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第12話「聖との昼食」
2017年6月29日
午前10時34分



「今日は出かけるから昼は要らないからね」
 潤が玄関で靴を履きながら言うと、
「今日もなの? まったく……弓永さんにはきちんと御礼を言うのよ」
 居間の向こうの台所から母親の声がした。
 どうやら父親は今日は仕事らしい。
「ああ……」
 説明する気も無いので、潤は適当に相槌を打つ、神洋島一番の実権を持っていると言ってもよい弓永家の一人娘である琴乃と自分の息子が仲が良いのは、両親にとっても嬉しい事態の様である。



 まさか雑誌記者である大人の女性と昼食を共にするとは言いにくい。
 潤は素早く玄関から駆け出した。



 太宰地区の一角。
 聖と待ち合わせた海岸から5分程歩くと、ちょっと目立たない場所に小さな洋食屋があった。
 店の前に立った聖は、潤に向かって明るい表情を見せながら、
「ここでご飯食べましょ、ここは私が何度も利用している店なの、地鶏の卵のオムレツが最高よ」
 と、店に入っていく。
 店内はクーラーが効いていて涼しく、明るい雰囲気、落ち着いたBGMがかかっている。
「いらっしゃい」
 エプロン姿のおばあちゃんが愛想良く出迎えてくれた。
「こんにちわ〜」
 何度も来ている聖はおばあちゃんの顔見知りなのだろう、案内を待たずに、手を振って挨拶すると店の一番奥のテーブル席に歩いて行き座る。
「はい、こっちよ」
 予め決めてあるかの様だった。
 あまり広くはない店内に、現在は自分達以外の客はいなそうだから構わないのだろうが……



「いらっしゃいませ、どうぞ」
 そんな聖にも気にする事が無い様子のおばあちゃんは笑顔を浮かべながら、冷えた水とおしぼりを出してきた。
「潤君は何にする? 私は断然、オムレツよ、とにかく卵料理がオススメなんだから」
 メニューを見ながら笑いかけてくる聖。
「う〜ん、そう言われるならばオムライスが捨て難いですね」
 そう潤が答えると、
「ええ、もちろんオムライスも美味しいわよ、ならば決まりね!」
 と、おばあちゃんを呼んで注文を済ます。


「はい、はい、オムライスとオムレツですね」
 丁寧な態度のお婆ちゃんは頭を下げると、奥に下がっていく。
 チラリとだが白いコックコートを着た同じ歳程のおじいさんが見えた。
 2人の老夫婦が切り盛りしている店なのだろう。



「あの……聖さん、質問して良いですか?」
 料理を待つ間に潤は聞いておきたい事があったので、口を開いたが、
「レディーとのデートの第一声が質問なんて、不粋だわよ」
 と、ウインクされてしまう。
「ま、待って下さい! デートって何ですか? 今日は本の取材じゃ……」
 慌てる潤。
「いやねぇ冗談よ、君みたいな子は嫌いじゃないけどね、少し歳が離れているかしらねぇ」
 聖は肩を竦める。
「もう、冗談は止めてください、もし聖さんとデートしているなんて事になったら……」
「……琴乃さんに怒られちゃう?」
 ニッコリと笑う聖。



「え? 聖さん、なんで琴乃先輩の事を?」
 潤は驚いた。
 なぜミステリースポット本の取材に来た聖が琴乃の事を、それも潤との関係も知っているのか。
「何驚いてるの? 狭い島での事、有名人の琴乃さんの事だもの、それくらいの嗅覚は無くちゃ!」
 聖は笑いながら手を振り、
「それに私はあなたの中の良いグループの女の子達とは知り合いなのよ」
 と、告げてくる。
「えっ? そうなんですか、知りませんでした」
「そう? 結構前から雑誌の取材とかで島のミステリースポットとかの話を聞いてるわよ、こういう島では好奇心旺盛な女子学生の噂も取材にプラスよ」
 更に驚く潤に、聖がそう話した時、
「おまちどうさま」
 と、ニコニコ顔のおばあちゃんが、オムレツにオムライスを運んで来た。



 食事中は聖が食べながら、自分がミステリースポット本の執筆の為に滞在して一ヶ月程経っており、その半年前から神洋島にはその方面のネタがあるに違いないと、ちょくちょくと来ていた事を話してくる。
「そうですか、本を出すのも大変ですね」
 潤がオムライスを口に入れながら頷くと、
「なのよ、でも今は出版不況でね……滅多に本なんて書かせて貰えないし、取材費用は半分も出ないけど頑張って売れる本が書きたいのよね」
 聖は苦笑した。



 出された料理は派手な味付けはなかったが、しっかり美味しいという物だった、卵はやはり神洋島の酒勾地区での放し飼いの鶏の卵らしい。
 神洋島内では小さな養鶏場もあるが、そこの卵よりも珍重されるのが放し飼いの物である。



「ふう〜っ、美味しかったわね」
 聖は食べ終わると、ウンウンと満足げに頷きながら、潤も食べ終わったのを確認して、
「よし、行きましょうか? それともまだ食べ足りないかな? 男の子だし若いからね、いいわよ、約束通り奢るからね」
 と、尋ねてきた。
「いえ、平気です、ご馳走様でした」
 潤が頭を下げると、
「よし、じゃあ、取材と行きますか」
 聖は少し不敵に笑いながら、潤を見据える。


 店のおばあちゃんは奥に下がっている様で見える所にはおらず、少々の話声も、かかっている音楽で周囲には聞こえなさそうだ。
 もっとも、店内には他の客はいないのだが……
「じゃあ、潤君に取材するわよ〜、まず質問」
 そして、聖はテーブルから身を乗り出し、潤の耳元で囁くように言った。



「潤君……あなた人殺した事ある?」



     第13話に続く


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