第45話「帰り道」
2017年7月2日
午後5時17分
「いやぁ、なかなか面白かったかもな……案外、要のナースははまり役かも、しかも、サイズばれてひっぱたくなんて相変わらずのツンデレだよ」
「うるさいわよ! 小春だってやったじゃない、膝蹴りよりはマシでしょ!」
海岸沿いの舗装道路。
両手を頭の後ろに組み防波堤の上を歩きながら、ニンマリ笑う小春に、要はフンとそっぽを向いた。
「どっちも悪い!」
そんな2人に真面目に怒鳴る潤。
病室での千島の妄想ナースは小春まで妄想、更に混沌の様相をていしたが、詳しくはまたの機会。
その終了後、老医師が帰り、潤の傷を診た結果、帰宅できるとの判断が下されたのである。
「まったくチーがくだらない妄想を発展させるものだから……」
要が頭に手を当て、首を振った。
「え〜!? 面白かったと思うけど、今度は妄想夫婦もやろうか?」
「やるやる〜! 潤君と新婚ラブラブ!」
笑う千島とノリノリの琴乃に、
「絶対に嫌よ! 大体にして結婚生活に多大な期待をした人が離婚する確率が高いらしいわよ!」
要は怒鳴り散らした。
夕暮れの海岸沿いをゆっくりと歩く5人。
色々な事を話しながら歩く、潤の休んでいた今日の学校での出来事、そして金曜日にせまって来た林間学校の事に話が移る。
「潤の怪我の方は大丈夫なのかよ?」
「平気さ、肩の痛みは実はそんなにないし、要が早い処置をしてくれたお陰で大事には至ってないよ、まぁ泳げるかはわからないけど、林間学校に参加できないなんて事にはならないだろうよ」
案外に心配そうな顔を見せた小春に、潤は肩を少し回しながら答えた。
医師は海中で鋭く尖った岩にでも肩をかすめたのかも知れないという推測をしていたが、そうでないのは潤が1番承知している、あの火箸をあてられたような痛みは、暗闇から潤をめがけて何物かが意図を持って何かの武器を放った様にしか思えなかった。
「……でも本当に要ちゃんが上手く処置してくれて潤君の怪我が軽く済んだのよ、ありがとう」
琴乃が明るい声で要の手を握ると、
「ええ、まぁね」
要は俯き加減になり、
「元々がそんなに大きな怪我じゃなかったのよ」
と、答える。
「いや、でも本当にありがとうな、要」
「い、いいわよ! 誰だってあの場面はやれればやるでしょ」
感謝を込め、笑いかける潤からも要はプイッと顔を背けてしまう。
照れているというよりは、何だか罰の悪そうな態度に見て取れたが、要特有の態度なのだろうと潤は気に止めない事にした。
それからも林間学校についてあれこれ喋りながら、夕暮れの海岸沿いの道を歩いていたが、自宅の見えてきた要が、
「また明日」
軽く手を挙げ、一階部分にガレージがついた家に向かって歩き出していく。
「じゃあね」
「またな!」
「またね、要ちゃん」
琴乃、小春、千島がそれぞれに手を振る。
「それじゃあな」
それにならう様に手を振る潤。
「……うん」
頷くと要は一瞬、潤と瞳を交差させるとドアの向こうに姿を消した。
「……要!?」
その態度が気になり足を止めるが、
「行くよ〜」
と、琴乃に呼ばれ、
「あ、はいっ」
慌てて先に歩き出した3人を追いかけて、小走りに走り出した。
海岸沿いから太宰地区に入る。
その間の話題は林間学校のレクリエーションを何をしたらいいかという話題になって、いくつか中々に面白そうな案が出たが、今度は潤の家が近づいたので、
「じゃあ……その話はまた明日にしよう、今日は本当に心配かけてゴメン」
3人に笑いかけて、謝る仕種をして家に向かって行こうとする。
「またね、お大事に」
千島が手を振るが、横の小春が、
「オイッ、潤!」
と、呼び止めて来た。
その表情は少し怒りを我慢している様でもある。
何かとあると喧嘩早く短気な小春だが、ここまでいきなりの豹変は珍しい。
それには琴乃も千島も予想外だった様で目を丸くしていたが、小春は大きく息を吐くと、
「まぁ……いいか、じゃあな、お大事に!」
そう踵を返すと顔も向けず、バイバイと手を振りながら歩いていってしまったのである。
テクテクと歩き去ってしまう小春の背中。
それを残された3人はしばらく見ていたが、
「何だろうね?」
「何だろう?」
目を合わせた琴乃と千島は考えるよりも、答えを知っていそうな者に向かい、揃って視線を向けてくる。
「え!? 俺が? 知らない、知らない!」
首を振る潤。
「あのいきなりの怒り方に、いきなりの冷め方……小春ちゃんらしくないんだけどな」
千島は視線を潤に固定して、自分の顎に手を当てる。
「な、なんだよ?」
少し圧迫される潤に、
「まさか……今日は小春ちゃんとデートの約束があったとか!」
ビシッと指を差してくる千島。
「あっ……!」
その言葉に潤は声を上げて、小春の歩いていく行方を見るが、思い直した様に踵を返して、
「あ、いや、なんでも……千島に先輩、また明日」
と、告げると、結局は自宅に入っていく。
「……!? 何?」
首を傾げる琴乃だが、千島は特に何も答えず、潤の家の閉じられた玄関を見つめていた。
第46話に続く
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