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第64話「お見通し」
2017年7月3日
午前2時59分



「千島が朝になるまでいようか?」
「平気、チーは潤に送ってもらって、明日、一応駐在さんには話してみる」
 要の家の前。
 心配そうな表情を見せた千島に要は笑いながら首を振る。
 要の家に来た3人、要は家の戸締まりを確認し、千島と潤は周囲を見てみたが異常は無かった。
 しかし、何があるか分からないからと、千島が要の家に朝まで一緒に居ようと提案したのだが、断られたのである。



「わかった……でも何か異常があり次第、駐在さんとチーに連絡して! 時間なんて気にしないでね、駐在さんはお仕事、チーは使命だから! もし変質者がまた来たらチーが正義の鉄拳制裁だぁ」
 千島はボクシングのファイティングポーズをとりながら要に告げる。
 また千島は今のうちから駐在に連絡しておくようにと勧めたのだが、島で1人の若い駐在にこんな夜中に連絡するのは気が進まない、明日に連絡すると要はこの提案も断っていた。
「な、何でチーに私を護る使命があるのよ……でも、とにかく色々と心配してくれてありがとう……本当に大丈夫よ」
 要は千島に笑いかけてから、自転車を引きながら2人を見ていた潤に歩み寄って耳元で囁く。
「潤、私は本気なんだからね……明日からは一応、そういうつもりで接するつもりでいるわよ」
「あ、ああ……」
 大胆な要の言葉に潤は聞こえないと思いつつも千島を気にしながら赤面し、頷くしかなかった。



「じゃあ千島、いくぞ……要、また明日な」
「ええ……ちゃんとチーを家まで送るのよ」
 自転車を押す潤に要は小さく胸の前で小さく手を振った。
「わかってる」
「じゃあね、要ちゃん」
 潤は頷き、千島は要に手を振って歩き始めた。



 午前3時過ぎ。
 千島と潤は海岸沿いの道をテクテクと歩く。
「あっ……そういえば明後日は林間学校だよ」
「そうだな……しかし島内だからな、前にも言ったかもしれないけど、千島達には珍しくないだろ?」
「そんな事ない、絶対楽しいよ……これも前にも言ったかも」
「小春や千島が無茶苦茶やって、結局エスティン先生に怒られるオチは嫌だぜ」「あ〜、千島は無茶苦茶やらないよぉ」
 そんな会話を交わしながら千島と潤は海沿いから太宰地区に入る。
 島内では少ない平野部で発展している太宰地区。
 街灯も本土の都会とまでは言わないが、ちらほらとある。
「潤君……要ちゃんはああ言ったけどね、私の家まで来たら時間がかかって明日寝不足になるから、もう家に帰った方がいいよ」
 林間学校の話が途切れた時、千島がポツリと呟く。 しかし、
「嫌だぜ……俺は要に言われて千島を送る事にした訳じゃない、自分から言い出したんだからな」

 潤が首を振ると千島は、「ふふっ……ありがと、実は送ってもらいたかったんだよ」
 と、上機嫌で潤の前に回り込んで笑顔をニッコリと見せてくる。
 あまり立派とは言えない街灯の光に照らされる上等で可愛いらしい笑顔。
「ほら……あまり声を出すと市場の人間とかはもう起き出すかもしれないぜ」
 はしゃぐ千島の顔を正面から見れず、潤は照れながら顔を背けた。




『無邪気ないつもの千島の笑顔……もしかしたら千島は今、自分や島で起こっている事柄に何も関係ないんじゃないのか?』



 目の前の少女の笑顔を見ていると、そんな思いが頭をよぎり始める。



『それどころか、俺の周りで起こっている事件は実は偶然の重なりで、事件でも何でもないかもしれない』



『始めの血だらけの男も俺しか見ていない……もしかしたら幽霊の類かもしれないし、ひじり云々の伝言も幻聴かも……』



『龍神のあぎとだって……千島が入ろうとした俺を恫喝したのは興味本位で祭られた場所に入ってはダメだよ、って注意だろうし、千島なら一時離れていたとしても地元、秘密の道を知っていてもおかしくない』



『俺が龍神のあぎとの中で負った怪我だって……暗い洞窟の中で天井から偶然墜ちた鋭い石がたまたま肩を直撃しただけ』



『その後で誰かが俺を偶然見つけて応急処置してくれて、聞けばつまらない何らかの理由で自分が治療したと言い出せずに要に電話したんだ』



『そして……この島にはちょっと行き過ぎたマニアな奴がいて、出鱈目に盗聴器を仕掛けまくっているに違いない』



『千島が俺の行き先にやたら詳しいのは……千島がもしかして尋常でなく俺に惚れ込んでいてストーカーしちゃっているとか! ……何だか嬉しいような……困ったような』




『そんな訳……』





『んなわきゃねーだろうが!』



 ほんの数秒間浸った今までの出来事を済ませてしまおうとした自分自身に怒鳴り散らす。
 夢じゃない!
 幻でもない!
 事実だ!
 本当に起こってるんだ! 自分に言い聞かせ、そして……可愛いらしい笑顔を浮かべる目の前の少女はそれらに無関係である訳がないと考えている自分を潤は再確認した。
 何か口火を切って千島に話せば……笑顔は失せ、例の冷徹さと狂気さが入り混じったような顔を見せるのだろうか?
 そう考えると潤は口数が少なくなってしまい、話しかけてくる千島の話の内容が頭に入ってこない状況になってしまったのである。



 そんなうちに道は平坦から坂道に変わり始める。
 酒勾地区だ。
 畑の真ん中を通る畦道で千島は少し駆け足で潤の顔を覗き込む様に再び前に回ってきた。
「な……何だよ!?」
 少し驚く潤。
 千島はグッと顔を近づけて声になるか、ならないか位の小さな声で呟いた。
「ダメだよ……潤君、酒勾に入ったらチーに色々と聞くつもりだったでしょ?」「……!!」
 言葉に詰まる潤。
 正直言えば図星。
 要には何も無く家に送る様に言われていたが、そのつもりはなかった。
 酒勾地区に入り、周りに民家等が無くなり誰かに聞かれる恐れが無くなった時点で千島にいくつかの問いをしようと考えていたのである。
 潤の顔色を見て千島は不敵な笑みを浮かべ、親指と人差し指を輪に目に当てながら呟く。



「チーには全部お見通し」




     第65話に続く


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