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第3話「勇者千島パーティーが行く」
2017年6月27日
午後12時27分



「堂々、完成! 今日の千島の逸品はサラダ海老サンドだよ! もちろん他にも種類はあるんだよ」
 千島が豪快に弁当箱を開けると、そこにはぎっしりと色々なサンドイッチが敷き詰められている。
「旨そうだな、あたしの家庭菜園直送、葱と放し飼いの鶏で作ったネギマと取り替えろっ!」
 すかさず、小春がトレードを持ち込み、
「その鶏はあれだね! 酒勾の鶏ばあちゃんのだね、ならば替えない訳にはいかないな〜!」
 千島が歓喜の声を上げ、トレード成立。


 酒勾というのは、神洋島の中でも山中に入った地区で、殆どが山林である。
 そこに鶏飼いの名人の老婆がおり、その老婆の育てた鶏が神洋島でも、一番旨い鶏と、重宝されているのだ。
 ちなみに神洋島の住民の殆どは、港がある島の南側の太宰地区という場所に住んでいる。
 そして、中央が酒勾地区、更に北に入ると、島の者でもそうそう立ち入る事のない鎮守地区という秘境に近い場所がある。



「私も鶏を食べたい、小春ちゃん、お願い! 私の蟹めし三分の一食べていいから」
「半分だろ? 蟹なんて食べ飽きてらぁ」
 そして、琴乃とも交換を始める小春。
 潤はそれをずっと眺めながら、自分の弁当を適当に口に運んでいた。


 結局、あの後で島の唯一の駐在の警官がやってきたのだが、事態は変わらなかった。
 周りをグルリと見渡して、来た若い駐在は、
「う〜ん、何か、悪戯された可能性もありますね」
 と、潤を気遣う様子を見せたが、血だらけの男の事は結局、警戒を強めて様子を見ようという事になったのである。


 幻だったのだろうか?
 潤はボンヤリと考えていた。
 いつもなら二年生の教室に来る琴乃や小春、そして要を交えて、五人で楽しい昼食の筈なのだが、今はそういう気分ではない。
「潤君にもあげるよ」
 そんな様子に気を使ったのか、千島がサンドイッチを一つ差し出してきた。と、
「ありがとう」
「良いって……はい!」
 千島は礼を言った潤の口に、直接サンドイッチを入れて、
「気にしない事だよ、潤君が悪い事した訳じゃあないんだから」
 と、笑いかけて来た。


「そうだぜ、気にする必要なんてないぜ」
「そうよ、それに特に何もないなら忘れても良いんじゃないかしら?」
 小春と琴乃の気遣いに、口一杯にサンドイッチを入れた潤はコクコクと何度か頷く。
 ……そうだ、何も無かったんだ、お化けを見たでも構わない。
 悪い事をした訳でもないんだから……
 潤はそう思い、サンドイッチを飲み込むと、
「そうだよな、忘れることにするよ!」
 と、勢いついでに、小春のネギマを素早く取り、パクリと食べた。
「な……何しやがる!」
 立ち上がり、潤にヘッドロックをかける小春。
「うぇぇぇぇぇっ! ギブアップ、ギブアップ!」
「ダメだ、お前が何を忘れようとも、私は忘れないからなぁ!」
 潤の苦悶と小春の怒鳴り声、それに千島と琴乃の笑い声が混じり、教室の空気は一気に明るくなった。



2017年6月27日
午後3時29分


「結局、要は学校来なかったな……」
 授業が終わり、教科書を鞄に入れていきながら潤が言うと、
「そうだね、体調でも悪くしたのかな? 千島、心配だから帰りに様子見て来ようかな?」
 そう千島は答えた。
 要は海女をしている関係で家は海沿いだが、千島は少し奥まった山沿いだ。
「全然、帰りに寄るどころじゃないだろ? 大回りもいいところだ」
 学校から千島の家は比較的近い、歩いても十分ぐらいだ。
 要の家に寄れば、海沿いに行くだけでも、三十分ぐらいかかるだろう。
「いいんだもん、要ちゃんが心配だから行くんだもん、私が行かないと、要ちゃんに悪の魔の手が〜!」
 訳の解らぬ使命感に火が点いたのか、そんな事を言い始める千島。



「ったく、千島の友達思いには平伏するよ、俺も要を悪の魔の手から救うパーティーに入れてよ」
 潤が笑うと、
「いいよ、要姫を助ける勇者千島パーティーに今、盗賊の潤君が加わった!」
 ノリノリの千島。
「盗賊か!」
 潤が文句をつけると、
「待った! そのパーティーじゃ不安だ、強き戦士の小春様と……」
「……優しい僧侶の琴乃がお供します」
 声が響き、そこには教室の入口に小春と琴乃が立っていた。


 かくして、勇者千島パーティーの要姫を探す旅が始まった。
 ちなみに千島や小春は学校に近い山沿いに家があるし、琴乃と潤は、山沿いと海沿いの中間地点の平野部に家があるので、誰も帰り道のついでにはならなかったが、誰もそんな事を気にしている様子など無く、色々と話しながら、海沿いへの道を歩いていった。



「ここだな」
 小春が足を止める。
 要の家だ。
 一階部分は正面のシャッターの閉まっている。
 漁に使うボートをしまうスペースで、二階部分が住居の小さな家であった。
 防波堤から細い道路を隔てて、建つ家である。
 正面シャッター脇のドアには、岸川とだけ書いた郵便受けが付いていた。
 琴乃がドアを開けると、二階に続く階段があり、
「要ちゃん〜」
 と、覗き込む様に琴乃が呼びかけるが、返事は無い。


「鍵開けてるのか、不用心だなぁ?」
 潤が肩を竦めると、
「上の家に入るドアは閉めてあると思うよ、一階にはお風呂とトイレ以外は、船を入れてる倉庫しかないからね……」
 千島が答えながら階段を昇っていく。
 覗き込むと、階段の横には湖でよくカップルが乗っていそうなボートにモーターを付けた船が暗い倉庫に置いてあった。
「ほら、さっさと登れよな、後がつかえてるよ」
 小春に促され、潤は琴乃、千島の後に一人ずつしか登れないような狭い階段を登る。


 階段を登った所にあるドアの向こうが要の部屋なのだろう。
 引っ越して来て三ヶ月が経とうとするが、潤は要の家に訪ねていくまではしたことが無い。
 ついでに言えば、千島、小春、琴乃にしても同様で、家の事はほとんど何も知らなかった。
 要の家庭環境について知っている事は、せいぜい数年前に海の事故で両親を亡くして以来、海女をしながら、一人で暮らしている事だった。
「要ちゃ〜ん」
 二階の要のドアをノックする琴乃。
 ドアの前に琴乃が立つとスペースが無い為、千島以下の三人は必然的に、階段で立ち止まり、琴乃を見上げる形になる。


 返事は無い。
「いそう?」
「わからないわ」
 琴乃は千島の問いに首を傾げる。
「開いてるのかよ?」
 小春が後ろから声を上げると、琴乃は少し躊躇しながら、ゆっくりとドアノブを回した。
 カチャリ、という音が静かで狭く暑苦しい階段に聞こえてくる。
「……開いてる、しっかり者の要ちゃんが……」
 自身でドアノブを回した琴乃が、意外そうな声を出した。


 一階のドアが開いているのはまだいい。
 千島が言った通り、要の家の一階部分はトイレと風呂場以外は倉庫だ、もちろん風呂やトイレにもドアにも鍵はかかる様になっているだろうが、両方を利用していない時は鍵はかけないのだろう。
 そうしないと呼び鈴など、おしゃれな物など付いていないこの家では、誰かが訪ねて来ても二階にいると、分からない為だ。
 だから、実質的な玄関は二階部分になる。
 二階のドアはスペース上、開ければ即、要という女子高生で一人暮しの女の子の生活空間であるという事は、家を訪ねた事の無い潤にも、容易に想像出来る。
 要は几帳面で琴乃、千島、小春よりも、はるかに神経質な一面を持つ女の子だ。


 開けっ放しのドア。


 それが何も聞こえない筈の場所で、異常を知らせる警報を鳴らす鐘の音に聞こえたのは、潤だけではなさそうにだった。



      第4話に続く


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