第43話「妄想」
2017年7月2日
午後3時47分
まどろみの中で激しい物音が聞こえてくる、激しく先を争い走り合う足音。
互いを激しく牽制し、罵倒する声。
地獄の鬼達の現世への出征か、はたまた餓鬼達の黄泉からの大返しか?
何の音だ!?
「……!!」
嫌な予感がした。
そして眠りに入ってしまった事に気がつき、ベッドから身体を起こす潤。
「潤君! 大丈夫!? チーが超献身的看護をしてあげるよ!」
「ダメ! 私が潤君を看るの! 潤君、私の方が愛の溢れる看護を出来る!」
「ダメよ! チーや琴乃姉じゃ、更に怪我を悪化させかねないわよ! ろくな処置を知らない癖に!」
「怪我人は格闘技経験者が看るのが最適だぜ、生傷絶えない中を生き抜いて来たサバイバルが最も進んだ治療方法だぜ!」
ドアがまるで攻城兵器によって破られた城門の様に開くと、4人の娘がそれぞれに、何やら主張しながら派手に倒れ込み入室してきたのである。
「君達……病室ではもっと静かにしなさい」
頭に手を当て、潤はそれしか言葉が出なかった。
「誰が1番看護士に向いているかで、言い争いになった?」
潤が声を上げると、それぞれパイプ椅子に座った琴乃、千島、小春はコクンと頷き、要は腕を組みながらフンと顔を背ける。
潤の見舞いの為に学校に琴乃がいつもの車を呼び寄せて、帰り道にそのまま海沿いの診療所まで行く事にしたのだが、車中でふと4人の内、誰が白衣の天使であるナースに向いているかで激論になったらしい。
「……それで結局は現在、一応入院している潤君に聞くのが1番、という結論に達して……」
千島がそこまで言った所で、
「我先に俺にアピールするつもりで車から飛び出して診療所になだれ込んで来た訳だな」
潤が呆れ声でそれを遮った。
「……まぁ、くだらね〜と言えばくだらねぇけど」
ばつの悪そうな顔で頬を掻きながら頷く小春。
「でも各人が自分が向いてるって言い合う間に引っ込みがつかなくて……」
「……」
舌を出す琴乃に、腕を組んだままで黙る要。
『どうも判断は俺に委ねられているみたいだ……要にしてもこの流れを止めるつもりはなさそうだし』
4人の少女を見渡す。
それぞれがタイプの違う美少女と言っても異論は少ないだろう。
普段から仲が良く、姉妹のような印象を受ける。
しかし、全員に共通するのは皆が負けず嫌いな面を持っている所だ、小春は普段からして気が強いし、琴乃にしてもおっとりお姉さん系の割には勝負事はシビアで、千島も温厚だがその辺りは琴乃と同じで抜目ない、最後の要はグループ全体のブレーキ役にも思えるが、やはり気の強さから一度何かの争いを始めると納得のいく結果を収めるまで退かない事があるのだ。
「しかしなぁ……ナースに合うと言われても、今のみんなは学校の制服だし、実際にナースなんて仕事はやらなくちゃ分からない事が沢山あるだろ? 別の話題にでもしたら?」
潤は後ろ頭を掻き、無難な提案する。
4人の少女達が自分の判定を待つのはわかるが、今の時点で誰が1番ナースに合うかなど潤が指名しても角が立つし、指名を漏れた者からの抗議が物心両面で脅威になるので、話を逸らしてしまおうと企む。
他の事での比べ合いとか言っても、女の子4人が話し合うのだ、簡単には決まらないだろう。
あーだこーだと言っているうちに話自体が右に左に揺れていき、比べ合い自体が消滅するに違いない。
「それもそうかぁ」
小春は両手を頭の後ろに組みながら、パイプ椅子の背もたれに寄り掛かり、
「まぁね……看護士さんに聞くにしても、この診療所は先生1人でやってるから看護士さんがいないし」
要は顎に手を当てながら頷く。
「じゃあ、ナース服もきっとないわね」
そして、残念そうな表情を見せる琴乃。
ナース服があれば何をしたいのか尋ねてみたいが、薮蛇になりそうなので、潤はツッコミの言葉をぐっと飲み込む。
簡単に言えばスルー。
「捜してみる?」
ボケか本気か、判別しにくい小春の提案に、
「あったら二度とこの診療所には来ないわよ!」
と、要が絶妙なツッコミを入れる。
どうやらこのまま会話はあらぬ方向に行きそうである、潤が安堵感すら覚え始めていた時である。
「想像力があるじゃない! 想像力でカバー」
千島が立ち上がり、
「みんな! ナース服なんて無くてもナースにはなれるよ……さぁ、目をつぶってみて!」
と、周りに促す。
「え!?」
潤を含む残る4人はいきなりの千島のテンションに驚くが、
「早く!」
と、急かされ、互いを見合いながらもゆっくりと目を閉じた。
「どうすんだよ?」
困惑の声を上げているのは小春だ。
潤自身が目を閉じているので、確認しようがないが、おそらく小春も目を閉じているのだろう。
「……無駄な事を喋っちゃダメ! 集中して! チーの妄想劇場の開始だよ!」
「妄想劇場!?」
千島の返事に小春と潤は思わずハモっていた。
第44話に続く
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