霹靂のレーヴァテイン(17/67)縦書き表示RDF


一区切りとなる第六話です。
霹靂のレーヴァテイン
作:神宮寺飛鳥



翼よ、さようなら(1)



自分の人生は順風満帆で、それはこれから先も変わることはないのだろう・・・そう少女は思っていた。
歳を重ね、生を重ね、それでも何も変わらなかった。
勉強は苦手だったけれど、人よりも早く走れて、強く戦えた。 だからそれだけでよかった。
人より優れている部分があるから、自分は人よりも優れているのだと考えて疑わなかった。
だから、レーヴァテインの干渉者に選ばれた時も、当然だと思っていた。
自分は特別なのだから、特別な事を成して当然だと。
事実少女は特別で、レーヴァテインを動かすのも上手かった。
だから負けることなんて考えた事もなくて。 挫折した経験なんて一度もなくて。
そうしてあっけなく転んでしまった時、自ら立ち上がる事も出来なかった。

「偉いおしとやかになっちまったな」

少年は医務室の隅っこで蹲る少女に向かって言った。
返答は無い。 それでも少年は言葉を続けた。

「自分のせいだとか、そういうのって下らねえと思わないか?」

世界は自分ひとりで動いているわけではない。
たとえどんなに自分ひとりが努力しても何も変えられないこともある。
逆に周囲がどんなに努力しても、自分ひとりのせいで何も変えられないこともある。
だから、原因を一つと断定するのは意味のないことだと、少年は諭した。

「落ち込んでいてもしょうがねえ。 スヴィア先輩がいなくなったのだって、お前のせいじゃないさ」

ほんの僅かに顔をあげてみる。
少女の暗く閉ざされていた視界の先。 開かれた空間の先。 少年は手を差し伸べて微笑んでいた。
それが酷く自分にとってみっともないことで、情けないことで、悲しいことで。 だから少女はぐっと堪えていた涙を流してしまった。

「泣くなよ、イリア」

少年は屈んで、少女と視線の高さを合わせてその頭に手を乗せる。

「泣いてたら、かわいくねえぞ?」

その頭を、優しく撫でながら。
君は悪くないよ、と・・・笑ってくれていた。



⇒翼よ、さようなら(1)



「あたしが出撃します」

開口一番、イリアは強い口調でそう断言した。
その発言を誰もが受け入れ、反対する者は一人も居なかった。 イリアの戦いたいという意思は、誰もが理解していたから。
事は突然起こった。 大気圏外を探索していたジェネシスのレーダーに、ある神の反応が検出されたのである。
その名は第一神話級『ホルス』・・・かつて一度ヴァルハラを襲撃し、そして辛うじて撃退する事に成功した炎の神話。
イリア・アークライトという少女が、翼を焼かれ失った・・・正真正銘、彼女の根底に存在するトラウマそのものだった。
一年前、スヴィアが乗り込んだイカロスはホルスに敗北した。 しかしホルスはそのまま何をするでもなく、地球の周回軌道を飛んでいたらしい。
元々何もしない神だった。 探知するのも難しい。 だからこそ、それと戦い破れるなど、本当に稀な事例。
それに挑もうと言い出したのも、イリア。 それに負けてしまったのも、イリアだった。
人類に何をするでもなくただただ漂うだけの神話。 上級の神・・・第一神話級には稀にそうした無意味な行動が見られる事がある。
それは彼らが下級神に比べ明確な意思を持ち、個性というものを所持しているからだと言われている。
その個性を持つ、神の意思にたまたま気まぐれに見逃してもらえた・・・そんな強烈な敗北感がイリアのプライドにざっくりと突き刺さって穴をあけたまま、今まで一年間彼女を責め立て続けていた。

「あたしが出撃して、今度こそホルスを倒します・・・!」

胸に手を当て、決意するように発言する。 しかしブリーフィングルーム内の空気は彼女ほど好戦的ではなかった。

「しかしですね、イリア・・・ホルスは別段今は放っておいても問題のない敵です。 人類にとって全く害がない以上、下手に手を出す必要もないかと思うのですが」

嗜めるようなヴェクターの言葉。 それは正論だった。 このまま放っておけば、きっと数時間後にはヴァルハラの頭上を通り過ぎ、また人類には探知できない彼の旅が始まるだろう。
だから、何もしなければいい。 傷つくこともなく、ただ何もしなければそれで丸く収まるのだ。
それでも少女は、それを理解していながら少女は、強く拳を握り締める。

「迷惑だって事はわかってます・・・以前の二の舞になるかもしれないこともわかってます・・・みんなを危険にさらすだけだって事も・・・ただの我侭だって事もわかってます・・・! でも、お願いします・・・どうしても勝ちたいんです・・・っ! このままじゃあたし、一生飛べないままなんです・・・っ!」

太陽ホルスに近づこうとして翼を焼かれた少女イカロス
もう一度その燃え尽きた翼を自らの心に取り戻す為に、たとえ危険でもまた太陽に挑みたい。
それは少女の切なる願いだった。 以前から周知の事だった。 それでもヴェクターは首を縦に振るのを迷っていた。

「気持ちはわかります。 けれど、あなたのそんな不安定な心でホルスに勝利出来るのですか?」

「・・・・・・それはっ・・・やってみなければわからないわ・・・!」

「いいえ。 心理状態の不安定さはレーヴァの性能を極端に左右します。 あなたも知っている事でしょう? だから前回、不意を突かれて動揺したあなたは負けたのではなかったですか?」

「・・・・・・ッ」

ぐうの音も出ない正論。 別に彼女を言い負かせたくて言っているわけではない。 ただ勝利の根拠もない戦場に部下を向かわせる事は出来なかった。
第一神話級となればそれはクレイオスやアルテミスどころの話ではない。 自ら明確な意思を持ち、本能だけで戦う低級神とは存在の格が違いすぎる。
むやみに手を出せばレーヴァテインとてあっと言う間に敗北しかねない強敵・・・それを相手に足場も固まっていないでどう勝利しようというのか。

「それにイリア。 今度負ければ、死ぬのはあなただけではない。 沢山の人の期待と命を背負っているレーヴァと、あなたの大切な仲間を殺す事になりかねないんですよ?」

「それは・・・わかってる・・・けど・・・・・・でも・・・だって・・・! あたし・・・みんなの足手まといで居たくないっ!!」

顔を上げ、悲痛なくらい必死に叫ぶ。

「空も飛べなくて何がレーヴァテインよ! あたし、誰かの力を借りなきゃまともに出撃も出来ないのなんてもう嫌なのっ!! 乗り越えたいのよ! 自分自身の弱さを! お願いヴェクター・・・お願いしますっ!!」

深々と頭を下げるイリア。 しかし、結局出撃許可は出されぬまま、ブリーフィングは終了した。
残されたのはがっくりとうな垂れるイリアとそれを囲むように立つカイト、リイド、エアリオの三人だけ。

「・・・・・・あたしなんかが・・・よわっちいあたしなんかが・・・ホルスに勝てるわけないって・・・レーヴァを任せられないって・・・思われても仕方ないよね・・・」

今にも泣き出しそうな表情で振り返ったイリアは無理矢理笑ってみせる。

「あーあ・・・駄目だなあ、あたし・・・ホント馬鹿だ・・・弱くて嫌になる・・・」

「イリア・・・」

「いいんだ、わかってるんだ・・・本当はホルスを倒さなくてもあたしの気持ちが安定すれば翼は使えるんだって。 でも・・・どうすればいいのかしらね」

普段は仲間にも見せないような弱弱しいその姿に誰もが言葉をなくしていた。 しかしカイトだけは強い瞳でイリアを見据える。

「俺からも頼んでみるよ。 出撃させてくださいって」

イリアの頭に手を乗せ、わしわしと乱暴に撫で回す。

「俺が乗ってやる。 一緒にあいつ、倒しに行こう」

「カイト・・・」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

慌てた様子で口を挟んだのはリイドだった。 自分でも何故口を挟んでしまったのかよく分からないまま、少年は言葉を続ける。

「カイト・・・レーヴァには乗れないんじゃなかったの・・・?」

そう、だから。
自分はたった一人のレーヴァテイン適合者で。
だから今までだってそうして戦ってきて。 だから自分はすごいんだって。
仕方のないことだった。 少年はカイトにどこか憧れている節さえある。 しかし、何一つ追いつけないその存在は時に少年にとって厄介なものにもなりえる。
だから、自分だけがレーヴァを動かせて、カイトの代わりにやっているんだという事実は少年にとって今の関係性を守る重要な安定要素だった。
それが崩れ去ってしまう。 そうなってしまったら、本当に自分が惨めになってしまう気がしていた。
けれどそれをとめるほうがもっと惨めで馬鹿馬鹿しいことだということに少年は気づけない。
なぜなら自分自身が抱いているコンプレックスそのものに、まだ気づく事が出来ないのだから。

「一度くらい大丈夫だろ。 自分の体の事くらい・・・自分が一番良く分かってるさ」

「あたしも・・・カイトにお願いしたい」

イリアは顔を挙げ、カイトを見つめる。

「やっぱり・・・カイトじゃなきゃ勝てないと思うから・・・」

「・・・・・・まあ、何はともあれもう一度抗議だ! いくぜ、イリア!」

部屋を駆け出していく二人。 残されたリイドはそれを見送る事も出来ないまま、ただその場に立ち尽くしていた。
この状況がうまく理解できないでいる。 握り締めた手は汗ばんでいて、喉はからからだった。
だってそれは、イリアは・・・自分よりカイトの事を信頼しているということで。
わかっている。 それは当然だと。 けれど少年はそれが、その事実が、出来れば知りたくなかった。

「・・・・・・ボクの方が・・・きっと上手くやれるのに・・・っ」

カイトのほうが信頼されている。
カイトのほうが上手くレーヴァを動かせる。
だとしたら、自分がここに居る理由はどこにある?
何も理由がなくなった時、自分自身はどうなってしまうのだろう?
ここを特別な場所だと言えるのだろうか?
自分を特別な存在だと言えるのだろうか?
無価値な何かに成り下がってしまうのではないか?
誰かにとって必要ではない存在になってしまうのではないか?
様々な疑問が頭の中をぐるぐると駆け巡り、目まぐるしいほどその悪寒はとめる事が出来ない。
だから、本当に、ほんの少しだけ。
イリアとカイトが負けてしまえばいいのに、なんて・・・そんならしくないことを考えてしまった。

「リイド?」

「・・・・・・うん?」

「みんなもう、行っちゃった」

「そうだね・・・」

「リイドはどうするの?」

「・・・ボクは・・・家に帰るよ。 まだやってない宿題とか・・・あるしさ」

「でも・・・あっ」

エアリオの声を無視してブリーフィングルームを後にする。
なんだか酷くどうでもよくなっていた。 どうせ自分が必要ないならここに居る必要もないじゃないか。 そう思う。
それは嫉妬だったのかもしれない。 或いは寂しさだったのかもしれない。 とにかく少年にとって始めてのそうしたドロドロと渦巻く感情は、リイドを深く追い詰めていく。
他人に関わってこなかった報いなのかもしれない。 傷つく事がなかった報いなのかもしれない。 傷つける事を何とも思わなかった、報いなのかもしれない。
少年は理解できない。 自らが何故苦しんでいるのかを。
少年は理解できない。 カイトとイリアの関係を、自分がどう思っているのかを。

少年は、理解できない・・・。



「覚えてるか? お前がホルスに負けた時の事」

格納庫に並んだ二人はレーヴァテインを見上げていた。
カイトと二人で頼み込み、出撃許可は何とか得る事が出来たものの、出撃して勝利出来る保障は何もなかった。
少年の質問は酷く的外れだった。 少女がそれを忘れるわけがない。 少しだけ恥ずかしそうに、小さく頷いた。

「覚えてる。 回収されたレーヴァのコックピットを強制開放して・・・カイト、助けに来てくれたよね」

嬉しそうに微笑む少女。 イリアの中で今でも色あせず鮮明に存在する幸福の瞬間。
あの時は素直になれずその手を振り払ってしまった。 けれど今は・・・もう少し素直になればよかったと思う。

「カイト、懲りずにあたしに声かけてくれたよね・・・ヤなやつだったのに・・・」

「ははは、まあ俺は好き嫌いとかしない性質だからな」

「・・・・・・ううん、ほんとに、カイトには感謝してるんだ・・・あたしきっと、カイトが居てくれなかったら立ち直れなかったと思う」

「そうかい」

「うん・・・そう」

「なるほどねえ」

「カイト」

「んっ?」

「・・・・・・だっ・・・・抱きしめてもいい・・・?」

「・・・・・・お、おぉ?」

「じゃ、じゃあ・・・遠慮なく・・・」

緊張しすぎてかちんこちんの動作のまま、カイトの胴体に抱きつく。
数日前、エアリオに自らがそうしてあげたように。
確かにエアリオの言うとおりだった。 こうしていれば、様々な不安が吹き飛んでいくようだ。
しかし無論イリアにとってそれだけではない理由がそこにはあり、だから恥ずかしくて顔から火が出そうだった。

「ていうか・・・だっ・・・抱きしめてください・・・っ」

「おぉ・・・いいけど・・・こうか?」

「も、もっとつよく」

「ん」

ぎゅうっと、強く、少年に抱きしめられている。
ものすごく恥ずかしいはずなのに、とても暖かかくて、思わず熱っぽい息を吐いてしまうほど、とんでもなく心地よかった。
そうしているだけでこれから戦う不安が全て吹き飛ばせそうで。 だから少女はもう、今くらいいいやと、素直にその温もりに身を埋めていた。

「カイト・・・・・・あたし・・・勝てるよね?」

「ああ。 あの時だって勝てるはずだったんだ。 もう負けねえさ」

「うん・・・そうだよね・・・負けないよね・・・・・・」

カイトに抱きしめられて安心している自分が嫌だった。
誰かに肯定してもらえなければ強く在れない自分が嫌だった。
弱い自分が嫌で、みっともない自分が嫌で、強く在ろうと、ただ強く在ろうと、胸を張って生きてきた。
けれど背伸びの結果、思い知らされるのはいつだって自分の弱さだけで。
だからきっと、自分は傍にカイトが居てくれなければもうだめなんだろうな、なんて思うのであった。

「ありがとう・・・・・も、もう大丈夫よ」

「遠慮すんなよ。 どうせ出撃までは時間あるんだ・・・もう少しこうしてろ」

「・・・・・・ううううっ・・・」

少年の優しい声に思わず涙が出そうだった。
だからその名前を何度も呼びながら、涙を上着に染み込ませていく。
少年はその少女の姿を―――静かに黙って見下ろしていた。
その表情は普段の彼とは違い・・・どこかもの悲しそうで、迷いを含んだ瞳。
静かに見上げたその先には鉄の天井。
少年は静かに、少女に聴こえないように溜息をついた。



「リイド・・・入ってもいい・・・?」

警報が、鳴り響いていた。
レーヴァテインが出撃する度、カタパルトエレベータ周辺は立ち入り禁止となり、住民には一時退去を命じる警報が鳴り響く。
それを聞くのは随分と久しぶりのことだった。 今まではリイド本人がその出撃するレーヴァテインに乗り込んでいたのだから当然である。
だから物思いに耽りながら町を見下ろすリイドには、わざわざついてきたエアリオの声なんて届いていなかった。

「リイド・・・・・・」

リイドの部屋の扉に背を預けながらエアリオは静かに唇を噛む。
胸が苦しいのは何故なのかわからないけれど、リイドが自分の声を聞いてくれないのは堪らなく嫌だった。
でも、どうしてなのだろう? 強くそれを言う事が出来ない。 誰かに気持ちを伝えるのだと思うと、それが怖くて仕方がなかった。
今までリイド以上に一人で生きてきたエアリオにとってそれは未知の世界であり・・・リイドもまた、そうした弱さに疎い人間だったから。

「わたしは・・・リイドにとって・・・不必要な存在なのか・・・?」

膝を抱えて小さな声で自らに問い掛けてみる。
そんなのは嫌だ。 考えたくもない。 でも、何故リイドなのだろう?
今までどんなに他の人に気にかけられない存在でも、なんら問題なかったというのに。
何故、出会って一ヶ月そこそこのリイドという少年が、こんなにも自分の中で大きな存在になってしまったのだろう。
理解できない。 それは当然の事だった。 強いて言うならば、運命とでも言うのだろう。
意を決し、扉を開く。 リイドはゆっくりと振り返り、それからすぐに視線を窓の外に戻した。

「何だ、お前も戻ってきたのか・・・」

「うん・・・」

「・・・・・・入れば? そこに立っててもしょうがないだろうし」

部屋に入り扉を閉める。 しかしリイドは窓辺に立ったまま、エアリオの事は見ようともしない。
リイドが何かしらの理由で落ち込んでいるのはわかる。 けれど何て声をかければいいのかわからない。
自分が何かいってあげたいのに、いってあげた事がないからどうすればいいのかわからない。
何をすればいいとか、どうすればいいとか、考えた事が一度もないから、もう本当になにも、なにもわからなかった。
リイドが落ち込んでいる理由も、自分が落ち込んでいる理由も、自分がリイドに何故声をかけたい理由も。
だから少女はもうわけがわからなくて、ベッドに腰掛けて俯いてしまう。

「・・・・・・」

何か、仕事以外の事を話そうにも、リイドと共通の話題が存在しない。
リイドと自分を結んでいる絆はレーヴァテイン、それだけ。 だから、何を言えばいいのかもわからない。 どんな話をリイドが好むのかも、わからない。

だから。

「リイドは・・・イリアの事が、好きなのか?」

そんな事を聞いてしまっていた。
振り返ったリイドは複雑そうな表情でその言葉を自らの中に反芻する。 それから腕を組み、口を開いた。

「何だ急に?」

「ん・・・いや・・・リイドはイリアの事が、好きなのかな・・・と思った」

「どうなんだろうな・・・言われるまで考えもしなかった可能性だよ、それは」

その返答になぜか安堵している自分が居た。
そもそも好きという事が理解できないのになぜそんな事を聞いたのだろう? と思う。
何故好きという言葉を口にしたのだろう? と思う。
上目遣いにリイドを見ると、リイドは疲れたような表情でエアリオを見下ろして、力なく笑った。

「変なやつだな・・・どうしたんだ?」

「リイドは・・・わたしのこと、好きか?」

「は?」

自分でも顔が赤くなっているのを感じる。
しかし、何故またそんなことを口走っているのかさっぱりわからない。
わからないまま、復唱する。

「リイドは・・・わたしのこと・・・、」

その時だった。


『ヴァルハラ全市民は、出来る限り下層に直ちに避難してください。 本社直下の避難用プレートへ、順次避難行動を開始してください。 尚、非難行動はプレートごとの地区管理者の指示に従い・・・』


「警報・・・!?」

リイドが窓辺に飛びつく。 エアリオも慌てて窓の外を見渡した。
誰もがざわつき、突然のことに対処できないで居る。
それは一ヶ月前、リイドがクレイオスと戦ったときと同じ警報・・・。
ヴァルハラという都市に、危機が迫っているという明確な事実―――。

「何が起きて・・・うわっ!?」

ヴァルハラ全体が、揺れた。
そんなことは通常はありえない。 しかしなんらかの凄まじい衝撃がヴァルハラのどこかに加わったのである。
焦りと困惑が少年の思考を支配していく。 先ほどの衝撃がリアルな警告となったのか、誰もが我先にと避難用エレベータに急いでいた。
ところどころから聴こえてくる悲鳴。 叫び声。 まるで一ヶ月前の再来だった。

「エアリオ! 本部に戻ろう・・・何がおきてるのか確かめないと!」

「・・・リイド、あれ!」

「え?」

振り返るリイド。 視線の先はプレートとプレートの間から見える空。
そこを、なにかが、おちていく。

燃え上がり、装甲が剥がれ落ち、今にも朽ち果ててしまいそうな、ぼろぼろの何かが―――。

「うそだろ・・・!?」

海に、落ちていく。
焼かれた装甲は水蒸気を巻き上げ、高く水しぶきを上げる。
リイドはただただ呆然とその落ちていった何かの映像を頭の中で再生していた。
そう、それを見間違えるわけがない。 自らの記憶の中に深く刻み込まれた確かな存在―――力。

「イカロス・・・・・・」

立ち尽くすイリアの手を引き、エアリオは早く行こうと促す。
立ち止まっていても仕方がない。 全ては自ら行動せねば変えられない・・・知ることすら、出来ないのだから。

「行こう・・・!」

そうして少年は遭遇する事になる。

自らの運命という、過酷な現実に。

それを少年が知るのは、まだもう少し・・・もう少しだけ、先の話だった。












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