第64話:不安
灯が無事に禁足地を出たのを見届けた明達は、先ほどまでいた大木の影へと身を潜めていた。
「どうやら、けっこうな人数がいるみたいだな」
功の視線を追って行くと儀式の準備を忙しなく進める村人の姿が目に入る。準備をする村人の顔は皆一様に暗い。
「神楽関係の家の者達ですね。蛍狩りの儀式の方での打ち合わせで顔を合わす面子です」
村人達の暗い顔つきに広田の口からは疑問の声が上がる。
「あんな顔するくらい嫌なら参加しなければいいのに」
その言葉に功と明は、顔を見合わせ苦笑した後、村人達と同じように暗い顔になった。
「この村で生きていく為には、地主と神社の人間には逆らえない。もし、逆らったらその瞬間から村八分にされるからな」
「そりゃ、昔ならそうかもしれませんけど」
「こんな山間の閉鎖された村では、今も昔と変わらない」
「父の代になってけっこう開かれた村にはなりましたけどね。それでも変わらなかったものはある、確実に」
「そしてその変わらなかったものを今夜一つ終わらせるんだ。俺達の手で」
広田の疑問に答えながら功と明は、本当に終わらせることが出来るのかという思いとそれが成功した後の未来への不安と恐怖に今さらながら襲われていた。
そんな二人の張りつめた表情を見て広田は、笑って言った。
「この村の変化を望んでいる人間は、お二人だけじゃない。きっと、ああやって働いている人達にも変化を望んでいる人間がいるはずです。その先のことなんて誰にも分からないですから。とにかく今はやるしかないです」
自分達の緊張を和らげようと励ます広田に二人の緊張は次第に溶けていく。
「そうだな。今は動こう、前に」
功の言葉に明と広田は頷く。
そして禁足地の社の奥へと進み始めた。
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