第6話「鉄串と要」
6月28日
午前10時28分
神洋島の暑さは、本土の都会でのそれを遥かに凌駕し、すでに南洋の様相である。
今日は土曜日で、琴乃の前からの提案である海に来ていた。
「暑いなぁ……」
砂浜にシートを敷き、パラソルを立て、クーラーボックスが置かれている定番の構えの場所に、潤は海パンで座って、千島や琴乃、小春が海で遊んでいるのを見ていた。
パラソルの下には、Tシャツにパンツスタイルの要が、クーラーボックスから何やら色々な材料を出して準備している。
1時間前から来ているのだが、要には様相からして泳ぐ様子がない。
「要、泳がないの?」
潤が聞くと、
「まだ体調が良くないから海には入らないわよ」
そう言って、要は網やら皿やらを取り出していた。
「昼の準備か、俺も手伝うよ」
立ち上がる潤、だが要はあっさり、
「別にいいわよ、みんなと遊んで来なさいよ」
と、断る。
要という女の子はいつもこんな感じである。
潤も初めは受け入れられていないのか、と悩んだが、
「要ちゃんは恥ずかしがり屋さんなんだよ、でも平気だからね、あんまりしつこくならなければ人の好意は受け止めてくれるよ」
千島が助言をくれたお陰で、こういう場合の対処は大分、解ってきている。
「体調が完全に戻ってない要に何でもさせられないでしょ? 料理自体は苦手でも、準備くらいはやらせてくれるかな? 作るのは任せるから」
潤が提案すると、
「……まぁ、そういう気を効かせてくれるのなら、感謝するわよ」
と、要は網を潤に渡してくる。
「バーベキューだな、よしきた」
潤は準備を始める。
準備自体は簡単だった、琴乃の用意したバーベキューセットを組み立て、炭をセットし、新聞紙に火を付け炭にうつすくらいだ。
砂浜の周りには誰もいない貸し切り状態。
本土ならば間違いなく、今日の陽気なら、人だかりで砂浜はただの芋洗いである。
「気兼ね無くっていいな、貸し切りだよ!」
クーラーボックスから出した肉に串を刺している要に言うと、
「そうね、島の小学生にはまだ海は危ないって、禁止になってて小学生は川に行くか、島民プールに行くのが多いからね」
と、彼女は答えた。
「そうかぁ〜、ここなんかリゾート開発したら、人が来るだろうに……」
そう言った時だった、要の手がピクリと止まって……
「そんな事、無理よ」
と、呟く。
「……えっ?」
振り返る潤。
元々、要は優しいトーンでしゃべる娘では無いのだが、その声はそれを更に、わざと低くした様な声だった。
「か、か……なめ?」
潤が声をかけると、要は俯いたまま手に持った鉄の串を、
「……潤、あんまりこの島でそういう事は言わない方がいいよ……いい目には会えないだろうから」
と、大ぶりに切った肉に突き刺す。
沈黙が流れ、かわりに海で遊ぶ3人の声が聞こえてくる。
「もう少し泳いで来たら? 後の準備はしておくわ、お腹空かせた方がいいんじゃない?」
顔を上げた要の表情は、いつもの様子と変わらない。
「ああ……そうだね、後は任せる」
潤は笑顔を浮かべて立ち上がるが、その顔は少し引き攣った物になったかも知れなかった。
「ほら潤君、おいで!」
紺のワンピースの水着姿の千島が手招きする。
「やっときた、潤く〜ん」
青いビキニ姿の琴乃も両手を広げた。
千島はややスレンダーながらもバランスのとれた体型、やはり琴乃は胸が売りのモデル顔負けのプロポーションある。
やはり同年代の女子を前にすると、そういう所に目がいってしまうのは男子の性なのだろう。
「……ったく、鼻の下を伸ばしやがって」
そう潤にニヤつきながら、身長は小さいが、意外に出る所は出ている体型をスクール水着に包んだ小春が潤と入れ違いに、パラソルの方に歩いていく。
「鼻の下なんか伸ばしてないよ、上がるのか?」
眉をしかめながら潤が聞くと、
「まぁ、料理なら私が1番手慣れてるからな……任せなよ」
小春はウインクして浜に上がっていく。
確かに小春はグループ内で1番料理が上手いが、これは要を1人にしない気遣いだと、潤は感じた。
6月28日
午前11時27分
「飯が出来たぞ〜」
小春の呼びかけに、
「はぁ〜い」
「やったぁ〜」
と、子供の様に浜に戻っていく琴乃と千島。
「……ふうっ、まったく元気だよなぁ」
遊び疲れた感があるが、昼食と言われると、潤もあしどり軽く浜に戻る。
「美味しそう!」
声を上げる千島。
網の上で焼けているのは、琴乃が用意した特上の肉の串焼きと要の用意した様々な魚介類、そして鉄板部分には小春が料理した海鮮焼きそばもある。
「美味そうだな」
潤は笑顔で座りながら、少し要の様子を見たが、別に変わった様子はない。
『……そうだよな、だいたい要は元々、神経質な所があるしな、海女をやってる関係で、海を汚したりする恐れのある観光客を良く思ってない部分はあるんだろうな……』
潤はそう思いながら、鉄串に刺さった肉を食べながら、
「はい、潤君、あ〜んしてね!」
と、横から琴乃が口まで運んで来た焼きそばを、
「はい、頂きます!」
調子よくパクリとやる。
すると、
「あ〜、琴乃ちゃんばっかり〜! チーも!」
千島も強引にサザエの壷焼きを口に付けてくる。
「うおあちちちちぃ! 千島っ、何考えてんだよ、何で壷焼きを直接、口に付けて来るんだよ!」
「……だって、琴乃ちゃんばっかり」
膨れる千島。
「潤虐めなら混じる!」
続いて、熱々に焼かれたイカを潤の口に運ぶ小春。
「あちちちちちぃ! や、止めんかっ小春!」
悶絶する潤。
「……まったく、何やってんのよ」
そんなやり取りを要は呆れた目で見ながらも、暑さにもんどり打つ潤に、クーラーボックスから冷たいコーラを差し出した。
「うわぁ〜、チーは要ちゃんのツンデレに警戒しないとなぁ〜」
それを見た千島が琴乃に耳打ちすると、
「ずるいわね、要ちゃん、ツンデレだからって潤君はあげられないわ、でも要ちゃんはプロポーションでも結構な強敵になりうるのよね〜」
琴乃はわざとらしく悩むポーズを見せる。
「ば……馬鹿じゃないの! 何を言ってるの!」
真っ赤になりながら怒鳴る要に、
「おお、まぁ要ちゃんはツンデレ可愛いねぇ」
と、小春が茶化す。
「もう知らない!」
そっぽを向く要にみんなが声を上げて笑った。
2017年6月28日の陽は強く、まだ高かった。
第7話に続く
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