第55話「困った少女の顔」
2017年7月2日
午後11時27分
太宰地区にある潤の家から酒勾地区の小春の家までは途中までは神洋学園に向かう道程と同じである、学園に着く少し前の道を山道に逸れて登っていけば小春の家の近くに出る。
だいたい20分か、やや険しい傾斜の山道に逸れる分だけ25分くらいと計算しておけばいい。
しかし、道中は太宰地区の間だけポツリポツリと電柱に付いた電灯があるくらいで酒勾地区に入るとそれすら無くなる。
月明かりだけが辺りを照らし、虫が鳴く声の聞こえる舗装もされていない道を潤と小春は手を繋いだまま歩いていた。
「なぁ、小春……聞きたい事があるんだけど」
歩き始めて三分程、二、三言だけ夜でも暑いよな、などとたわいもない会話をした後で酒勾地区に入った頃に潤が切り出す。
「なに?」
ポツリと答える小春。
「要と話してる時だけどさ、お前のツナギ姿を見て、要はまさか、とか言っていたけど……」
「うん……前の千里眼騒ぎの事は要には後から全部話したんだよ」
質問の内容が解ったのか、小春は潤の言葉を遮る様に答える。
「そうか」
潤は頷く。
別に驚く事ではない。
例の千里眼騒ぎで孤立した小春に声をかけて、その状態から救ったのは要であるのだ。
そして、要と小春の間にはグループの仲間の中でも深い絆があるというのは潤にも十分に理解できる。
小春が要には千里眼の真実を話していたとしても何ら不思議はない。
「あの時、私がそこらに仕掛けた盗聴器を処分するのを要は手伝ってくれたんだよ、その時にしていた格好がこのツナギなんだ、父さんの仕事を手伝い始めた時に買ってもらったやつでさ……だから、要は私がこの格好をしているのを見てすぐに盗聴器を思い出したんだと思う」
「……なるほどな、小春にとっての作業衣って感じなんだな」
「まぁね、昔は余裕があったのに……今はほんの少しだけきつくなりはじめたけどね、親の予想を上回る発育の良さかね」
納得した潤に小春がウインクしてきた。
「……」
発育と聞いてしまうとやっぱり先程の行為を思い出し、潤は俯いてしまう。
「さっきは……悪い」
呟く潤。
「んっ、あれは私も悪い所があったから……でも、潤もあんな風になるんだ、意外だった」
優しい声で答えた小春は握った手を強く握り返してくる。
「……悪かった」
「……いいって」
それから数十秒、無言になってしまい手を繋ぎ歩くだけの2人。
月も雲間に隠れて辺りは真っ暗になった。
「なぁ……小春、聞いてもいいかな?」
潤が口を開くと、
「いいよ、何の事?」
小春は呟くような返事を返してくる。
「……要の事」
その言葉に反応する様に繋いだ手を小春は再び強く握ってきた。
「いい?」
ここで要の事を聞くのは少し躊躇があったのは確かだ、しかし要の事は小春に聞くのが1番だと考えたのである。
「いいよ、私は潤を信じるって言ったでしょ?」
繋いできた手の力を緩めてきた小春。
「ありがとう……要が小春が寂しい思いをした時に手を差し延べてくれた大切な仲間なのは十分に解る……でも何だかあいつは何かを恐れている感じがする、今日だけじゃない、最近の様子から何か臆病というか、何かを越えない様にしている風に見えるんだ」
「……」
潤が間を空けるが小春は沈黙している。
「要のそういう所……ひょっとしたら両親が事故で亡くなった事と関係があるんじゃないか……って、思うんだ、小春はどう思うのかってね」
「……潤」
返ってきたのは悲しげな小春の声。
「小春?」
小春を見つめた潤は眉をしかめた、月明かりだけなのだが、小春の表情ははっきりと判った。
困った人ね。
と、でも今にでも言い出しそうな少し呆れた様で優しげな潤が今まで女性に向けられた覚えがない表情だったのである。
「……あ、いや、その」
小春はまだ中学二年生で三つ年下。
なのにここ数日はそんな小春の見せる仕種、表情は潤にいやがおうでも男勝りな少し可愛いらしい女の子から1人の美少女への成長過渡期をピックアップして見せられている気がしてしまい正直、戸惑ってしまう。
「本人から聞いた方が良いと思うけどね」
小春はそう言ってから、ふぅ〜っ、と息を吐いてから、
「要の家は昔は島でもかなり裕福だったんだ」
と、話し出した。
「前に偶然、要の家は別にあるって聞いたんだ」
「……うん、今は誰も住んでないけど海辺に大きな家があるんだ、そこが要の前の家」
潤が以前、琴乃の運転手が要の家を間違った事があった、小春は頷く。
「……でもご両親が事故に遭われてなくなってしまったんだろ?」
そう聞くと、小春は思い詰めた様に俯き、ポツリと言った。
「要の両親は殺されたかも知れないんだ」
第56話に続く
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