第63話:祈り
一人部屋に残されてから随分時が過ぎた。あいかわらず部屋の外では、儀式の準備をする人間の声や足音が聞こえてくる。
「さすがにまずいな、この状況」
灯と別れてからそろそろ二時間はたった。儀式がどれぐらいの規模で行われるか分からないのでリミットが計れない。
最悪の場合のことをも考えておかないとまずいだろう。
まず、一番の目的はこの馬鹿げた儀式から逃げだすこと。次に灯の無事を確認または逃走を手助けすることだ。
一人でこれだけのことをするのは難しい。けれど、諦めるわけにはいかない、絶対に。
(とりあえず、私と明に起こった異変に功達が気づいてくれてればいいけど。気づいてくれてれば助けに来てくれる可能性が高い)
「あとは、灯ちゃんをどやって逃がすかよね…………」
「灯ならもう逃がした」
「!?」
突然響いた声に美智は、勢いよく振り返る。
「先生」
「遅くなってすまない」
そう言って苦笑しながら部屋に入ってくる姿は、学生時代に見た川辺と同じだった。
「灯ちゃんを逃がしたって?」
「さすがに二人を連れて逃げるのは無理だから、先に逃がしておいた。美智だけなら、儀式中に逃がしてやることが出来るだろうと思って」
「そうですね、灯ちゃんの体のことを考えたらそれが一番正しいと思います」
当たり前のように自分の言葉を信じる美智に川辺は、困惑する。それを表情から読み取った美智は、軽く肩をすくめた。
「灯ちゃんが信じるなら私も先生を信じます。何より、私は先生の本当の姿を知ってる。誰よりも生徒思いな先生を。ただ私は見てます、先生のこれからを。美花の代わりに」
「………………ああ。ありがとう、美智」
美智の真摯な言葉に川辺は、一瞬泣きそう顔を浮かべた後大きく頷いた。
「時間がないので話を進めます。先生、実は私…………」
それから続いた美智の言葉に川辺は、驚いたようだった。
「…………そのタイミングだな、逃げ出すタイミングは。これを見てくれ」
川辺は古い地図を取り出すと美智と共に逃走ルートの確認などの打ち合わせを急いで行い、部屋をあとにしていった。
「あとは運を天にまかすしかないか。龍神様、本当にいるならこんな事を終わらせてください。そして村の全ての人間の心に平穏を」
美智は手を合わせて祈った。 |