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第30話「嘲笑う千島」
2017年7月1日
午前8時28分


「お早う、今日は二人?」
 通学路の途中の道の脇に立っている大木の下で座っていた小春が、千島と潤を見て声を上げた。
「お早う小春ちゃん! そうだよ、今日は私と潤君が少し早いの、二人はすぐ後ろじゃないかな?」
 顔を上げ、千島はニッコリ笑って答える。
 聖と別れてから3分程歩いていたのだが、千島も潤も口をきいていなかった。
「そうかぁ、時間からしてすぐに来るだろうな、待つ事にしようぜ」
 頭の後ろで両手を組み、大木の寄り掛かり座り込む小春。
「……そうだね」
 千島は頷いて、小春の隣に座った。



 前述したが、神洋学園のホームルームは一限目の冒頭におこなわれる為に8時50分からであり、まだ20分程度の時間がある。
 この地点から学校へは歩いても10分あれば、着く距離なので時間的には余裕なのだ。



 夏の朝の陽射しを避けられる大木の日蔭に座る二人の少女。
 潤は二人を見ていた。
 セミロングに猫の髪止めをした少し男勝りな所があるが、根は優しく地域の老人の為に朝早く市場に買い物に行く小春。
 ショートボブカットの似合う、普段から温厚で歳相応な少女らしい千島。
 二人共、神洋島に住んで三ヶ月の潤の生活をとても楽しい者にしてくれた仲間であり、最近は思春期の潤にとっても無視は出来ない存在になりつつある。
 だが、目の前で雑談を始めた少女二人には何かの秘密があるような気がしてならないのだ。
 そんな物は無視すれば良いのかも知れない、人には人には事情があるのは潤にもわかる、しかし、それだけで無視は出来ない何かがあったのも否定出来ない。



「ねぇ、小春ちゃん」
「なに?」
 千島が優しげな声で話しかけると小春は目をつぶったままで答える。
 ぼんやりとそれを見ていた潤だが、千島の口から出た次の言葉に背筋が凍り付いた。



「潤君がね、千里眼の話を知りたいんだ、って私に聞いてくるんだよ」



 千島の口調はひどく冷静だった。
「……!!」
 目を開けて立ち上がり、立ち尽くす潤を睨み付けてくる小春。
「いや、その……」
 嘘でも、否定すればよかったのかも知れないが、予想外の千島の言葉に潤は慌ててしまった。
「……なんで? 忘れてって言ったじゃ……」
「……あ、違うんだ小春、聞いてくれ!」
 涙を溜める小春を宥めようとしたが、
「知られたくない事だってある!」
 叫ぶと小春は潤の頬をおもいっきりひっぱたき、
「潤のバカっ!」
 涙声で怒鳴り散らすと、学校の方向に走り出してしまったのである。



「……こ、小春っ! 待てっ、俺は何も!」
 走り去る小春の背中に手を伸ばすが、追いかける事は出来なかった。
 嘘では無かったからだ。



「あ〜、あ〜、酷い事したね?」
 立ち尽くす潤に千島がポツリと声をかけてくる。
 普段の千島からは思いもよらない冷たい声。
「……何が酷い事だ! お前が小春に言ったんじゃないかよ!」
 潤は千島の声に反比例するような熱のある声を張り上げた。
 恫喝に近い口調だが千島は一切怯む様子は無く、
「……潤君が千島に聞いてきたんでしょ? 別にそれを隠さずに小春ちゃんに伝えただけ」
 と、瞳を細めて逆に潤を睨んでくる。
「それはそうだ! でも小春に直接話していい話題かは千島も判断つくだろ、何が酷い事しただよ!」
 確かに千島は潤に聞かれた事を小春に言っただけである、しかし素直に小春に聞けないからこそ千島に聞いた事なのだ。



「どうかな? 私は小春ちゃんに内緒でコソコソ嫌な事を嗅ぎ回るのが酷くない事かな?」
「嗅ぎ回るって……? 俺がいつコソコソと嗅ぎ回ったんだよ!」
 反論する潤に千島は顔を近づけて来た。
 目の前だ。
 さっき聖に近づかれた位の近さで、千島は潤を上目づかいで睨みつけて、
「昨日、要ちゃんや琴乃ちゃんにも同じ事聞いてるよね? しらばっくれは止めてもらえる?」
 と、潤の顎辺りを指先で撫でた。
「……なっ?」
 驚く潤。
 千島は潤の驚愕の顔を楽しむ様に笑い出す。
「ウァハハハハハッ! これが知りたがっていた千里眼ってやつかもよ、下手な人の詮索はいい加減にするんだね!」
「……何でだ? 何で千島はそんな事を知ってるんだよ!」
 狼狽する潤。
 千島は口元に妖しい笑みを浮かべ、静かに呟く。


「ヨケイナコトシタラ、イタイメニアウヨ」


「……!」
 思わず潤は踵を返し、小春の走り去った学校の方向に走り出す。



 小春を追いかける為なのか、千島から逃げ出す為かはよくわからなかった。
 しかし、今はこの場から離れたい一心だった。
「アハハハハッ、また学校でね! アハハハハッ、休んじゃダメだよ!」
 千島の狂った様な笑い声が学校へと続く山道に響き渡っていた。



     第31話に続く


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