死体縦書き表示RDF


死体
作:悲劇のM


今日もいつもと同じ朝を迎えた。
毎日毎日同じ事の繰り返し。
会社に行けば上司にいびられ、誰もいない殺風景な家に帰ると、コンビニ弁当を食べてすぐに寝るという毎日にすっかり飽きてしまった。
24歳にもなるのに、何かいつもと違うような事を求めていた。
歯を磨き、顔を洗って髭剃りをしたあと、スーツに着替えようとクローゼットの扉を開けたその刹那




僕の数分前の馬鹿みたいな願望が叶えられる事になった。




そこにあったのは、女の死体だった。
「うわああぁぁぁぁぁ!!!!!」
驚き叫んだ僕は、もう一度クローゼットにある異物を確認した。
間違いなく、腹の部分が血に染まった女の死体だった。
「何だよこれ、何なんだよ・・・」
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「すいません、管理人ですけど、この部屋から叫び声を聞いたんですが、何かあったんですか?」
管理人さんの声だ。
まずい。この状況を見られると絶対に僕が疑われる。
僕は、出来る限り精神を落ち着かせ、冷静を装った声で答えた。
「ごめんなさい、何でもないです。すいません、お騒がせさせてしまって」
すると、管理人さんは怪しむ様子も無く言った。
「あら、私こそ余計な勘違いをしてしまって、失礼しました」
管理人さんはすぐに立ち去って行った。
廊下を行く足音が聞こえなくなった頃、僕は安堵の息を漏らした。
が、本題の方は全く解決していない。
もう一度、死体に目を向けた。

「うっ!」

死体と目が合ってしまった。
夜中に運ばれてきたらしく、腐乱が進んでない分、怖さも倍増した。

そうだ!
何故すぐに思いつかなかったのだろうか。
こういう時にこそ警察に通報すればいいんだ。
家の電話が無いため、テーブルの上に置いてある携帯電話に手を伸ばした。
早速電源ボタンを押した。

あれ?

変だ。電源が入らない。

あ!しまった。

僕は、昨日の事を思い出した。

9時頃、テレビがあまりにもつまらなかったので、アプリと呼ばれる携帯の付属ゲームをやったのが原因で、充電切れになってしまったのかもしれない。
おまけに充電器は会社の机に置きっぱなしだ。
近所に公衆電話は無く、歩いて1時間程の距離に交番があるが、その間に誰かが来たら大変な事になる。


額に、脂汗が染み出てきた。









「兄貴、あの死体、あのままでいいんっすかね?」
短めの金髪にサングラスをかけた、見た目では善人のイメージなど欠片もない20代程の男が、兄貴と呼ばれる長身の男に話し掛けた。
「ふんっ、んなもん大丈夫だろう」
「そうは言いますけど、通報された時、警察の捜査ガサで俺らが犯人って事、特定されませんよね?」
金髪の男がオドオドしながら言った。
「確かに、ちょいと不安だな」
「じゃあ、ちょっとだけ様子でも見てきませんか?」
「そうだな、お前、行ってこい」
「お、俺がですか!?」
「お前の個人事を俺が手伝っただけだ。さっさと行け!!」
「は、はい」
金髪の男は、全速力で走っていった。




落ち着きを少しづつ取り戻した僕は、どうしようかと真剣に悩んでいた。
非日常を望んでいた僕だが、こんなのは勘弁して欲しい。
やはり、警察に届け出た方がいいのだろうか・・・
そう思いながら、ちらっと死体に目をやった。

あ!!!

冷静に死体を見てみると、高校時代に別れた恋人の恭子きょうこだった。
その刹那、高校時代の恭子との楽しい思い出が走馬灯のように駆け巡った。


僕の方から告白した高1の春。


高校になって初めての夏休みに、一緒にたこ焼きを食べながら打ち上げ花火を見た夏祭り。


初めてキスをした映画の帰り道。


そして、恭子の親の都合で、恭子が遠い所に行ってしまった高3の夏休み




8年以上も前の事を思い出して、涙が溢れて来た。
ずっと会いたくてしょうがなかったのに、こんな形で再開する事になるなんて・・・

「恭子ぉ・・・」

恭子に対する哀れみと、犯人への憎しみで、心がいっぱいになった。
さっきまで揺れっぱなしだった僕の心が、強いものに変わっていく気がした。


僕は、絶対に犯人を許さない!!!





恭子の事を思い出し、泣き疲れて眠った後に目が覚めたのは、空が漆黒の闇に包まれる頃だった。

・・・?

何故か寝起きに第六感が研ぎすまされる僕は、部屋の中に何かの気配を感じた。
恭子の死体の気配ではない。生きている人間の気配だ。だとすると、何なんだ。
その時

「ガタッ」

何かの物音がした。
これは、何の音だ。
僕は目を凝らした。
死体が置かれてある所に、人影が見えた。
その人影は死体を持ち上げて背負うと、そのまま出て行こうとした。

「誰?」

僕は、反射的に言い放った。
「くそっ!!」
間違いない。男の声だ。

「どさっ」

男は死体を投げ出すと、玄関に走っていった。
僕は男を追いかけた。
男は手早く玄関の扉を開けると、外に逃げていった。
階段まで追いかけた時、男は階段を踏み外してよろけた。
その瞬間、僕は男の肩をがっちりと掴んだ。
男は、肩を振り回して抵抗したが、僕の手がそれを止めた。
やがて男が抵抗をやめたので、僕は今までの出来事を頭の中で整理した。
この男が恭子の死体を運び出そうとしていた事から、この男が恭子を殺したか、それに関与しているに違いない。
「恭子を殺したのは、あなたなんですか」
僕は、いきなり確信を突いた。
すると、男はあざ笑うように言った。
「あぁ、そうさ。俺が殺ったんだよ」
「なんで、そんなことしたんですか・・・」
目に涙を浮かべながら僕は言った。
「全部、あいつが悪いんだよ」
男は、犯行の動機を喋りはじめた。
だが、僕の耳には入らなかった。
僕はズボンのポケットから常備しているサバイバルナイフを取り出した。


コイツガキョウコヲコロシタ…


その時の僕は、半錯乱状態になっていた。


ダカラコイツモオナジメニアワセテヤル…


ナイフを強く握りしめ、僕は男の腹部に強くナイフを刺した。

「ぐぎゃあがあぁぁ」

人間の声とかけ離れた声を発しながら、鮮血を噴出すると、その場にドサッと倒れた。
即死であることは、すぐに分かった。
僕の服が、真っ赤に染まっていた。

騒ぎを聞きつけた住人達が、次々に出てきた。
出てきた人たちに、この状況を見ても冷静でいられる精神を持つ人はいなかったようだ。


「キャー!死んでる!!」
「誰か、救急車だ!!それと警察も」
「あ、あのナイフ持ってる人がやったんだわ!」
「ギャーーーーーーーー!!!!!!」





間もなく、警察がやってきて僕をパトカーに乗せた。



取り調べや裁判を通して、僕は15年を塀の中で過ごす事となったが、それでも僕は後悔していない。



愛する人の仇を討てたのだから。














ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK
小説家になろう