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霹靂のレーヴァテイン
作:神宮寺飛鳥



きみが、見た夢(2)



学園祭が催される日の朝、ボクは部屋から出まいとベッドの上に寝転がっていた。
行ったところで空しくなるだけなのはもうわかりきっているわけで。
結局カグラの手伝いをしたのも、カイトと一緒に買出しに奔走したのも、全部無駄になってしまった。
だってボクにとって、そこにカイトもイリアもいないんだったら・・・何の意味もないのだから。
しかし、規則正しい生活を続けてきたボクの身体は意思とは無関係にきっちりと朝目覚め、目覚まし時計が鳴るよりも早く天井を見つめているわけで。
ああ、朝食を作らないと。 エアリオがきっとやるせない表情で酷く落ち込むだろうなあ。
仕方なく起き出し、朝食だけでも作ってやろうと台所に向かう。

「ん・・・おはよう、リイド」

「・・・おはよう?」

リビングにはTVを見ているエアリオがいた。 ソファの上に腰掛けたその格好は既にいつでも学校に行ける状態であり、普段は寝ぼけているのかそれとも完全に寝ているのかさえ判別不可能なほどぬぼ〜っとした彼女の表情は、完全に目覚め凛としていた。
それはちょっとした奇跡である事をあえてここで明言する。 エアリオが朝早くおきているのだ。 これが奇跡でなくてなんという。

「リイド、今日は学園祭」

「うん、知ってるよ」

「リイドも行く?」

「ボクは・・・・・・」

正直気は乗らない。 けど、きっとエアリオはエアリオなりにボクに気を遣ってくれているのだろう。
苦手にも程がある・・・いや、既にもう性質的に不可能である早起きを克服し、今も本当は眠いだろうに、ボクの前にちゃんと立っているエアリオ。
気を遣われるのは嬉しいけれど・・・逆に何だか申し訳がなくて、こっちの気が滅入ってしまう。
断ろうと思い、台所へと踵を返す。 しかしエアリオはボクの手を取り、強引に振り返らせた。

「・・・エアリオ?」

「・・・・・・・・・リイドが来なきゃ、いやだ。 リイドが休むなら、わたしも家に居る」

「そんな我侭言うなよ・・・」

「・・・・・・・・・」

エアリオの目は、なんというか、小動物みたいだった。
いつもぼけーっとしているクセに、こうやって懇願する時ばっかりきらきら光って見えるんだ。
表情はいつもどおり平坦。 だからこそその瞳に宿った強固な意志が際立っている。
もうボクが何か言っても、今日一日はボクの傍を離れない・・・もう決めてしまっているので意見は聞かない・・・そんな目だった。

「・・・」

肩の力を抜いて、明後日の方向を眺める。
辛いのはエアリオだって同じはずなのに、なんでボクは気を遣われているんだろう。
逆にこのまま彼女の意思を無駄にしてしまうようなら・・・それは酷く格好悪い事なのではなかろうか。
空いている手で頭を掻きながら、照れ隠しで顔を半分覆う。

「わかったよ。 一緒に行こう」

「んっ」

少しだけ嬉しそうに目を細めるエアリオ。
何だか少しだけ、最低な気分が晴れたような気がした。

エアリオと肩を並べて登校するいつもどおりの通学路。
普段と違う事があるとすれば、今日はエアリオが少しだけご機嫌で、ボクが誘導しなくてもちゃんと歩いてくれるって事と・・・。
あとは、この学園に向かう道の人の多さだろう。 普段の通行量の数倍の人々がぞろぞろと列を作って歩いていく。
たかが学校の学園祭・・・というわけでもない。 共同学園は文字通りロースクールからハイスクール、さらには各種技能別教室も含め、とんでもない数の生徒と校舎、敷地が存在するのだ。
81番プレートは学園を中心とした学園都市と言ってもいいくらいで、そこが一斉に行う学園祭なものだから規模は殆ど町総出なのである。
とんでもないお祭り騒ぎの空気の中、歩きにくそうなエアリオの肩を抱き寄せて人波から外れた路地に逃げ込む。

「しかしすごいことになってるなあ・・・去年はボクは参加しなかったからこんなになるとまでは予想してなかった」

「このままでは登校さえままならない」

「仕方ないから裏から行こうか。 通学路の研究はちょっとした趣味みたいなもんでね。 結構詳しいんだ」

「リイドは暇人」

ぐっさりと胸に突き刺さる端的な言葉。 言われてみればみんなに会うまではホント暇だったなあ。
けれどその経験がこうして生きるのであればそれも悪くないさ。 無駄じゃなかったんだからね。 うん。
でもまあ、この技術が今後の人生で生かされる気は、あまりしないのだけれど。
細い路地、人気の少ないそのルートを歩いていると、エアリオはボクの隣で鞄を両手で抱えながら言った。

「リイド、質問」

「何?」

「学園祭って、なに?」

そこからですか。

「ええと・・・お祭りってわかる?」

ぶんぶん首を横に振るエアリオ。 こいつ、なんかイベント事なんだなあ〜くらいにしか認識していなかったらしい。
普段から物知らずなエアリオだったが、コイツも二年生なら・・・いや、共同学園の生徒なら学園祭の事を知らないわけがないのだけれど。
まさか今までの十四年間・・・もうすぐ十五年・・・の間、本当に一人っきりでイベントに参加したこともなかったのだろうか。
なんだかかわいそうなやつである。 人の事をいえないのは秘密だが、どうせ二年より向こうの記憶はきれいさっぱり消去されているボクにとってそれは他人事である。
やがて辿り付いた正面門でも裏門でも何でもないただの塀を飛び越え、エアリオを向かい側から引っ張り上げて登校する。
人でごった返しているのはここでも変わらない。 しかし、来たところで一体何をしろというのか。

「エアリオはパンフレット持ってる?」

「いや」

「ボクも教室の机に入れっぱなしだなあ・・・取りに行くの酷く面倒くさい」

「そんな時は実行委員である生徒会にご相談くださいね〜」

「うわっ!?」

軽く悲鳴を上げて振り返るとそこには生徒会の腕章を腕につけたカグラの姿があった。

「こんな人気のないところで何してんの? 逢引?」

「あらびき?」

「お前はどんだけ食い意地張ってるんだよ」

よだれをたらしているエアリオの頭を横から軽く叩く。 全くのノーリアクションなのは恐らくあらびきと言う単語から妄想に入っているからなのだろう。
そういえば朝食もまだだし、エアリオのはらぺこボルテージは既にゲージを振り切っているはずだ。

「なははは、仲良き事は良き事かな、ってね。 ところでリイド、きみも実行委員なんだからこの腕章つけてちゃんと手伝ってくれなきゃ困るよ」

「エ?」

そんなの聞いてない。 確かに今までちょくちょく手伝ってはいたけれどってうわああああなんかパンフレットにボクの名前が載ってる!?

「ほら、ちゃんと急遽入れておいてあげたんだから感謝したまえ」

自分のパンフレットを開いてボクらに見せながらにやにや笑うとカグラはボクの肩を叩き、空の向こうを指差した。

「さあ、一緒に駆け出そうじゃないかリイド君! きみも青春を謳歌するのだ!」

とか言いながらさりげなくボクの腕に腕章をつけているカグラ。 久しぶりに本気で女の子をぶっ叩きたいと思った。

「いいな、リイドだけ・・・」

「そういうと思ってエアちゃんの分もちゃあんと用意しておきました〜! ロリっ子の細い腕にもきちんと装着! 低学年用腕章だよ〜!」

目をキラキラさせながら腕章を腕につけてもらっているエアリオ。 さて、どこからツッコめばいいんだろうなボクは。
いや、もはやここはツッコんだら負けな気さえしてくる。 馬鹿連中相手に突っ込み続けていたらやがてボクの喉は枯れ果てるだろうし。

「リイド・・・おそろいだ!」

「そっか、よかったなあ」

なでこ、なでこ。 エアリオの頭をグリグリなでながら乾いた笑いを浮かべる。

「そんな間にモノローグ挟んでる暇があったら手伝ってよ! 大食い大会の準備があるんだから!」

そういえばそんなものもあったな。 あと、人のモノローグ勝手に見るな。

「大食い大会?」

「ん〜・・・エアちゃんにも分かりやすく言うと・・・いくら食べても怒られない大会だよ」

「おおぉぉお・・・」

エアリオ、よだれよだれ。

「参加する。 どうすればいい?」

「じゃあこの書類にサインして・・・」

もうだめだ。 これ以上馬鹿に付き合ってられない。
二人がなにやら書類関係で余所を向いている内にボクはお暇させてもらうとしよう。 さようなら〜、青春。

「はーい無駄な足掻きね。 リイドはこっち。 エアリオも手伝ってくれるよね?」

「ん、わかった。 働かざるもの食うべからず」

「ふざけんなああああ! ボクはこんな展開認めないぞおおお!」

襟首をしっかりとカグラにつかまれ、ずるずると引き摺られていく。
こうしてボクの忙しい一日が始まった。
裏方として大食い大会のための食材を用意したり、ステージを作ったり。 まあ殆どは前日より前に完成しているわけだから、あとは椅子を並べたりなんなりだ。
参加者リストは今日になって作るので、当日受付分が終了するまで受付をし、受付が終わったらリスト作成。
人数に合わせて料理の量を調整し、その間に平然とつまみ食いしているエアリオの頭を引っぱたき、自重させる。

「だっておなかすいた・・・」

知るか。
そうして準備が終了する頃には既に3時間以上が経過していた。
大食い大会が始まる頃にはエアリオも参加のためにカグラに連れて行かれ、ようやくボクは一時的とは言え開放される事になった。
中庭のカフェテラスは学園祭仕様に変更され、なにやら本日のみの特別メニューなどが並んでいるらしい。 何か食べて休憩したほうがいいのかもしれない。
別にボクは大食い大会に参加するわけでもないし、もうそろそろ昼だ。 どうせここで食べておかないと今日はもう食べる暇はないだろう。

「そんなわけで・・・さて、BLTバーガー以外の食事を摂れる日が来たぞ・・・」

今日こそは自分の好きなメニューを選んでやる。 しかも今日限定のやつとか選んでやる。
そうでないといい加減BLT中毒になりかねない。 何がBLTだ。 英単語三文字で略しやがって。 この略考えたやつに殺意を抱くよ。
しかし、余程BLTに自信があるのか、店頭メニューにはデカデカと『学園祭仕様BLTバーガー』というのが乗っていた。
いくらなんでもココまで来てBLTはないだろう。 というか、この短期間に何度BLTと思考したか―――。

「あっ! いたーーー! お〜〜〜いっ!」

そういえば最初は何を食べたかったのだろう。 Bえ・・・『例のメニュー』が普通になりすぎて最早自分が何を求めていたのか忘れてしまっ―――?

「うん?」

後ろを見ると、そこにはなぜか女の子が空を飛んでいた。
厳密には、ボクに向かって、飛んできていた・・・。

「うわああああああああっ!?」

「りーーーーーーいーーーーーどーーーーーっ!!!」

「ひぎい!」

なにやら柔らかい感触が顔面に直撃し、そのまま全体重を乗せられ後頭部をレンガの地面に強打する。
これは、死んだかもしれない。 そんな事を考えていると今度は呼吸が出来ない。 じたばた暴れるけれど、まるで世界は漆黒のまま、光は一筋も差し込んでこないではないか。

ああ、もうわけがわからない。 このまま本気で死んでしまったら、後悔しても仕切れない。

ぐったりと全身から力が抜けるのを感じながら、ボクはそんな事を考えていた。



⇒きみが、見た夢(2)



「ごめんね・・・うー・・・怪我させるつもりなんか全然これっぽっちもなかったのに・・・」

「あ、ああ・・・いいよ・・・なんかさっき触ったら指先に赤いのついてたけど・・・」

「もしかしてケチャップかな・・・」

「そうだねー」

オリカ・スティングレイと名乗る少女との邂逅から数分後。
ボクらはカフェのテーブルに着き、向かい合う位置に座っていた。
普段ならボクら四人が座っていた席であり・・・いや、今はそのことは考えないようにしよう。

「ケチャプ大丈夫・・・?」

本気でケチャップだとでも思っているのだろう。 不安そうな目で首をかしげながら訊いて来る。
どんなリアクションを返せばいいのかよくわからないが、とりあえずこれ以上ややこしくなりたくないのでスルーしようと思う。

「それで、オリカ・・・だっけ? ボクの記憶が正しければ初対面だと思ったけど」

「その記憶は正しいよっ! あのね、私達初対面なの!」

「そっかー・・・じゃあなんでボクの名前を知ってるの、とか、なんでいきなりつっこんできたの、とか・・・訊いてもいいかな?」

「うんっ、運命だよ!」

頭が痛くなってきた。
額を押さえながら・・・ああ・・・元々後頭部は痛いんだけど・・・少女を見据える。
背丈はボクより少し小さいくらい。 エアリオと比べると大分大きいけれど、別段平均身長と比べれば巨大すぎるというわけでもない。
学園の制服は着ていない所を見ると一般参加者。 黒地に髑髏のマークが入った野球帽を被っている・・・割には頭のネジの緩そうな笑顔を浮かべている。
一言で言うと、格好はかなり派手だ。 彼女の性格とおしゃれの方向性がかなり食い違っている。 ずっとにこにこしたまま、笑顔は一瞬たりとも崩れない。
それにしても何が運命なのか。 運命なんて言葉を軽々しく使ってしまう彼女は相当なおバカさんだろう。 ボクはそんなのは信じないし。
そもそもやる事成す事何もかもが妙だ。 ちょっともうどんな教育を受けてきたのか両親に問いただしたくなるくらいには変だ。

「リイド君、あのね・・・言いたい事があるんだけど・・・いいかな?」

「うん・・・何?」

「あのね、結婚してっ」

「えほっ」

コーヒー吹いた。
逆流してきた黒い液体は鼻の中にも入り込んだのかズキズキ痛む。 眩暈は酷くなる一方で、このまま気絶できたらどれだけいいだろうと思う。

「ど、どうしたの・・・? だいじょうぶ? まだケチャップ?」

何が? 何がまだケチャップ? それどんな文?

「ごめん・・・よく聞こえなかった。 多分聞き間違えだと思うからもう一度ゆっくりいってくれるかな・・・」

「結婚してください、リイド君」

「オッケー・・・じゃあボクこれから用事があるから・・・」

大慌てで席を立ち、早足でその場を去る。

「うあああああん、まってよーーー! 何でおこるのー!」

「何でもクソもあるか!? 頭おかしいんじゃないかお前っ!?」

泣きながら追いかけてくるオリカ。 正直に言ってかなり怖い。
気づけばボクも全力で駆けていて、気づけばとんでもない追走劇が始まっていた。
一応足の速さには自信があるというのに、オリカは平然と息も切らせず、しかも泣きながら追いかけてくる。 その足の速いこと速い事。
ボクは全力で走っているのにだ。 何度も繰り返す。 足の速いボクが全力疾走しているのに、泣きながら追いかけてくるのだ。 その距離が一定以上離れる事はない。

「うわあああああああああっ!? 何なんだおまえええええええっ!!!」

「あ〜〜〜う〜〜〜っ! おこらないでよーーー! オリカの話聞いてよーーー!」

「お前人類の言語通用してねーだろ!! もう頼むから追いかけてこないでよおおお!!」

「びえええええん! リイド〜〜〜っ!」

泣きたいのはこっちの方だあああああーーーーーーーーーーーーーッ!!!


そんなわけで逃走劇は一時間近く続き。
疲れ果てたボクは校舎裏にぶっ倒れていた。
オリカは汗一つかかず、倒れたボクの隣に座って心配そうに表情を覗き込んでいる。
なんだこいつ・・・もしかしてあれか・・・天使か何かか・・・。

「リイド、足速いんだね。 びっくりしちゃった。 ちょっとかっこいいね?」

「それは・・・ぜはー・・・っ・・・どうも・・・ぜはー・・・っ」

「あ、喉渇いたよね? 途中でジュース買っておいたんだ。 はいこれあげるね」

涼しい表情でそんな事を言うオリカ。 ボクはもう背筋がぞくぞくして、一刻も早く逃げ出したい気分で一杯だった。
大声で悲鳴でも上げたら助けが来るだろうか? いや、そんな女の子みたいな事はしたくない・・・なんでこんな事になってしまったんだろう・・・。

「オリカ・・・・スティングレイ・・・だっけ・・・?」

「名前覚えてくれたんだ! 嬉しいな〜♪」

多分一生忘れないと思う・・・いや、忘れられないと思う・・・。

「本当に・・・・お前・・・なんなんだよ・・・!?」

「女の子には秘密が多いんだよ〜」

殺意が沸いた。

「ちゃんと説明しろッ!! 何なんだよお前ッ!! ストーカーか!? ストーカーなのかッ!?」

「違うよ〜〜〜これも愛だよ〜〜〜っ」

自分の表情がどうなっているのか余り確認したくなかった。
きっと今まで見た事もないような複雑な表情をしていただろうから。
恐怖と怒りと呆れがごちゃ混ぜになったような、混沌とした顔色・・・そんなのは出来れば一生見たくない。

「リイド君と、私の心は、いつでもつながってるんだよ〜」

「かっ・・・かんべんしてくれえっ・・・」

「ぶー・・・? リイド君、私の事知らないの・・・?」

「初対面だって言ってるだろ!? 知ってたらおかしいからっ!」

「夢の中で何回も逢ってるのに?」

空気が変わった。
ボクの中で何かのスイッチが入り、先ほどまでのふざけた空気などはどこかへ吹き飛んでいく。
立ち上がってオリカの襟首を掴み上げ、そのふざけた瞳を睨みつける。

「・・・・・・何故それを知っている」

「ふえ〜ん・・・おこられたあー・・・」

「冗談はそのくらいにしろ・・・お前がそれを知っているはずがないんだよ」

そう。 そのことは、カイトにしか・・・しかも障りだけしか語っていない、ボクとカイトしか知らないはずの情報だ。
それを知っている・・・しかも張本人が現れたとなれば、いい加減ボクだっておかしいって気づく。
いや、元々何もかもおかしかったんだ。 初対面なのに飛びついてくるわ、名前は知ってるわ・・・何もかもが異常だ。

「やっぱりちゃんと覚えててくれてるんだね・・・知らないなんて意地悪なんだから」

「お前だって初対面だって言っただろ」

「現実ではね。 でも、夢の中じゃ数え切れない程逢ってる・・・きみは覚えてないかもしれないけど、きみの事なら何でも知ってるよ?」

「んだと・・・」

「今リイドがすごく落ち込んでいるって事も知ってる。 大事な人がレーヴァテインのせいでいなくなっちゃったんだよね。 今だってそう、表面上は気にしないフリしてるけど、本当は今も罪悪感に苛まれてる。 悲しくて口惜しくて、どうしようもないくらい、ここから逃げ出したいって考えてる・・・そうでしょ? ね、リイド」

「・・・・・・・・・・・・・」

今度こそそれは本気の悪寒だった。
見ず知らずの人間が何もかも自分の事を見透かしているという事実。 これが恐怖でなくてなんだというのか。
オリカの目は透き通った青色でボクを映し出し続けている。 ずっと前から知っていたかのように。 ただただ、青く。
襟首を掴み上げていた手から力を抜いた。 いや、力が抜けたのだ。 理解できない状況に、身体は素直に反応した。

「私の事、怖いよね・・・」

ボクは答えない。 オリカはそれでも胸に手を当て、言葉を続ける。

「気持ちはわかるよ。 でも、知ってるんだからしょうがないよ・・・。 別に調べたわけでも、知りたいって願ったわけでもない・・・あ、リイドの事は好きだからリイドのことなら何でも知りたいんだけど、でもプライベートまで勝手に詮索するつもりとかは、ほんとなくてねっ?」

顔を赤くしながら手をブンブン振り回し、それから小さく舌を出して笑う。

「でも、リイドが辛い時、傍に誰も居てくれないんじゃあまりにも可愛そうだから・・・だから我慢できなくて逢いに来ちゃったんだ」

「夢の中から、か・・・・?」

目の前の少女がボクの中の架空の存在だとでも言うのだろうか。
そんな幻覚を生み出してしまうほどボクの心は疲れ果てていたのだろうか。
しかし少女は首を横に振る。 それは違う。 自分は実在する存在だ、と。

「私はここにいるよ。 もしかして忘れちゃったのかな? 前にちゃんと言ったと思うんだけど・・・」

滑らかな唇が、ゆっくりと動いて。

「『だからきっと、会いに行く。 きみがどこにいたって、わかるよ。 だからいつでも、必ず、きみのそばにいる』・・・ってね」

それは。
確かに、夢の中の彼女がボクに言った言葉で。
だから、それが嘘だなんてボクは言えなくて。 もう、わけがわからなくなる。
その場に座り込み、盛大に溜息をつく。
オリカは申し訳なさそうに笑いながら、ボクの隣に座った。

「急すぎたよね・・・ごめんね? リイドに迷惑かけるつもりとか、ホントになくて・・・。 だって、見てられないよ・・・好きな人が苦しんでるの、ただ指を咥えてなんて・・・」

「もう、何でもいい・・・あんた、何が目的なんだ・・・」

単刀直入に切り込む。 少女は、目を丸くしていた。
それはきっと、何でそんな当たり前のことわざわざ聞くの? なんていう、彼女にとっては意外すぎる質問の回答だったから。
優しい目。 しかし眼差しには強い意志を感じる。 逃げてばかりのボクなんかとは余りにも違いすぎる、強固な決意のようなものを。
少女は。

「オリカ・スティングレイは、きみを助けに来たんだよ」

自らの胸に手を当て、目を細める。
静かに風が吹き、彼女の黒髪が靡いて、そして少女はボクの胸に手を当て、にっこりと、笑う。

「きみの事を、守りに来たんだよ?」

そこに、悪意なんか欠片ほども存在していない。
確かにこいつのやっていることは最初からいきなり迷惑千万だったけれど、どれもがボクを本気で想っていて。
傷ついているのが見たくないから、がむしゃらすぎて、行動が追いつかなくて。
だからきっとボクなんかより余程優しくて・・・純粋な心の持ち主なんだと思う。
思わず項垂れた。 走りつかれたせいだろうか、思考がぼんやりしていて、妙に気分が清清しい。

「えへへ・・・何だか面と向かってこういうこと言うのって、少しだけ照れくさいね?」

「そうかい・・・」

「あのね・・・もしかして、迷惑かな・・・? リイドが困るなら、私・・・もう二度と現れないようにするけど・・・」

「いや・・・・・・」

そんな口だけだろ。 既に泣き出しそうな女の子にそんな事を言えるほどボクは鬼畜ではなかった。

「もう、好きにしろよ・・・・・・」

思わず苦笑する。 すると、それを見逃さなかった彼女は満面の笑みで野球帽のつばを人差し指で押し上げて、ぱあっと笑う。

「やっと笑ってくれたね、リイド」

それは花が咲くような笑顔で。
なんだか脱力する。 落ち込んでいるのが馬鹿馬鹿しくなってくる。

「ねえリイド、このまま戦い続けていてリイドは本当に幸せなの?」

「―――え?」

少女は手を差し伸べてボクに問う。 この手を取るか、否かと。

「リイドが望むなら、私は全部投げ捨ててもいい・・・きみの望むところまで、一緒に行ってあげる」

だから。

「ねえリイド・・・辛い事なんか忘れてどこか逃げちゃおうよ。 誰も私達の事を知らない遠い場所まで、二人でさ」

まるで、悪戯を楽しむ子供のような無邪気な笑顔で彼女は言うのだ。
ここから逃げ出してしまえばいいじゃないかと。
それを責めず、自分も共犯者になってあげると。
だからそれは自分でも心がぐらつくほど、とんでもなく魅力的な提案だった。

だってそうじゃないか。 別にもう、戦い続ける意味なんてない。
最初からなかったんだ。 たまたま特別に憧れてレーヴァに乗って、戦って。
でも全然ボクは特別なんかじゃなくて。 無力なただの馬鹿で。 最低の人間で。
イリアもいなくなって、カイトにも嘘をついて。 アイリスには、大嫌いって言われて。

ああ・・・・・・・・・・。

明日からの事を、何も考えたくない。

きっともう、誰もボクの事なんか必要としてくれない。

誰も、誰も、誰も・・・ボクを許してなんかくれないだろう。

「ボクは・・・・・・・・・」

立ち上がる。 少女は答えを待つように、静かに帽子の影からボクの様子を覗いている。
初対面のわけのわからない女についていっていいのか。
そんなやり方で逃げ出してしまっていいのか。
様々な葛藤はある。 でも―――。

「もう、ここに・・・居たくないんだ―――」




それは、オリカでなくちゃいけなかったわけじゃない。



正直誰でもよかった。 ボクを現実から連れ去ってくれるのであれば、何でもよかった。

だからボクは当たり前のようにその手を取って、強く握り締めて。



「逃げてもいいのかな、オリカ・・・・・・誰にも嫌われないところに」


彼女は言うのだ。


「きみが望むなら、どこにでも行けるよ」


そういって、笑うから。

だから、二人で学園祭を抜け出した。

いけない事をしているのは分かっていた。 でも、だって、仕方ないじゃないか。


これから毎日毎日罪悪感に苛まれながら、アイリスと会うたびにあんな事を言われながら、色々な人に嘘をついていきていくくらいなら。


消え去ってしまいたい。 いなくなってしまいたい。 それがどんなに馬鹿馬鹿しいとわかっていても。


だって、しょうがないじゃないか。


少女の手は暖かく、優しく強くボクを引っ張るのだ。

もう、ここにいなくてもいいんだよって。

風と光の中で、微笑んでいるのだから―――。



〜用語解説その・・・いくつだっけ〜

*新キャラとか*

『アイリス・アークライト』

年齢:14 性別:女 髪:赤 目:赤 身長:140強
イリスの妹であり、アウトドアな姉と比べ非常にインドア。
趣味は読書と楽器演奏。身体が弱く、フォゾンによる影響を受けやすい。
リイドが放ったユウフラテスの影響で一ヶ月間入院し、退院直後に姉が倒れた事を知る。
姉が倒れた原因はリイドにあると思い込み、リイドを憎む事で心の平穏を保っている。
誰に対しても敬語で接し礼儀正しくおしとやか・・・に見えるが、イリア譲りの勝気と短気、さらに姉に甘えまくっていたので少々我侭な部分も存在する。
イリア以外の人間には心を開かないが、知り合いであるカイトだけはレーヴァパイロット関係者の中でも友好的。
姉同様高いフォゾン適合能力を持つため、ヘイムダルのパイロット候補筆頭。


『オリカ・スティングレイ』

年齢:17 性別:女 髪:黒 目:青 身長:160強
リイドの夢に頻繁に現れていた少女。
夢の中の格好とは違い、なにやら間違った方向におしゃれを楽しんでいる模様。
共同学園には通っておらず、15の時から一人暮らし。現在はフリーター。
昔から夢で見てきたリイドに憧れ、その心に理解を示す。
ありとあらゆる状況を楽しみ、幸せに生きることが得意な頭の緩い少女であり、その言動は非常に奇怪でこの作品中でも異色のキャラクター像であることは言うまでも無い。
所謂天然系だが、シンプルな思考に秘めた強い意志は何者にも屈しない。
多くの秘密を背負い、リイドにとってかけがえの無い存在となる少女だが・・・。
趣味は妄想と帽子、被り物集め。
頭の上に何か載せていないと落ち着かないという変な性質。


『ヘイムダル』

ジェネシス製人型戦闘機の試作タイプ。
レーヴァテインの量産化計画により生み出された擬似アーティフェクタであり、非常に高性能だが量産が出来ないというちょっと不思議な量産型。
搭乗者を選び、意思で操るのまではレーヴァテインと同じだが、干渉者が必要ない、フォゾン装甲が存在しない、フォゾン化現象が起こらないなど様々な相違点が存在する。
操作には専用のスーツを着込み、そこからつながった細い電信を肉体に一時的に打ち込み、脳からの信号を直接機体に伝える仕組みであり、実際意思で動かしているわけではない。
電信は非常に細く刺さったところで殆ど痛みは感じないが、なれないとちくっとする。
この専用のパイロットスーツはイリア、カイトなどの負傷を踏まえ、専用の防護機能も備えており、非常に安全性が高い。
ヘイムダルの装甲はフォゾンに対する防御能力を持つため、神の攻撃にも耐え切れるとされている。
各部マウントに武装を装着し出撃できるため、様々な状況に対応可能である。
能力は無論レーヴァテインには劣るのだが、単純に人類が生み出した人型兵器としては最高ランクに君臨する。


『ホルス』

第一神話級。
第一神話級の強さは大体第三神話級の三乗。
地球の周回軌道を高速で飛び回るだけの、本当に何もしない神。
熱フォゾンを纏い、円柱状の突撃形態と人型の白兵戦闘形態を持つ。
イリアにとっては忘れられない相手であり、そして彼女の心を砕いたメンバー誰もにとって特別な意味を持つ神でもある。
ただ周回軌道を回るだけで人類に被害はないのにケンカを吹っかけられなぜか怒られるかわいそうな子。
イカロスの頭とか貫通してみたものの、やられてしまっては意味がないですよね。











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