蛍籠(6/72)縦書き表示RDF


蛍籠
作:楓



第5話:おばば


 翌日、美智はさっそく調査を開始することにした。しかし、その前にどうしても行きたいところがあったのでそちらを優先することにした。
 「おはよう、おばさん」
 「おはよう、みっちゃん。良く眠れた?」
 「うん、とっても。あのお願いがあるんだけど…………」
 「あら、何?」
 「旅館に生ける花を少し分けて欲しいの。美花のとこにね………」
 「もちろん、いいわよ。でも、儀式の前だし山に入れるかしら」
 「一応、神崎のおばばに頼んでみる」
 「そうね、そうしたほうがいいわ。ちょっと待ってて」
 女将は、そう言うと奥へと姿を消した。
 神埼のおばばとはこの村の神社の神主さんで村では一目おかれた存在である。村長や深見の家の人間にも意見することが出来る唯一の存在かもしれない。神社は、山の中にあるので普段は息子夫婦に任せて麓の庵に住んでいる。
 美智達姉妹の祖母が神楽の名手だった為、昔から何かと可愛がってくれている。あの事件の時も自分が庵に居れば異変に気付いたかもしれないと美花の亡骸の前で泣いて謝っていた。
 「はい、みっちゃん。お花」
 「ありがとう。って、こんなに! それもこんな立派な花………」
 「いいのよ。おばさんの分も供えてきてちょうだい。ね?」
 「うん。じゃあ、いってきます」
 「気をつけてね」
 女将に挨拶をすると美智は、山の入口にあるおばばの庵を目指した。
 (久しぶりだな。おばばに会うの)
 歩きながら、美智はこれからについて考えた。
 十年前の事件を調べると言っても素人の自分が調べるにはどこから手をつければいいのかと。その上、村の人間には気付かれないようにしなければいけない。
 (うーん、かなり難しいぞ)
 何か手がかりがあればいいけど。 十年前のあの日、村に出入りした外部の人間は目撃されていない。あの頃、市内の役所の人間が頻繁に現れていたけれど関係はないという捜査結果だった。
 (そう言えば、あの頃村の大人達は連日集会所に集まっていた。だから、山に近い民家の人間がこぞって留守で目撃者が出なかった。何で集まってたんだろう?)
 美智は、道中考えに没頭しながらおばばの庵へと向かっていた。そのせいか美智をじっと見つめる人間がいることにも気付かない。やがて、その視線の主はいずこかへ消えていった。
 「こんにちはー? おばば、いるー?」
 庵に着くと庭に広がる縁側から声をかける。
 しばらくすると奥から足音が響いてくる、軽さからいっておばばだろう。
 「おや? 美智じゃないかい。久しぶりだねぇ。どうしたんだい? 急に」
 美智の顔を見るとおばばは嬉しそうに顔をしわくちゃにしながら笑う。
 「うん、早めの夏休みってとこ。おばばも元気そうだね?」
 縁側に腰を下ろすとおばばも隣に腰を下ろした。
 「元気だよ、まだまだ若いもんには負けられないさ。儀式も近いし、忙しく働いてるよ」
 「忙しいのはいいことかもよ?」
 「そうだね。それにしても珍しいお客ばかりだよ。昨日は、功がやって来てね」
 「そうなんだ、何か言ってた?」
 「何でもアルバイトで水質について研究してる友人から泉の水をサンプルとしてとってきて欲しいとかで、山に入っていいかって」
 「それで? 許可したの?」
 「ああ、元々その友人が来る予定で村長が許可を出していたからね。まぁ、他の土地の人間が入るよりはいいさ。功なら禁足地も知ってるしね。で、美智はどうしたんだい?」
 「せっかく、村に来たし花を供えて来たくて。行ってもいいかな?」
 「ああ、もちろんだよ。ただし………」
 「ただし、禁足地には入らないこと! でしょ?」
 「そうさ。じゃないと、龍神様に連れてかれてしまうよ。ただでさえ、あんたは神楽の名手なんだからね」
 「名手はお婆ちゃんだよ。あたしは、全然」
 「そんなことないさ。美苑はあんたを後継ぎに指名したんだからね」
 「ほんと無理だよ、おばば。あたしに神楽は踊れない、もう踊れないんだよ」
 美智は、声を荒げて反論する。
 「……………美智」
 「じゃあ、行って来るね」
 美智は気まずくなり、山へと向かおうとした。すると後ろからおばばの声がする。
 「帰りに寄っておくれ。お茶とお菓子を用意しておくから」
 美智は振り返ると大きな声で返事をした。
 「うん、後でねー!」
 そして大きくを手を振ると庵を後にした。
 山道の入口の前に来るとわずかながら手に震えが来た。現場に足を運ぶのは数年ぶりだ。
 一歩、山に入ると暖かな日差しが降り注ぎ新鮮な空気があふれている。聞こえるのは鳥の鳴き声ぐらいだ。
 美花が発見されたのは、十分くらい歩いたところだ。川が流れていて、その川が禁足地との境目になる。
 その境目の古い橋の横の崖から美花は落ちた。高さはそんなにない。しかし打ち所が悪かったことと発見までに数時間がかかったことにより美花は死んでしまったのだ。
 美智は、持ってきた花を橋の脇に供え、手をあわせた。
 (美花。あんたは何で死んだの? ……………真実って本当にあるの?)
 美智があわせた手を離したその時、急に後ろから手首をつかまれた。
 「痛い! 誰よ!!」
 あまりの痛さに掴んだ相手を思い切りにらみつけた美智は、その予想外の相手に動揺した。
 「……………何で………ここに?」
 「それはこっちの台詞だよ。君こそ何でここにいるの? 美智」
 そこにいたのは、深見 明 、もう一人の幼馴染だった。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう