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Seasons afterwards 作者:殊月隼士
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お嬢様の試験(後篇)

時間を空けずに、とか言ってたらこのざまだよ!
……すみませんでした。懐かしのあの人もちらりと登場する後篇。
お楽しみいただければ幸いです。
 依頼人の待つ部屋まで戻ると、彼女はにこやかな笑みで迎えてくれた。
「潤、いかがでしたか。……失礼、伺うまでもないようですわね」
 聡いお嬢様は、自信に満ちた顔を見ただけで、僕らが真相に辿り着いたことを理解したようだ。
「では、お聞かせ願いませんこと。あなたの、推理を」
「はい。勿論」
 お待たせいたしました。素敵なお屋敷に負けないように、なるたけ優雅に一礼してから、僕は推理を話し始めた。

「さて、結論から申し上げますと、華蓮さんを困らせる贈り物とは、花の事ですね」
 まぁ。彼女は驚いたように、それでいて満足したように、一層やわらかな笑顔を浮かべた。その表情にほっと胸をなで下ろすが、当てずっぽうでも運が良ければ当たるような結論だけで満足してくれるお嬢様ではなかった。
「どうして? あの部屋には他にも、手紙やお菓子、それからアクセサリーにお洋服。プレゼントになりそうなものが、沢山あったと思うのですが」
「それは、僕が調査しろと言われていた場所が、あなたの通う女子高だったからだ」
「! 姫幸……あなたって人は……」
「てへっ」
 人の口には戸が立てられない、とは言ったものだが、それでも話していいぎりぎりのラインを読んでくるところがこの人らしい。もっとも、この抜群のバランス感覚がなければ、今彼女はここにいないかもしれないのだけれど。
 僕が思っている以上に、この二人は長い付き合いなのだろうか。やれやれと、負けを認めかける華蓮さんだったが、側近の園宮さんは追求の手を緩めてくれなかった。
「しかし参道様。調査場所がお嬢様の高校とご存じだったからといって、その事が何と関係があるのですか」
「誰もが名前を知るお嬢様学校の生徒とはいえ、そう頻繁にブランド物の洋服や宝石を贈れないでしょう。否、そのような贈り物であれば、いくら華蓮さんとはいえ、突き返したことでしょう」
 うぐ、と顔をしかめるお嬢様。成程、このような表情だけを見ていれば、彼女は十分高校生の女の子だ。しかし、
「利害関係の成立してしまうようなことは、聡明なあなたなら避けるはずだ」
まだ十六歳の少女とはいえ、彼女は名家のお嬢様。様々な苦労があった事だろう。そんな彼女が自らトラブルの種をまいてしまうとは、到底思えなかった。
「……続けて」
「ああ、でも、あのお部屋に置かれたものは、全てプレゼントですよね」
『!?』
そこまでは分からないと思い込んでいたのだろう、これには華蓮さんも、そして今まで表情を崩さなかった園宮さんでさえ、目を見開いていた。
「……何故、そうお思いになられたの」
「“扱い”ですかね。あの部屋は埃ひとつなく清潔でした。その上、綺麗に整頓されていた。けれども、普段から使われている形跡はない。よって、大切な物を保管するための場所なのではないかと」
「恐れ入りました。でも、それではまだ絞り切れていなくてよ」
「そうですね。けれども、あなたの慎重な性格を思えば、口に入れる物の類は候補から外れます」
 そうなれば、残る候補は後二つ。
「最後に残ったのは、お手紙とお花。そんなところだったのかしら」
「おっしゃる通り。しかしその二つのどちらなのか。それが最後まで分からなかった……」
 そこで思い返してみる、いくつかの散りばめられた違和感。様々なデザインの花瓶と、そこに活けられた色とりどりの花。丁寧な細工の施された美しい箱の中に大切にしまわれた、愛する者とのやり取り。
「最後の鍵は、しーちゃんが見つけてくれました」
「部屋に入ってすぐ、おかしいと思ったんです。だって、飾られているお花はぜーんぶ、一輪挿しに活けられているんだもの」
「……え。一輪挿しなの?」
 姫幸先輩も、僕らと同じ感覚を味わったようだ。
「はい。そこがひっかかった最初の点でした」
 もっとも、当の本人は何が不思議なのか分かっていないらしく、
「あら、皆様はお花の種類を分けて活けませんの?」
僕らにしてみればすっとぼけた質問を投げかけてきた。これが庶民との格の違いってやつなのだろうか。
「……花瓶すらない家って、結構多いですよ」
「あらまぁ」
 僕の指摘に、心底驚いたような反応を見せるお嬢様であった。
 ……これ以上格差が広がるとここに立っていることそれ自体が辛くなるので、さっさと話を続けよう。
「そしてもう一つ。花にも二種類の系統があった。そうだよね、しーちゃん」
「はい。あのお部屋にあったお花は、一つの花束とその他ばらばらの、おそらく一輪ずつ渡されたのであろうものに分けられます」
 そういって彼女は、自分のノートにさらさらとイラストを描き始めた。
「花束というのは、作る時にそのバランスを計算します。例えば、メインのお花がバラだった場合、ボリュームを出すためにカスミソウを合わせるのが普通です」
 花屋の店員ばりのイメージイラストに、うんうん、とお嬢様以外の面々はうなづいていたが、
「あら、そうなのね。私はバラだけの花束しかいただいたことはありませんが」
『・・・』
これには流石の園宮さんも、若干渋い顔をしていた。
「ええと、それで、今回のお花もそのように分けていきました。その結果、ヒマワリをメインに据えた花束と、そうでないお花に分けることが出来ました」
「ちなみに、花束で贈られたものは一つにまとめていらっしゃるようで、そこからも二つのパターンがあることの裏付けになりました」
「成程ね。でも、それだとただ単に二つの花束ってことになりませんこと」
「……僕らからしてみれば、こんな手間のかかる活け方をしている点でもう、何かを隠そうとしている、怪しいと思うのですがね。でも、根拠はまだあるのです」
 何かしら。もはやお嬢様の目は、探偵の推理を待つ依頼人ではなく、マジックショーを楽しむ子どものように、きらきらと輝いていた。
「花の大きさです」
 その期待に応えるように、僕も推理を続ける。
「学校に持ち込めるものと考えるのなら、例えばユリやアジサイのような花は無理がある。その点、一輪挿しに活けてあったのは、一番花弁の大きな花でガーベラ。その程度なら、なんとか鞄に入れて、こっそりと持ち込めるでしょう」
 ここまで話して、ようやく花説は納得してもらえたのだろう。質問は次のステップへ移った。
「話を蒸し返すようで申し訳ないのですが、どうして学生だと」
 高校を調べろと依頼してきたくせに。何を今更、とも思ったけれど、僕はこれでも探偵である。依頼人には誠実に、可能性がある限りは検討するべきだ。
「現時点では、学生だと断定することはできませんよ。でも、超がつくほどの有名なお嬢様校ならば、侵入者が出たらそれだけで問題になっています」
 この仕事を始めてから一応、どんな些細な出来事でも、近隣地区で起きた事件は記憶するようにしている。情報源は新聞やニュース、果ては姫幸先輩のような情報屋まで多岐にわたるが、そんな噂は聞いた覚えがない。
「となると、容疑者は学生か教師。もしくは警備員くらいのものでしょう。その彼らにしたって、学内に持ち込める荷物の量は限られる」
 それでも、まだ手紙である可能性も否定はできないんですけどね。あえて自分でそう言ってから、僕は切り札を出した。
「最後の決め手は、これです」
「あら、それは」
 お嬢様の部屋にあった手紙――これだけはどうしても、現物である必要があった。
「失礼とは思いましたが、一通拝借させていただきました。勿論、中身は見ていませんし、園宮さんには許可をいただいております」
「身勝手をご容赦ください。責任はすべて私に」
「いいのよ、園宮。それで、その手紙が何の証拠に」
「他の物は、もしかしたら複数人から贈られているのかもしれませんが、少なくとも手紙だけは、全て同じ人物から、しかも何年にもわたって送り続けられたものであることが、分かったからですよ」
 そして僕は、持っていた手紙を裏に返した。皆さんから手紙の表、つまり例のイラストが描いてある面が見えるように。
「それは……黒猫?」
「おそらく。他にも、手紙によって様々なイラストが描かれていました」
 同じイラストならともかく、全て違うのならば、違う人物である可能性は否定できないのではないか。きっと、華蓮さんはそう反論しようとしたのだろう。でも、無駄なのだ。だって僕は、僕たちは、この差出人をよく知っているのだから。
お嬢様の言葉を遮る形で、僕はとどめの一言を発した。
「トランプや金髪の女の子、とかね」
「まさか……(のぞみ)ちゃん、なの」
 トレードマークのツインテールは未だに健在、らしい。ずっと世界中を飛び回っていて久しく会っていないが、今や父親同様、子どもたちに夢と笑顔を与える、ちょっぴりドジな魔術師。(おぼろ)(づき)希。華蓮さんとどんな関係なのかは分からないけれど、こんなイラストを、まるで自分の近況報告をするかのように描くのは、彼女ぐらいだろう。
「まぁ、姫幸も希を知っているの!」
 手を合わせてはにかむ姿を見るに、僕の推理は間違っていなかったようだ。
「え、ええ。高校の後輩よ。潤ちゃんとは同級生なの。ここにいる来也くんともね」
「ふふふ。不思議。世間って狭いのね」
 そう言うと、彼女は立ち上がり、伏せてあった写真たてを手に取った。
「希のお父様と私の父が、古くからの知り合いでね。希とは小さい頃からのお友達なの」
 そこには、幼い頃の華蓮さんと希ちゃんと思しき少女、そして二人の父親が写っていた。五つ以上違うはずなのに、この時から華蓮さんの方がお姉さんに見えるところは、流石ロリコンキラーというか、なんというか。……この貴重な写真を見てしまったことは、あの方には絶対に、口が裂けても言わないと、僕は心に決めた。
「ということは、希の言っていた可愛くって切れ者の探偵さんっていうのは、あなたの事なのね、潤」
「可愛くって、というところが余計ですけどね」
 本当に、なんとまぁ狭い世界か。でもそのおかげで、絞り込むことが出来たのだ。縁には感謝せねば。
 これで、僕の話は終わり。あとは依頼人からのジャッジを待つばかり。
「実は、姫幸以外にも、ある方から潤のことは聞いていましたの。その方は、私のお師匠さまなのだけれど」
 いずれ会うことになるだろうからと、その人の名前は伏せられてしまったが、
「噂以上ですわ。あなたなら、任せられます」
彼女のお眼鏡にかなうことには、成功したようだ。
「改めて、潤。私に届けられる花たちの差出人を、探していただけるかしら」
「喜んで」
 少し時間がかかってしまったが、ようやく僕たちは事件に辿り着いたのであった。
長かった……。
次話より、ようやくお嬢様高校潜入捜査編(仮)がスタートです。
細かいところを書くのが楽しくってなかなか進みませんが、もう少しスピーディーにいきたいところです。
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