第48話「告白」
2017年7月2日
午後8時57分
「こんな夜にどうやって親にばれず、お前を家に入れるんだよ」
自宅の家の明かりが見えてきた所で潤は小春の家を出て来てからの道中、何度目かの同じ質問をしてしまう。
「だからさ、上手くやれよ、そこまでは私は知らないよ! おんなじ事を何度も聞くんじゃねぇ」
上下紺色のつなぎにリュックサックを右肩にかけた小春は口を尖んがらせた。
「……わかった、親達はたいてい居間にいるし、部屋も一階だから俺の部屋がある二階に上がってくる事はないけど……千里眼調べるのには、俺の家に来なきゃいけないのか?」
「……まぁね」
「じゃあ、様子を見てくるから小春は少し隠れていてくれ」
潤は小春に告げると、そそくさと自分の家なのだが忍び足で玄関に近づく。
潤がドアノブに手をかけようとすると、先にドアが開き、母親が姿を現したのである。
「か、母さん?」
驚いた潤に母親は安堵の顔を浮かべ、
「帰ってきたわね、母さんね、弓永さんにお呼ばれしちゃって……父さんが仕事の打ち合わせで呑んでいるらしいの、せめて潤が帰ってこないとと思って」
と、息をつく。
「あ、ごめん! 俺の方の用事は済んだからさ、行ってきなよ、仕事の付き合いも辛いね……俺の怪我も心配ないって弓永さんに伝えておいて」
潤は笑いながら答え、降って湧いた幸運に感謝した、今までも仕事の付き合いから弓永家関連の人間に父親と母親が酒の席に誘われる事は何度かあったが、まさかそれが今日に当たろうとは……
「そうね、じゃあ母さん行ってくるから」
すでに外行きの服に着替えていた母親はそそくさと玄関を出ていく。
「まぁ、楽しくお酒を楽しんで来てよ」
潤が声をかけると、
「日が変わらないうちには帰ってくるわ」
母親は振り返り笑った。
母親を見届け、潤は小春を待たしている方向に向けて、
「こは……ウググッ」
と、声をかけようとしたが、不意に背後から口をふさがれる。
「静かにするんだ」
耳元で聞こえてくるのは小春の声。
いつの間にか母親と入れ代わりに玄関の入口まで来ていた様だ。
『シーッ! 今からは小さな声で喋るんだ』
小春は潤の口元に人差し指を立てながら囁く。
『えっ!? どういう事なんだよ?』
小声で潤が振り返ると小春はそっと言った。
『お前が母親と話している間に外から調べてみた、それだけでわかった……この家は盗聴されている!』
『……なっ!』
驚く潤。
『間違いない』
小春は今度は自分の口元に人差し指を当てながら頷く。
『何で外からわかったんだよ!?』
いきなりの小春の言葉に少しむきになる潤に、
『これだよ……盗聴器の発する電波を感知するカウンターだ、この家は周りに家がないからな、この家で確実だ……その疑いがあったから、さっきは電話で長く話したくなかったんだ』
と、トランシーバーのような装置を出してくる。
『それでさっきは何も言わないで、電話を切ったのか!』
約束を忘れたと慌てて、電話をかけた時の小春の態度の疑問が解ける。
『そ、それはいいとして、何でお前がそんな物を持っているんだよ?』
『説明の前にだ、とにかく……家のどの部分に仕掛けられているか見極めないとな……もう誰もいないんだろ?』
『ああ』
潤が頷くと、小春はカウンターを片手に玄関から中に入っていく。
黙ってついていくしか出来る事は無かった。
「ここは反応が遠いな、ここなら少し抑えた声でしゃべれば平気だ」
風呂場の隣の洗面所。
小春は潤に少し抑えた声で振り返る。
聞きたい事があるなら今から聞いてくれ、といった様子だ。
「風呂場には少なくともないのか……やれやれ」
苦笑する潤に、
「風呂場には隠しカメラだとしても湯気でレンズが曇るだけだし、盗聴器にしても反響する音を余計に拾ってしまうから最も向かない場所だよ、まして湿気が精密部品の天敵なのは常識だしな……脱衣所を兼ねた洗面所もそれは同じ」
小春は答える。
「なるほど、詳しいな」
嫌な予感を察しながら、小春を見つめる潤。
それに気付いたのか、小春は顔を俯かせ、呟くような小さな声で言った。
「……やってたからさ」
互いの数秒の沈黙。
潤の中で何かの答えが出る。
「もしかしたら……千里眼っていうのは……」
「うん……カメラは使わなかったけど、盗聴器をいろんな所に仕掛けてたし、無線も盗聴してたんだ、この島は連絡は無線が主だし、メールも出来ないから、盗聴器を仕掛けていれば色々な情報が幾らでも入ってくるんだ」
ポツリと小春は言う。
「そうか……」
小春が盗聴をしていた、潤はかける言葉が見つからず、たとたどしい返事になってしまう。
「全部話す……」
小春はゆっくり顔を上げた。
「新田家は昔、戦争中に防諜……いわゆるスパイみたいな事をやっていたんだ、島の一般の人間達には秘密でね」
静かに話をはじめる小春。
「スパイ!?」
いきなりの意外な単語に潤は驚く。
「ああ、知っていたのは当時、神洋島で海軍軍人を何人も輩出して歴代の島の司令官を務めていた弓永家……琴乃姉の家だな」
小春は頷く。
弓永家が元は軍人の家系の名家なのは何となく聞いていたが、小春の家が昔とはいえ、軍隊の関係者だったとは。
それも秘密の……
自分の家が何者かに盗聴されている事。
小春が昔、していた盗聴を告白した事。
千里眼の正体。
そして、遥か過去に遡る事実に潤も困惑を隠しきれなくなっていた。
第49話に続く
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