第69話「心配する三人」
2017年7月3日
午前8時1分
学校までの道のり、潤、千島、琴乃の3人はどうしても口数が少なくなってしまう。
『琴乃先輩が奥宮さんを連れてきたのはたまたまじゃないだろうな……俺に何を聞きたかったんだろう……それに千島が現れたのも偶然とは思えない』
潤はそんな事を考えながら、潤を挟んで歩く琴乃と千島に交互に視線を流す、普段は姉妹の様に仲の良い琴乃と千島も腕を組んじゃおう、と冗談は言っていたものの会話はない。
「さっきのサイレンなんだったんだろ?」
潤が先程聞こえて来たサイレンに話題を移すと、
「そうだね、一体何だろうね……」
サイレン音が聞こえて来た遠い海岸沿いの方を見る千島。
「パトカーに乗った所なんて滅多に見ないわ」
琴乃もたとたどしくだが会話に加わった。
駐在はまだ若い巡査で普段はパトカーには乗らずに自転車を走らせている。
潤が数日前に血まみれの男を見た騒動で学校に駆けつけてきた時も巡回中だったらしく自転車に乗って来ていたのだ。
「海の方だよな……もしかしたら漁に出ている船に何かあったとか?」
潤の呟きに、
「そうかもしれないわ、少し気になるわね」
と、琴乃は頷く。
「今日は要ちゃんは朝に漁には出てないよね? 大丈夫だよね?」
「……!!」
千島の言葉に潤は息が止まりそうになり、
「……だ、大丈夫だろ? 要は……その」
続く言葉が浮かばない。 要は朝に漁に出るが何曜日に出るとか出ないとかを特に聞いた事は無い。
要自身には何かの決め事があるのかも知れないが、千島や琴乃が知らないのだからグループの仲間でも知らなそうである。
「海の方向からサイレンが聞こえたからって心配し過ぎじゃないかな? 早く学校に行きましょう、要ちゃんに会えばな〜んだ、ってなるんだから」
琴乃が不安を隠す様な笑顔を見せると、
「そうだよね……要ちゃんは慎重な娘だしね」
千島も潤を挟んで琴乃に笑い返した。
「全く……確か、何日か前に要がただ単に休んだ時だって心配して要の家まで行ったんだよな〜! 全く俺達は良い先輩だよな」
潤も笑う。
欠席の知らせが何らかの連絡ミスで伝わらなかっただけだが、要の家に今の面子に小春を加えた4人で押しかけたのは血まみれの男を潤が体育倉庫の裏で見た日である。
大して日数が経っていないのだが、この数日間は色々な事があって、もっと前の日の事に潤は感じてしまう。
3人はぎこちない笑顔を向け合いながら、いつしか早足になっていた。
2017年7月3日
午前9時53分
「……ったく」
一時間目の授業の終わった後の休憩時間の二年生教室。
そう言いながら短いツインテールの少女はため息ついて腕を組んだ。
「いやぁ……」
頭を掻く潤。
千島と琴乃も苦笑している。
「私がたまたま登校が遅かったからって」
「……チー達は心配しただけなんだよ、ため息つかれるのは心外だよ」
両手の人差し指を胸の前でつんつんと合わせながら反論する千島。
「でも海の方からサイレンが聞こえただけで職員室に駆け込んで駐在さんに連絡を取ろうするわ、うちに電話したりしたんでしょ? 騒ぎ立て過ぎよ」
要は眉をしかめる。
そうなのである。
潤、千島、琴乃の3人が学校に着いたのは8時30分過ぎだ、要は学校にいなかった。
始業寸前になっても要が登校していないのを千島が確認すると、3人の不安度は更に増した。
真面目な要は普段登校するなら始業寸前にやってくる事は無いし、漁に出て遅刻するなり、体調不良で欠席する時は事前連絡をする筈だと3人の見解は一致を見る。
そこで千島が職員室に駐在のトランシーバーに緊急連絡が取れる無線機があるから、教師のエスティンに頼んで駐在に海の方向で何があったかを確認しようと提案したのだ。
職員室にある無線機。
もちろん、一学校に備え付けてある無線機で公安である駐在と連絡を取るのは論外なのだが、携帯電話の使用が出来ない神洋島の事情から弓永家の計らいで緊急事態に連絡が取れる様にしてある。
ちなみに血まみれの男の騒動の時も駐在の持ち歩いているトランシーバーに連絡を入れて呼び出したらしい。
琴乃も潤も異論は無く、急いで3人で職員室に行き教師のエスティンに駐在と連絡を取らせてくれる様に頼んだのだが、答えはNOであった。
エスティンいわく、
「確かに要さんから遅刻や欠席の連絡は受けてませんが……学校で何か無い限りこちらから駐在さんに無線連絡は出来ません、この間もご足労願ってますし、何かあれば駐在さんから言ってきますよ」
と、言う至極大人の意見だったのである。
しかし、潤はそれだけでは引き下がらなかった、要が連絡も無しに登校して来ていないのが不安を煽っていたし、何か起こっている事をいち早く知りたかったのである。
琴乃や千島も同調してくれ、更にエスティンに頼み込むと彼女も困った顔を見せた。
彼女は弓永家が厚遇で神洋島に迎え入れた教師であり、普段から琴乃を贔屓する事は無いが、弓永家の1人娘の琴乃が熱心に頼めば無下には断れないのは潤にも理解出来たのである。
そして、エスティンは遂に折れた。
「……では、私が今から手短に聞いてみます……要さんは関係ないと私は思いますが……」
と、彼女が立ち上がった時……職員室の窓から校庭を走って行く要が見えたのである。
単純に要は遅刻してしまっただけだが、要はエスティンから、
「要さん……潤君達は要さんをまるでプリンセスの様に心配している様子なので遅刻には特に注意してくださいね」
と、少々不機嫌に釘を刺されてしまったのだ。
「ごめんなさい!」
「ごめんね」
謝る琴乃、千島。
「まぁ……私も遅刻したんだから……」
要は言ってから、傍らの潤に歩み寄り、耳元に口を近づけて周りに聞こえない様に呟く。
「もうっ、あなたが夜中にあんな事するから寝れなくて……ちゃんと責任とってもらうわよ……もちろん遅刻の責任じゃないわよ」
少し恥ずかしながらの要の呟きに、
「……か、かなめ」
赤面してしまう潤。
だが、次の瞬間……二年生教室のドアが開かれ、そこに立っていた人物の姿に赤面した潤を含めた4人は思わず目を見張ってしまったのであった。
70話に続く
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