第7話「恫喝」
6月28日
午後12時34分
「さてと、腹も一杯になったから、もうひと泳ぎ行ってくるか!」
背伸びをして、立ち上がる小春。
「チーはアイスを買ってくるよ」
千島はサンダルを履き、浜辺から防波堤と道路を隔たった所にある売店に歩いていく。
小さな駄菓子屋で、夏の主力商品はもちろん、子供相手のアイスとかジュースになる。
「千島、私にも、ガリゴリくんのソーダ」
小春が注文すると、
「いいけど……泳いでくるなら、あれはクーラーボックスに入れてもすぐに溶けるから、泳ぎ終わってからの方がいいな、溶けてたってチーのせいじゃないよ」
水着の上にパーカーを着た千島が振り返りながら、小春に告げる。
「う〜ん、じゃあいいや、私はひと泳ぎしてから自分で買ってくる!」
小春は少し考えてから、千島に答えると、海に向かって走り出す。
「じゃあ、俺は波間にでも揺られています」
潤が大きめの浮輪を持って立ち上がると、
「いってらっしゃい、私は少し休んでいるわ」
琴乃には手を振られて笑顔で、要には、
「寝ちゃって沖まで運ばれたなんて止めてよね、洒落にならないから」
と、ため息で送り出された。
数分後。
「……ふうーっ」
浮輪に座り込み、お尻を沈めるような恰好で穏やかな波間を潤は浮いていた。
必ず小春が悪戯をしてくると踏んでいたが、何事も無い、幸い小春はゴーグルを付けて潜水をして遊んでいる様子だ。
少し疲れていた……ゆっくりと波間を漂っていたかった。
「そう言えば、明日は聖さんに会わないとな……」
潤は考える。
待ち合わせは昨日会った要の家の近くの砂浜。
この砂浜は神洋島では、1番広い砂浜で、要の家の近くの浜はもっと狭い。
「聖さんかぁ」
血まみれの男の言葉の伝えた際、聖の笑顔が何とも悲しげに潤には見えた。
もしかして知り合いなのだろうか……しかし、その割には物悲しい顔はその時だけで、後は明るいお姉さんがピッタリの印象だ。
「う〜ん、わからないなぁ、それに明日、俺に会ってどうするんだろう」
体育倉庫裏の出来事は全て伝えたし、雑誌のネタ探しならば、島については他にも詳しい者がいる、自分が新参者なのは聖だって知っている筈である。
「まぁ……いいか」
潤は空を見上げた、特に聖に抵抗感はなかったし、昼食を奢ってもらえるなら良いだろう。
そんな事を考えながら、潤は波間をぷかぷか揺られていた。
「……?」
数分が経ったのか、数時間が経ったのか、全く分からない。
波が顔にかかり、潤は目を開けた。
「……えっ?」
意識が戻り、周囲を見渡す潤。
波間に揺られて考え事などしているうちに寝てしまっていたのだ。
先程まで琴乃や要の姿のあった海岸は、もう目の前にはない。
しかし、潤はわずかにであるが安堵する。
何故なら、近くにどうにか上陸出来そうな岩場があったのだ。
「考え事しているうちに寝ちゃって、流れて来ちゃったんだ」
潤は狭い岩場に縋り付きながら呟く。
神洋島のどこかには違いない、周りに島はみた事がないし、少し冷静になり空を見上げれば、まだ太陽は高い。
それほど時間が経ってはいないのだろう。
「……早く戻らないとみんなに怒られそうだな」
潤は岩場伝いに歩き出した。
方向はわからないが、とにかく少しでも馴染みがある場所に出ないだろうか、という気持ちだ。
「まぁ、神洋島には違いないんだし……どこかには出るだろうな」
少し楽観的だが、そう思う事にして、潤は岩場を歩いていく。
岩場は足元がゴツゴツしていて、歩きにくく、足の裏が痛いが、潤は海に飛び込んで泳ごうとは考えなかった。
潮の流れに運ばれたなら、それに逆らって泳ぐのは容易ではないし、この周辺に鮫の防護ネットがあるかは保証が無かったからである。
そして……10分も悪戦苦闘しながら岩場を歩いただろうか。
「な、何だ、ここ?」
岸壁沿いの岩場は様相を変え、思わず潤は足を止めて声を上げた。
波の打ち付ける岸壁に洞窟の様にぽっかりと大きな穴が開いていたのだ。
穴は縦も横もかなり広く、自然に出来た物か、人為的な物かは判別が迷う。
海の水が流れ込んでいて、奥は暗くて確認できないが、かなり続いていそうだ。
「少し大きな船でも入れそうだ」
驚く潤。
船とは要の使っているような小さな物でなく、数人で乗り込み部屋があるような船の事だ。
「穴の壁づたいに行けば、海に入らなくても中に行けるかもな……」
明かりは無いが、あんまり続いていたら引き返せば良い程度の考えだった、早くみんなの元に帰りたいなら余計な行動であるが、潤も男の子だ。
普段はあまり旺盛では無いが、好奇心が働いて来たのである。
「行ってみるか!」
みんなが心配しているかも知れないが、未知の洞窟を見つけたみんなをビックリさせるのも悪くない。
小春あたりは探検にきたがるだろう。
そんな事を思いながら潤は洞窟に向かい歩きだしたが……
「入るな!!」
と、殺気立った声が背後から響いてきて、思わず背筋を伸ばす。
波が岸壁に当たる音。
何かの鳥の鳴く声。
そして、背後から潤に近づくヒタヒタという軽い足音。
「……」
緊張しながら振り返る潤の視界に入って来たのは……
射抜くような瞳。
見覚えのある少女の全く見覚えの無い表情。
そこには渡会千島が立っていた。
第8話に続く
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