第6話:気付かないふり
「久しぶり、明。元気してた?」
美智は掴まれた腕をさりげなく外すとわざと明るい声と笑顔を作る。
そんな美智を見て、明は一瞬悲しそうな表情をした。が、美智は気付かない振りをする。
(ごめんね。でも…………)
「本当、久しぶり。十年振りだね、どうしたのこんな所で?」
「美花にね、花をあげに来たんだ」
「そっか」
明はそう言うと花の前にしゃがみ込み手を合わせる。そんな明を見て美智は、再び心の中でわびる。
(ごめんなさい。二人の関係を変えたの私なのにね)
明は、立ち上がると美智に向き直る。
そんな明を改めて見て、驚いた。何時の間にか自分より頭一つ分背が伸びている。
でも、よく見ると明は、昔と変わらずノンフレームの眼鏡をかけ、その穏やかで知的な雰囲気は変わっていない。
彼は村の名家の跡取息子として女子の間では絶大な人気を誇っていた。
そのせいか幼馴染である美智達はいつも他の子から嫉妬の眼差しを向けられ困惑していた。
「どうしたの?」
明に問われ慌てて思わず美智は、目をそらす。そして見つめていたのをごまかすように明を促し、山道の入口へと向かう。
「何でもない。それより明こそ何してるの?」
「ああ、儀式が近いからその打ち合わせでね。僕も仕事があるから困るんだけど、父がぎっくり腰でね」
「そうなんだ。明の仕事って?」
「光泉高校で数学の教師をしてる。美智は?」
「私はタウン誌の記者兼編集をしてるの」
「仕事は? 今日は平日だろ?」
「休暇でね。一週間くらい清流荘に泊まるの」
「そうなんだ」
「そうだ! 聞いたよ、夏美との縁談話」
「あぁ、聞いたんだ」
明はワントーン声を落とし、溜息をつく。
「本当に困るよ。別に僕が結婚したからって皆するとは思わない、昔と違うんだから」
「だったら、そう言ってあげてよ。夏美、困ってたよ」
「そうしたいんだけど、儀式の準備だなんだって忙しくて。その上、両親までも真剣に検討し始めちゃったから。夏美と二人で親を説得しようにも打ち合わせが出来ないんだ。分るだろ?この村で誰にも話を聞かれない場所なんてないし」
「確かにね。…………じゃあ、私の家で話せば?」
「美智の家?」
「うん、せっかくだから風通しもしたいし。功も帰って来てるはずだから皆で飲もう!!」
「いいね、じゃあ明日は? 明日は時間が取れそうなんだ」
「分った、二人には言っておくから。仕事が終わったら寄って。じゃあね」
入口まで戻った美智と明はその場で別れ、美智はおばばの家へと向かう。
後ろで自分の姿を見つめる明には気付いていたが美智は気付かないふりをしてその場を後にした。 |