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第2話「体育倉庫の裏」
2017年6月27日
午前9時14分


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 俺は確かに、あの体育倉庫の陰で倒れている男の人を見たんです!」
 潤は小春に喰らったボディーブローに耐えながら、声を上げたが、
「……でも、誰もいないみたいなんですよ」
 言いにくそうにエスティンはモップを持ったまま、苦笑する。
「……ったく、しょうがないなぁ、じゃあ私と一緒に見にいこうぜ」
 小春が潤の襟首を捕まえた、予想以上にボディーブローが効いたので、罰が悪そうな感じだ。
「千島も行くよ!」
 千島が手を挙げる。
 すると、
「私も行くわ」
 と、琴乃も続いて手を挙げた。


 潤、小春、千島、琴乃、そして一度確認はしたものの生徒だけでは、とモップを持ったエスティンの5人は体育倉庫に歩いていく。
「千島、怖いなぁ〜」
 千島はブルブル震えながら、潤の半袖シャツの横腹辺りを掴む。
「だったら、来なきゃいいだろ!」
 小春が少し緊張した面持ちで怒鳴り、
「わ、私も怖い」
 と、千島の反対側から琴乃が潤に抱き着く。
 千島はともかく、琴乃のそれは演技っぽかった。
「ほら、ドサクサに紛れて、校庭でイチャイチャしてると、不純異性交遊で即刻、退学の刑ですよ」
 そうエスティンが注意してくる。
「す、少し緊張感が足りなくないかな?」
 潤は眉をしかめた。



 無理もない。
 ついて来ている小春、千島、琴乃はあの血だらけの男を見ていないし、エスティンが何も無かった事を確認しているのだから。
 確認について来てくれただけでも、潤の顔を立ててくれているのだろう。
 そうして、一行は体育倉庫の陰を覗き込む。


 しかし、そこには何も無かった。


 エスティンが嘘をついているとは思わなかったが、潤にはとても信じられなかった。
 そこに倒れていた男はとても自分で立てるような状況には見えなかったのである。
「いないじゃんか!」
 声を上げる小春。
「待って」
 琴乃が声を上げ、体育倉庫の裏手を見る。
 裏手からは緩やかな傾斜で下って、学校菜園があり、その先には森が広がって、山に続いている。


「なるほど、琴乃ちゃん、千島も言いたい事がわかって来たよ」
 千島が琴乃に並んでから、緩やかな傾斜を10メートル程駆け下って、いくつかの野菜の実った菜園から振り返り、
「こっちに逃げたかも、って言いたいんだよね?」
 と、声を上げた。


「ちょっと、待ってよ千島、逃げたって、いつ?」
 潤が声を上げると、
「潤君がエスティン先生を呼びに行ってから、先生が見に来るまでの間だよ」
 そう横にいた琴乃が答えた。
「……どれくらいで戻ってきたんですか?」
 エスティンが潤の顔を見つめてくる。
 僅かに考えて、
「確か一分もかかってないですよ、慌てていて、上履きにすら履き替えないで、校舎に駆け込みましたから」
 潤は答えた。



「それから、私は弓永さんにみんなを集める様に伝えてから、靴を履いて、体育倉庫に近づいて行きましたから……潤君が体育倉庫を離れてから、3〜5分程になりますか?」
 エスティンは腕を組む。
「それだけあれば起き上がって走れば、余裕で森に入れるよ、おおかた酔っ払ったジーサンでも来たんじゃないの?」
 小春があっけらかんに、後ろに頭に両方の手を回す。
「バカッ、相手は息も絶え絶えの血だらけだったんだぞ! そんなに早く動けるかよ」
「そうなの?」
 小春は首を傾げる。
 潤が直接に説明したのは、エスティンと琴乃のクラスメートだけである。
 急いで集められ、よくわからないうちに職員室に避難させられた小春達には倒れている男が、血だらけとは知らされてなかった様子であった。


 同じ職員室にいながら、潤は体育倉庫に気をとられて、誰にも事態の説明をしていなかったのだ。
 おそらく、琴乃のクラスメートから断片的な説明を受けただけであろう。
「あ……そうだよ、あいつは血だらけだったんだ! この辺りに寝て」
 潤は記憶を辿り、男の横たわっていた場所を見るが変わった様子はない。
「……」
 黙り込む潤。


 辺りの土には血の跡などは無い。
「潤君……とりあえず先生に任せて教室に帰ろうよ、整理して考えてみよう」
 唖然とする潤の肩に千島が優しく手を置く。
 そこに、
「とりあえず駐在さんには連絡しました! 私が今、周辺を見回ってきましょう、駐在さんが来るまで職員室にいてください!」
 と、声を上げながら、刺叉を持った校長がやってきたのである。
 刺叉とはいつからか物騒な事件が増えてから、学校に配備された槍状の一種の武器だが、先端はUの字になっていて、相手の胴や腕を挟み込み捕縛するのが目的だ。


「校長先生……あまり、ご無理はしないでください」
 エスティンが苦笑した、校長はすでに60を越えてから、神洋学園に弓永家に請われて、校長として赴任しており、高齢である。
 しかし、気は若く、生徒を心配している様子で、
「何を言ってるんですか、まだまだ、不審者の1人や2人は戦えます」
 と、柄は木製たが、先端は金属製の刺叉を振り回して見せた。
「あぶねぇよ、ジーサン、完璧な冷や水だぞ!」
 小春が怒鳴ると、みんなが笑い、とりあえず駐在が来るまで職員室に集まり、待つ事になったのである。



      第3話に続く


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