第61話「潤と要の夜中」
2017年7月3日
午前2時9分
「ごめんなさい」
要は数秒間重なり合わせた唇と顔に触れていた両手をそっと離すと真っ赤になり横を向いてしまう。
「あ……」
言葉が出なかった。
何かと男女関係にはうるさい要からのキス。
要と同じように赤面してしながらも、
「謝る事ないよ」
そう潤は笑って、
「要、泣き顔も可愛いな、でも微笑んだ方がもっと可愛い」
と、手を伸ばして要の頬に触れる。
「こっち向いて」
「まだ泣いてるわよ、泣き顔なんて見せたくない」
声をかけると要は首を振ったが、
「泣き顔も可愛いって言ったよね? さぁ、こっち向いてくれる?」
と、潤は優しく促す。
「馬鹿……っ」
振り向く要。
『やっぱり要は可愛いよな、母さんの意見も納得と言えば納得』
涙を流しつつも気丈に堪えようとする少女に潤の口元が緩む。
「なに笑ってるの……」
怒りかけた要の涙の溢れる瞳に潤は不意にハンカチを当てた。
「……潤」
「泣いてる顔もかわいいと言ったけど……やっぱり要は微笑んでくれてる方がいいな」
そう笑う潤に、
「ありがとう」
と、微笑み要はそっと目を閉じた。
要からのキスの催促。
「……!」
抑え切れない胸の高まりを覚える潤。
小春とあんな事があったのはほんの数時間前。
なのに目の前の少女を愛おしく思う気持ちが再び沸き上がってきてしまう。
『小春にあんな事をしておいて……今度は要? ……でも俺は要も小春も大切で好きで……』
頭に浮かぶ小春、要……琴乃……そして、千島。
「……要」
潤は要を強く抱きしめ唇を重ねた。
「んっ……」
ピクリと震えながら潤のキスを受け入れる要。
「んっ、か……なめっ」
「じ、潤、んっ……」
要の両手が潤の背中に回ってくると、キスは少しずつ激しさを増した。
小春にしてしまった行為から自制していた筈の感情が再び強く高ぶるのを自覚して、それを押さえ込み潤から唇をそっと離す。
「潤」
抱きしめ合い、微かな笑みを浮かべてくる要。
「……!」
単純に名前を呼ばれただけにも関わらず潤は思わず生唾を呑む。
その声は今まで要の口から発音された自分の名前のどの呼び方とも違う、それだけで自分に対する要が持っている感情がはっきりと解ってしまうような魅惑的な響きだ。
パジャマ姿。
160cmを少し越える身長、線は細くもなくふくよかでもないが、胸の膨らみははっきりと大きいと意識させる。
「か……かなめ」
既に早まっていた高鳴りが更に高まる。
「……」
再び目をつぶる要。
今、ここで要とまた唇を重ねたら、きっと自分の欲求を我慢出来ないに違いない。
「要、可愛い過ぎるよ……そんな可愛いと俺が止まらなくなっちゃうよ」
そう少し震える声で言いながら、潤は要の頬に手を触れた。
もちろん、やせ我慢だ。 小春との事が無ければ、とっくに要を押し倒しているかもしれない。
「……潤」
目を開ける要に、
「俺は要の事が好きだ……でも」
と切り出すが、
「その……小春や琴乃先輩、そしてもちろん千島も……ええっと……だから今、要とその……」
何を話せばいいのか分からなくなり、次に繋ぐ上手い言葉が見つからず、緊張からしどろもどろになってしまう。
「私となに?」
そんな潤に要は口元に僅かな笑みを浮かべながら首を傾げてくる。
しどろもどろな潤を少し馬鹿にしたような普段は見せない表情。
そんな要にいよいよ赤面した潤は、
「いや……だから、俺は要が好きだ、今の要は可愛すぎて、止まらなくなりそうなんだ……でもその小春や千島や琴乃先輩も好きで要にそんな無責任な……」
と、俯いてしまったのである。
「キスは無責任じゃないみたいな言い草ね」
俯いた潤に要は顔を近づけてきた。
「わ、悪い、そういう意味じゃない! それは……その……」
「潤はまるでキスはみんなにしちゃうみたいにも聞こえるわよ? もう誰かとは済ませたのかしら」
「……要っ、何を言ってるんだよ!」
図星に顔を上げて懸命に抵抗を見せてみたが、要がクスクスと笑い出し、
「私、水飲み場で見ちゃってるのよ、小春に抱きしめられていたでしょ?」
と、肩を竦めると潤は答えに詰まってしまう。
昨日……いや、既に今は日が変わってしまったので一昨日になるのだが、学校の水飲み場で小春に抱きしめられた時に要がやってきたのである。
その時は小春が潤に膝蹴りを入れてごまかした筈だったのだが、要はごまかされてはいなかったのだ。
「……あ、あれは」
まるで浮気のばれた男子の様になる潤。
そんな潤に要はぐっと顔を更に近づけた。
表情はもう笑ってはいない。
「潤……好きよ、誰にも負けないから」
そう囁き軽く唇を重ねて、すぐに離す。
「か、要」
呆然としてしまう潤。
だが、すぐに要は立ち上がって、
「私だって今はこれ以上は無いわよ! と、とりあえずこの話は終わり!」
と、顔を横に背けて横を向き、
「3人で島で起こっている何かを調べる事には異存はないわ、了解よ」
そう言って両手を組む。
とりあえず男女の話は終わりと告げた要に潤も残念か、早まってしまわなくて安心なのかは正直言えば微妙だが、そういう緊張感は一気に鎮まった。
「そ、そうかぁ……協力してくれるのか、ありがとうな要」
潤が思わず安堵の声を上げると、
「言った当てはきちんとあるんでしょうね? 出まかせだったら承知しないんだからね」
要はいつもの調子に戻って潤を睨む。
「かなりの確率で当てにしていいと思う……小春の親父さんの事や要のご両親の事も何か解る可能性だって高い」
頷く潤。
「わかったわ……私も真実を知りたいから」
要は頷き返すと、
「ほら、なに座っているのよ……こんな時間なんだからもう帰りなさいよ、でもここまで来たなら自転車を取って行った方が懸命よね、私もそこまで付き合ってあげるわよ……雑木林の辺りは街灯も無くて怖いだろうから」
と、しょうがないわね、と言った表情を見せる。
「宜しく頼むよ……俺、怖がりだからさ」
言い返したい言葉はあったが、潤は素直に要に苦笑しながら立ち上がった。
第62話に続く
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