第68話:呪縛
自分の出来る事は全てやった。
「あとは、その時を待つだけ」
美智は、誰にも見られていないのを確認すると、一人で笑った。
まさか、あの手紙一つでこうも簡単に状況が動いてしまうものなのかと、何だか無性に可笑しかったから。
十年前のあの時は、自分達の無力を嘆くだけっだのに。
あの手紙を受け取った時は、半信半疑だったけど、感覚にまかせて動いてみて正解だった。
「まさか、命がけになるとは思わなかったけどね」
美智は、立ち上がると懐から扇子を取り出し、それを広げた。
描かれているのは、この村の守り神とされている龍神の姿。
――――きっと、龍神様も喜んでくれるに違いない。ついに村人が自らにかけた呪縛を解こうとしているのだから。
『儀式という名の呪』を。
美智は、そのまま部屋の中央へと進む。そして、昔のように呼吸を整えると神楽の音を口ずさみながら、舞始める。
一指、一指、丁寧に。思いを込めて。
その昔、村娘が龍神に祈ったように。
美智が一場面を舞いきった時、扉の開く音が響いた。
「さすが、美苑さんが教えていただけあります」
そう言って現れたのは、神主の妻。
「どうやら、ついに死刑執行のお時間ですか?」
「勘違いしないで下さい。これは死刑などという下賤な行為ではありません。これは、神聖な儀式」
「人の命を命とも思わない、あなたのほうが下賤ですよ」
「所詮、あなたと私とでは考え違います。村の為に生きている私と気ままに生きているあなたとではね。さぁ、時間です。ねぇ、義母様」
それまで能面のような顔で感情を読ませなかった女が、口元を引き上げ不気味に笑んだ。そしてその視線の先には、神崎のおばばの姿があった。
「美智さん、良かったわね。あなたの儀式は、義母様が取り行ってくれるそうよ。ねぇ? 義母様?」
「………………ああ」
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