第57話「もたらされし対立」
2017年7月3日
午前0時2分
「バケーションデイズ……それが神洋島リゾート開発計画の名前か」
「……そう、島の人間でこの名前を知らない人はいないよ、でもあまりその名前を出すのは止めた方が良いと思うけどね」
「何となく解るよ」
潤は頷く、バケーションデイズという名前が決して神洋島の中で良い意味で通じないのはここまでの話で理解できる。
「始まりは本土の新興リゾート開発会社が神洋島に一大リゾートを開発しようとした事から始まるんだ……さ、ちょっと話は長くなるよ」
そう話しながら潤に近くの木の下に座る様に促す小春、手は繋いだままだ。
「……そうだな」
頷く潤。
すでに日にちが変わってしまっている時間だ、父親を迎えに行った母親は日にちが変わる前には帰ると言っていたのだが、近衛に酔わされてしまえば一階の寝室に直行で外出しているのには気付かない可能性が高いだろう。
それよりも例えばれてしまい酔った両親に怒られてしまおうとも、この話は聞かなければいけないと思ったのである。
「よいしょ」
座り込んだ潤の隣に小春も腰を降ろし、
「この島はやっぱり一部の人間以外は貧しい人が多いんだよ」
と、切り出してくる。
「そうだよな」
答えながら星空を見上げる潤。
自分の周りだけを見てもそれは解る。
本土の経済特別区という場所に住んでいた潤にとっては琴乃は別格としても周りが裕福には見えなかった、グループの仲間でも小春、千島そして要は一人暮らしであるし、金銭的には恵まれては決していない。
「その中でも神洋島の人間は助け合い、明るく生きて来ていた……そこにバケーションデイズというリゾート計画が神洋島に襲いかかってきた」
「……」
小春の言葉にあまり計画を知らないと言う割には敵意があったが、話の腰を折るのも気が引けたので黙って聴き入る事にする。
「確かに神洋島は開発をすれば、少し狭いけれども一流のリゾート地になるらしいんだ……そうなれば地元には新しい開発による大金が流れるし、雇用も生まれる……つまり島民が豊かになっていく事になるんだ、だから開発計画に賛成した人も結構いたんだよ」
「……なるほどな」
潤は頷く。
それくらいの理屈ならば潤にもわかる。
神洋島はすでに南洋と言っていい気候に豊かな魚介類、そしてある程度の広さの砂浜もある。
サイパンやグァム程では無いが良い観光地になるだろう。
なによりも国内であるから手軽な面が手伝い、客数も見込めるのではないだろうか?
「……でも開発は海や山の島の自然を壊すからと反対する人間もいた」
「それもわかるな」
小春の言葉にそう答えて根元に座り込んでいた大木に背中を預ける。
「それが開発と自然保護のよくある対立だとは知っていたけど、神洋島にいると実際に実感できるよ……この自然はかけがえのないものだからな」
テレビでも常套とも言える台詞だが素直な意見であった。
リゾート開発は神洋島に多大な豊かさをもたらす公算があるかもしれない、しかし、たったの数ヶ月しか住んでいない潤がそういう本音が素直に出てしまう程に神洋島の自然は都会では味わえない物であるのも確かである。
都会では小学生でも高学年にでもなれば遊びはテレビゲーム中心だ、皆で遊ぼうと家に集まるがやるのはテレビゲームであるし、ネットゲームを始めれば毎日遊ぶ相手の顔すら知らないのが普通である。
ましてや高校生にもなって年下の女の子がいるグループで朝から夕方まで野山を駆け回ったりするなどは想像もしてなかった。
今では潤が本土から持ってきた、まだ最新の機種であろう携帯ゲーム機も始めのうちは毎日電源を入れていたが、今では部屋のインテリアになっている。
舗装もされていない道を走り回り、何がいるかわからない野山に入り込む遊び、そして生活に根差す自然は神洋島の人々の間ではきっと大切な宝物に違いないだろう。
「そして……バケーションデイズという神洋島リゾート開発計画がいよいよ企画段階を過ぎた辺り、本当に実行されるのだろうとなった時に住民の対立も本格的になったんだ……弓永家を中心とする反対派と賛成派にね」
「対立って言ってもどんな具合だったんだ?」
その潤の質問に小春は肩を竦めて、
「始めは弓永家が中心になっている反対派が圧倒的で話し合うと言うよりも少数の賛成派をみんなで意見を合わせましょうって、説得すれば、島のみんなから反対されて本土の新興リゾート会社なんて追い返して終わり、みたいな雰囲気だったらしいよ」
と、答えたが、
「……しかし、それが新興リゾート会社からの説得でそれまで反対の立場をとっていた岸川家が一転賛成にまわった時から事態は判らなくなった、漁業に関わる人の中心的立場の岸川夫妻の意見の転換でかなりの部分……およそ漁業関係者の四割近くが岸川夫妻についてしまい、賛成派が力を急激につけたんだ」
目を細める小春。
「四割近く……でも漁業関係者内でもまだ弓永家が強かったんだな」
「そりゃ、弓永家は神洋島民にしたら圧倒的だよ、いくら中心的立場の人間といえどもそんな所だよ……でもそれだけの人間が弓永家の意向に逆らうのは島始まって以来の大事件だったんだ」
「そうだよな」
納得して潤は頷く。
「そして、漁業関係者以外の島民の一部からも岸川夫妻につく人間が出始めると対立は一気に激化したんだ、言い争い……喧嘩……嫌がらせ、本当に仲の良かった神洋島民同士に信じられないくらいの亀裂が入ってしまったんだ……深く、長く」
そう話すと小春は膝を抱え込んでしまう。
とても内容は話したくないと言った様子だし、そんな内容に潤は興味がそそられない。
十数秒の沈黙。
しかし、神洋島の自然の中に様々な虫の鳴き声、木々のざわめきは絶えない。「酷い争いがあったみたいだな……」
潤が口を開くと小春は首を縦に振り、
「……そんな酷い対立が激化の一途を辿っていた頃だった……海に出ていた要の両親が亡くなったのは」
そう言いながら明るく輝く月を見上げた。
第58話に続く
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