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第八十三話
姫はじぃっとこっちを見てるとしだいにふるふるふるえていた。

「ど、どうしたの……?」

そして言い終わったのを同時にいきなりがばっと抱きついて来た。

「ひゃ!?」

「やっぱりかわゆいいいいいいいいぃっ」

抱きついても姫は軽いので陽菜は別に苦しくない。
しかし、陽菜は今まで生きててこんなことをされたのは初めてだったので慌てる。

「姫ちゃん!?」

「ちょっとだけ……このままでいて……いい?」

「…………うん」

自分より体の小さい姫に陽菜の方からもやさしく抱きしめる。
こうして見るとあの時助けてくれた姫とは別人の様に見えてくる。
(…………あの……と……き……?)
陽菜はやっと精神的に余裕ができたので自分のした事を思い出す。
自分は逃げていた。
そして捕まって……襲いかかって来た男を――――……。
一気に血の気が引いて嘔吐感がわき出してくる。
殺したのだ、この手で。
陽菜は嘔吐感に堪えきれなくなり姫の手を放して死にものぐるいでトイレに走る。
途中いろんな所にぶつかった気がしたが気にする余裕も無い。
あの感覚と臭いで頭の中がぐちゃぐちゃにかき混ぜられてついに我慢していたい野中にある物をすべて吐いた。
姫が心配そうに陽菜の背中をさする。
目から大粒の涙がぼろぼろと溢れて来た。

「ひーちゃん……」

姫が水の入ったコップを差し出す。
陽菜はとりあえずそれを受け取って口を濯ぐ。
しかし、あの嫌な嫌な感覚は口の中にこびり付いたように何度も口を濯いでもとれない。
陽菜はあの時のフラッシュバックで混乱し、そのままその場に座り込んだ。
姫はポケットからなにやら薬らしきものを出して陽菜の口に無理矢理いれる。
ごくん、と飲んだ瞬間、今までの恐ろしいことの数々が一気にぼやけるようにして消えていく。

「どう? 効いてる?」

陽菜は涙目でこくん、と頷く。
そして震える声で姫にすがりつく。

「私……私……あんなこと……」

「落ち着いて。今は何も考えなくていいから、少し休んだ方が楽になるよ」

姫は小さい体で陽菜を支えて陸の部屋のベッドに誘導する。
そして寝かせると陽菜に言い聞かせるように言う。

「おやすみ」

「…………うん、おやすみ」
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