第36話「要との帰り道」
2017年7月1日
午後12時49分
「ぐっ……」
強烈な膝が腹部に入ってしまい、倒れ込み視界が暗転するが意識を失うまでのダメージには程遠い。
「何をやってるのよ?」
耳に入ってくるのは、聞き慣れた少女の声。
「いや〜なに? どうした? 要」
何かをごまかすような声の小春。
相手は要だ。
「どうしたもないわよ、だから何をやってんのよ」
「……あの〜、それだ……いわゆる組み膝! 空手の技だよ、潤で威力実験をしてたんだ」
その言葉を聞いて、潤は理解出来た。
潤を抱きしめていた時に要がいきなり現れたので、膝蹴りでごまかしたのだ。
「いてて……小春、たいして痛くないって言ったじゃねーか!」
話を合わせる事にした潤が立ち上がると、
「ああ、わりぃわりぃ、本人の予想をはるかに越える凶器的な威力だった、この膝は封印するぜ」
小春は頭を掻く。
「……ふぅん」
要は両方の腰に手を当てながら目を細めた。
−同日
午後4時3分
「林間学校楽しみだね! チーはなかなか夜も寝られないよぉ!」
「まだ先でしょ?」
グループ全員で校門を出た所で、笑顔を浮かべる千島に琴乃が苦笑した。
「今日は火曜日、金曜日なんてすぐに来るよ」
ご機嫌な様子の千島。
「林間学校とか言っても、私達にとっては酒勾の川でのキャンプだろ?」
小春は肩を竦める。
「まぁ、俺は初めてだけど保護者向けのプリントを見るとそんな感じだよな? 神洋学園の中高生全員参加だし、場所も何回か遊びに行っている川だし……まぁ、新鮮味には欠けるな」
潤も頷くと、千島が心配そうに覗き込んできた。
「楽しみじゃないの?」
「イヤイヤ、新鮮味に欠けると言っただけで楽しみなのは変わらないよ、泊まりがけのキャンプともなれば、何度か行った場所も色々と遊べるだろうし……」
「良かった! 今年は潤君もいるし、チーは特に楽しみにしてるんだ」
千島は安心した様に笑顔を見せる。
「それもそうね、私も今年が最後だし、潤君とのひと夏のふか〜い思い出を作りたいわ!」
琴乃が潤の左腕を取る。
「え!? ふか〜いってなんなんですか?」
流石に返事に困る潤に向かって、
「……そういう行為はきつく監視するわよ!」
要がやや勝ち気なつり目を細めたが、
「そういう要ちゃんも林間学校で潤君との急接近狙っているよね? ツンデレデレデレ〜!」
と、千島にからかわれて、顔面を真っ赤にしながら叫んだ。
「そ、そんな訳が無い、無いでしょ! 馬鹿っ、だっ誰が潤なんかと!」
全員で色々と話しながら帰り道につく。
酒勾地区に住んでいる小春、千島がそれぞれの家の方向に別れていき、そして、太宰地区にさしかかった所で、
「また、明日ね」
琴乃が手を振りながら、立派な和風の門構えを持つ弓永家の中に入って行く。
ここからは要と2人だ。
しばらくの間、無言で歩く二人。
元々、要は自分から異性にペラペラと話しかける性格では無い。
「林間学校ってさ……」
何か話題を探し、話始めるのは潤の方である。
「なに?」
話しかければ別段、冷たくしてくる訳でもない、要は短めのツインテールを僅かに揺らし、潤の方に顔を向けた。
「あ〜なんだ、林間学校では何か変わったイベントでもするのかな〜?」
実は別に話すネタなど無かったのだが、沈黙が耐えられずに先を考えずに切り出した話だ。
「知らないわよ、確か去年は肝試しをしたけど……今年はどうかしらね」
サラっと返事をしてから、再び前を向き直す要。
進まない会話。
他の面子がそこにいれば別だが、要と二人でいると会話が途切れがちになる。
「ねぇ? 潤……」
数十秒の沈黙を破ったのは要だった。
「なに?」
潤が返事をすると、
「あなた……さっき小春と何をしてたの?」
瞳を鋭くして見つめてくる要。
「……えっ!?」
潤はビクッと背筋を伸ばしてしまう。
「何を……って、小春が言ってたろ? 新しい技の練習台にされてたんだよ」
「ふ〜ん……水飲み場でねぇ」
いきなり話題を振られたので、自分でもたとたどしいとは思ったが、要はそれだけ言うと再び真っすぐ前を向いて歩き始める。
もう二、三突っ込みがあると覚悟しただけに少し拍子抜けしたが、何か言って墓穴を掘るのは避けたいので特に何も言わず、潤も要の横を歩き出した。
それから、潤の家が見えるまで何回か、言葉を交わした要と潤だが、それは他愛のない物だった。
「じゃあな」
家の垣根の前で手を軽く手を上げると、
「ええ……また明日」
と、頷いて海岸へ続く道、そして先に広がる海をバックに振り返る要。
海女をしているからではないのだろうが、何だか凄くそれが合っている。
「話したくなった時に話すといいわ、きっと私達もそうだから……」
要は俯きながらポツリと呟く。
「え!? か、要!?」
言葉の意味が理解しようとする前に、要はスッと踵を返すと海岸へ続く舗装もされていない道を駆け出して行った。
第37話に続く
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。