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2話「始まる物語」
まるで幻だったかのようにその場から一瞬にして消えた。
真司の(うずくま)っていた場所には桜の花びらが落ちているだけ。

「き、消えた・・・・・・? 真司? え・・・ちょっと、どこにいるの?!」

桜並木の周辺を探し始める由里。
夕日は肩にかかるくらいの長さの赤みがかった髪を色鮮やかに染めている。

「そんな・・・・・・、やっぱり噂は本当だったんじゃない・・・・・・」

ひどく落胆する由里は崩れるように地面に座り込んでしまった。
少女の瞳は大粒の涙で溢れている。






しばらくしてから由里は手で涙を拭い、ゆっくりと立ち上がった。

「・・・・・・帰ろう」

すっかり陽が沈み、街灯には明かりが灯り始めている。
いつしか月が昇り、街灯に照らされた夜道を歩く由里。

「携帯に電話しても出ないなんて・・・・・・」

ピンクカラーの携帯の画面を見つめながらそう呟く。
その時、誰かが後方から由里の横を颯爽と走り抜けた。
今の今まで、背後から誰かが走ってくる音や人の気配ななかった。

「まさか・・・・・・スリ?」

そう思った由里は臆することなくその怪しい影を走って追いかけ始めた。



相手はそれほど速くはなく、ジョギング程度の軽い走り。
由里はバレないように一定の距離を保って追い続ける。
しばらく後を追い続けていた由里は何かを感じ取り始めた。

「あれ・・・・・・、真司・・・」

走り続けるその後ろ姿はまさに真司にそっくり。
真司と幼馴染である由里なら見間違えるはずはない。

「し、真司・・・?」

思わず名前を呼んだ由里。
すると、その影は走るスピードを落として電柱の下で止まった。
そして、静かに由里の方を振り向いた。

「・・・・・・あ」









止むことのない強風。
灰色の雲が空を覆っており、太陽の光はほとんど差し込んでいない。
辺り一面、砂、砂、砂・・・・・・。
そんな広大な砂漠のど真ん中に横たわる少年が1人。

「・・・・・・ッ、頭痛ぇ」

真司はゆっくりと立ち上がり、学ランや顔についた砂を(はら)った。

「どこだ、ここ・・・・・・砂漠?」

周りを見渡すものの、建物らしき物体は何もない。
それどころか、砂塵が舞うために遠くまで見ることができない。

「なんだか・・・・・・イヤな場所だな」

そう呟きながら、ポケットからブラックカラーの携帯電話を取り出す。

「クソッ、圏外かよ・・・・・・時間は・・・あれ?」

携帯電話の画面には『88:88』と在りえない時刻が表示されている。

「え・・・・・・壊れたのか?」

ボタンを押したり、電源を入れなおしたりしてみるが時刻は狂ったまま。
しばらく携帯をイジっていた真司はメールや電話、ワンセグなどの他と通信するような
機能は全く使えないが、それ以外は普通に使用できるということに気がついた。
誰かに連絡することを諦めた真司は仕方なく携帯電話を閉じてポケットに入れた。
そしてもう一度、周りを見渡すがやはり視界が悪い。


「はぁ・・・自業自得か・・・・・・好奇心であの桜並木に近寄ったのがマズかったな・・・・・・」

学ランの上着を脱いでそれを腰に巻いた真司は、己の行動を反省しながら足場の安定しない砂地を歩き始めた。






30分ほど歩いた真司。
ハァ・・・ハァ・・・と息切れをしている。

「な、なんか・・・呼吸がしにくいような・・・・・・?」

額の汗を腕で拭い、大きく深呼吸をする。
・・・・・・フゥ、と一息ついた真司。
そして、再び歩き出す。

だが真司は一向に何も見つからないことに腹を立て始めていた。
その時、周辺の強風が一気に止み、急激に視界が広がった。
そして、今まで曇っていた空が少し晴れ、一筋の光が射し込む。


「・・・・・・な、なんだこれ?」

その光は真司の少し前を照らし、ホタルの光のようなものがいくつも現れ始めた。
それらはゆっくりと1つになるように集まっていく。
真司は後ずさりしながらその様子をみつめる。



「え・・・・・・ゆ、り?」

無意識のうちにそう呟いた真司。
光の塊と化したそれは少しずつ人のように変わっていき、腰まで伸びた長い青い髪の少女が真司の前に姿を現した。
少女の蒼い瞳が信司をじっと見つめている。
そして、淡い桃色の唇を動かして少女が喋った。




「サクラインを通ったのね?」


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