第49話「弓永家と新田家」
2017年7月2日
午後9時27分
「元々は本土で、無線とかを扱う仕事を軍相手にしていたらしいけど、弓永家にスカウトされる形で軍属として神洋島に渡って来たのが私のひい爺さん、戦争中には娘の……私にとっては婆さんと一緒に、盗聴や通信技術を徹底的に研究して、当時神洋島の防衛司令官だった弓永星十郎少将と協力し、アメリカ海兵隊の上陸作戦を撃退しているんだ」
「弓永星十郎……っていうのは琴乃先輩の?」
「ひい爺さんだよ」
潤の質問に小春は頷く。
「考えるとすげぇな、昔の戦争で、小春のひい爺さんと琴乃先輩のひい爺さんが協力して、アメリカ海兵隊を撃退したのかよ」
思わずため息をついてしまう、潤にとってはアメリカ合衆国と当時の大日本帝国との戦争は、遥か昔の神話と大差がないくらいの認識だが、歴史の重みはどうにか解る。
その中で奮戦した人間を小春や琴乃は近い血縁に持つのだ。
「当時はすでに戦局はアメリカ軍に完全に傾きかけていて、アメリカ海兵隊も神洋島攻略は2日あれば可能だと考えていたらしい、とにかく当時の日本軍は通信や情報に疎くて先手を取られっぱなし、だが神洋島の日本軍は違った……戦前から先見の明があって、弓永家と新田家は着実に神洋島とその周辺の情報を獲得する手段を用意していた為、アメリカ軍を撃退する事が出来たんだ」
「凄いな!」
純粋な驚きを潤は口にするが、小春は少し笑みを浮かべて、
「もちろん運もあった……いや、それが大部分かもな、実際は米軍は3日間で2回撃退され、神洋島攻略をやめてるんだ、神洋島の日本軍は米軍を撃退したが、軍人や協力していた民間人の損害は甚大で、もう一度米軍が侵攻してきたら危なかったらしい、でも米軍の方で別方面の戦局が大きく有利になり、神洋島攻略が必要で無くなったんだ……結果、神洋島は被害の割に合う攻略目標でなくなり、無視されて守り抜いた事になったという訳」
と、一息置いて、
「まぁ、それがあって戦後も神洋島内での弓永家の威光は頂点に達して、今に至るんだ、戦後には神洋島に本拠を置きつつも、知っての通り弓永家は本土でも事業に成功している、また元々が軍人家系であるように亡くなった琴乃姉の爺さんは海上自衛官だったし、お父さんも元陸上自衛隊を婿養子に貰ってるくらい」
と、説明した。
「へぇ〜、じゃあ新田家……小春の家はどうなんだよ、協力したんだろ?」
小春の説明では、昔の弓永家と新田家の結び付きは主従にも見える。
だが小春は首を横に振りながら、
「何も無い……今の生活の差をみりゃわかるだろ?」
苦笑して肩を竦める。
「あくまでも新田家は弓永家の諜報という影の部分を務めていたらしい、それに諜報は米軍相手ばかりではなく、住民の中の不穏分子を探し出し、周りに悟られない様に連行して、強制的な自白をさせていたりしていたらしいから……あくまでも新田家は表に出ない、いわゆるただの島民の皮を被っているのが役目だったというからね」
新田家は味方である島民を疑い、怪しくば連行等、戦後に島民にはとても話せない日陰の仕事をこなしていたのだ。
戦後、弓永家が島民から信頼され、神洋島内を経済的にほぼ独占し、確固たる地位を築き上げる中、戦時中の活動はもちろん語られる事無く、新田家は今や小春1人になってしまっているのである。
「なんか……それって、小春達が可哀相だな」
「そうでもない」
小春は笑顔を見せる。
「ぶっちゃければ、新田家は島一番の弓永家が味方についてくれて、色々と恩恵を受けてた……親がやってた電気関係の仕事も弓永家関係が多かったし、戦後から三代続けてこれたのも弓永家のおかげなんだよ」
「なるほど、新田家は特技を活かして、戦後は電気関係の仕事を始め、弓永家が支援していた訳か」
腕を組む潤に、
「そういう事、神洋島は今も無線は頻繁に使うしな……私も小さな頃から色んな事を教わってきた……盗聴技術もその一つだよ」
顔を伏せた小春。
表情が雲っていき、先程までの笑顔が消え、
「……でも私はその教えられた技術を悪用した、漁船の無線を傍受して、盗聴器を色々な場所に仕掛けては人の秘密を聞いて千里眼と人達を驚かせた……」
と、涙声になっていく。
「いいよ……小春」
潤はなるべく自分の出来る限り優しく呟いた。
「……潤」
「顔を上げて小春、俺は小春の事情は聞いてる、お父さんが急に居なくなってから後、小春はこういう技術を駆使して千里眼少女と呼ばれて注目された……寂しかったんだな」
頷く潤。
唯一の肉親であった父が失踪し、寂しさを覚えた小春が誰かに注目してもらいたくて人の知り得ない情報を引き継がれた技術を駆使して得る。
動機は単純だ。
でも当時の小春は寂しさで押し潰されそうな気持ちだったのは想像出来るのである。
「もちろん、小春のした事は悪い事だよ……色々な秘密を知られて困った人はいるだろうし、俺がこんな事を言っても意味ないけどさ……もうしないと言うなら、俺は今の小春を大切にしてほしい」
「じ……潤」
頬に涙を伝わせながら見上げてくる小春。
「さ、さぁ……時間が無いから調べを始めようか? 涙を拭いて……」
潤がそう言いかけた時、小春が不意に背伸びをして顔を迫らせて来たと思うと唇に柔らかな感触がが触れる。
「んっ……こ、こは!」
驚愕する潤から小春はそっと顔を離し、
「ありがとう……もしかして初めてだった?」
舌を出しながら、少し小悪魔的な笑みを浮かべた。
第50話に続く
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