第26話「千里眼少女の過去」
2017年6月30日
午後8時51分
「ええ、中々に上手く焼けていたと思うわ、ガーリックライスとか椎茸も美味しかったわ……でも魚介類の焼き加減はまだまだ勉強が必要だと思う」
要は口元を用意されたナプキンで拭いた。。
魚介類なんたらは、海女としての譲れない意地でもあったのか、琴乃が焼いている間も非常に細かい指示が飛んでいた。
「俺は満点です、凄く美味しかった」
潤は答える、正直な気持ちであった。
「エヘヘヘッ」
二人の返事を聞いて得意げに笑う琴乃。
ロングヘアーに大きな水色リボンのまるで大正時代のお嬢様のような容姿の琴乃、性格はいたって明るく、面倒見が良いが、子供っぽい所がある。
滅多にしない料理を潤に褒められて、彼女は素直に笑顔を見せていた。
「アイスクリームがあるからね、片付けをしたらみんなで食べようね」
上機嫌の琴乃が片付けを始めると、
「私も手伝うわよ、いきなり現れて、食べさせて貰ってばかりじゃ悪いから」
要が立ち上がった。
「俺も……」
続いて潤も立ち上がろうとするが、
「いいわよ……座ってなさいよ、狭いわよ」
と、要に止められ、しょうがなく客席に座り、片付けをする要と琴乃を見ている事になる。
「ありがとう要ちゃん、じゃあこれとこれを……」
琴乃は片付けのいくつかを要に任せる、やはり普段、料理をしない琴乃は片付けも要の慣れた様子に比べ、たどたどしい。
そんな様子を見ながら、意を決した様に息を吐くと潤は2人に口を開く。
「ねぇ、2人とも……ちょっと耳にはさんだんだけどさ、小春の事を千里眼とか言ってる人がいたんだ、あれはどういう事かな? 俺、意味が解らなくって」
すぐに潤は2人の様子を観察した、もちろん表情の変化を見逃さない為だが、そのような必要は無かった。
琴乃は明らかに驚きの表情を、要は怒りの表情を隠す事無く、見せたからだ。
「潤君……」
琴乃は驚きから困惑の表情に変わり、要は、
「まだ、そんなくだらない事を言ってる人がいるの! 信じられないわ」
と、怒りを更にあらわにしている。
「ねぇ、潤君……そんな話は要ちゃんの言う通り出鱈目だよ、それよりも早くアイスクリームを食べようよ、ねっ?」
明らかにごまかす様子の琴乃。
「くだらない噂話よ」
要は腕を組む。
「くだらない話でも俺は気になるんだよ……小春の事だからね、中途半端に聞いちゃったから余計に気になってさ」
落ち着いた口調で潤が言うと、
「……」
「……」
要と琴乃は少しの間、見合い、要の方がため息をついてから、
「……ったく、聞いたって面白くないし、だからって変な事を吹き込まれると潤みたいなのは信じちゃって困るから……小春にはもちろん、人に言うんじゃないわよ」
と、潤を睨み付けた。
琴乃がとりあえず話はアイスクリームを食べながらと提案したので、厨房で琴乃が準備するまで待つ事になった。
数分後、琴乃の手づくりらしいアイスクリームがカウンターテーブルに置かれると、要はスプーンでひとすくい食べてから、
「うん、美味しいわ……琴乃姉、市販とは大違いよ」
と、琴乃に微笑んでから、潤に向き直り、
「で?! あんたは一体、どういう話をきいたの?」
低いトーンの声で鋭い視線を向けてくる。
「こ、怖いな……俺が聞いたのは小春のお婆ちゃんが不思議な力を持っていた事と小春自身も昔は千里眼を持っていた……って程度の話だよ」
要の視線に潤は少し圧されながら答える。
「わかったわ、なるべくなら話たくはないのだけどね……」
要はもう一口アイスクリームを食べてから、
「……あれは小春のお父さんがいなくなった後だったわ」
と、話を始めた。
要の話した内容はこうである。
神洋島で電気工事関係の仕事をしていた小春の父が突然の失踪をした三年前、小春は一人ぼっちになった、当時は琴乃や要、千島達も互いにここまで親交があった訳では無く、小学生だった小春は今に増して気が強く、喧嘩っ早い性格で、中々周りに馴染めていなかった様子らしかった。
そして、父親の失踪の数週間後に小春は千里眼と呼ばれる力を発揮し始める。 まずは祖母と同じく市場に行かず、その日の漁の結果を港から離れた山あいの酒勾地区で朝早く知ったり、誰其が怪我をして診療所に担ぎ込まれたとか、誰と誰が喧嘩して駐在が慌てて仲裁に入っただの、という出来事を伝聞を聞く遥か前に知っていたのである。
初めは偶然と思っていた周りも、そのうち祖母の春香の存在を思い出し、驚き始めると小春の千里眼は更に力を増した。
個人的な人の秘密まで見透かす様になったのである、誰と誰が周りに秘密で密会をしている、誰は島に見切りをつけて出ていくつもりだ。
注目を浴びるにつれ、小春の千里眼は過剰になっていき……結果は彼女はいつの間にか注目を通り越し孤立していた。
初めは千里眼を面白がっていた者達も、自らの秘密を小春に暴かれるのを恐れて、離れていったのである、そして小春は二回目の孤独を自ら招いてしまったのであった。
その後の事は潤も分かっている。
それに手を差し延べたのは要だ、小春の父親の失踪の一年前に漁の最中の事故で両親を失っていた要が小春と良き友人になり、小春や要を不憫に思っていた島の有力者の娘の琴乃がそれに加わる事により、今のグループの基礎が出来たのだろう、そこに一度、島を出たが事故で両親を失い、長いリハビリを経て島に帰ってきた千島が加わり、潤が入り、今に至るのだ。
「聞いても仕方のない事でしょ? それに蒸し返しても誰も幸せにはならない事じゃない、知っている事は話したわ、もう何も聞かないで」
要はそう答えると、息を吐き、残りのアイスクリームを食べ始める。
「……そういう事なんだ、要ちゃんが友達になってからは小春ちゃんが千里眼なんて事はしなくなったし、みんなも忘れているからね、だから……」
潤を見つめる琴乃。
その瞳には、これ以上はこの話題は避けてほしいという哀願が見える。
しかし、潤にはまだ聞きたい事があった。
「じゃあ、最後に聞くけどさ……その千里眼をさ、千島がやったとかいう話は聞いた事がない?」
実は一番に聞きたかった質問だった。
しかし、それに対して、要と琴乃は不思議そうに顔を見合わせたのだった。
第27話に続く
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