来ない。
 これに答える事が出来れば、嘘は吐いていない筈だ。

「それは……」

 口を開いた途端、フレアは言葉に詰まる。辛そうに顔をしかめて俯いてしまった。
 信用するなんて、やはり無理だったのだろうか。そう諦めかけた時、フレアは言葉を繋ぎ始めた。

「苦しんでる二人を見るのは……もう嫌なのよ! あたしは嫌われてても構わないわ。でも、やっぱり見捨てるなんて出来ないのよ……」


 赤い瞳には涙を溜めている。今にも零れ落ちそうだ。声も、身体も震えている。
 それでもフレアは話す事を止めようとはしない。

「アレクやあたしも付いてるって事……忘れて欲しくなかったのよ……。だから──」

「もう良いっ!」

 こんなに辛そうなフレアは初めて見た。黙って見ているなんて出来ない程だ。咄嗟に言葉を遮ってしまった。
 こんな人が、果たして本当に人殺しなんて出来るのだろうか。
 確証は無い。でも、今までの──魔法を獲得する前からのフレアの行動を考えてみれば、分かっていた筈だ。カノンの感情に任せて、今日までの私がそうしなかっただけ。
 私、決めた。

「フレアは私を殺せない。だから、アイリスもカノンを殺せなかったと思う」

 この判断が合っているのかは分からないけれど、やはり、このまま避け続けるのは間違っていると思う。
 フレアに向かって大声で、はっきりと言ってやったのだ。

「私、カノンが見間違えした事にする。でも、覚えておいて。もし、アイリスが黒の魔導師に協力してた事が分かったら……私、絶対許さないからっ!」

 真剣に見詰める私に、フレアは目を丸くする。しかし、それは一瞬の事だ。
 フレアの表情はみるみる崩れ、右目からは涙が一筋零れ落ちた。

「あり……がとう……」

 そっと呟くと、私に飛び付いてきたのだ。どう反応して良いか分からず、そのまま固まってしまった。

 百年間も苦しんだのはフレアも同じだ。私が許さなければ、その苦しみも終わらないのだろう。

 信じよう。これで良かったのだ、と。




 フレアは全く泣きやむ気配が無い。仕方無く、そのまま部屋まで送り届けた。
 これでは何だか、水の塔に居た時と立場が逆転していると思うのだけれど。
 でも、たまには良いかもしれない。今まで迷惑を掛けてばかりだったから。
 その後、私も真っ直ぐに自分の部屋へと戻った。とは言っても、他に行く場所なんて無いのだけれど。

 時間も時間だし、今日はまだ眠る気分にはなれない。夕方にもなっていないのだし。
 何か暇潰しになるものはないだろうか。そう思い、部屋の中を見回してみる。
 ふと、机の上に乗っている物に目が止まった。ダイヤに来る前にアリアに貰った、あのフルートだ。
 そういえば、ずっと忙しくて触れてもいなかった。折角持ってきたのだから。と、手に取ってみた。キーを押す感覚が、何だか懐かしい。
 やはり、日本に居た時のようには音を上手く出せない。それでも満足だった。この世界に来る前に使っていた物に触れる事で、不安や恐怖を消し去ってくれるようだから。

“それ、何ていう曲?”

「えっ? G線上の──」

 カノンの質問に答えようとした時、軽くドアをノックする音が二回聞こえてきた。誰かが来たようだ。
 カノンは“ひゃっ!”と悲鳴を上げ、そのまま黙り込んでしまった。


「……ミユ?」

「あっ……」

 ドアの隙間からアレクの真顔が覗いた。
 一瞬、ラウドが来たのかと思ったのに。期待して損をした気分だ。

「そんなにがっかりしなくても良いじゃねーか」

 顔に出てしまったのだろうか。
「がっかりしてない」と言っても、全く信じてはくれなかった。それどころか、私に向かって意地悪そうに笑う。
 そんなアレクが嫌で、無理やり話題を変えた。

「もう良いの?」

「あ? アイツか? フレアに聞いたのか?」

 その言葉に大きく頷く。
 アレクが此処に居るという事は、ラウドは今、一人で部屋に居るのだろう。一人に出来る程までに落ち着いたのだろうか。

「あぁ。オレが黙らせた」

「……えっ?!」

 黙らせたとは、どういう事なのだろう。訳が分からない。
 首を傾げる私に、アレクは真剣な顔を向ける。

「それで話なんだけどよー、明日から明後日まで一回城に帰って、呪いの情報収集するぞ。オマエとアイツだけじゃ、何するか分かんねーしな」

 『情報収集』そうは言っても、何処でどう情報を集めれば良いのだろう。きっとアリアも手伝ってはくれる筈だ。でも、本当に大丈夫なのだろうか。
 次から次へと不安が湧き起こってくるけれど、そんな事を考えても仕方無い。自分にも出来る事を見つけよう。


 それよりも気になる事がある。

「私たちだけじゃ何するか分かんないって、どういう意味?」

 これでは、まるで小さな子供の事を言っているようだ。当然、私は子供ではない。
 口をへの字に曲げ、アレクの目を見詰めた。
 私のそんな様子に、アレクは肩をわなわなと震わせ始めたのだ。こちらを見る目も吊り上げられていて、はっきり言って怖い。

「オマエなぁ……! 自覚ねーのか?! 一人でダイヤを抜け出す! 心配掛ける! オマエもアイツと何も変わんねーだろっ!」

 一人で一生懸命になっていて、そんな風に思われているなんて気付かなかった。

「ごめんなさい……」

 他に返すべき言葉が見つからない。
 謝りながら俯くと、大きな手が私の頭をわしゃわしゃと撫で回した。

「反省したか?」

「うん」

 最初は申し訳なくて顔を上げる事が出来ずにいた。しかし、頭を撫で回す手が止まらないので、段々イライラしてきてしまった。これでは本当に子供扱いされている。
 「止めて」と思い切りアレクの手を掴むと、アレクは大袈裟にニッと笑った。



 たった一人で地の塔に行ったり、水の塔に行ったり、他の人を顧みずにこんなに自分の意思を通して行動するなんて。もしかしたら、生まれて初めてかもしれない。
 私が変わる事が出来たのは皆のお陰だろうか。ううん、カノンのお陰だろうか。

 それとも──




「そーいやーよー」

「えっ?」

 グシャグシャになってしまった髪を整えながら、ぼんやりと考え事をしていると、急にアレクが真顔になった。

「フレアの事、ありがとな」

 それまでとは全く違う、柔らかな声だ。目元も優しくなっている。
 そんなアレクに、思い切り首を横に振った。感謝されるような事は何もしていないのだから。今は逆に酷い事をしてしまったと思っている程だ。
 アレクはにっこりと微笑み、私を見詰める。こんなに優しいアレクは、簡単には見る事は出来ない。失礼だけれど、少しだけ気持ち悪いと思ってしまった。

「んじゃ、オレは戻るぞ。オマエもゆっくり休めよ」

 片手を上の方でヒラヒラと振り、もう片方の手でドアノブに手を掛けている。そんなアレクの後ろ姿に、何も返事をする事が出来なかった。
 しかし、急にこちらを振り返ったのだ。その表情はいつもの意地悪な笑顔だった。

「あ。アイツ、オマエの笛の音、落ち着くって言ってたぞ! 良かったなー!」

 それだけ言うと、こちらを確認もせずにさっさと部屋を出ていってしまった。

 最後にこんな捨て台詞を吐いていくなんて、絶対に私の気持ちはバレている。そんなに分かりやすいだろうか。
 こっちのアレクが普段のアレクだ。そうは思うけれど、やはり恥ずかしい。
 真っ赤になっているであろう頬を両手で覆い、ベッドへ飛び込んだ。

 この日はアレクのせいで、それ以上フルートを吹く事は出来なかった。














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