第39話:川辺 通 <1>
僕が生まれたのは、山間にある村。
主な産業は、農業だった。昔から村に流れる清流のおかげで村は栄えていた。
そんな村の名家の分家に生まれたのが僕、川辺 通だ。
分家と言っても本家とは全然違うごくごく一般的な中流家庭の長男。
この穏やかな時間が流れる村が好きだったのでこの村で一生を過ごすことに何の疑問もなかった。
あの事を知らされるまでは。
その日は、本家に長女である灯が生まれた日で屋敷はもちろん村でも喜びの雰囲気が溢れていた。
そんな時、神社の神主夫妻に呼び出された。
その当時僕は、跡取りが本家に生まれていなかったこともあり、生まれるまでの間の代理として神楽を習っていた。
神楽を舞うこと自体嫌いではなかったのでその時間がけっこう楽しみでもあった。
「通、きみは巫女守に選ばれることになった」
「巫女守ですか?」
その当時、12歳になったばかりの通にはその意味がよく分らなかった。
「そう、君は巫女である灯様が20歳になるその歳まで彼女を守り、またその時行われるだろう儀式の手伝いをすることになる。これは、大事な役目だ。そしてその役目については秘密にしなければならない」
「秘密ですか?」
「そうだ。それが出来るかな?」
神主から期待を込めた目で見つめられると、否とは言えなかった。
どうしてあの時、断らなかったのか。断っていればこんな重荷を背負わされることなどなかったのに。
この手を血で染めることなんてなかったのに。
それでも、僕は自分でこの村に潜むあの深い闇に自ら足を踏み込んでしまったのだ。 |