霹靂のレーヴァテイン(25/67)縦書き表示RDF


第八話・・・だっけ?もうわかんないです!
お兄さんアゲイン。
霹靂のレーヴァテイン
作:神宮寺飛鳥



心、擦れ違い(1)



「しかし、あいつらなんだったんだろうな・・・」

太平洋を飛び続けるレーヴァテイン。 レーヴァの動力は基本的に活動と同時に周囲から吸収するものであり、事実上永遠に飛行が可能である。
大気や海に満ちた僅かな生命の輝きを吸収し、虹色の光の帯を放ちながら飛翔していた。
先ほどからヨルムンガルドとウロボロスが向かった方向に移動しているのだが、特に索敵能力に優れているわけでもないイザナギでは二機を捕らえる事は出来なかった。
故に、ざっとこっちのほうにいったのだろう、暗いの気分で飛行していたところ、いよいよもってして現在位置も分からなくなってしまっていた。
一度空中に静止し、周囲を見渡すリイド。 思えばヴァルハラを勝手に抜け出すのは始めてであり、自分いかに世界の何も知らなかったのかを痛感せざるを得ない。
移動するときはいつも司令部からの指示とパートナーのナビゲーションがあったが、目的地も決まっていないのではどうしようもない。
困り果てて水平線の彼方を眺めていると、通信受信を示すサインが空中に浮かび上がった。

「通信・・・? ヴァルハラかな」

「違うと思うよ。 これは外部の通信・・・しかもアーティフェクタ同士でしか出来ないエーテル通信だから。 開くよ?」

「うん」

エーテル通信を開くと正面に見覚えのある男の立体映像が浮かび上がった。
黒いスーツ姿の男はネクタイを緩めながらリイドの顔を確認するなり盛大に溜息をつく。

『やはりお前か。 何故こんなところにいる?』

「スヴィア・・・! スヴィアこそなんでここに?」

『こちらは作戦行動中だ。 進路上に強烈なエーテル反応があったから慌てて出撃してみれば・・・まさかお前とはな』

安堵したのか、それとも予想していなかった弟の再会を嬉しく思ったのか。 スヴィアは微笑み、それから頭上を指差す。

『海上でアーティフェクタ同士で会話というのもないだろう。 上がっていくか?』

「あがっていく・・・? アーティフェクタ同士?」

『上を見ろ』

頭上を見上げる。 そこには巨大な影があり、迫ってくるそれはやがてレーヴァをすっぽりと飲み込んでしまった。
天を切り裂くような巨大で鋭い、三角形を空に浮かべたような輸送機。 同盟軍の紋章が刻まれたそれらが、隊列を成して飛行していた。

『筆頭のマザーC.Aに着艦してくれ。 今ビーコンを出す』

データ上の案内を受け取り、レーヴァテインは空に飛翔していく。
漆黒の輸送機は下から見るとヒラメか何かのようにも見えたが、近づいてみればそれは巨大な武装と装甲の塊にロケットエンジンを積み込んで強引に飛ばせたような物騒な代物だった。
案内に従いながら飛行していると、下方の雲を突き抜けてガルヴァテインが翼を広げ、レーヴァに並行する。

「な、なんだ!? 黒いレーヴァ!?」

『ガルヴァテイン=ティアマトだ。 見るのは初めてだったか?』

「な、なんだよ・・・聞いてないぞ・・・?」

『そうか。 まあいい、少し着艦は待ってくれ。 私たちは無原動力で墜落の可能性はないが、後続の連中が着艦しないとそろそろ燃料がまずいのでな』

「後続・・・?」

振り返る雲の向こう。 白い闇を切り裂いて無数の人型戦闘機が飛び込んでくる。
それらはつい先ほどヴァルハラで戦闘行動を行った機体・・・ウロボロスとヨルムンガルドに酷似していた。
いや、同じ機体であることは間違いないだろう。 差異があるとすれば、恐らく先の二機は個人用のカスタマイズ機であり、さしずめこちらが量産型と言うところか。
無数の母艦の背部ハッチが次々と開き、量産機たちが着艦していく。 その映像はリイドにとっては新鮮であり、思わず溜息を零してしまう。

「こんなに・・・こんなにたくさん、天使や神と戦ってる人がいたんだね」

『ヨルムンガルドを見ても驚かないのか?』

「ああ、それなんだけど・・・っていうかあれはやっぱりヨルムンガルドなんだね」

『数はまだ少ないが他にもいくつかのタイプがある。 とりあえずは着艦しよう。 ようこそ、マザーC.A・・・スレイプニルへ』

先にハンガーに入っていくガルヴァテインに続き、スレイプニルの格納庫にレーヴァも着艦する。
そこには無数のヨルムンガルド、それ以外にもいくつか見覚えのない量産タイプの機体が並べられていた。

「なんか成り行きで来ちゃったけど・・・」

何の事情も聞かず着艦してしまった事を思い返し、頭を抱えるリイド。
そんなリイドの肩を叩き、いつもの緩い笑顔を浮かべるオリカ。

「ま〜、なんとかなるでしょ! それに、お兄さんなんでしょ? 助けてくれるかもしれないし」

「そう、だね・・・」

確かにスヴィアなら頼りになる。
同盟軍がどういった場所なのかはよくわからないままだったが、とりあえずスヴィアに話を聞くのが一番手っ取り早そうだ。
そう考え、リイドはハッチを開き、コックピットの外に身を乗り出した。



⇒心、擦れ違い(1)



「駄目ね・・・。 どうしてかはわからないけど、レーヴァテインの反応が全く感知出来ません」

リイドを乗せたレーヴァテインがヴァルハラを抜け出してから一時間。
これまで何度も連絡を試みていたユカリが降参しインカムを外した時、その場に居る誰もが静まりかえってしまった。
レーヴァテインはこの街の守り神。 そして、最重要機密でもある。 それを持ち出しての逃走・・・。 考えたくはないが、様々な可能性があるのも確かだった。
カイトはリイドと一緒にレーヴァテインに乗り込む見知らぬ少女を見ているし、ポートファイブでレーヴァテインが戦った映像は誰も確認していない。
つまりどういうことか? リイドとオリカ、張本人である二人以外には、『リイドがレーヴァテインに見知らぬ少女と一緒に乗り込み、逃亡した』と・・・ただそれだけの客観的事実しか存在していないのだった。
無論、リイドが裏切って逃げ出したとは考えたくない。 しかし、逃走したウロボロスとヨルムンガルドの後を追う様に消えたレーヴァの反応。 そしてレーヴァが出撃するや否や撤退していった謎の勢力。 疑問は尽きず、それはすべて疑惑につながっていた。
故に空気は重く、誰もが口を開きその疑惑について語るのを恐れていた。 いや、最も恐れている人物の為に、口を慎んでいるというべきか。
遅れてやってきたエアリオは冷たい床の上に座り込み、俯いたまま一言も言葉を口にしない。 彼女は今になってようやく本部に到着し・・・結果を聞かされた。
立ち上がったユカリがエアリオに歩み寄り、その肩を抱いて立ち上がらせる。 自らが座っていた椅子に少女を誘導し、振り返りヴェクターを見つめる。

「ヴェクター、どう思われますか?」

「ん〜・・・普通に考えたら、リイド君が内通者と通じていて、レーヴァを一緒に持ち出した・・・とまあ、そういう筋書きになるんでしょうかねえ」

「リイドが俺たちを裏切ったって言うんスか・・・?」

「そう考えざるを得ない状況ですからね。 ちなみに先ほどの騒動に紛れて何者かに本部データベースがハッキングされた形跡がちゃんと残ってます。 個人までは特定できませんでしたが、何者かの侵入を許したのは事実でしょうね」

「それをリイドが手引きしたと・・・?」

「普通に考えて通常エレベータがハッキングされ停止していたあの状況では直通を使うしかありません。 が、ここに直通するエレベータはご存知の通りライセンスが必要です。 ここの直通に来る為に認証したライセンスはあなたたちの分と、あとはリイド君の分しかありませんから」

「ぐっ・・・・いや、でも、なんか理由があって・・・っ」

「そうですねえ・・・。 あのリイド君が、そんな事をしたとは思えませんが。 むしろ、理由もメリットも見当たらないですからね。 まあ、様子を見るしかないでしょう」

ヴェクターもカイトもそれっきり口を開かなかった。 しかし、たった一人だけこの状況で打ちひしがれていない少女がいた。
アイリスは小さく溜息をつき、開口一番こんな言葉を口にした。

「馬鹿馬鹿しいです」

「・・・何がだ? アイリス」

腕を組んだアイリスはカイトを見つめ、それからその場に居る全員を見回し、鋭く冷ややかな視線で貫く。

「レンブラムは逃げた。 それが客観的事実でしょう? 口ではあんな偉そうな事を言っておいて、責任から逃れるどころかレーヴァテインまで持ち出して・・・明白な裏切り行為なのに、どうしてそこまで彼を庇うんですか?」

それは無理のない事なのかもしれない。
確かに少女の言うとおりそれが客観的事実だった。 そして彼女は、リイドという少年と言葉を交わした回数が・・・圧倒的に少なすぎた。
だから、リイドという人間に対し悪い印象しか持っておらず、最初からこうなってもおかしくないと思っていたと言わんばかりにまくし立てる。

「姉さんを殺して、カイト先輩の腕をこんなにして、街も壊しておいて挙句の果てにスパイですか。 仲間の事も友達の事も人の事も何もかも考えない、軽率な人間だったんでしょう、レンブラムは。 大方、責任逃れ序にどこかの組織にレーヴァテインを売り払って―――っ」

乾いた音が、司令部に響き渡った。
その状況を一瞬誰もが理解できず、そして慌ててカイトが止めに入る。

「エアリオ!」

立ち上がるなりアイリスの顔に平手打ちを食らわせ、そのまま掴みかかりそうになっているエアリオを背後から羽交い絞めにする。
エアリオは泣くわけでも怒るわけでもなく、ただいつも通りの無表情で・・・いや。 若干哀れむような冷めた瞳でアイリスを見上げている。

「リイドを悪く言うな」

「・・・・・・っ」

「おまえ・・・リイドの何を知ってるんだ?」

首を傾げる。 それはただただ純粋な疑問であり、エアリオにとって不思議で仕方のない事だった。

「何故、何も知らない人間の事をそんなに悪く言えるの?」

リイドという少年は、確かに悪態をつき、我侭で子供っぽくて、扱いに困るような少年だった。
けれど、最悪ではなかった。 時には自信をなくし涙し、友の為に立ち上がり、そしてどんな状況だってその力で打破してきた。
そこには彼なりの苦悩や努力があり、そうやって積み重ねてきた一ヶ月と僅かの時間は、エアリオにとっても十分彼を評価するに値するものだったから。
だからこそ、理解出来ない。 十分な情報も得ていないタダの他人が、リイドを悪く言う事が。

「悲しい事を、辛い事を、リイドのせいにするな。 おまえの言っている事は・・・ただの子供の我侭だ」

「っ!」

エアリオを睨みつけ、それから踵を返す。 出口に向かって早足に歩いていくアイリスを引き止めようと駆け寄るカイトの手を払い落とし、少女は目に涙を堪えながら振り返った。

「私は間違ってなんか居ません・・・! でも、そうやって貴方たちがレンブラムを庇うなら・・・! 私はここに居たくありませんっ!」

「あ、おいアイリス! あー・・・ったく・・・すいません、俺追っかけます! あとよろしく!」

走り去っていくアイリスを追いかけていくカイト。 エアリオは深く息を漏らし、椅子に座り込んだ。
自分でも何故あんな事を言ってしまったのかよくわからない。 わからないけれど―――リイドの悪口を言われたら、なんだか急にむかむかしてきたのだ。
だから、仕方がない。 まさか、自分が他人に手を上げる日が来るなんて思わなかった。
暴力を振るいたくなるほど、他人を意識する日が来るなんて、思わなかった。
アイリスの頬を叩いた自分の右手を見つめる。
白くて小さくて、冷たい右手。
叩くのではなく・・・もっと、違う使い方をしたかった右手。
差し伸べたい人は、そこにはもういなかった。

「リイドは戻ってくる・・・」

だから立ち上がり、出来る限り強がってみる。

「リイドは・・・きっとだいじょうぶだ」

それだけ言って去っていくアイリスを見送り、ユカリは複雑な想いで苦笑していた。

「なんだか・・・エアリオ、変わりましたね」

「ええ。 この一ヶ月で驚くほど人間らしくなりましたねえ」

「リイド君のお陰でしょうか」

「かもしれないですね。 それになんだか、私たちもリイド君がいないとこう・・・」

「ああ・・・わかります」

大人二人は互いに笑い合う。

「なんだか、手のかかる子が手元にいないのは、落ち着かないものですから」



「アイリスッ! ちょっと待てよ!」

アイリスに追いつくのはそれほど苦労しなかった。 カイトのほうが圧倒的に足が速く、その細い腕を背後から掴めば彼女の歩みはあっさり停止する。
だからカイトは手を掴んだまま、背後から少女を見つめる。 かけるべき言葉は多く、しかしどれからかければいいのかわからない。

「アイリス・・・あのな、エアリオもお前の事が嫌いでやったわけじゃないんだ。 あいつはそういうんじゃなくて、もっとこう・・・」

「何ですか・・・っ・・・先輩も・・・レンブラムの味方なんですか!?」

振り返ったアイリスは涙を零しながら歯を食いしばっていた。 涙を堪えようと必死になっているのが良く分かり、意地っ張りなところはイリアにそっくりだとカイトは内心笑う。
眼鏡を外し、上着の袖で涙を拭うその仕草も、眼鏡をはずしていればよりイリアにそっくりで・・・少しだけ寂しさが胸に沸いてくる。
しかし少年は溜息と共にそれを散らし、残された左手をアイリスの頭に乗せてゆっくりと撫でた。

「何でみんな・・・レンブラムの味方なんですか・・・? 嫌なやつなのに・・・悪いやつなのに・・・なんで・・・っ」

「・・・・・・アイリス。 その理由はもう、お前だってわかってるんだろう?」

「わかりません! わかりたくもありませんっ! だって、じゃあどうしてなんですか!?」

カイトの胸を両手で強く叩き、最早涙を堪える事もなく、みっともなく喚く。

「何で姉さんがここにいなくて、いるのがレンブラムなんですか!? なんで姉さんがいないのに・・・この世界は続いているんですかっ!?」

「・・・・・・」

「答えてください先輩・・・っ・・・! どうして姉さん何ですか・・・!? 姉さんが何か悪い事をしたんですか・・・!?」

「違う。 イリアは確かに不完全で未熟なただの人間だった。 けど、いつも一生懸命で・・・悪い事をしたわけじゃねえ」

「だったら誰が! 何がっ! 悪いって言うんですか!? 理由がなくちゃおかしいじゃないですかあっ! そんな意味もなくなんて・・・そんなの・・・そんなのっ」

足にすがりつきながらずるずるとその場に崩れ落ち、カイトのズボンに爪を立てながら声を押し殺す。

「そんなの―――納得出来ませんよぉぉぉ・・・っ」

泣き喚く少女は。
イリアと同じく強がりで。 イリアの妹だからこそ、背伸びをして大人びたような態度をとっているが。
実際はリイドよりも年下の・・・本当にまだ子供の・・・小さな小さな、幼い少女なのだ。
それに、理不尽な世界の現実を突きつけたところで、納得できるだろうか? 自分がその歳だった頃、納得できただろうか?
自分にとって大切なものを失った時、それが世界で一番大切だったとき、立ち直ることは容易くなんてない。
だから、それはきっと未熟な自分たちの責任で。 強くなるために必要な儀式で。 でも、まだそれがわからないから。
結局自分にとって都合のいいリイドという存在を、自分が傷つけてしまっても都合のいい存在を、傷つけたかっただけなのだ。
そうしていなくては自分が保てなかった。 現実を受け入れられなかった。 だから涙を流さずに居られた。
けれど誰もがそれは違うのだと、声を揃えてリイドを擁護するのなら・・・それは誰もが声を揃えて自分を否定しているようで、怖かった。

「やっぱりお前、イリアのやつにそっくりだなあ」

「・・・・・・・・・」

「あいつもな? 辛い事があると、よくこうやって俺にすがり付いてたよ」

自らも腰を落とし、少女の前に屈んで微笑む。
思い返す様々な日々。 常日頃共にあったからこそ、わかることがある。
大事なパートナーであったからこそ、わかることがある。
そして、だからこそ、彼女の言葉を伝える事も出来る。
姉の醜態をさらすのは申し訳ないと思いながら、心の中でイリアに謝ってアイリスの頭を撫でる。

「昔な。 アイリスが思いっきり失敗しちまって、ひでえ落ち込んでた時期があったんだよ。 で、その時はもう一日中俺にべったりでな。 本当に落ち込んでたもんだから、何やっても全然元気でないわ、ボケてもツッコんでくれないわで散々だったんだ」

「姉さんが・・・?」

「それこそ今のお前みたいにな。 それからもちょくちょく悲しいことや辛い事があると、抱きしめてくれって言われたよ」

照れくさそうに白い歯を見せて笑うカイト。 その笑顔はちょっとだけ魅力的で、アイリスもつられて少し笑ってしまった。

「あいつもその失敗を人のせいにして逃げていた事があった。 その事を、あいつはぶっ倒れるまでずうっと気にして・・・無茶した理由もそのせいだった」

「・・・・・・」

「だからあいつは人のせいにせず、辛い事も悲しい事もその胸で受け止めて、前に進んで来た。 その結末はあんなだったけど・・・でも、あいつは自分が抱えていたトラウマに勝利して、失敗を帳消しにしたんだ。 自分の全てをかけて戦って・・・な? すげえだろ? お前の姉貴」

「・・・カイトさん」

「あ〜・・・いや、これはな・・・はは、まあ、思い出したらチョットな」

カイトもまた、涙を流していた。 
本当はみんな悲しくて、でも我慢していた。
アイリスはただ自分だけが悲しいのだとどこか周囲の悲しみを忘れてしまっていたのかもしれない。
だから、カイトの涙は効果があった。 つられてアイリスもまた泣いてしまったが、確かに、姉は、そういう人間だったから。

「はい・・・・っ姉さんは・・・っ・・・自慢の・・・姉さんです・・・」

「すぐに全部受け入れろとは言わない。 でも、少しずつでいい・・・あいつのこと、認めてやってくれねえかな」

立ち上がり、背を向ける。 少年は天井を見上げ、涙を拭って振り返る。

「きっとリイドは・・・お前の事を受け入れて、守ってくれる。 何せお前らは・・・・」


そう、きっと彼女と彼がそうであったように。


「似たもの同士、なんだからな―――」



「成る程な・・・ヨルムンガルドの襲撃を受けて、か・・・」

航空母艦スレイプニルに着艦し、レーヴァを下りたリイドとオリカは艦内でもスーツ姿のスヴィアに続き、スレイプニルの通路を歩いていた。
行きかう人々は皆黒地に青の同盟軍の軍服を着込んでいるため、制服姿のリイドはともかく私服のオリカは酷く目立っていた。
その張本人は見たことのない同盟軍航空母艦の内部が楽しいのか、あちこちをきょろきょろ見回っていてまるで緊張感がない。
よって会話に参加させてもややこしくなるだけだと判断し、リイドは会話を続行することにした。

「ヨルムンガルドは同盟軍の量産機なの?」

「そうだ。 トライデントとガルヴァテイン、二機のアーティフェクタのデータから模造した量産型だ。 ガルヴァテインの量産タイプがヨルムンガルドでな。製造元は米国に本社を構えるセラフィムインダストリアルカンパニーだが、基本的に軍だけが商売相手ではないらしく、他の武装組織や国家にもヨルムンガルドタイプを販売しているらしい」

「じゃあ、ヨルムンガルドは別に珍しい代物じゃないんだね・・・ここにもいっぱいあるし」

「いや、現段階で実用化されているヨルムンガルドは同盟軍でも対神第一機動大隊ここ・・・と、本部防衛の為の機体が100機ほどのみで、殆どロールアウトしたてのものだ。 今回の作戦行動も、まずは米国のセラフィムからヨルムンガルドを受け取り、その後訓練行動という形だったからな。 私とネフティス、セトはその監督役として同行していた」

「でも確かにヨルムンガルドだったなあ・・・じゃあとりあえずスヴィアはその事に関してはわからないってこと?」

「実を言うと、お前が来る前にいくつかの反応を捉えてな。 ヨルムンガルドが飛んでいるのはおかしいと思い航路を変えたのだが、急に第一神話級に匹敵するエーテル反応を捉えやってきてみれば・・・」

「ボクが居たってわけか・・・なるほどね」

そうなるとスヴィアは先の事件には関係していないことになる。
同盟軍にヨルムンガルドが配備されていることは流石に驚きだったが、関係ないと判るとやっと胸を撫で下ろす事が出来た。
それにしてもこの奇妙な状況が変化したわけではない。 むしろ全く関係のないところにきてしまったとなると余計に気まずくなってくる。

「それで、お前は何故あんなところに居たんだ?」

「え!? あ、いや〜・・・それは・・・」

兄に悪戯をとがめられた弟のように、狼狽するリイド。 スヴィアは何も気づいていないのか、それを小さく笑い飛ばしある部屋の前で立ち止まった。

「私の部屋だ。 まだ私は報告を残しているのでしばらくここで待っていてくれ」

「あ、うん・・・わかった」

「ではな」

短く挨拶し去っていくスヴィアを見送り部屋に入る。

「相変わらずものすごくシンプルな部屋だな・・・」

軍艦内部で豪華な部屋というのもおかしな話だったが、窓もない内側のその部屋は非常にシンプルな構造で、狭くはないものの面白みはなにもない。
家具も必要最低限のものしかなく、ベッドは壁に備え付けられた折り畳みのものを使っているようだった。
他に座るところも見当たらなかったのでベッドを引き出しそこに腰掛ける。 部屋そのものは違えど、そこは一年ぶりに訪れる兄の部屋だった。

「ねえねえ、お兄さんすんっごくかっこよかったねえ〜〜〜っ!」

「うん。 スヴィアは顔はすごくいいからね」

「リイド君にそっくりだったし・・・将来はああなるのかあ〜・・・えへ、えへへへ・・・」

よだれ出ている少女をジト目で見つめ本気で脳の腐食を心配する。
確かにレンブラム兄弟は驚くほど似ている。 歳が離れていなかったら同一人物と間違えられてもおかしくはないくらいに。
スヴィアは今年で二十一歳。 リイドとは六歳も離れているので、どう見ても兄弟にしかみえないのだが。

「でも、お兄さん全然喋り方とか見た目の雰囲気とかおっかないけど、よく見ると優しそうな人だね」

「あ、あー・・・うん」

そう。 スヴィアはそういう人間なのだ。
一見すると無感情で冷酷そうな人間。 それは彼の服装や口調、常に真顔な表情などが理由なのだろう。
しかし実際は細かい気配りの出来る親切な人間であり、それを普通に、平然と成す為、特に表情が変化しないだけで。
スヴィアという男にとってそれくらいの親切は、呼吸をするのと似たようなものなのである。

「スヴィアは昔から落ち着いた人だったからね。 きっと同盟軍に入ってからも、うまくやってきたんじゃないかな」

リイドにとって兄は憧れの的であり、同時に強いコンプレックスでもある。
似ているのに決定的に違う二人。 その埋められない差がリイドにとっては少々こそばゆい部分だった。
そんな事を語っていると、スライドドアが開いて人影が入ってくる。 スヴィアが戻ってきたものだとばかり思っていた二人が視線を向けると、そこには見覚えのある少女が立っていた。

「え・・・エアリオッ!?」

「・・・?」

エアリオ、ではなかった。
エアリオの好きぬけるような純白の肌と対照的な褐色の肌。 差異といえば確かにそこだけではあったが、彼女はエアリオではなく。 エンリル。 エンリル・ウィリオという名の少女だった。
ガルヴァテインの干渉者でもある彼女がパートナーであるスヴィアの部屋を訪れるのは特に珍しいことではなく、この状況は十分想定できたはずだった。
それをしっかりもののスヴィアが伝えなかったのは・・・どうせ遭遇しても特に問題にならないだろうと考えていたせいである。
しかし実際その場は凍りつき、三人は同様に目を丸くしたままその場で固まっていた。

「って、なんで私も固まってるのかな? ねえリイド、彼女は?」

「し、しらないけど・・・知ってる子に滅茶苦茶似てる・・・っていうかほとんど同一人物なんだけど・・・」

「違います・・・。 わたしは、エアリオではありません・・・」

消え入るようなか細い声で否定するエンリル。 その声がまたエアリオそっくりで思わずリイドは身を乗り出した。

「ふ、双子か何かなの!?」

「いいえ・・・・・・」

「じゃあ親戚とか!?」

「いいえ・・・・・・」

「じゃ、じゃあええと・・・ええと・・・・」

「そこまでだリイド。 エンリルが困っているだろう?」

部屋に入ってきたスヴィアを見つけるなりエンリルはその影に隠れてスヴィアの足にしがみ付いてしまった。
その様子がまたエアリオそっくりなものだから、もうどこからつっこめばいいのかわからず少年はベッドに腰を落ち着けた。

「ど、どうなってるの? エアリオにそっくりすぎるよね?」

「ああ。 まあ、姉妹みたいなものだが・・・本人たちにそうした認識はない。 名はエンリル・ウィリオだ」

「エンリル・・・ええと・・・」

どう挨拶すればいいのかもよくわからない。 余りにも慣れ親しんだ顔のため、今更自己紹介するのも気が乗らなかった。
そんなこんなでエンリルを見つめていると、そそくさと逃げ出していく。 少女を見送り、スヴィアは苦笑した。

「仕方ないな。 あまり子供を脅すなよ」

「お、脅してないってば!」

「ところで、そっちは?」

「あ! オリカ・スティングレイです! 始めましてお兄ちゃん!」

「おに・・・何だって?」

「だから、そのうちリイド君と結婚するので今の内に練習しておこうかとおも・・・ふぎゃ!? いったあ〜い・・・ふえーん・・・おこられたー・・・」

横から派手に頭を叩かれたオリカが涙目になって黙り込む。
顔を赤くしながら両手をブンブン振り回し、リイドは必死に否定した。
その姿だけで既に状況は把握したのか、兄は静かに微笑んでパイプ椅子に腰掛けた。

「オリカ・スティングレイか。 弟が面倒になっているようだな。 私はスヴィア・レンブラムだ。 宜しく」

「はい、宜しくねお兄ちゃん!」

「お、おに・・・・」

頭を抱えるスヴィア。 再びオリカの頭がリイドによってすっぱたかれ、部屋の隅で丸くなって落ち込み始める。

「こいつちょっと頭おかしいんだ。 だから気にしないで」

「そうか。 わかった」

「ひどいい!?」

「何はともあれ、飯でも食うか? 一年前から好みが変わっていないなら、お前の好きなものを作ってやれそうだぞ」

「え? あ、ちょっと・・・」

上着を脱いでハンガーにかけるとそのまま台所に向かっていくスヴィア。
結局その背中を見送り、全く何も事情を話せていない事に溜息を着く。
しかし、せっかくの兄弟の再会なのだ。 たまにはこういうのも悪くないかもしれない、と思う。

「それに、聞きたいことも色々あるしね」

「お兄ちゃん料理も出来るんだね。 かっこいいなあ」

ただそれだけ発言しただけなのに、オリカの頭のたんこぶは三個に増えていた・・・。



エアリオ「・・・・・・・・・・」

カイト「おわ!? どうしたんだエアリオ・・・せっかくおまけコーナーなのにぶっ倒れて・・・」

エアリオ「・・・」

カイト「無言で第七話、『交錯、天空都市』の台本を渡す、と・・・何々・・・ん、お前・・・出番あったか?」

エアリオ「うあああああんっ! 胸がないからか!? 胸がないからなのかーーーっ!?」

カイト「お、落ち着け! 大丈夫だ、俺は胸がなくても・・・げふう!」


⇒おまけ(2)


エアリオ「霹靂のレーヴァテイン、人気投票〜・・・ぱちぱちぱち」

カイト「え・・・急にどうしたんだ?」

エアリオ「第一位・・・エアリオ・ウィリオ」

カイト「だから急にどうしたんだよ!?」

エアリオ「現実逃避」

カイト「あのな・・・俺だって出番ないんだぞ? お前なんかリイドと組めるからいいじゃねえか。 リイドが戦ってる=俺は出番なしなんだぞ?」

エアリオ「おまえなんかと比べ物にされてもこまるわっ」

カイト「まあ、おまけ内での俺の扱いに徐々に気づきつつあるが、蓄積された悲しみはいずれ爆発するぞ」

エアリオ「おまえなんか二本しかない手も足も一つしかない頭ももげろ!」

カイト「遠まわしに死ねっていってねえか!?」

エアリオ「しねっ」

カイト「それは普通にいってるからね!?」


〜小休止〜


カイト「これは本気で重傷だな・・・。 なんでそんなに落ち込んでるんだ? 出番なかったからか?」

エアリオ「出番が皆無だったのは、まあいいとしても・・・なんだ? あの胸のでかい女は」

カイト「ああ。 なんか、急に出てきてリイドとべったりだな」

エアリオ「あそこわたしの席だぞぅ! うう、もう! なんなんだよー!」

カイト「イリアもいなくなってエアリオの時代が到来したと俺も思ったんだけどな。 そう簡単にはいかないらしい」

エアリオ「どんだけじらすんだ! どんだけわたしはMなんだ! おまえはSか!? Sなのか!?」

カイト「おちつけエアリオ、酔ってるのか・・・? 大分キャラが崩れてるが・・・」

エアリオ「ううう・・・なあカイト、どうすれば人気が出る・・・?」

カイト「背が低すぎるとかか? お前設定だと130センチ強って恐ろしくちっこいぞ」

エアリオ「・・・おまえがでかすぎるんだろう」

カイト「身長差50センチだもんな・・・」

エアリオ「やっぱり背丈が伸びでないすばでぃになればもてもてなのか?」

カイト「まあ確かに胸はあってこまるもんではないとおもう」

エアリオ「・・・・・・・・そうなのか?」

カイト「そういえばお前の胸って年下であるアイリス以下―――ごふっ!」

エアリオ「あまり余計な事は口にしないほうが身のためだぞ」

カイト「粉々になっちゃったらどうするんだよ!? フォゾン化してて脆いんだぞ!?」

エアリオ「おまえなんか塩釜焼きの塩みたいにくだけろ」

カイト「ひど!? その口の悪さと表情のなさが不人気につながってるんじゃないのか?」

エアリオ「うわああああああん! 不人気ってゆうなあああああ!」

カイト「そんなわけで当番組では不人気エアリオを励ますお便りをお待ちしております。 アドレスはここに」

エアリオ「画面下を指差しても何もテロップ出てないぞ」

カイト「それではまた来週〜!」

エアリオ「・・・・・・・っていうか、不人気っていうな! いまきづいた! おまえしつれいだな!」











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