第八十話
和佐は苦しそうに頷く。
陸は思わず声を上げた。
「んな訳あるか!! 証拠はあるのかよ!? 無いんだったらそんなこと言うな!!」
ついにキレた陸に和佐はなだめる様に言う。
「これは僕も見ましたが陽菜さんの倒れていた手元の傍に短剣……と言ってもナイフの様なものですが、そのような物が血を被った状態で落ちていました。あとその近くに既に死んでいた男のことですが……首をめちゃくちゃに抉られてたそうです……僕も信じられませんが陽菜さんが刺した可能性は非常に高いですね」
陸は真っ青になってその場に座り込む。
そんなこと考えてもいなかった。
陽菜が……人を殺してしまうなんて。
「陸……貴方は初めて人間を殺してしまったときの事、覚えていますか?」
陸は静かにこくんと頷く。
一番最初に殺したのは……自分の母親だった。
ただその時は殺したという意識もなく、というかほとんど事故だったのでかなりの罪悪感はあったがそれぼど強い印象ではなかった。
陸は思い出す。
かつて悪魔になったばかりの放置された自分を。
苦々しいこびりついた様な嫌な記憶。
それは歴史に残る大量殺人を犯した自分の見たものがリアルにありありと残されている。
生臭い鉄の混じった魚の腐った様な臭い。
べとべとして気持ちの悪い生暖かい液体。
爪に食い込んだぶよぶよとした肉の破片。
その全てを一気に連想させる。
たしか一番始めに殺したときは猛烈な臭いと感覚で泣き叫びながら嘔吐したような気がする。
陸は思い出したくない、と言い聞かせる様に頭を抑えて言う。
「……ああ」
たぶん和佐も思い出したのだろう家族全員皆殺しの記憶を。
和佐は表情に出さない。
「陽菜さんは今あのころの自分たちと同じ状態です。まぁ殺した人数が一人ですし起きた瞬間狂った様に暴れだすとかは無いと思いますが。できるだけ何事もなかったように明るく接する事が大切だと思います」
「忘れさせたり……できないのか?」
そんな甘えを言う陸に和佐は強く言う。
「できますけどそんなことをして、なんの解決があるんです? 姫みたいに知った瞬間世界をめちゃくちゃに崩す様な特例がない限りきやすくそんなことをしたくありませんよ、僕は。だいたいあの記憶消去の式の発動の仕方知ってるんですか? もはやあれは記憶をぼかす程度のものではなくそこに黒いインクを塗り付けて打ち消すのと同じで本人には明らかに記憶が消されている事わかるんですよ!?」
「…………ごめん……」
陸がいつもに無いしゅんと弱々しく謝るので和佐は慌てる。
「あの、えっと、言い方悪かったですか? そんな悲しい顔しないで下さい、陽菜さんきっと明日には元気になってますよ、たぶん」
ちょうど良いのか良くないのか、
ガチャ
「たっだいまー♪ タオルとおやつと服もってきたよー」
姫が帰って来た。
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