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第53話「今朝の真実」
2017年7月2日
午後10時51分



「……なるほどね、潤が龍神のあぎとに一度、近寄ってから千島の様子がおかしくなった、と言うのね……それでもう一度、あぎとに入ったら何者かに攻撃をされたと……」
 潤から説明を受けた要は腕を組みながら、息をついて見せた。
「ああ、聖さんにはやたら攻撃的だったし、俺には聖さんには会うなって警告もしてきたんだ」
 頷く潤。
 要には小春に話した内容は全て話した。
 校庭の倉庫裏で血まみれの男に頼まれた言葉。
 翌日、海で偶然見つけた龍神のあぎとに入ろうとして千島に止められ、秘密の道を通り帰った事。
 日曜日に聖に会い、月曜日には琴乃に鉄板焼きの店に誘われた事も千島が知っていた事。
 千島が聖に殴りかかり、潤が千里眼を調べている事を小春に告げ、尋常ではない嘲笑を浴びせてきた事、小春が協力して千島の豹変の原因を調べる決意をしてくれた事。
 今朝、千島が存在を隠したがっていた龍神のあぎとに潤が潜入を試みて起こった事とその顛末。
 そして、最後に小春が潤の家を調べた結果、どうやら盗聴器が仕掛けられているらしい事実。
 それらを要には思い出せるだけ思い出し告げた。



 途中からは傍らの小春も補足をしてくれ、一緒に要に説明する、全ての場面を克明に話した訳では無く、小春に抱きしめられたりした水飲み場での場面や先程の脱衣所での出来事はもちろん話していないのであるが……



「……」
 話を聞き終えた要が腕を組んだまま黙り込む。
 南洋の蒸し暑い夜。
 水田と水田の間を縫う畦道に雲間から月明かりが3人を照らす。
 虫の鳴く声。
 小春と潤は息を呑み要を見つめる。
 潤は要が何かを切り出すまでは黙っているだが、それは小春も同じつもりの様子だ。
 鳴いていた虫の声が不意に途切れ、要は数秒目を閉じると、
「あなた達のやっている事は解ったわ……何かを言う前にまず私の用事を済ませておくわよ」
 片目を開けた。
「ああ……そう言えばそうだったな」
 頷く潤。
 考えてみれば要が訪ねてきたのである。
「それは私も聞いてていいのかよ」
 傍らの小春の質問に、
「構わないわ? だって小春は潤に協力してるんでしょ?」
 要は答え、
「潤……私はあなたを治療なんてしてない」
 と、見据えた。



「えっ!?」
 思わず眉をしかめる潤。 もちろん治療というのはまだ痛みの残る潤の肩の傷だろう。
 要に言われたからではないが、気になっていなかったその痛みが僅かに気になった。
「どういう事!?」
 怪訝な表情を浮かべ要を見る小春。
「どうもこうもないわよ、確かに浜で倒れていた潤を見つけたのは私だけども肩の治療なんてしてないわ、倒れていた時から処置がしてあったのよ、だから私は潤には言ったでしょうが……とりあえず騒ぎにならないようには言っておいた、って」
 要はそう言って腕を組みながら息をつく。



「……あっ」
 潤は病室で要に言われた事を思い出し声を上げる。 そういえば要は騒ぎにならないように言っておいたと潤に告げた。
 確かに要がその応急処置を知らないと答えていたら診療所の老医師は駐在にその事を喋るだろうし、そうなれば誰がやったのか? 事故とその人物は関係があるのかと面倒臭い一悶着があったに違いない。
「……でもさ、それはそれでいいけどさ、もし潤を本当に治療した人が名乗り出てきたら要は気まずい立場になるんじゃね?」
 小春が口を挟む。
 確かにそうである、潤を応急処置した人間が何らかの理由で側を離れていて後から名乗り出ては要がみんなに嘘をついた事になってしまう。
 それこそ騒ぎを起こさない様にしたつもりが自分が何かあるのではと疑われる結果になってしまうのではないだろうか。



 しかし、神妙な顔つきの要は首を振り、
「違うのよ」
 と、答えた。
「何が?」
 首を傾げる小春。
 要は一度俯いてから、意を決した様子で顔を上げて告げた。
「あの日の朝に家に電話があったの……男性の声で潤が怪我をして倒れているから助けてあげてくれ、応急処置は施してあるから……君が治療した事にして彼の身の為にもこの電話の事は内密にしてくれ、って」
「……電話!? 男からだって?」
 要の話した内容に潤は声を上げてしまう。
「ええ……低く抑えた感じの聞き覚えの無い男性の声だったわ、確かに私は朝に漁に出る事があるけど毎日じゃない、あの日は朝起きて学校に普通に行くつもりだったのよ」
 要は頷き、
「そんな電話があったから私は慌てて電話で言われた通りに海岸の岩場に行ったら潤が岩場に隠す様に倒れていたのよ、応急処置もされていたわ……確かにあの海岸は家から近いからそっちからボートを回すのだけど、例え当日に漁があっても岩場に隠されたら見つけられたとは思えない」
 と、首を振る。



「……男の声」
 唸る様に呟く小春。
「ええ……低くしてはいたけど、潤の居た岩場の場所を聞いたりして少し会話をしたから聞き間違いではないわ、おそらく私が話した事が無い相手だと思う、あと雰囲気だけど年齢はそんなにいっていない感じだったわ、いっていても30代くらいに聞こえたわ」
 要は答えた。
「男の声か……」
 潤も小春と並んで腕を組んでしまう。
 言ってしまえば神洋島は田舎である。
 若い男女共に都会に比べたら割合が少ない。
 神洋学園を見てしまえば一目瞭然で、高校生の男子は潤を含めて3人しかいないのだ。
 それを30代まで広げても神洋島には若い男はそれほどいない。
「でも狭い島でも滅多に会わない人もいるし、だいたい少ないと言ってもなりにはなるだろうし……」
「まぁね」
 要の言葉に小春は相槌を打つ。



 結局は電話の相手をここで推測するのは不可能そうである、要に判るのはいつも市場等で接している漁業関連の男達だろうし、要の性格から異性と積極的に関わるとは思えないので、話している男性もそうは多くないだろう。
「まぁ、その男の事を考えても今はわかんないよな、とりあえず要が伝えに来た事はわかったよ」
 小春はそう言いながら畦道の隅に止めてある要の自転車に跨がった。
「で!? どうする? どうにも様子がおかしくなって来たよな」



 月明かりが再び辺りを照らし出す。
「……」
 敢えてだろうか、要は黙って小春を見つめる、その表情は神妙な顔だ。
 しかし、小春は対称的な不敵とも言える笑顔。
「確かに潤の周りで起こり始めているのは危険そうだし、意味がわかんねぇけど……私は潤を信じるよ、要はどう? 潤を信じる事が出来る? ……どう?」
 そして最後の言葉の後、潤には小春の表情からは笑みが消え、最近見せる美少女の顔つきに変わった様に見える。



「……何よ、そんな顔して見せて……」
 再びの何秒かの沈黙の後で大きく息をつくと要は釣り目がちな瞳を細めて小春に向かって歩き始めた。





     第54話に続く


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