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第24話「拍手」
2017年6月30日
午後7時56分



「ちょ、ちょっと要、何を琴乃先輩に言ってるんだよ? 先輩はただ俺に夕食を作ってくれるって……」
 睨み合う要と琴乃の間に割って入る潤。
 二人に無視をされていたがそのままでいて、琴乃と要に本格的な喧嘩に突入されたらかなわない。
「潤は黙って……」
「黙らない! みんなに黙って来たのは俺のせいなんだ、だから要は俺を叱るなら分かるけど、琴乃先輩に突っ掛かるのは止めてくれよ、二人の喧嘩なんか俺は絶対に見たくないぞ!」
 要の言葉を遮り、潤は強い口調で告げる。
 その様子に強気の要も俯いて、
「私は別にみんなに黙って二人で会っていたから怒ってる訳じゃ無くて、こんな時間に高校生が……それに突っ掛かるなんて、私はただ琴乃姉に注意を」
 と、トーンダウンを見せた。
 普段、要には少々押され気味な潤が、グループ内の女の子同士の言い争う姿を見たくない為、必死に反論した事もあるが、元々、要も望んでいない事は間違いないのだろう。



「潤君、ここは私がきちんと要ちゃんに話を……」
「琴乃先輩も黙る!」
 口を開いた琴乃も制する潤。
 理屈では無かった。
 とにかく二人の喧嘩などは見たくない。
 ただそれだけだ……
 どちらがどうとかは関係なかった。
「なぁ、要……怒っているなら俺が謝るからさ、二人だけで夜に飯なんて……そりゃ要は怒るよな」
 要に視線を向けると、
「……潤君」
 琴乃も表情を緩めて、
「そうだね、ごめんね、要ちゃん……要ちゃんの言う通り、夜に潤君を呼び出すなんていけなかったよね」
 と素直に謝り、潤を一瞬だけ見てから、
「材料はあるから要ちゃんも夕食を一緒にしない? ほら、それなら二人っきりにならないし……私は料理慣れてないから要ちゃんに教えてもらう事も出来るからね」 
 と、切り出した。
 視線に気付いた潤は、琴乃に笑顔で頷く。
「あ、いや……わ、私は帰るわ」
 琴乃の申し出に要は躊躇した。
 しかし、
「ほら、要が琴乃先輩と俺とが二人じゃ問題だって言ったんだぞ、ここで帰られたら俺は美味しい肉が食べられないし、琴乃先輩は用意した食材が無駄になる、誰も幸せにならない」
 と、潤が声をかけ、
「ねっ? まだ配達してたって事は夕食はまだなんだよね? 要ちゃんが付き合ってくれないと私が潤君に腕前を見せる事が出来なくなっちゃうよ」
 そう琴乃が畳みかける。
「琴乃姉……」
 笑顔の琴乃に申し訳なさそうな表情を見せる要。



 そこには先程、睨み合っていた険悪なムードは全くない。



「わ、わかったわ……琴乃姉は普段、料理をしない事もあるし、潤と二人っきりにするのはやっぱり心配だし居させてもらうわ!」
 要は照れ臭そうに答えると、潤の横のカウンター席に座る。
「宜しくね」
「酷い言い草だな〜」
 ニッコリ笑顔の琴乃と苦笑する潤、
「事実でしょ!」
 要は腕を組んだまま、そっぽを向いた。



 潤は要の横顔に安堵の表情を浮かべる。
 要が怒った真意はグループの仲間の繋がりと彼女らしい規則に沿った物から生じた物だろう、としか推測出来ないが、何にしても彼女と琴乃がどんな原因にしても喧嘩をする場面など見たくなかったし、彼女達も望まないに違いない。
 男として二人っきりのシチュエーションが惜しくない訳も無く、セッティングしてくれた琴乃には悪いと正直に思うが、今はまだ潤にはこの数ヶ月で得たグループの絆が再優先かもしれなかった。



「じゃあね、お肉はもう一枚増やして焼くね」
 琴乃がブロックから肉を慣れない手つきで切り出す。
 それを見ていた要は一瞬、眉をしかめて、
「琴乃姉……さっき、自分は料理が不慣れだから私に教えて欲しいって言ったわよね? そう言われたから口を挟むけど、まさか切り出した肉をそのまま鉄板に置かないわよね」
 と、聞いた。
「え?! そうだよ、もう鉄板には油も塗ったし……ダメ?」
 首を傾げる琴乃。
「ちょっと……ね、琴乃姉……折角のいいお肉なんだからきちんと料理した方がいいわよ」
 カウンター席から立ち上がって要は調理台を覗き込む。
 その言葉遣いはあくまでも優しい物だ。
 普段なら要はもう少し手厳しいが、喧嘩になりかけた直後だけに気を使っている部分があるのだろう。



「ほら、琴乃姉……まず、そこに胡椒があるわよね? それを臭い消しにかけておくのよ、いい肉でも臭いはあるから……両面まんべんなく30分くらい前に、そして塩は焼く直前、このくらいの下準備はしておかないと」
 そう指示する要。
「そ、そうなの? 切って、焼いて、だけじゃないの?」
「違うの、折角のいいお肉なんだからキチンとする! 小春なんか居たらこんなものじゃないわよ」
「……でも、それじゃ時間がかかるよ〜、焼きながら塩コショーじゃダメ?」
 琴乃が声を上げる、しかし要が、
「美味しい物には手間がかかるの! だいたい潤に美味しい物を食べさせる為にみんなに内緒で呼んだんでしょうが! 手間を惜しんでどうするの?」
 と、口を尖んがらせて言う。
「そうだね! 待っててね、潤君!」
 潤の為だとなると、琴乃は素直に頷き、肉にせっせと胡椒をかけ始めた。



「楽しみに待ってます」
 苦笑する潤。
「まったく、潤の名前を出せば琴乃姉は恋する乙女になっちゃうんだから……」
 要は椅子に座った。



 すると、店内にどこからか拍手が聞こえ始めたのである。
 顔を上げる三人。
 もちろん、それは琴乃、潤、要の誰からの物では無かった。



     第25話に続く


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