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第54話「怯える瞳」
2017年7月2日
午後11時4分



「どいてよ……」
 自転車に跨がる小春に歩み寄った要は言った。
「返事を聞いてないよ」
 小春は目を細める。
「自転車から降りて……私は帰るわ」
 素っ気なく答えた要は手をスッと伸ばして小春に自転車から降りるように促す、だが小春は自転車から降りない。
「知らん顔?」
「結果的にはそうね、でもこの事は口外しないわ」
 睨み合う要と小春。



「……要」
 自分から話を聞いてくれた要がもしかしたら小春の様に協力してくれるかも知れないと期待していた潤は案外とも言える要の態度に思わず呟いていた。
「話を聞いておいて悪いけど……私には協力できそうな感じがしないわ」
 要は潤に告げる。
 その表情は素っ気なくサバサバした様子だ。
 数瞬、要の表情を見つめた潤は、
「……そうだよな、どう考えても関わらない方が賢明だよ」
 と、笑顔を浮かべて、
「ほら小春……どいてやれよ、要が帰れないだろ」
 そう小春を促す。



「……潤」
 いいのかよ? と、言いたげな小春だが、潤は首を振る。
「いいんだ……話を聞いてくれただけでも要には感謝しないと……それに電話で口止めされていた話を要は話してくれたんだぜ」
 苦笑いを浮かべて肩を竦める潤。
「……わかったよ、ほら悪かったね」
 小春はため息をついて自転車から降りた。
 要は自転車に跨がると俯き加減で小さくだが、
「……潤、私……臆病でごめんなさい」
 と、告げ海岸沿いの道に向けて、自転車を漕ぎ出して行く。




「本当にいいの?」
 遠くなっていく自転車のライトを見つめて小春が聞いてきたが、
「巻き込めないよ」
 潤は首を振り、
「あいつ……怯えていたみたいだ」
 と、呟き小春に向き直った。
「小春……もしかしたら俺は踏み込んじゃいけない何かに踏み込んだかも知れない、おまえも……」
「嫌だね」
 言葉を遮る小春。
「……小春」
「私、さっき要に言ったろ? 私は潤を信じて協力する……そして今、この島で何が起きているか、私も知りたい、私はこの神洋島が好きだから」
 そう言いながら、小春は笑う。
「ありがとう」
 小春の頬に手を伸ばし当て潤は、
「俺も神洋島が好きだし、多分、要も琴乃先輩も……千島も神洋島を愛してくれてると思いたい」
 と、微笑み返す。
「……じゃあ、潤の家に帰って盗聴器を調べてみようぜ」
 小春が思い出した様に潤の家に歩き出す。
 しかし、潤は小春に、
「待ってくれ、今日はもうタイムリミットっぽいんだ、親が12時より前に帰ってくるかもしれないからまた明日にしよう」
 と、告げた。



「そうか、案外時間を喰っちゃったんだな……」
「そうだよ、ほら」
 残念そうな小春に潤は携帯を開いて見せる。
 月明かりだけの畦道だ、明るく照らし出された携帯電話の待受画面に大文字で記された時刻は午後11時12分を示している。
「……だから今日は送っていくから帰れよ、一旦家に戻ろう」
 そう潤が提案すると、小春は、
「でも明日は家に誰もいなくなる時間があるのかよ? 場所を細かく特定したりしたらやっぱり1時間は欲しいかも」
 と、首を傾げる。
「平気さ、お袋も何かと付き合いが増えたらしくて、毎日の様に夕方は買い物に出かけているからな……出かければ2時間は平気だと思うよ」

「わかった、じゃあ明日は放課後に潤の家に遊びに行くって事にするか」
 潤の説明に小春は頷き、再び歩き出した。



 自宅に帰ると、まだ両親は帰宅していなかった。
 自宅に入る前に、小春が持ってきたリュックに入った道具類は明日も来るなら今日は預かっていようか? と潤が提案したが、
「いいよ、あれはいなくなった父さんの道具だからさ……一応、持って帰る事にするよ」
 と、やんわりとたが断られ、なるべく静かに家の中に入り、リュックを持ち出すと再び外に出る。



「じゃあな」
 そして歩き出す小春に、「送っていくよ」
 と、並ぶ潤。
「ダメだろ? 私を送っていってたら12時を回っちまうよ、帰って来た潤の両親が何で外に出てたんだ? って、なるだろ!」
 小春は声を上げて眉をしかめるが、
「いや、こんな夜中に小春を1人で行かせられない……それに飲んできた親は一階の寝室直行だよ、あんまり酒に強くないからグーグー寝ちゃうよ、二階の俺の部屋なんて見ない、とっくに寝てると思うよ」
 潤はそこは譲るつもりはなかった。
 小春の手を少し強引に取りながら、
「こんな夜に来てくれた小春を送っていくのは当然だろ? まぁ、要もそうだったんだけど、多分あいつは断っただろうし……今日は小春を送っていきたい」
 と、笑いかける。
「……わかった……あ、ありがとう」
 頬を赤らめる小春。
「さぁ、行こうぜ」
「……うん」
 手を握ったまま2人は夜道を歩き出した。




 神洋島の真っ暗な夜道に小春を1人で歩かせる訳にはいかない。
 ましてや、潤にとって神洋島は今や安穏とした田舎に思えなくなり始めているのだ。
 小春を送る第一の動機はそれだが、潤としては自分を信じ協力してくれると言ってくれた彼女に道中の約20分くらいの間に聞きたい事がいくつかあったのである。
 いくらかタブーな問いかも知れないが、今の小春ならば答えてくれるのではないだろうか?
 そんな思惑があったのも事実であった。
     第55話に続く


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