第34話「昼休み」
2017年7月1日
午後12時28分
「チーはやっぱり卵焼きには目がないよ」
笑顔を浮かべ、箸でつまんだ卵焼きをぱくりと口に入れる千島。
「……それは卵が良いからな、鶏婆ちゃんの鶏の卵だから旨いのは当たり前、代わりに千島の手作り春巻ゲットだぜ!」
小春はそう言うと、千島の弁当箱からひょいと春巻を箸でつまみ出す。
「あ〜、楽しみにしていたのに〜!」
千島は眉をしかめながら首を振った。
四時限目の終わった後、潤と千島の教室に小春、琴乃、要と机を寄せて、いつもの昼食である。
「要ちゃんの魚のフライも美味しそうだねぇ」
「アジフライよ、朝に市場で買ったのをすぐに揚げたのよ、その唐揚げ二個と取り替えてあげるわ」
ニヤつき、箸をカチカチ鳴らす千島に要が答える。
「待った要! 俺の弁当のミートボール二個も参戦させてくれ、要の魚のフライは旨いからな」
潤がおかず交換トレードに名乗りを上げた。
「ひどいっ、チーはアジフライ食べたいのに!」
泣き顔を見せる千島。
しかし、そんな事は気にする風もなく、
「要の魚を選ぶ目はプロだからな、その要の作ったアジフライなら千島を妨害しても、俺の昼食に加えなければならない!」
と、まるで何かの演説の様にわざとらしく潤は振る舞う。
「でも、潤君……名乗りを上げても私は負ける気がしないよ」
泣き顔から一変、余裕で強気な表情に変わる千島は要に向け、こちらも潤に乗った様に演技がましく両手を広げる。
「最終的な勝者を決めるのは要ちゃん、どう? 千島の放し飼い酒勾鶏の手作り唐揚げに潤君の利益追求と機械による合理化、大量生産に走った都会の食品企業の作った冷凍ミートボール、どっちを選ぶかな? 同じ二個なら考える間は要らないはずだよね?」
「……ぐっ!」
千島の言葉に詰まる潤。 確かに千島の言う通りである。
潤の母親は朝食、夕食は手作りが主立っているが、昼食の弁当はほとんどが冷食の組み合わせだ。
「どうして、それを?」
「甘いね潤君、私も結構、太宰まで降りて買い物に行くんだよ、だから潤君のお母さんの買い物を見かけてお話する事があるんだ、だ・か・ら……潤君のマル秘情報をチーは結構仕入れているんだよね」
驚く潤に千島は不敵な笑いを浮かべた。
「太宰スーパーかっ!」
痛恨の一撃を受けた様になる潤。
千島や小春の住む酒勾地区は山地で小さな商店はあるにはあるが、品揃えの豊富なスーパーなどはない。
そこで太宰地区にある神洋島唯一の大型スーパーである太宰スーパーに数日に一回、買い物に来る者が多いのである。
「えへへっ! 情報戦の勝利だよ、潤君のお母さんが冷凍ミートボール買ったのは昨日見ちゃったんだ、明日のお弁当なの、って証言も引き出し済み!」
得意げに千島はピースサインを出して、要に振り返り、
「さぁ要ちゃん! 私の唐揚げ二つと要ちゃんのアジフライ、トレード成立」
と、妙なテンションで喜ぶ。
「ハイ、ハイ……それならチーのと交換で決まり」
要も何をやってるんだか、と言いたげな表情だが応じようとする。
……しかし。
「待った!」
小春が手の平を広げて前に出し、ストップをかけたのである。
「な、なに? どうしたの、小春ちゃん?」
「なによ?」
小春を見る千島と要、敗れ去った潤やトレードに関係の無かった琴乃も小春に注目する。
注目を浴びる事は分かっていたかのように、口元に笑みを浮かべ小春は千島の弁当箱を指差す。
「確かに千島の言う通り、潤のミートボールは冷凍食品だろうさ、証言もあるし確実だよ……でも、それは千島の唐揚げが鶏婆ちゃんの鶏を使った唐揚げであるという証拠にはならないよな?」
小春の台詞に、千島はわずかに下唇を噛んだ。
「……ま、さかっ!」
潤が顔を上げると、小春は頷く。
「そう、そのまさか……確か昨日は太宰スーパーでは唐揚げ用鶏のモモ肉の特売だったと記憶してるぜ! 潤のお袋さんがミートボール買ったのを見ていたなら、千島がそれを買った確率もあるよな?」
「まさかチー、産地偽造を……」
今まで見物していた琴乃がわざとらしく驚いて見せる。
まぁ、産地偽造といっても神洋島内なのは同じなのだが……
「そういう事、鶏婆さんの放し飼い鶏は数が少なくてスーパーには絶対に出回らない、それはスーパーに鶏肉や卵を卸している矢作さんの養鶏場の鶏肉なんじゃないのか?」
名探偵宜しく、千島を指差す小春。
「しょ……証拠がないよね? それだけだと小春ちゃんのとんだ言い掛かりになっちゃうよ、私のこの唐揚げがスーパーの特売で買ったという証拠が!」
千島は切り返す。
もちろん、周りもノリの遊びと化している。
もっとも、全くよくやるわねと、交換相手の要は呆れているが……
「証拠はある、チー! ならばいつも持ってる財布を出して貰おうか!」
小春が自信満々に叫ぶと、千島はオーバーアクションにたじろぐ。
「そうだよな、チーは前にレシートを財布の脇ポケットに入れて溜めちゃう癖がある、とか言っていたよな、無実を証明したいのなら財布を出せ! 持っているだろう? 昨日のレシートを! そこに特売の唐揚げ用鶏のモモ肉が記されてなければチーの勝ちだ」
ビシッと千島を指差す決めポーズを決める小春。
千島は頭を垂れ、
「許してください刑事さん、どうしても……どうしても旬の魚の鯵のフライが食べたかったんですぅ!」
ヨヨヨと、泣き崩れた。 まさに茶番は終わったのである。
同日−午後12時42分
「ったく、結局は要のアジフライは食べられず終いかよ、旨そうだったな」
潤は呟きながら靴を履き、水道に歩いていく。
結局、要は冷凍食品のミートボールにも、詐称疑惑のチーの唐揚げともアジフライを交換せずに自分で食べてしまった。
潤は喉が少し渇いたので、残った昼休みの時間、お喋りに夢中なグループから抜けて来たのである。
そこに、
「潤!」
と、背後から声をかけられる。
小春だった。
水を飲みに教室を出た潤を追いかけて来たのだ。
「水飲み場までいこう」
「うん」
潤が声をかけると小春は頷く。
それは示し合わせての合流であった。
第34話に続く
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