第4話:蛍狩り
美智と夏美は、清流荘へと歩いていた。
そしてちょうど、三つに道が分かれた地蔵堂の前を通過しようとした時だった、山へと続く道の先からチカチカと一瞬だけ光が見えた。
「夏美! あれ!」
「えっ、何?」
夏美は美智が指差した方に目を向けた。そして美智が見た光と同じものを目撃する。
「何、今の光。あれって人工の光だよね…………」
美智は、そう言いながらまるで吸い寄せられるかのように光の方向へと進み始める。そんな美智の腕を夏美はガシッと思い切りつかみ制止した。
「駄目だよ! 美智。今は儀式の前だから山への立ち入りは禁止だし、今の光の方向って禁足地だよ」
夏美の言葉にはっとした美智は、進みかけた足を戻す。
「そうだよね。…………多分、儀式の準備の光だよね?」
「そうだよ。帰ろう?」
「うん。」
美智と夏美はどこか釈然としない気持ちもあったがそれ以上に禁足地で光った光がとても不気味なものに思えた。その為、二人の足取りは自然と速くなっていった。
「ただいまー」
美智と夏美は、少し息を弾ませながら、清流荘の扉を開いた。
「おかえりなさい。どうしたの? 二人とも…………」
「あ…………、ちょっとね。ねぇ、夏美?」
「うん、ちょっと子供の頃のこと思い出したら競争しちゃって…………」
「まぁ、二人とも子供みたいなことして。あぁ、みっちゃん。広田さんって方からお電話があったわよ」
「広田から? ……………ああ、忘れてた。ありがとう、おばさん」
お礼を伝えると女将と夏美は夕飯の支度があるからと裏へと二人で消えて行った。
美智はとりあえず、荷物の整理をすることにした。
今夜から泊まる蛍の間は、一人部屋だが寝室と小さめの和室がある。
とりあえず、荷物を寝室へと置くと美智は和室の座布団に座り携帯で広田へと連絡をとることにした。
「もしもし? 広田?」
「もしもし? じゃあありません。定期連絡を忘れない約束ですよね?」
「ごめんごめん。無事に到着しました。編集長は?」
「帰りました。とりあえず、僕がサポートに着けと言われました」
「そっか。じゃあ、次からは広田の携帯にかけるわ」
「で、何かありましたか?」
「うーん。幼馴染同士に縁談話が出てたり、あっ、功もやっぱり帰省してるみたい。でも何かごそごそと動いているらしくて、明日の朝になったら家に行ってみる。…………あとは」
急に口を閉じた美智を不信に思った広田は、美智に声をかけた。
「先輩? どうしました? あとはの次は?」
「光。光を見た」
「光ですか?」
「そう、光。多分、人工の光。山のそれも北側にある禁足地の方から…………」
「禁足地ですか?」
「うん、禁足地。私達の村にある神社が奉っている龍神様の泉の方角。多分」
「多分って何で疑問形なんですか?」
「禁足地って言ったでしょ? あそこには、神主さんや村長さんやら決まった人間しか入っちゃいけないの。だから禁足地」
「じゃあ、神主さんじゃないですか?」
「だって、もう夜よ? それに儀式前に山に入る人間なんていないし…………」
「儀式? 何ですそれ? …………あっ! 確か光泉村には昔から続く風習があるって」
「そう。『蛍狩りの儀式』。でもよく知ってるわね?」
「民話を調べたって言ったでしょ? でも、中身までは知らないですけど」
「まぁ、村の人間しかしらないから。儀式っていってもね…………」
『蛍狩りの儀式』
その年七歳になる子供達の健康と成長を願う儀式。
昔、この辺りを飢饉が襲った時、次々と子供達が死んでいった。ある死にかけた子供の母親が子供の命の延命を願い、蛍を籠にいれて泉に沈めた。子供の災厄を受ける形代として。その願いは聞き入れられ子供は助かったという。
それから続く、この村独自の風習。でも、今はさすがに本物の蛍を沈めたりなんてせずに、紙で作った蛍を籠にいれて沈める。
「と、そんな儀式よ。…………そうよね、儀式が近いしその準備よね。って、何よ、黙り込んじゃって」
「いえ。うーん、何か引っかかることがあるというか…………。思い出したら話します。でも、儀式は禁足地の泉でやるんですか?」
「まさか! 別の泉よ。今では光の泉って呼ばれてる一応、観光スポットよ。この村の」
「二つの泉…………。何か喉の奥まで出かかってるんですけど…………」
「まぁ、滞在中に思い出してちょうだい」
「はい。じゃあ、取り立てて何もないようなので安心しました。でも、明日からの定期連絡、忘れないでくださいね」
「はいはい、分かったわよ。じゃあね。」
美智は、電話を切るとパタンと後ろに倒れ寝そべった。
ごろごろとしながら先ほどの光について思案しているとトントンと遠慮がちに扉を叩く音がした。
「はい?」
「美智? 夕飯だけど、下で食べる? それとも部屋に運ぶ?」
「下で食べる」
「分った。じゃあ、待ってるから」
夏美はそう言うと下へと戻って行った。
美智は、とりあえず明日からの調査の為に空腹を満たすことにした。腹が減っては何とやらだ。
(よし、明日から頑張ろう!)
美智は、自分の頬を軽く叩くと食事をとるべく階下へと降りて行った。
|