1話:銀の炎
これは小説ではなく、IRCのチャットログ風味に書いたものです。キャラの会話で軽くストーリーを追っていってくださいまし。なお、最後の「おまけ」は以前、IRCで書いたやつをコピペ編集したもので、廃墟に行く前のやりとりです。黒亜のキャラクターシートはこちら→ http://kataribe.com/HA/06/C/0704/
#日の沈みきった午後11時頃、とある廃墟の広めの庭に一人の少女がいる。夕川黒亜ある。
黒い帽子に黒マント姿であり、その帽子とマントには無数の鎖が無造作に巻きついている。また、顔の左半分は、泣いている人間の顔を象ったような面が覆っており、右手に黒く分厚いハードカバーの本を持っている。
黒亜:「………ここかな」
#辺りを少し見回し、右手に持っていた本を胸の前に持ってくる。そのまま右手を離すと、本が空中に置かれる。少しも動かずに浮んでいる状態である。
黒亜:「……領域展開」
#つぶやくと、目の前に浮かんだ本が開かれ、そのページがパラパラと勝手に捲られていく。
黒亜:「……出てきなさい」
#湿った土と鉄錆のようなが臭いが強くなったが、見た目はほとんど変わらない空間に、うっすらと人の形をした影が見えてくる。
黒亜:「あなたね…」
#ゆらりゆらりと揺れる2 m程度の影。
黒亜:「最近、この辺りで遊んでいる子どもがよく怪我をしたり、突然気分が悪くなったりするって話を聞いたの。もう6人ぐらいかな。もしかしたらここに何かあるかもしれないって思ったんだけど……あなたの仕業?」
影:「……………」
黒亜:「……もしそうなら、ここから立ち去って欲しいの。ここは子ども達の遊び場にもなっているから」
影:「……………」
黒亜:「このまま立ち去ってくれるなら、何もしないから」
影:「………い……まれ……」
黒亜:「…?」
影:「…うるさイ……黙レ……うるさイ……黙レ……」
#ぶつぶつと繰り返す影。
黒亜:「そう……」
#影が黒亜に向かって歩き出し、長い腕を伸ばしてくる。
黒亜:「3章、16ページ」
#彼女がつぶやいた瞬間、浮んだ本のページが勢いよく捲れる。
SE:じゃらり、じゃらり
#影の足元の地面から、5本の鎖が伸びる。2本は影の足、もう2本は腕、1本は影の首に巻きつく。
影:「……!」
#地面から伸びた鎖に絡め取られ動きが止まる影。手足を動かしてもがくが、まったく解けない。
黒亜:「…もう一度だけ聞くね。ここから立ち去ってくれない?」
影:「うるさイ……放セ……うるさイ……放セ……」
#ぶつぶつと言いながらもがき続ける。
黒亜:「わかった……バルマス、“あれ”を連れて行って」
#そう言うと、彼女の背後に一体の悪魔が現れる。鎖に覆われた黒いマント、顔は左半分が泣いている人間の顔を象ったような、右半分が笑っている人間の顔を象ったような非対称の面で覆われている。
バルマスと呼ばれた悪魔は、鎖で出来ている腕を小さく下から上に上げる。
SE:じゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃら…
#先ほどとは比べ物にならない数の無数の鎖が地面から伸び、影の全身を巻きつけていく。
影:「………!!!」
#より一掃、激しくもがく影。しかし足先から頭までを幾重にも鎖に巻かれると、ぴくりとも動かなくなる。
#バルマスが伸ばした腕を、今度は小さく上から下に動かすと、鎖に巻かれた影は引きずりこまれるように地面の中へ消えていく。
黒亜:(よし、時間も時間だし、帰ろうかな。あんまり遅いとお姉ちゃんにも変に勘ぐられちゃいそうだし…)
#最近はめっきりアホの子キャラの姉であるが、なかなかどうして変なところで鋭いのである。
#そんなことを思いながら、領域を解除しようとしたとき。
女性:「やぁ、こんばんは」
黒亜:「!」
#いつの間にか見知らぬ女性が立っていた。長袖ワイシャツにジーンズ、髪はショートで、ボーイッシュな雰囲気を漂わせている。また、その手には2 mを超えそうな布に包まれた棒のようなものを持っている。
黒亜:「……ど、どちら様ですか…?」
女性:「失礼。ボクの名前は一条星華。どうぞヨロシク」
#にっこりと笑いながら
黒亜:「あ、えっと、夕川黒亜です」
#ぺこり、とお辞儀をして
黒亜:「それで……えーと……」
星華:「ああ。実は最近、この辺で怪我する子や突然気分が悪くなんていう子が多く出たと聞いたので、何か良くない原因あるかのかと思い、ちょっと見に来てみたんですよ」
黒亜:「そ、そうなんですか…」
星華:「ええ。そうしたら貴女がちょうどその原因になっていたらしい“何か”を始末していたみたいなので、少し見学させてもらいました」
黒亜:(うわぁ、やっぱり見られていたんだ……って、服装もこのままだもんね…)
#鎖のじゃらじゃら付いた今の衣装を見つつ
星華:「さっきの人影みたいなのがここで遊んでいた子ども達に良からぬ影響を与えていた…でいいのかな?」
黒亜:「あ、はい。でももう大丈夫だと思います」
#そこでふと疑問に思う。
黒亜:「…あの、一条さんも“こういうこと”をやっていらっしゃるんですか…?」
星華:「はい。“そういうこと”もやっていますよ」
黒亜:「…も?」
星華:「それは副業みたいなものでしてね。それでは、ボクも少し質問してもよろしいですか?」
黒亜:「あ、はい」
星華:「これは本業の方に関することなのですが……貴女の背後にいる悪魔は何でしょうか?」
#変わらずのにこにこ顔で聞いてくる。
黒亜:「え…」
星華:「バルマス…って言っていましたよね? その悪魔とは何のために、どこで、どんな契約をしたのですか?」
黒亜:「え、えと、それは、その……」
星華:「それに鎖ですか。…もしかして、キミが噂の“ルーキー”でしょうか?」
黒亜:「ルーキー…?」
星華:「最近、久しぶりに新しい“魔女”が生まれたという噂を聞きましてね。何でも、黒い本を持って、鎖を操るんだとか。……なるほど、そうか、貴女がその魔女だったんですね?」
黒亜:「………」
#何か嫌な予感がする黒亜。
星華:「運がよかったと言うべきでしょうか。少し調査に来たつもりが、まさか新人の魔女に会うことができるなど」
黒亜:「…何を、言ってるんですか…?」
星華:「改めて自己紹介しましょう。ボクの名前は一条星華。退魔団体『白星の会』所属、通称“一つ星”」
黒亜:「退魔、団体…」
星華:「そのままの意味ですよ。退魔、魔払い、悪霊退治……そのようなことをボランティアで行っている団体です。もちろん、その業務内容の中には貴女みたいな魔女の悪魔退治も含まれているわけです。むしろ、そちらがメインと言うべきでしょうか」
#そう言いながら、手に持った長い棒の包みを解く。中に包まれていたのは一振りの日本刀。
黒亜:「…もしかして、私を…」
星華:「貴女ではありませんよ。相手にするのは貴女の後ろにいる悪魔です。ああ、大丈夫。そのまま動かずにいてもらえれば、すぐに終わらせてしまいますので」
#黒亜の後ろにうっすらとバルマスの姿が現れる。
バルマス:『…ふん、我を斬るか。小娘が生意気な口を利きおって』
黒亜:「……そんな“魔女狩り”みたいな真似されるって聞いて、大人しくじっとしていると思いますか?」
星華:「魔女狩りなどと、そんな人聞きの悪いこと言わないでください。まぁ、相手にする魔女達は皆そのように言いますけどね。でも別に貴女に危害を加えるつもりはありませんよ?」
黒亜:「……お断りします」
星華:「そうですか。では、多少の怪我は覚悟しておいてください」
#そう言うと、2 m以上の長さがある刀を構える。
#対して、黒亜も本を開いて構える。
星華:「領域型の魔女と戦うのは初めてですが、さて、どのようなものなのか…」
黒亜:(多分、一番の問題はあの刀…まずはあれを封じて、その後に本人を縛れば…)
黒亜:「3章、16ページ」
#星華の足元から刀を絡め取ろうと5本の鎖が伸びる。
星華:「……む」
#星華がとっさに反応するが、3本の鎖が刀身に巻きつく。
黒亜:(よし、これで…)
#鎖が地面に刀を引っ張ろうとしたとき、それよりも早く、星華が長い刀を器用に回して捻り、刃を伸びた鎖に当てる。そしてその刀を引いて…
黒亜:「…! 鎖が切られた…!?」
#星華の刀によって地面から伸びた鎖が綺麗に切られる。
星華:「自分が鎖を用いて、かつ相手の得物が刀であれば、まずはそうするのが基本でしょう。確かに普通の鎖を使われていたのであれば危なかったかもしれませんね」
黒亜:「なんで…」
星華:「斬魔大刀『白百合』 この刀の名前です。この刀は魔物や、それによって生み出されたものを切る刀で……」
黒亜:「1章、11ページ」
#黒亜の正面から一直線に伸びた3本の鎖が星華を襲う
#星華は刀を横に伸ばす。すると、3本の鎖は星華の前で、刀に吸い寄せられるように急激に曲がる。
黒亜:「!」
#刀に吸い寄せられた鎖は、先端の鏃部分を切り落とされ、空気に溶けるように消える。
星華:「人の話は最後まで聞きましょう。これは『白百合』の能力、“引力”ですね。同様に“斥力”もありますよ」
黒亜:「そんな…」
#めげずに、黒亜が繰り返し鎖を生み出しては攻撃を仕掛けるが、そのことごとくが刀に引き寄せられ、あるいは斥力で弾かれ、切られてしまう
星華:「さて、今の貴女の鎖程度ではボクをどうにかするのも難しいみたいですね。まだルーキーでもあるし、このような戦いや自分の力の扱いに慣れてないということもありますか。しかしだからこそ、早めに芽を摘んで無力化しておくことが必要なわけですが」
#黒亜の前に立った星華が刀を突きつける。
黒亜:(どうしよう……もう防御も間に合わないし、できたところであの刀で切られちゃう…召喚はまだほとんどダメだし…)
#必死に打開策を考えるが、この距離でがどうしようもない。
星華:「打つ手なしですか? 残念。では、少し眠ってて貰いましょう」
#刀を振り上げ、峰打ちで黒亜を打とうとする。
黒亜:「…っ!」
#思わず目をつぶったそのとき。
SE:ごおぉぉぉぉぉうぅぅぅ!
星華:「!」
#突如、黒亜の目の前で巨大な火柱があがる。星華はバックステップで距離を取る。
黒亜:「…え? な、何…!?」
#火柱の勢いが収まると、そこには女性が立っている。皮のジャケットに長ズボン、真紅の髪を適当に後ろで縛っている。また、両腕には肩から手の甲にかけて、黒くて長い蜥蜴のような刺青が描かれている。
女性:「よう、“一つ星”、楽しいことやってんな? アタシも混ぜろよ」
#煙臭い。後姿でわからないだが、タバコを吸っているらしい。
星華:「…“火蛍”、何の用ですか? 仕事の邪魔です」
#忌々しそうに言う星華。
火蛍:「わりぃね。実はこっちも仕事なんだわ。用ってゆーなら今回はあんたじゃなくてそこの嬢ちゃんにあるんだわ」
星華:「…貴女方も彼女に目をつけたわけですか」
火蛍:「久しぶりの同胞だぜ? あんたら以上に話を聞いてみたいと思うのは当たり前だろ? だからこうしてお迎えにあがったわけだ」
星華:「退いてもらえませんか?」
火蛍:「そりゃこっちのセリフだ。退くか? それとも、一戦やらかすか?」
星華:「後者を選んだらどうしますか?」
火蛍:「アタシとしちゃあ別に別かまわないけど、今回はもう一人待機してるからな。どっちにしろあんたとアタシがやりあってる間に嬢ちゃんは逃げられるわけだ」
星華:「………ふん、わかりました。今回は大人しく退きましょう」
火蛍:「そうかい。アタシとしてはつまんねーけど、まぁ今回はそうしてくれると助かるわ」
星華:「今後、どうなるか楽しみですね」
火蛍:「どういう意味でだ?」
#星華はそれには答えず、唇の端をわずかに歪め、踵を返す。そして入口付近で刀を横に一振り。そのまま刀を鞘に収める。
SE:パリン
#薄いガラスの割れたような音が聞こえ、星華は廃墟を後にする。
火蛍:「やれやれ」
#咥えていた煙草を携帯用灰皿に捨てる。
#黒亜といえば、突然の展開に何が何やら混乱状態。話も聞いていたが、内容はサッパリ。
黒亜:「あ、あの…」
#とりあえず目の前の女性に声をかけてみる。
火蛍:「ん? おお、わりぃわりぃ。なかなか際どいとこだったな……えーと…」
黒亜:「あ、夕川黒亜です。その、助けていただいてありがとうございましたっ」
#深々とお礼。
火蛍:「なっはっはっ。気にすんな気にすんな。困ってるやつがいたら助けねーとな。それがお仲間ならなおさらよ」
#笑いながらそんなことを言う火蛍。釣り目がちで、どこか猫科の肉食動物っぽい印象の顔立ち。
黒亜:「お仲間って言うことは、火蛍さんも、その…“魔女”なんですか…?」
火蛍:「おうよ。あ、ちなみにアタシは鬼瓦ほたるってんだ。あいつが言ってた“火蛍”ってのは二つ名? みたいなもんだから、普通にほたるって呼んでくれりゃいいさ。……さてと。ちょいとうちのボスが嬢ちゃんと話をしてみたいとか言っててな。アタシもあんたにちょっと興味があるんだけど、これから時間とか大丈夫か? まだ22時過ぎだけど、話しが長くなるかも知れねーし、もし何ならまた日を改めてもいいし」
黒亜:「……大丈夫、だと思います。あ、でも携帯電話とか持ってたら貸していただけませんか? 一応お姉ちゃんに電話しておかないと…」
ほたる:「お、姉ちゃんいるのか。いいぜ、ほら」
#真っ赤なケータイだった。
黒亜:「ありがとうございます………もしもし、お姉ちゃん? うん…え、コブできた? ご、ごめん…でもあれはお姉ちゃんがうるさ…しつこかったから……え、あ、うん、今ちょっと友達の家にいるんだけど、ちょっと用事できちゃって…」
#さすがに悪霊退治して、謎の女性に襲われて、また別の女性に助けられたとか言えないので典型的なウソをつく。
黒亜:「……そういうことだから。うん、じゃあね………大丈夫です。今日は友達の家で泊り込みするって言っておいたので」
ほたる:「おお。んじゃ行くか。こっからだと歩いて15分くらいのとこだけど…」
#こうして魔女の拠点に案内される黒亜であった。
★★★
#約15分後。
黒亜:「…ここ、ですか…?」
#案内されて着いたところは一軒家。
ほたる:「おうよ。…どした? きょとんとした顔して」
黒亜:「あ、いえ、魔女の拠点って言うから、もっとこう不気味な感じの廃屋みたいなところに案内されるのかなー、なんて思ってて…」
ほたる:「あーあー、なるほどなるほど。で、中に入ると魔女が何か変なもの煮込んでるでかい釜をかき混ぜながら『うっひっひっひ』って笑ってるみたいな?」
黒亜:「いえ、そこまでは…」
黒亜:(言えない……実はちょっとだけそんなことも考えててどきどきしてたなんて恥ずかしくて言えない…!)
ほたる:「なははは。ご期待に添えなくてもーしわけない。ま、普通は『魔女』って聞くとそんなイメージだもんな」
#門をくぐり、ドアに鍵を差し込むほたる。
SE:ガチャリ
ほたる:「さ、どーぞ、入って入って」
黒亜:「お、お邪魔しまーす」
#中に入れば、やはり普通の家。玄関から廊下が続き、廊下の両脇には階段やいくつか部屋がある。
#客間の和室に案内される。
ほたる:「22時半か。嬢ちゃん、招待しといてわりぃんだけど、あと1時間半ぐらい待ってもらってもいいか?」
黒亜:「別に構いませんけど…」
ほたる:「すまねぇ。ちょいとアタシもまだ用があって、また出かけにゃならんけど、てきとーにくつろいでもらってかまわねぇから」
#と、一人の少女が入ってくる。手に持ったお盆のお茶を黒亜の前のテーブルの上に置く。
黒亜:「あ、ありがとうございます」
ほたる:「お、てるるん、ちょうどいいから時間まで嬢ちゃんのお相手を頼んだ」
#こくり、と頷く少女。見た目的には小学校3、4年といったところ。
#んじゃ、と部屋を後にするほたる。部屋には黒亜と少女が正座で向かい合って二人っきり。
黒亜:「……………」
少女:「……………」
黒亜:(き、気まずい…何か話さないと)
#少女の方は特に気にしている風でもなく、ずずりとお茶をすすっている。
黒亜:「…あの、お名前は…?」
少女:「……初島輝花」
黒亜:「私は夕川黒亜っていいます。色の『黒』に白亜紀の『亜』で『ここあ』って書きます」
#再びこくりと頷く輝花。口数の少ない子である。
黒亜:「……………」
少女:「……………」
黒亜:(は、話が続かない……どうしよう…)
#もともと黒亜も口数が少なく、積極的に話すのは苦手な子なので、同じように口数の少ない人を相手にするのは苦手だったりする。
黒亜:(こういう時は、やっぱり趣味の話かな…)
黒亜:「ええと…」
#ご趣味は、と聞こうとしたとき、
輝花:「……将棋できる?」
黒亜:「え? あ、うん、できるけど…」
#そう答えると、輝花はどこからともなく折りたたみのできる将棋板を取り出してテーブルの上に置き、そこにじゃらじゃらと駒を出す。
輝花:「……………」
#無言で駒を並べる輝花。とりあえず黒亜も駒を並べる。
#因みに将棋は小学生の頃に姉から教わっていた。曰く「将棋とチェスとオセロは一般教養ですよ! これが出来ない日本人は皆から指さされて笑われちゃうですからね!」
#何故そのチョイスなのかは分からないが、当時の黒亜は「そうなんだ」と信じてしまい、本なども読んで必死に覚えたのであった。
#しかしその結果、姉よりもめっきり強くなってしまった彼女は、たまに姉に対して指そうと誘っても拒否されるようになってしまい、将棋の駒に触るのは久しぶりなのであった。
#なお、チェスとオセロも同様である。いろいろと小さい姉だ。
#盤上に駒が並べられ、ジャンケンによって輝花が先手となる。
SE:パチリ………パチリ………
#静かな部屋に将棋板へ駒が動かされる音が響く。
#そして1時間ちょっと後。
黒亜:「……王手。詰み、かな」
輝花:「…!」
#盤上では黒亜の銀が輝花の王を追い詰めたところである。
#唇を噛みつつ、険しい目でこの追撃をかわす一手を見つけようとしている輝花が、盤上の駒に手を伸ばしかけては何かに気づき手を引っ込めることを繰り返す。
輝花:「……負けた」
#がっくりとうなだれて、悔しそうにそう呟く。
黒亜:(この子、かなり負けず嫌いなんだろうなぁ…)
#序盤は輝花が押していた。だが、黒亜が桂馬で角を取られてから形勢が逆転した。序盤に黒亜が押されていたのはわざとであり、その間にも着々と逆転の準備が行われていたのである。まるで今までの押されっぷりは「ちょっと遊んでやっただけさ」と言わんとばかりに、そこからは次々と盤上の輝花の駒が黒亜の駒に討ち取られていったのであった。
#もはや攻めることもままならなくなった輝花の陣営は王を板の隅っこに置き、その周囲を他の駒で固め防御を最優先させる、所謂「穴熊」の陣を敷いての篭城戦を行ったが、篭城の戦法を取って勝利するには、相手が致命的なミスを起こさない限りまず無理である。というか、将棋における穴熊は大抵負けフラグとなっている。
#案の定、緻密なロジックを立ててこの戦況に持ち込んだ黒亜がそんなミスを犯すわけもなく、穴熊の陣はあれよあれよと崩され、現状に至ったのであった。
黒亜:「て、輝花ちゃん、なかなか強かったと思うよ? 少なくてもうちのお姉ちゃんよりはずっと…」
#輝花のあまりの落ち込みぶりに思わずフォローを入れる黒亜。姉より強かったというのは事実であるが、そんなことは何の慰めにもならず、むしろ、対戦相手にそんなことを言われてより屈辱的になっただけである。将棋では些細なところまで気づく黒亜も、そういうところに関しては鈍いのであった。
輝花:「……………」
#再び黙り込む輝花。心なしか最初よりも空気が悪くなった気がする。
黒亜:(ど、どどどどうしよう……)
#内心、あたふたしまくりの黒亜。と、そこへ
ほたる:「たっだいまー。コンビニでジュースと酒とつまみ買ってきたぜー……ん? どうしたよ?」
#戻ってきたほたるが部屋の空気に気づく。
黒亜:「ほたるさん…」
#むすっとした感じの輝花と泣きそう顔の黒亜、テーブルの上の将棋板を見て何かに気づくほたる。
ほたる:「あー、てるるん、嬢ちゃんと将棋やって負けたのか。へー、てるるんが負けるたぁな…うちのメンバーの中だと一番強いんだけどな」
#ほたるがぽん、と輝花の頭に手を置く。
ほたる:「ま、強いやつと戦って負けんのも大事なことだからな。そろそろ拗ねんのやめて片付けようぜ。そろそろボスのお目覚めの時間だ」
#こくりと頷いて駒をケースにしまい、将棋板を折りたたむ。
#ややもして、一人の女性が部屋に入ってくる。
女性:「こんばんは、新人の魔女さん」
#水色のパジャマを着て、柔らかい声で挨拶する女性。
黒亜:「……こ、こんばんはっ お邪魔してますっ」
#ちょっと見惚れてて挨拶が遅れる。
#真っ白な肌に線の細いシルエット、肩ぐらいまで伸びている銀髪が儚げな雰囲気を出している。
#輝花と入れ違いで黒亜の正面に座る。
ほたる:「おっはよー、千樹。ちゃんと連れてきたぜ。“一つ星”に襲われてて結構際どかったけどな」
千樹:「彼女が? そう、やっぱり狙っていたのね」
#はぁ、とため息を一つ。
千樹:「ごめんなさいね。今日来てもらったのは私の我侭みたいなものだから、本当なら私が直接伺えればよかったのに、なかなか時間が合わなくて…」
#しょぼんとする千樹。
黒亜:「い、いえ、そんな…!」
千樹:「ふふ、優しいのね。言い遅れたけど、私の名前は宵ヶ宮千樹、よろしくね」
黒亜:「はい。えと、私は夕川黒亜です。色の『黒』に白亜紀の『亜』で『ここあ』って読みます」
千樹:「変わった読み方するのね」
黒亜:「はい…ちょっと色々あったらしくて」
#色々というか、単に父親がミスっただけ。
千樹:「でも可愛い名前じゃないの。……さてと、お話してみたいとは言ったけれど、何をお話しようかしら……うーん……そうね、何か黒亜ちゃんから質問とかあるかしら?」
黒亜:「質問、ですか?」
千樹:「ええ」
#しばし考え、
黒亜:「……その、皆さん“魔女”なんですよね? 私みたいに悪魔とかと契約みたいなことをしてるんですか…?」
千樹:「そうね。悪魔に限らず、精霊、妖精みたいなオカルトチックなものと一緒にいる女性をまとめて“魔女”って呼んでいるわね。男性なら“魔術師”ってところかしら。だから意味としては広めで、少し大雑把かしら」
黒亜:「て、精霊や妖精もですか…?」
#精霊や妖精というのはその響きからも結構綺麗なイメージがあったので軽く驚く黒亜。
千樹:「ええ。例えば、ほたるも悪魔じゃなくて精霊と契約しているし、結構多いわよ」
黒亜:「悪魔だけじゃないんだ…」
千樹:「昔のヨーロッパなら悪魔だけだったかもしれないわね」
黒亜:「……その“魔女”の皆さんは普段何かやっていることってあるんですか?」
千樹:「うーん、人によっていろいろかしら。悪魔とか、そういったものと契約するっていうことは、その人には意識的、あるいは無意識的に何かしらの“願い”があるはずなの。だからその“願い”を叶えようとして動く人もいるし、とりあえず悪魔と契約したのはいいけど、自分の“願い”に気づかない、わからない人は魔女になってしまったこと隠して普通に生活しようとするしね」
黒亜:「なるほど…じゃあ皆さんは…」
#千樹、ほたる、輝花の3人がお互いをちらりと見て、
ほたる:「内緒だ」
輝花:「…教えない」
#ほたるはニヤニヤ笑いながら、輝花は無表情に答える。
千樹:「……というわけで、私にもわからないわね。実はうちの団体のルールとして『無用な詮索することなかれ』っていうのがあってね。相手が自分からお話して、それを聞く分にはいいけれど、自分からその人のプライベートに関してあれこれ聞いたりするのはダメ、ってことにしているの。こう言うのもなんだけど、魔女になる人って多かれ少なかれ性格が偏屈な人だったり、聞かれたくないいろいろな事情があったりするのよね。中にはそんなのない人もいるかもしれないけれど」
黒亜:「そうなんですか…」
千樹:「だから二人には叶えたい“願い”があって、そのために行動してるかもしれないし、実は“願い”がわかっている“ふり”をしているだけかもしれないし、どうなんだろうね」
#くすくすと笑いながら言う。
千樹:「でも、個人としての目的はわからなくても、ここの“魔女団体”としての行動目的なら教えられるわよ」
黒亜:「魔女、団体…?」
千樹:「そう。文字通り、魔女が集まって作っているグループね。大学のサークルみたいなものかしら? フリーで活動している人もいるけど、どこかしらの団体に所属している人も多いわよ。大きいところだと数十人単位で行動しているかしら?」
黒亜:「そんなにいるんですね…」
千樹:「うちは今のところ5人だけれどね。そして、うちの行動目的は簡単に言えば『困っている人がいたら助けましょう』っていうところかしら」
黒亜:「…え? それだけ、ですか…?」
千樹:「ええ、それだけよ。悪霊とかに襲われている人を助けたり、“魔女狩り”に襲われている同じ魔女を助けたり、とかね」
黒亜:「魔女狩り…」
千樹:「そういえば、ここに来る前に“一つ星”と会ったみたいね」
黒亜:「はい…退魔団体がなんだとか言ってましたけど…」
ほたる:「退魔団体ねぇ…ま、あながち間違っちゃいねぇだろうけど」
#と、ぼやくほたる。
千樹:「そうね。あそこもサークルみたいなものよ。彼女のいる“白星の会”は悪霊退治や怪奇現象全般の対処を行っている、比較的規模の大きな団体ね」
黒亜:「じゃあ、ここと似たようなことやってるんですね」
#しかし千樹は困ったように人差し指で頬をかいて、
千樹:「それはそうなんだけれど、あそこが相手にしているのは私達“魔女”が契約している悪魔がほとんどなのよ。曰く、悪魔は危険度が高く、それを使役する魔女は何をしでかすかわからないから他より優先して対処に当たっている、っていうことらしいけれど…」
ほたる:「いーや、あれは魔女の存在が嫌なだけだろ。何かと理由つけて襲ってくるしよ、連中は」
#ビール缶片手に憎らしそうに言う。
千樹:「…とにかく、彼女達と折り合いが悪いのは確かね。以前に何回か大規模な抗争も起こっているし」
黒亜:「え、そうなんですか?」
#全然気づかなかった、と。
ほたる:「なははは。そりゃそうだ。夜中に気づかれないようにやってんだからな」
千樹:「悪魔だなのなんだのっていう、今の科学じゃよくわからないオカルトチックなことは出きる限り表沙汰にしたくないから、基本的には一定範囲に結界張って、その中で活動するのよ」
ほたる:「嬢ちゃん、さっき廃墟で何かしてたとき、そのまんまやってたろ? あれはちとよろしくないぜ。魔女狩りの連中なんかに感づかれちまうしよ」
黒亜:「…う、今まで普通にやって…しかも日中に…」
千樹:「絶対にそうしなさい、っていうわけじゃないし、暗黙のルールみたいなものだから知らなくてもしょうがないわよ。これから気をつければいいんだから」
#さてと、と千樹。
千樹:「ちょっと長くお話しすぎちゃったけれど……黒亜ちゃんに一つ提案。うちに所属してみる気はないかしら?」
黒亜:「……………」
#ここに来たときから、何となく予想はしていた言葉が投げかけられる。
千樹:「所属なんて固い言葉使っちゃったけれど、あまり深く考えなくていいわ。部活の勧誘程度に思ってくれれば。月々いくらのお金を納めろなんて言わないし、仮に入ったとしても、他に優先したいことがあれば全然そっちに行ってもらってもいいわ。無論、断ってもらっても全然OK。フリーで活動してる人も多いんだから」
#どうかしら? と気楽に聞いてくる。
#黒亜はしばし黙考した後、
黒亜:「わかりました。私なんかでよければ、是非お願いします」
#頭を下げて、はっきりと言った。
千樹:「本当!?」
ほたる:「おお!」
輝花:「………」
黒亜:「ここに来るときにそう言われるんじゃないかって思って、ちょっと考えてたんです。そして、実際にこうやって話を聞いたら、私のやりたいことと同じようなことやってるし、入ってもいいかな、って…」
千樹:「そう。ありがとう」
#にっこりと微笑みながら、
千樹:「それじゃ……ようこそ、“銀の炎”へ」
#その後、千樹やほたる、輝花と少しやりとりをした(輝花はほとんど話さなかったが)黒亜は、布団を借りて眠りに落ちたのであった。
●おまけ
白亜:「まったく。せっかくの土曜のこの時間にバレーだのサッカーだのって、もっと面白い番組やって欲しいですね」
#in 白亜宅
白亜:「みんながみんなスポーツに興味あると思ったら大間違いですよ」
ここあ:「…わからなくもないけど、しょうがないじゃないんじゃないかなぁ…それだけ感心が集まってるってことだと思うし…」
白亜:「ぶーぶー」
#せっかく久しぶりにこの時間に家にいるのにー、とぼやきつつ
白亜:「それにしてもこの部屋あっつくないですか? お肌がぺたぺたするですよ」
#椅子に座ったまま、スカートをぱたぱたしながら
ここあ:「お姉ちゃん、はしたないよ。うちは電気代節約とエコのために28℃設定です」(きっぱり
白亜:「エコエコって…いいですか、ここあ。エゴですよ、それは」
ここあ:「何『上手いこと言った』みたいな顔してるの。と・に・か・く、エアコンは28℃以下には設定しないこと」
白亜:「ぶーぶー」
ここあ:「もし設定温度下げたら、1℃につき晩ご飯のおかずが一品減るから」
白亜:「ナンデスト!?(゜д゜)」
ここあ:「お姉ちゃんの分だけね」
白亜:「何故に!?!Σ(・д・;)」
ここあ:「まぁ、お姉ちゃんが夏バテして食欲がないってときならいいんじゃないかなぁ。私も作るの楽になるし」
白亜:「アリエナイです! 夏バテなんて私には無関係ですよ!」
#朝チーズロースカツカレーをキメる子の辞書に夏バテという文字はありません
ここあ:「さすがお姉ちゃん。じゃあ、私ちょっと出かけてくるからお留守番お願いね」
白亜:「(<●>ω<●>)ジーッ……」
ここあ:「ど、どうしたのお姉ちゃん…?」
白亜:「いえ、最近この時間に出かけることが多いですね、マイシスター?」
ここあ:「そ、そうかな…? そんなことはないと思うけど…」
白亜:「お姉ちゃんリサーチによると、週に3、4日は晩ご飯のあとに出かけてますよ? すよすよ?」
ここあ:「お姉ちゃんリサーチって…」
白亜:「……ハッ もしかして……」
#やたら真剣顔
ここあ:「ビクッ(……あの目つき、まさかバレちゃった…?)
白亜:「彼氏ですか!? オトコができたから逢引してるですか!?」
ここあ:「ええええええっ!?」
白亜:「一体どこのブタの骨ですか!? 教えるですよ! ちょっとそいつに硫酸かけてくるですから!」
ここあ:「ちょっと! 全然的外れだし、そもそも硫酸なんか持ち歩かないで!」
白亜:「ええい、ごまかすなです! ここあに近づく汚物はすべて消毒するですよ!」
#がおーがおーと唸るチビっ子
ここあ:「(イラッ☆)……もう、いい加減にしなさい!」
#どこからともなく現れた分厚いハードカバーの黒い本で殴打
SE:ごすっ
白亜:「はうっ」
#クリティカル! はくあ は たおれた
ここあ:「……あ」
#目を回して倒れている姉
ここあ:「……はぁ……」
#ため息をつきつつ、すぐ目を覚ますだろうと放置の判断を下す妹
#こうして、ここあは今日も夜の街に出て行くのであった
#最近は、ここあの白亜に対する扱いも雑ですね。いい兆候です。以上。
夏休み中、実家で書いていたやつがようやく上げられました。実はもう大学院試験まで2週間もない時期だったりしてます(ぉ とりあえず、この後の話はぼんやりと設定とか考えていたりはしますが、いつ上げられるかは未定です(´・ω・`)